「じゃあ、メスカルには僕の家族になってもらうね」
バイジウの言葉に耳を疑った。
「はあ!? 何言うとるん!? 家族って何やねん!!」
ヘラヘラと笑う白シャツ姿のネクタイを引っ張り上げた。
「メスカルは日本の警察に入りたいんじゃないの?」
そ、それはそうやけど……。
確かにバイジウには『爆弾処理で若い警官が殉職した事件』を調べてもらって、まだ爆破事件は起こっていない事、松田 陣平と萩原 研二という名前が警察職員と警察学校に通う人物リストにない事を教えてもらった。
それだけで日本の警察に入りたいって決めつけられても……。
「う……まあ、それは……否定せんよ」
もしかしたら、警察学校同期組が警察学校に入学する前……いまうちが18歳……警察学校での話が22歳だから、二人も同じ18歳なのかもしれん。
「それなら家族になって、米花町4丁目04番地にある家に一緒に住んで『身辺調査』をクリアできるように今から偽装を始めないと、警察学校には遅い入学になってしまうよ?」
バイジウはゴソゴソとカバンから書類を取り出すと、目の前に差し出した。
『東都大学 入学願書』
「と……東都大学〜!?」
東都大学といえば沖矢さんの通う名門大学で、コウメイも確か通ってなかった!?
「名門大学に受かれば、事はスムーズ運ぶからね。警察学校に入るなら『採用調査』までに六親等までの情報を捻じ曲げる必要がある」
そういえば、警察になるには色々と調査をされるから……黒ずくめの組織みたいな構成員が入れる余地ないやん!!
「ど……どうしたらええの?」
ネクタイを離してバイジウを見上げた。
「学歴と居住歴は大学生活の4年間で記録と実態を積み上げる。犯罪歴は諜報員としてはあるけれど、実際に検挙や逮捕をされていないから、いつも通りに揉み消せばいい。借金は無いし思想団体との関わりも無いから大丈夫だよ。全部隠蔽して捏造できる」
ニコリと微笑まれてヘナヘナと座りこんだ。
「よかったあ……これで萩原さんと松田さんに会える……」
安心して胸をなで下ろすと、書類を顔の前に突き出された。
「あのね、それにはメスカルが僕の家族になって、大学に合格しないといけないんだけれど」
慌てて願書の書類を受け取った。
大学入試って……もうすぐやないの!!
「あかん……バイジウ!! 受験勉強手伝って!!」
「や……やったぁ!! 200404が有る!! 合格したでバ……ヤン!!」
合格発表の数字を見つけてバイジウに抱きついた。
「頑張ったね。藍ちゃん」
私……うちはテキーラに拾われてから『ジェーン・ドゥ』……コードネーム以外では所謂名無しと呼ばれていた。
構成員としての日常を過ごすには問題なかったけど、戸籍を改竄新しい名前が必要だった。
──龍絶 藍
これは前世の名前だけど、一番しっくりくるし変に新しい名前で呼ばれて返事が遅れたり、不意に名前が書けないといったことがないから、自己申告した。
「ヤンの鬼コーチが効いたわ!! 笑顔で『今眠るなら二度と明日を迎えられないよ』とかいうんやから!!」
バイジウ……ATF? のヤン・ブルドンとは家族になって義兄妹になったらしい。
どういうからくりかは分からんが、米花町の豪邸に一緒に住んでいる。
ただ、バイジウはアメリカで仕事をするのが本来だから、前世でいう『リモートワーク』をしているらしい。
「これで一安心だ。僕は来月アメリカに戻るね」
……前言撤回やわ。
「え〜!? バ……ヤンが居なくなったら洗濯に掃除、アイロン掛けに料理……誰がやるんよ!!」
勝手に出てくるご飯、ピカピカのお皿、温かいお風呂、清潔なリネン……。
「それまでに家事と処理についてキッチリ教えるから。安心して」
、、、
「何なん!? 爆発物処理ってこんなに難しいん!?」
バイジウは大学生活が始まる前後に爆発物処理について一から十まで叩き込んできた。
「雷管と信管の違い、何が発火になるか、後は『犯人がどういう意図で仕掛けたか』が重要。これは犯罪の中でもクラッカーの攻撃や密室事件のように、珍しい『気持ちを汲む』作業だから」
犯人の気持ちを汲む……?
「なんで犯人に寄り添わなきゃならんねん!!」
ついワイヤーをペンチで切ると模擬爆発物がクラッカーのようにポンと音が鳴らして紙吹雪が舞った。
「あーあ、メスカルは今死んじゃったよ? あと何回死ぬの?」
見透かすような態度に苛立って机を叩いた。
「うっさいねん!! この陰湿陰険な……あ! そういうことか!」
模擬爆発物の無数にあるワイヤーの配線を辿ると、どれであっも断線したら起爆するようになっていた。
ワイヤーを切断するのではなく、通電したままで火薬が入ったパーツを取り外す事が出来るようになっている。
「えらいね。次は粘度が高いものをやってみようか」
「とうとうこの日が来た……。ついに……」
桜が舞う警察学校の門を潜ると、ついガッツポーズをしてしまった。
4年間の大学生活の傍ら、ホリデーに帰ってくるバイジウによる爆発物処理訓練と実技訓練、戦闘訓練の成果が実ったんだ。
「警察学校に入学出来たー!!」
すると周りからクスクスと笑い声が聴こえてきた。
「何あの子、髪の毛染めてる?」
「赤毛ってやつじゃない? ハーフとか?」
あ……そうだった。
メスカルとしての私は青い目に赤い髪色をした色白で、パッと見ただけでは外国生まれに見間違われるほどだ。
「外人でも警察に入れんのかよ! 某国のスパイが紛れ込んでたら国家の危機じゃん!!」
ギクッとしてしまった。
ちゃんと警察組織に入り込めてるんだよね?
それよりも馬鹿にされた怒りで男の元に歩いていくと見覚えのある金髪が目の前を遮った。
「君も警察を目指しているんだろう? 仲間になる人間を色眼鏡で見るのはどうかと思うな」
聞き覚えのある爽やかな声にうっとりしていると、気まずくなり立ち去った男を他所に彼は振り返ってはにかんだ。
──降谷 零、ゼロだ……。
「あ……ありがとうございます。降谷さん……」
お礼を言ってペコリと頭を下げると降谷さんは目を丸くしていた。
「あれ? 僕、名乗りましたか?」
やばっ!! つい原作知識で名前を当てちゃった。
千里眼やら特殊能力があるとか言って誤魔化したら後々面倒そう……。
「あのっ採用試験の成績優秀者に降谷さんっていう金髪の男性かいるって噂になってて……」
適当に噂をでっち上げると降谷さんは目を細めた。
「ああ……そういう……」
改めて顔を見ると、本当にイケメン……。
「どうした? ゼロ」
騒ぎを聞きつけて穏やかな声が投げかけられた。
──諸伏 景光、ヒロ……。
「あの!! 降谷さんに仲裁に入ってもらって……お騒がせしました!!」
今の諸伏さん、話しかけても大丈夫なのかな……。
ご両親の事件の因縁もあるし、警察学校同期組では一番神経質っぽいから、警察学校を卒業するまでは距離を置いた方がいいかも。
降谷さんも公安になるし……いずれはバーボンとして黒ずくめの組織の一員として動く。
うまく付き合わないと厄介な事になりそう。
「ヒロ! こちらは……。そうだ、名前を伺っていませんでしたね」
降谷さんと諸伏さんに見つめられて、蛇に睨まれた蛙みたいに固まった。
ここで第一印象をいいイメージに印象付ければ、同じ教場の松田さんと萩原さんに好印象を与えてくれるかもしれない!!
あの子はいい子だよとか……か、可愛いとか……。
「う、うちは龍絶 藍!! 気軽にランって呼んでください!! これから同じ警察学校の学び舎で過ごす者同士、宜しくお願いします!!」