黒衣の絡繰師   作:ummt

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警察学校 其の十五

 

「バカ女〜!! お前何勝手に他の男とデートしてんだよ!!」

 

 諸伏さんから猫カフェで告白された後、二人で漫画喫茶に行ってゴノレゴ13の感想を言い合ったり、CDショップに行って試聴用の曲のレビューを話したり、調理器具を見に行ったり……少しだけ変わったデートをした。

「痛い!! 松田さんやめてぇな!!」

 そして寮の前で松田さん達に捕まって、松田さんからほっぺたをつねられている。

「松田!! いくら僕と龍絶さんがデートをしたのが羨ましいからって、龍絶さんに当たるのはやめろよ!!」

 そんで、諸伏さんもよく分からない煽り方をするから……。

「そうだな。恋愛においては勇気を振り絞ってデートの約束を取り付けて、先に告白した方が勝ちだ」

 伊達班長も腕組みしながら頷いている。

「え……? デートとしての約束はしなかったけど、実際にデートをしたからいいよね? 龍絶さん」

 諸伏さんが屈託のない笑顔を向けると、4人はハトが豆鉄砲食らったような目になって口をポカーンと開けてしまっている。

「オイオイ、諸伏ちゃん……抜け目ないねぇ……」

 引き気味の萩原さんの隣で降谷さんがぽつりと呟いて苦笑いを浮かべた。

「まあ……ヒロはこういう所があるから……」

 すると松田さんはうちのほっぺたをパチンと叩くと諸伏さんのところにズイズイと足音を大袈裟にして迫った。

「ヒロの旦那!! やり口が汚えだろうが!! 正々堂々と……」

「告白したよ」

 ……場が一瞬で固まるには充分な威力や。

「……そうかよ。……で? 返事は……」

「保留かな。ね? 龍絶さん」

 二人は一瞬睨み合ったような視線を交わすと、一斉に溜息をついた。

「んなこったろうと思ったよ!! 泣き虫龍絶が即オーケーなんか出来っこねえからな!!」

 な、なんでそうなるん!? 

「う、うちにも事情があるんや……色々と……」

 目線を逸らして言葉を濁すと降谷さんから鋭い指摘という名の言葉のナイフが放たれた。

「事情って……。恋愛出来ない事情って何があるのかな? 警察学校に入校しているくらいだから家族やトラブルは無いはずだよね」

 ……どうしてそんなに問い詰めるん? 

「まあまあ、龍絶ちゃんにもタイミングとか上手い断り方が無かったとか色々あるってことでしょ」

 萩原さんがどうどうと手で押さえるジェスチャーをしながら場を諌めようとすると二人から反撃を受けた。

「断り方って……勝手に龍絶さんの心情を推し量るなよ萩原!!」

「ヒロの告白を断るなんて、よっぽどの事情があるに違いないだろ!! 何か無ければ普通の女子ならオーケーしてるはずだ!!」

 それは言い過ぎな気もするけど、好きな人が居ない女子からしたら迷うくらいには良い人なのは事実やからな……。

 

「ま、野暮な詮索はよそう。それより6人で花火大会に行かないか? 教場近くの河川敷であるらしい。行くよな? 龍絶」

 


 

「わぁ……結構大きい会場みたいやね」

 

 8月の末になる頃、例の花火大会の日がやってきた。

「龍絶……なんで浴衣を着てこねえんだよ!!」

 門扉の前で松田さんに肩を組まれてほっぺたを引っ張られる。

「せやかて、寮生活なのに嵩張る浴衣を買ってセットとかできへんもん!!」

 他の教場の女子達も流石に浴衣は着ていけないよねって言っとったし……。

「なぁんだ、そんな理由なの? じゃ、いっちょ浴衣を着付けてもらいに商店街に馳せ参じますか!!」

 萩原さんに腕を組まれてしまい、ズルズルと引き摺られてしまった。

 

「この日の龍絶さんの浴衣姿は一生物だからね」

 

 、、、

 

「うぅ……。恥ずかしいわ……」

 

 うちはテキーラと暗殺稼業をしているときは『ジェーン・ドゥ』っちゅう日本で言う『名無しの権兵衛』に近い名前で呼ばれていたし、ドレスや着物で着飾ったり七五三や祝い事の席に立つことも無かったから……着物を身に纏うのは初めてや。

 バイジウと4年間大学生活中に米花町で暮らしとった時はホリデーになるとバイジウはアメリカに帰国しとったからクリスマスやお正月もろくに経験した試しがない。

「……馬子にも衣装ってやつか。似合ってるんじゃないかな」

 降谷さんの絶妙に棘のあるワードチョイスに胸が少しだけ痛んだ。

「可愛いねぇ、龍絶ちゃん。七五三の親戚をみているみたいだ」 

 ……萩原さんのは遠回しに似合ってないって言っとらん? 

「服に着られている感も否めないが、いいと思うぞ」

 伊達班長にまで言われると……ちょっと傷つく。

「綺麗だよ……龍絶さん。……凄く綺麗だ」

 手厳しいファッションチェックをする三人の背をかき分けてきた諸伏さんに両手をぎゅっと握られた。

「あ、ありがとう諸伏さん……」

 すると松田さんに肩をぐいっと後ろに引っ張られてよろけそうになると、怒りながら抱きとめてくれた。

 

「バーカ!! 心理操作に乗せられてんじゃねえよ!! 評価を下げたところに褒めて相手の心を掴む単純な策だろうが!! ……ま、まあ……それなりに可愛いんじゃねえの……」

 


 

「結局犯人が分からないままで当日を迎えちゃったわね……。どうなるのかしら、花火大会……」

 

 着物屋さんとお客さんがなにやら物騒な井戸端会議を始めると、すかさず降谷さんが首を突っ込んだ。

「犯人……何があったんですか?」

 事情を詳しく聞くと花火大会の実行委員長である地主さんに『殺害予告』があったらしい。

「警察にも事情を伝えて警備を強化してもらったらしいんだけど、『花火大会を中止しなければ大会中に地主を殺害する』って、いくらなんでも無理な話よね」

 確かに、人混みで狙って殺害となると警備がいたらまず難しい。

 ……それは、凶器が近接武器か肉体による暴力の時に限る。

 ただし、飛び道具があれば変わるし、爆弾や危険物を仕掛けられていたら話は違う。

 もし地主だけでなく他の人間もろとも殺害する気なら更に事情が変わってくる。

「それなら警察が危険物を確認するでしょうから」

 せやな……危険物探知機を使うやろうし、花火大会やからと言って火薬を持ち歩く花火師や的屋のガスを扱う人らはみんなマークされとるはず。

 ライフルを持っていそうな人間なんて以ての外や。

「……やっぱり杞憂よね。今年からクールジャパンとか言って日本舞踊や薙刀や弓道、剣道を花火が打ち上げられる前にステージで披露する大掛かりなお祭りになるから心配しちゃったわ」

 素人が暗視スコープなんか持っとらんやろうし、あったとしても夜の人混みで個人を狙うなんてうちくらいしか出来んはずや。

「その地主さんは大会中、何処に居るんですか?」

 流石に殺害予告が出とるのに特等席に一人でいることは無いやろ。

「地主さんはね、特別閲覧席っていう櫓にいるはずよ。もちろん地元企業や町内会の役員の人達と一緒にね」

 ……まさか。

「あ、あの、会場の航空写真ってあります!? 見たいんです!!」

 この時代に一般向けに開放されたGiggleMAPに辿り着くのは至難の業。

 ……だから『この時代に』って何やねん!! 

 自分のほっぺたをピシャリと叩いて地図帳を渡してもらった。

 川幅は365m、隣りの岸には野球場と森、特別閲覧席の左右には遮蔽物がない様に見えるけど、祭り会場やからライトや音響類が設置されるはず。

 普通はありえへん発想や……でも、殺害予告をするような相手に道理や理屈は通らへん。

 

「龍絶さん、何か閃いたんだね! ……君の考えをオレたちに教えて。笑い飛ばしたりしないから」

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