『卒業おめでとう。僕の方もATFでの仕事に目処がついたから、また米花町で一緒に暮らせるね。今日の15時に空港に着くよ。ヤン・ブルドン』
卒業後に寮室を引き払って最終的な事務手続きが済むとバイジウからメールが届いていた。
「やった!! これで爆発物対策の修業と対人戦闘訓練が出来る……」
思えば、ヤン……バイジウには大学受験から大学入学までの間鬼コーチとして指導官してもらったし、警察学校入学の事務手続き類から身分の偽造、組織からの仕事の肩代わりまで色々と世話になっとるな……。
何でこんなに世話を焼いてくれるんやろ……。
戸籍の改竄とか大変やったろうに、義兄妹として扱ってくれる。
バイジウに関しては元々テキーラの拳骨を受けてから記憶がすっぽり抜けとるし、もしかしたら元々ペアを組んでいたりしたんやろか……。
ジンとテキーラに顔が利く……実は上層部の人間だったりして……。
……まあ、上層部の人間やったらうちなんかに関わったりせんか。
「なーにニヤニヤしながら携帯見てんだよ、バカ女」
驚いて後ろを振り向くと松田さんと萩原さんが携帯電話を覗き込んいた。
「なっ、な、何でもあらへんよ!! それよりプライバシーの侵害や!! 覗きは犯罪やで!!」
慌てて携帯電話を閉じてポケットにしまうと冷や汗がダラダラと流れ出る。
あの文面にはコードネームも怪しい単語も入ってなかった。
「あはは、ごめんごめん。陣平ちゃんがサンバショトリオならぬ爆処トリオで少し話そうって話になってさ」
萩原さんが頭を掻きながら松田さんの肩をどついた。
「だーかーらー迎えに来てやったんだよ!!」
唯でさえ背後に立たれていたせいで距離が近いのに、ぐいっと顔が迫った。
「それと盗み見は別やもん!!」
後ろに仰け反りながら顔を逸らすと、顎を掴まれた。
「……で、誰だよ。……ヤン・ブルドンって……。男か?」
こんなん、少女漫画の『顎クイ』……やのうて!!
「前に話したうちの義兄や。……アメリカで働いてて、帰国するみたいやから……今から迎えに行くねん」
松田さんの鋭い視線を躱そうと目を伏せると、顎をグッと強く握られた。
「……ああ? ……なんだよ苗字が『ブルドン』だったから勘違いしちまっただろうが」
……よかった、誤解が解けたみたいで。
「……龍絶ちゃん、なら龍絶ちゃんは藍・ブルドンなの? それともお兄さんが龍絶ヤンで、通名で名乗っているだけなのかな」
……え?
考えた事も無かったけど、戸籍を弄っても義兄妹なんやからどっちかの姓に統一されとると考えるのが普通か。
「多分、兄貴が通名で名乗ってるだけちゃうかな! うち、迎えに行くからまた今度な?」
そう言って場を離れようとしても顎を掴む手は離れる気配がない。
「……俺達もついてってやるよ。俺達がいちゃ困る理由があるってんなら別だ。……龍絶、どうする?」
「ただいま、藍」
結局、空港には松田さんと萩原さんも一緒に来てもらうことになった。
……いずれ、兄貴のヤン……バイジウ、組織には所属の報告を入れることになる。
「ヤン〜!! 会いたかったわ!!」
空港でトランクを転がすバイジウを見つけて、ハグをしつつ耳打ちした。
「……あの二人が爆処の同期の松田さんと萩原さんや。……勝手に手出しとかせんでよ。怪しまれたら終わりなんやから……」
バイジウが組織でどういう立ち位置で、どんな信念や信条を持ってるかを確認した方がいいかもしれん。
取りあえず今は、二人に危害を向けないように念押しすることしか出来へんな。
「嬉しいけど熱烈な歓迎だね。はたから見たら恋人同士かもって思われちゃうから人前ではやめてね。……ほら、あの二人もジーッと僕を睨見つけてる」
あ、あかん。
義兄とはいえバイジウも男性やし、なによりバイジウは金髪緑目、うちは赤髪青目で全然似てへんから知らん人からしたら義兄妹とは思わんかもしれん。
「大学入学したあとから殆ど会うへんかったから、数年ぶりの再会に感じてしまったわ……。ついうっかりしてしまったわ。すまんすまん」
直ぐに離れて服をはたくと松田さんがバイジウとうちの身体を両腕で引き離した。
「……アンタが龍絶の兄貴か。へぇ……」
そう言ってうちの前に立ってバイジウにガンを飛ばし始めた。
「うん。はじめまして。僕はATF、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局に勤める龍絶ヤンです」
あ、なんや……龍絶の同じ姓やったんか。
色々と勘ぐってしまったわ。
「チッ、スカシやがって。俺は」
「えーと、俺は龍絶さんと同僚になる萩原研二。こっちの喧嘩っ早いのが松田陣平です。よろしく」
萩原さんが割り込んで右手を出すとバイジウもノーモーションで右手を差し出した。
「うちの藍がお世話になっているようで。ふふっ、でも貴方達を見て安心しました。良かったです」
握手を交わし終えると、バイジウはトランクを指さした。
「ゆっくりお話したいのは山々なんですが、なにぶん帰国したばかりで時差ボケがあるので、早く家で荷解きをすませたいのでこの辺で失礼しますね。……また、別の機会に」
「警察学校はどうだった?」
松田さんと萩原さんには埋め合わせを別の機会にするという話になって、現地で解散した。
「あんなあ? 松田さんと萩原さん達5人がすっごい優秀でな? なんでもできんねん!!」
バイジウが空港近くの駐車場に停めてあった車の助手席に乗り込んで、出来事を振り返った。
「……二人を救えそう?」
ドキッとして心臓が止まりそうになる。
「え? ……あ、あー……爆処の同僚として二人がヘマせんようによく見張っとるわ!!」
あれ?
もしかしてバイジウに『来たるべきその日に備える』『大切な二人を爆発から救う』みたいなアホみたいな記憶の話をしとったん?
なら、聞けば『誰をなんの為にいつ頃救う』か分かるっちゅうこと?
でも、今『原作知識、チートという漫画用語』が浮かんできた話や『名探偵コナンという名前』を知っとるか? みたいな話を聞いたら、絶対に頭を打ってアホになったと思われる。
バイジウにアホや思われるのはいいけど、うっかりその話を組織にされてしまったら『潜入工作員として不適格』『潜伏諜報作戦に支障あり』と判断されて『爆処を退所するように』なんて言われかねない。
それだけは困る。
うちは、スパイを隠し通してでも二人と……5人と一緒にいたいんや。
「……メスカル、松田さん……だっけ? 彼とは仲がいいのかな」
……答えに困る質問をせんといてほしい。
うちは松田さんが好きや。
……心の中で思う分には誰にも迷惑かけへんから。
「……松田さん? ああやって、いっつも意地悪してくんねん!! 仲は……まあ、同期で同僚やってだけ」
嘘はついとらんから……。
「……そう? 彼、メスカルに気があるんじゃないかな? そう見えるよ」
……松田さんの方は、うちをどう思っとんのかな。
あかん、考えるだけ時間の無駄や。
「やめてえな!! 中学生やあるまいし!!」
助手席の窓を開けて吹き込む風に顔を当てた。
落ち着いて、冷静に行動せんと……。
5人だけは絶対に……。
「……なんだか、メスカルが遠くに行ってしまうようで淋しいな……」
珍しく弱気なトーンがバイジウの口から漏れるのを聞いた。
「うちは何処にも行かへんよ!! バイジウは家族なんやから心配することなんて何もあらへんよ!!」