「違う!! その線はトラップだ!! ……慌てるな零。『焦りこそ最大のトラップ』だぜ」
カラービニールで被膜されたものは先端を破いて中の銅線を確認すればいいんやから。
「『知識とロジックで追いつけなくなったら負け』やな……」
先ずは切り分けは電子機器のように物理層から。
元にある火薬と一番近いところから逆算していく。
素人にしては大掛かりで複雑に見えるけど、信管は単純な構造でひとつひとつ紐解いていけば解除はできる。
「信管は打撃での衝撃で火薬に摩擦が走って引火する仕組みや!! リモートで着火する方法みたいやけど、電気信号がアナログ信号の揺らぎに変換されないうちに外せばええ!!」
うちが叫ぶと同時に2人分の溜息が落ちた。
「ふぅ……親基の爆弾は今しがた零が解除した……。上出来、上出来!!」
大型の親基の配線となると子基より簡素化しとるはずやから解除しやすいとしても……組織の構成員であるメスカル……うちと同じような短時間で解除したんか。
松田さん……爆発物処理班にしとくの勿体ないわ……。
「そっちも上手くいったみたいだな」
階段からは伊達班長が女の子を抱っこして、外守さんがタオルで手首を拘束された状態で諸伏さんと共に降りてきた。
「なんだ……バッチリ避難させたのに骨折り損かよ」
萩原さんの苦労も草臥儲も警察学校に入校中とはいえ、人の安全を優先して声掛けするのは大変やったと思う。
「まあまあ、そう言うな……」
「……今、何時だ」
伊達班長の言葉を遮って外守さんが突然時間を聞いた。
「……午後4時29分だけど……」
あかん……嫌な予感がする。
「……あの世で親御さんに詫び入れるよ」
次の瞬間、2階の部屋が爆発して爆風が流れ込んできた。
「しまった!! 2階にもあったのか!!」
爆発の規模からして二段階の爆発は恐らく無い、1階に穴は空いていない、なら1階の火薬に引火するまでには時間がかかる。
すると外守さんが2階に駆け上がっていってしまった。
二段階目の爆発……?
ちゃうわ、火事にのまれて死ぬつもりなんや!!
「待って!! 外守さん!!」
うちが駆け上がるより先に諸伏さんが後を追った。
「よせ!! 諸伏!!」
「もう間に合わねえ!!」
「引き返せ!!」
「ヒロ!!」
このままやと諸伏さんが巻き込まれて死んでしまう!!
「表!! 桜!!」
桜が描かれた教場旗を張って待てっちゅうサインか。
4人が玄関に駆け出す最中に女の子を伊達班長から預かった。
「俺達で諸伏を受け止めるぞ!! 龍絶は女の子の安全を確保してくれ!!」
「死なせてくれよ……」
外守さんを抱きかかえて爆風を背に2階から飛び降りてきた諸伏さんを4人が教場旗で包みこんだ。
「ダメです。……自分で犯した罪はちゃんと償って貰いますから」
後少しでもタイミングがズレていたら、二人とも落下するか火に飲まれるかして命は無かったかもしれん。
「もしもし!! 警察ですか!? 外守クリーニングで爆発物による火災事件がありました!! 爆発物処理班を呼んだほうがいいと思います!! ……え、うち? うちは鬼塚教場の龍絶と言います。救急車もお願いします。成人男性一名が負傷、女子児童一名が意識を失っていて軽傷です」
……せやけど、なんでうち……教場旗の図柄をまだ見てへんのに桜やって分かったんやろか。
前に会話で聞いてたんかな。
「これでまあ、取りあえずは一件落着だな!!」
、、、
「はぁ……。鬼公、功績を伝えても風呂掃除はやらせるんだからよ……」
あの後、事情聴取や色々を済ませたけれど、風呂掃除の免除にはならなかった。
「仕方ないやん。指示は指示やし……」
うちの場合は他教場の女子達が掃除を終わらせていてくれて、お礼にアイスを2本ずつ奢った。
「龍絶さん、ゼロから聞いたけど爆弾を同じタイミングで解除したんだって? すごいじゃないか」
諸伏さんは付き物が落ちたかのように穏やかな顔に拍車がかかっとる。
「う……まあ……爆発物処理班を目指すなら、これくらい出来て当然やし」
本当なら警察学校にいる入校者より、うちが早くに解除出来てないといけんのに。
……やっぱりバイジウに鬼コーチしてもらう他ないなあ。
「えー? それを言われちゃうと俺の立場がないんだけどなあ。龍絶ちゃん?」
萩原さんに肩を組まれて、ほっぺたを指でつつかれた。
「えっと……予習復習は大切……? みたいな感じやから……そんなつもりじゃないから安心してな!」
すると松田さんが更に肩を組んできて、なんだか分からない状態になった。
「萩……お前なぁ……」
重い重い、2人分の体重は重いて!!
「……なあ、龍絶。一ついいか?」
伊達班長が改まった顔をしてうちを見た。
「うん!! 何かある?」
降谷さんと伊達班長がアイコンタクトを交わすと、重い言葉が放たれた。
「……なんでそんなに実戦経験が豊富なんだ? ……お前」
「な、何言うとんの!? ゆ、Utubeで見ただけや……」
あかん、爆発物に詳しすぎて逆に怪しまれとる。
「は……? Utube?」
え、待って……また錯語してしもうたん?
「ああ、Utubeは最近日本に上陸した動画配信サイトのことだよ。海外勢による技術系のTipsとかがあったりするんだ。龍絶さんってそっち方面も詳しいんだね」
諸伏さんがフニャッと笑うと、松田さんが手を叩いた。
「ああ!! だから今朝、スマホとか言ってたのか!!」
スマホ……え、あるん?
「スマホは最近提唱された呼び方。多機能携帯、uPhoneって呼んだりするけど、海外ではスマートフォンって呼ばれてるからさ。龍絶さんは相当ギークらしいね」
そう言って諸伏さんはスマホを取り出した。
そっか、トラックの暴走を停めた時に諸伏さんも萩原さんもスマホ……使ってたな。
うち、どうかしてしまったみたいや。
当時の呼び方を知らんかっただけで物はある……。
……当時の呼び方って何や。
まるで、未来からきたような言い方して……。
「……そういうことだったのか。本当に訓練を受けてきたのかと勘違いするところだったよ」
降谷さんが冷ややかな目線を向けてきた。
……バレてない、流石に組織の人間だとはバレてへん。
「訓練って、何処のどいつに爆発物の解体法を教わるっつうんだよ!! 零!!」
松田さんのフォローが胸に刺さって苦しい。
「それもそうだ。漫画みたいに闇の組織が存在し、スパイ養成なんて……映画の見すぎだな」
伊達班長の言葉が傷を抉るように刺してくる。
うち……みんなに……。
「そんなことより、龍絶ちゃん、玄関を見た? 竹が飾ってあったでしょ? 短冊に何か書かない?」
そういえば来訪者用に七夕の飾りがしてあったっけ……。
「うん!! 書くわ!!」
二人の重さを感じながら昇降口に向かうと、子供連れの見学者用に短冊とサインペンが用意されていた。
「なんて書いたんだい?」
諸伏さんに手元を覗かれて慌てて隠した。
「『伊達班長、諸伏さん、降谷さん、萩原さん、松田さんの5人がずっと一緒でいられますように』だあ!? バーカ!!」
うちかて子供みたいな内容やとわかっとるけど、これが一番の願いやから……。
「龍絶ちゃん、間違ってるよ。5人じゃなくて、龍絶ちゃんもいれて『6人でずっと一緒にいられますように』でしょ? ……一番高いところに飾っておくね」