「みんな、うちの見立てを聞いてくれる?」
まず殺害方法は刃物による殺傷と肉体……つまり暴力によるものは警備が居るから考えにくい。
となると爆発物や危険物が候補に挙がるけど臭気検知と熱検知があるから爆発物は無いと仮定する。
危険物は化学薬品や毒物やけど、化学薬品の場合相手に掛けたり嗅がせたりする必要があるから、この場合何かの仕掛けで発火させたりするかもわからんが、花火会場は常設やないから新しい工作物があれば警察は直ぐに察知するはず。
そんで毒物の場合もやっぱり近づくか仕込みが必要やから、大会中ピンポイントで殺害する遅効性の毒物の入手ルートはほぼ限られる。
次に飛び道具を使った場合やが、ライフルだと遮蔽物がないのはいいけど暗視スコープが無いやろうし、あっても犯人が身を隠す場所が限られとる。
近隣の高層マンションから特別閲覧席を見通しての射撃は土手と河原の高低差を考えると必ず的屋や臨時設置物、見物客が邪魔になる。
つまり、もしライフルだとすれば土手、河原の左右に建てられるライトや音響類を設置するアルミトラスや櫓の上か、向かい側の岸にある野球場と森からの狙撃。
けど、ライフルじゃ持ち運びに目立つし、隠して置いておくとしても野球場か森くらいしかない。
でも、ここまでの見解は警察もしとると思う。
「じゃあ龍絶さん独自の見解を僕達に教えてみてよ」
降谷さんが手を顎に置きながら顔を覗き込んでくる。
「馬鹿にせんで聞いてな? ……犯行に使われるのは弓矢や」
「「「「「弓ぃ!?」」」」」
案の定、5人から呆れが混じった声が上がった。
「……まてよ、確か弓の有効射程は約400m……川幅が365mなら野球場からギリギリ届くか……」
伊達班長が眉を顰めると降谷さんが横やりを入れた。
「それはそうだけど、人を狙うなら最大約80mが限界だ。いくらなんでも無茶が過ぎる」
確かに理屈を考えればそうや、ただし相手は犯罪に手を染める思考の持ち主。
「……降谷ちゃん。一つだけそれを可能にする方法があるんじゃない?」
降谷さんの肩に腕を乗せながら萩原さんが指を立てた。
「……あー!! 渡し船……遊覧船か!? クールジャパンだとか言って弓道を披露するなら弓矢を持つ人間が渡し船に乗ってても不自然じゃねえ!! でかした龍絶!!」
松田さんに頭をグリグリと撫でられて嬉しくもあり、一抹の不安を感じてしまう。
「流石龍絶さん! ……惚れ直しちゃうよ」
ヨイショはええねん、それより犯人の思考からしてパターンをすべて洗わんと。
「多分やけど最初の打ち上げで犯行は無い。最初にやると直ぐに犯行がバレてまうから。何回か打ち上げて観客の視線が空に向いている時、携帯電話か何かを鳴らして立ち上がらせるんやと思う。そして殺害されたと気付いた群衆はパニックになって土手に逃げるから、川岸に入ればその中に紛れ込むか、そのまま船にいるかのどっちかやないかな」
「それじゃ、諸伏と降谷は花火会場の左右の舞台付近の警戒、萩原と松田は渡し船の警戒、俺と龍絶は念の為対岸に渡って野球場近辺を警戒する。では、持ち場に走れ!!」
伊達班長が先導して役割を言い渡すと各自で自分の持ち場に走った。
「でも、うちの勘やから骨折り損になるかもしれんよ?」
慣れない下駄で会場の外を走るうちを伊達班長が荷物を運ぶように背負い上げた。
「杞憂だったらそれに越したことはない。馬鹿をやったと笑い飛ばせばいい。ただし、もしも不安要素が現実になったら警察官として後悔するだろ」
背負われながら夕日に照らされて地面に写る伊達班長の大きな影を見た。
なんだか、それが凄く怖かった。
影が伊達班長を飲み込んでしまいそうで、涙腺が刺激されてしまう。
「うん……伊達班長……」
野球場に着くと警備員が既に四方に配置されていて、屋上や高所にも監視員の姿があった。
まさか監視員と警備員に紛れ込むような策は取らないだろうし……でも念には念を入れんといかんから、複数の警備員さんに話を聞くと警察の方で顔と名前のチェックは済まされていたようで安心するのも束の間、うちは真っ直ぐ野球場の下にある森に走った。
「待て龍絶!! ペアで動くべきだろ!」
そうやった、今は暗殺稼業の単独行動やのうて警察学校の仲間がおるんや。
「……せやな。森で対岸が見通せる遮蔽物がない場所は一カ所しかない。足音を消して歩こ」
とは言ったものの、森で足音を消すのはかなり難しい。
うちの場合に至っては下駄を履いとるから枝や小石を踏んづけたら確実に音が鳴る。
「……おい、あそこの崖際に寝そべってる男、ライフルを持ってないか?」
……あかん、火薬の臭気検知や警察犬によるチェックをスルーするため事前に銃弾をアルミ缶に入れて、ライフルをビニールケースに入れて土に埋めとったらしいな。
側に土にまみれた缶とビニールが丸まっとる。
「うちが囮になるから、伊達班長は反対側から回り込んで下さい」
「……気をつけろよ、龍絶」
伊達班長が反対側に忍び足で歩みを進めると会場の方から大音量のアナウンスが流れて来た。
『は〜い!! では皆様お待ちかね!! 花火の打ち上げが始まりますよ〜!!』
あかん!!
早く注意を引かんと!!
「い、いやーん、やめてーな、こんな森の中に連れ込んで何するつもりなん? だめー、やらしいことはせんといてー」
木の枝を手でガサガサと揺らしながら声を出すと男はライフルから手を離してうちの方を見た。
「今や!!」
「確保!! 観念しやがれ!!」
その隙に伊達班長が寝そべった体勢の男に跨がって手脚を拘束した。
「な、なんだテメー!? 警察の巡回はさっき来たろ!?」
やっぱり、巡回予定を盗み見とったか。
となると、この犯人は設備運営に携わっている人間なんやな。
「うちらが将来の警察官や!! 今から現役の警察に引き渡すから観念せえよ!!」
次の瞬間、背後から口を塞がれた。
「糞餓鬼が……大人の邪魔してんじゃねえぞ……」
しまった、犯人は複数居たん?
うち、また足音を聞き逃してもうた……。
「おい!! その人を離せ!!」
駄目や、伊達班長の注意がうちに向いたらライフルを持っとる方の犯人に反撃されてしまう。
どないしたら……なんでうちはいつもみんなの足を引っ張ってしまうんや……。
「俺の……大切な仲間に手出しするんじゃねー!!」
ドカッと音がすると口を覆っていた手は地面に落ちた。
「は……萩原さん……」
後ろを振り向くと息を切らした萩原さんが男の背中を横から蹴り上げていた。
「ごめんねえ龍絶ちゃん……来るのが遅くなっちゃって。ヒーローは遅れてくるものだからさ」
急に安心感がこみ上げてくると、涙も一緒に溢れ出してくる。
「ったく、渡し船に弓道の演者が乗り込んで来るのを待って荷物検査をさせるのに時間が掛かっちまった。……って、また泣いてんのか龍絶!! お前なぁ、俺達と同じ爆処に勤めんだから、泣く癖を出すのは俺達の前だけにしておけ」
松田さんに嗜められつつ肩を抱えられて子供のように泣いてしまった。
「うぅ……みんな……みんなが来てくれたから……うち……うぅ……ありがとう……ありがとう……」