「みんな遅いで!! 早くせんと卒業式が始まるで!?」
今日は待ちに待った警察学校初任科課程の卒業式や。
この日を境にみんなは配属先がバラバラになって、別々の道を歩んでいくことになる。
達成感と同時に物悲しさを覚えてしまう。
そんでもって5人はまーたどっかをほっつき歩いているみたいで、鬼塚教官から集合を掛けるように言われてしまった。
「コラ!! そこの女子大生!! 汚え手で触ってんじゃねえ!!」
暴走トラックと並走して相当無茶をさせてしまった鬼塚教官のRX-7 FD3Sが校門前に駐車しているのを物珍しく思ったのか二人の女子大生が車体の周りを彷徨いている。
「「す、すみません……」」
平謝りする女子大生……なんだか、何処かで見たことある気がするんよな。
でも、うちが会ったとしたら暗殺稼業中か大学生活中のどっちか。
大学生活中にキャンパス内で会うた?
それとも日常生活中に何かをきっかけにやり取りしたんやろか。
……最近、記憶が曖昧になったり大切なことを忘れたような違和感や不愉快な心持ちになるの、少しは落ち着いたと思うんやけど。
「ボデイ直したばっかりなんだから、傷つけやがったら……」
最初に傷つけるようなことしたのはパトランプで乗り上げさせた松田さんやで。
「はいはい。警察官が一般市民を脅さない! ごめんね、お嬢さん達」
萩原さんがフォローしつつ松田さんの背を押して、校内に無理やり足を入れさせる。
「い、いえ」
「……大丈夫です」
RX-7 FD3Sは鬼塚教官の世話になった警察官が殉職して、娘さんの車を預かってるっちゅう話やったような……。
もしかしてその娘さん……?
だったら『父の車です!!』っていうか。
「ごめんなさい!! あの人、直ぐ噛み付く癖があるんで、うちから後でよく言っておきます。驚かせてしまってすみません」
ペコリと頭を下げると、女子大生達は「いえいえ」と苦笑いを浮かべた。
「龍絶!! テメーまた俺を子供扱いしやがったな!!」
ギャンと吠える松田にニコッと笑って頷きながら手を振った。
杞憂で思い過ごし、気を張り詰めすぎて空回りしたらまた皆に迷惑を掛けてしまう。
余計な面倒事に彼らを巻き込んだらあかん。
「そんな事より式!! 式!!」
「後10分しか無いよ」
伊達班長と諸伏さんが校門に駆けてくると、反対方向に降谷さんが歩みを進めて女子大生達に語り掛けた。
「君達、警察官に興味があるのかい? もしそうなら、見学していくといい。今日は僕達の卒業式なんだ。誇りと使命感を持って、この国の人達を守り抜く決意があるのなら」
「諸君、卒業おめでとう。君達はこれから幾多の困難を……」
今日からうちらは警察官。
うちと萩原さん、松田さんは警視庁警備部機動隊爆発物処理班に配属先が決まった。
本当に三爆処トリオとして勤め先が同じになるなんて夢みたいや。
これで二人を救う事が出来る。
……いや、なに不謹慎なことを考えとるんや。
頭を打ってからの『爆発事故』という明確で輪郭を持つ言葉。
爆処勤務でその言葉は洒落にならん。
……爆発物処理中に爆死するみたいな不吉なこと……考えたらあかん。
「ところで陣平ちゃん。制服のままで何処行ってたんだよ」
式の最中に萩原さんが松田さんに小声で声をかけると、当の本人はドヤ顔澄ましてみせた。
「ああ、ヒロの旦那が兄貴に送る手紙に写真入れてえっつうからよ。零と一緒に撮るの付き合ってやったんだ」
「そ。制帽を被って。もちろん儀礼用の装飾は外したけどね」
……なんや、そうやったんか。
あかん、今一瞬『なんでうちを誘ってくれなかったん?』って自己中心的なことを思い浮かべてしまった。
「でも松田、その写真が出来たら確認するって一度開けてたけど、ちゃんとポストに入れたんだろうな」
降谷さんが嗜めると、松田さんはスマホを取り出して写真を見せてくれた。
「おうよ。……この通り、男前にしてな」
いやいや、あかんて。
写真を勝手に加工したらダメやろ。
「お、おい。松田……お前なぁ」
「どうした……髭を描き足してやがる!? 警察官になりたてで髭はあり得ねえだろ!!」
皆の溜息が落ちると松田さんは気にしない様子でムスッとむくれた。
「ああ〜? イケてると思ったんだけど」
「確かに、髭面も悪くないな」
「「えっ」」
諸伏さんの肯定的な意見に珍しく降谷さんと声が揃った。
……でも、髭を生やした諸伏さんの写真を見ていると胸の奥がざわめいて落ち着かない。
「いや、なんか変わったなぁって思ってさ」
確かに萩原さんが言うように、諸伏さんは暗さを纏っていたのがクリーニング店の事件を境に憑き物が落ちたように爽やかさ全快になっている。
「両親の仇を……確保したからな」
人は困難を乗り越えられるから。
「一皮剥けたってやつなんじゃね? ……だから龍絶に抜け駆けして告ったりしたんだろ? ヒロの旦那」
う、告白されたことあんまり考えないようにしとったんに。
……うちは組織のメスカル。
組織のスパイとして警察官になって潜伏しとる限り、うちは誰とも付き合う資格はない。
もし結婚なんて話になってしまったら、身辺調査をまた洗い直されて普通ならあり得ない組織の人間が警察学校に入校する手続きを偽装工作をしたバイジウにまた余計な手間を掛けさせてしまうから。
「そうか? ……そうかもな」
「そうだ、6人全員で門標の前で写真を撮らない?」
降谷さんの発案で教訓が描かれた教訓碑の前で記念撮影をすることになった。
「ならうちが写真撮る!! みんな持っと近くに寄って!!」
携帯電話を掲げて皆の前に立つと松田さんがズカズカ歩み寄ってきて肩を組んできた。
「バーカ!! なんでお前だけ写らないつもりなんだよ!!」
せやかて、うちは5人の中には……。
そもそも誰かが撮影者にならんと写真は撮れへんよ。
「貴様等何を……なんだ、記念撮影か。……其々撮影機器を渡せ」
門扉の前でワチャワチャしていると鬼塚教官がRX-7 FD3Sを移動しに来たみたいやった。
「ま、まさか検閲……?」
恐る恐る携帯電話を渡すと深い溜息が落ちた。
「新米警察官を検閲する理由がないだろう。私が撮影係になる。……早く配置につかんか!!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
最後の最後で全員の声が揃うと、各々が卒業証書を持って前を向いた。
「お前達には苦労させられたが……将来を楽しみにしている。……それでは、『悪いの反対は?』」
え、なにその掛け声……知らん。
「「「「「良い!!」」」」」
「善!!」
うちだけが『い』の笑った様な口元ではなく『ん』という口元を結んだ顔になると、鬼塚教官含めて皆が笑い出した。
「龍絶ちゃんは臨機応変さが足りないねえ。ま、俺が爆処で鍛えてあげるから安心して」
萩原さんに耳打ちされると、諸伏さんからフォローというなの棘が放たれた。
「龍絶さんは柔軟な対応が苦手なだけだよ!! ……龍絶さんの真っ直ぐさは美点だと思うから」
……うちの評価、やっぱり花丸満点じゃなかったんやな。
首席は降谷さんやったし、成績2位は伊達班長、うちは3位やった……。
みんなは気を使ってくれてたんや。
……今くよくよしててもしゃあないな。
これからは爆発物処理班として新しい道を踏み出すんやから。
「うち、みんなに置いて行かれないように頑張るから!! これからもよろしくお願いします!!」