「鬼塚教場!! 頑張りや!!」
大事を取って体育祭は見学扱いになってしまったけど、応援番長にならなってもいいと鬼塚教官からお墨付きを貰って、鉄パイプに括り付けた教場旗の旗振りを腕の力を目一杯使って掲げ叫んだ。
しっかし、軽い鉄パイプでも旗を括り付けるだけで空気抵抗を受けるからめっちゃ重く感じる。
時と場所、組み合わせと条件でこうも違うなんて……ターゲットを狙う時も雨風や木のしなり、通行人や所持している物によって狙撃を再計算しないといけない原理と同じやな。
これを一日中やるトレーニングをすれば弱点の腕力を克服出来るかもしれん。
「……鬼塚教場、強いな」
うちの教場の入校者や団体が一番を取っている競技が増え始めた。
それもそのはずや。
特にあの5人は身体能力が群を抜いとるし、暗殺稼業でいうところの勘……危機察知能力と状況判断が秀でているし、チームプレーに関してはズバ抜けとる点取り屋。
惜しい人材や……5人は警察なんよな……組織におったら直ぐにコードネームを与えられて上の役職を与えられるのに。
……いや、うちも警察やろ。
組織にスカウトせんでいい。
トリプルフェイスみたいな汚れ仕事はうちだけで充分や……。
5人は純粋な警察官として正義の為に働いてほしい。
うちみたいな嘘つきで暗殺者と警察官の二足のわらじを履こうとしてる馬鹿な悪者にはなってほしくないから。
……みんなを裏切ってるうちがみんなの将来を願うなんて、思い上がり、罰当たりもいいとこやな。
どうあがいても警察学校を卒業したら、組織の命令に従って暗殺稼業を再開せんと『裏切り者』として消されてしまうんやから。
「龍絶さん、大丈夫? 旗、相当重いでしょ」
腕の力が無くなって鉄パイプを杖のようにしながら呼吸を整えていると諸伏さんが鉄パイプごと支えてくれた。
「大丈夫や!! 平気平気……でも、少し休憩させてもらうわ」
そのまま地面にしゃがみ込むと諸伏さんも同じようにしゃがんでうちの顔を覗き込んだ。
「そういえばさ、前に『週末に何処かに行く』って話していたの、コンビニ強盗で有耶無耶になっちゃったよね? 次の週末、龍絶さんは時間空いてるかな」
週末……爆発物処理や危険物処理の最新知識の吸収とタイムスコア更新しないと松田さん達に追い越されそうやから寮室に籠もって自主トレしようと思っとったんやけど……。
……出来るだけ5人と離れたくないから。
「うん!! 予定は空けとく!! それよりも一緒に鬼塚教場を応援しよ?」
「……って、みんな来とらんな。伊達班長や降谷さんなら30分前には来てそうなイメージやけど」
体育祭の後、打ち上げでどんちゃん騒ぎをした後は普通に一週間を過ごした。
諸伏さんからメールで『近くの駅前に10時集合』と直前になるまで待ち合わせ場所と時間を聞かされとらんかったから、もしかして目的の場所に直接行ってしまったんやろか。
「龍絶さん! お待たせ。君は30分前行動するタイプなんだね」
声の方向を向くと諸伏さんが手を振って駆け足で走り寄ってきた。
「うん!! 何かあったら困るから……それより、他の人ら全然来ないけど先に目的地に行ってしまったんかな?」
首を傾げると、諸伏さんはフニャッとした笑顔で笑った。
「あはは、だって他は誘ってないから」
そっか、誘ってないなら来るはず無いわな……。
……ん?
「え、誘ってない? え、え、なんで?」
爆弾発言に目をパチクリさせてしまった。
「騙し討ちしたみたいでごめんね? 『デートに行かない?』って誘っても色々と理由をつけられてはぐらかされちゃうかと思って」
……待って、デート?
うち、そんなに諸伏さんの好感度を上げるような事をした記憶がない。
「う、うちでいいん? デート……」
なんて返せばいいか分からず下を向くと背中を擦られた。
「うん。龍絶さんとゆっくり話をしたかったから」
諸伏さんは目を細めて、うちの背中を支えながら歩き始めた。
どういう状況かサッパリ分からん。
ゆっくり話をするなら、今迄に起きた事件で気になったことを聞き出すため……?
もしかして、伊達班長と降谷さんから怪しい行動について確認するように言われたんかな……。
「そ、そっか……誘ってくれてありがとう諸伏さん……」
あかん、デートと言われたら意識してしまってどう返せばいいか分からへん。
「緊張してる? 悪いようにはしないから安心していいよ。取りあえずカフェでお茶しない?」
これくらいの心理的揺さぶりで動揺したらあかんのに……。
やっぱり身分を偽ってる事、気付かれていたりするんやろか……。
「……うん。お茶、お茶な」
仲がいい同期との楽しいデートなのに、気まずさと嬉しさと後ろめたさと……恐ろしさが入り混じっていて落ち着かない。
「じゃあ猫カフェに行こうよ!」
「ね、猫ちゃんがいっぱいやね……」
諸伏さんが猫にじゃれつかれながらフニャッと笑みを零した。
「猫カフェだからね……。にゃ~ん」
あかん、諸伏さんってやっぱり天然なとこない?
何を話していいか分からん……。
「あの、諸伏さん……」
「単刀直入に言うね。ボクは龍絶さんのことが好きだ。結婚を前提に付き合って下さい」
……え。
「あ……え……と……」
待って、待って待って待って待って待って。
デートやから……あっても『付き合わない?』くらいのニュアンスで話が進むことかあるかもしれんとは思ったけど、け……結婚!?
「龍絶さんは良い子だから、他の男子達も狙ってるみたいだし、先手を打っておかないといけないなって……」
あかん、脳内の処理が追いつへん。
「な、なんでうちなん? 他にも良い子はいっぱいおるやん……諸伏さんは素敵な人やし……あの……」
コーヒーカップを持つ手が震えてカタカタと音を立てた。
「人を好きになるのに、理由って必要かな? ……同じ教場で過ごすうちに龍絶さんに惹かれていった。優しくて仲間思いで度胸があるのに泣き虫なところがある、君だから好きになったんだ」
どうしよう……うちも諸伏さんは良い人やと思っとるし、諸伏さんと付き合う女子は幸せになるんやろうなとも思う。
それでもうちは組織のメスカルやから警察と付き合ったりは……。
……そうなると、うちは……誰とも付き合えないのかもしれん。
「あの……ありがとう諸伏さん。……でも……うち……」
相応しい言葉が出てこうへん。
なんて答えたらいいん?
「やっぱり、松田の事が気になるのかな。普段の君を見ていたら嫌でも分かるよ」
優しい問いかけに胸がチクッと痛んだ。
諸伏さんは勇気を出してうちに告白してくれたんや。
うちも正直に誠意を見せなあかん。
「うん……上手く言えんけど、多分好きなんやと思う……。でも告白はせえへんつもり」
下を向いて思いの丈を打ち明けた。
告白してきた人に対して、自分が好きかもしれない相手の話をするのは失礼なのに、諸伏さんは嫌な顔一つせえへん。
「……理由があるんだね。……分かったよ。でもその代わり、龍絶さんが誰かと結ばれるまで好きでいてもいいよね?」
握った拳を諸伏さんの手が包みこんだ。
……あったかい。
本当、底抜けに良い人や……。
「うん。……ありがとう、諸伏さん」