「龍絶!! 長年訓練監督という立場をしていた俺から忠告する。お前は爆発物処理班に向いていない。これは経験と直感によるものだ。次の移動で別部署になるよう進言しておくからな」
爆処に入って二週間も経たないうちに訓練監督に個別に相談室に呼び出されてしまった。
「な、なんでですか!? うち、失敗は致命的なものはしとらんし、ペーパーテストも実技も1位やったやないですか!!」
うちが解体技術で遅れを取ることなんて万が一もないはず。
その為に家に帰ればバイジウからの特訓を受けて自主勉もしとる。
「……お前も現場経験を積めば分かる。不適格としか言いようがない」
どうしてなん?
爆処に配属されたのは松田さんと萩原さん以外にも女子三人と男子三人居るから、女やからが理由ではないはず。
「悪い所があったら直します!! 未熟な部分があれば改善しますから、うちは爆処で働きたいんです!! よろしくお願いします」
深々とお辞儀をして誠心誠意お願いをしても、場の空気は変わらない。
「……龍絶、お前は『立場』ってものが分かってない。この意味が分かるか? 分からないだろう」
そんなんわかっとるよ!
「うちは新人です!! 先輩の皆さんから技術をご指導いただき」
「やっぱり、分からないか……。ま、せいぜい頑張りなさい」
訓練監督は溜息をついてその場を立ち去ってしまった。
「な、なんで……」
うち、何か訓練監督に対して失礼な態度を取ったりした?
全然見当もつかん……。
どうして向いていないって決めつけられなきゃいけないんや……。
モヤモヤした気持ちで相談室から退室すると、松田さんと萩原さんが真面目な顔をして腕組みしながら佇んでいた。
「……龍絶、何か言われたか?」
隠していても、いずれはバレてしまうなら正直に話そう。
「……うち、爆発物処理班に向いてないって言われた」
廊下を歩きながら話された大まかな内容を話すと、萩原さんは顎に手を付けて何かを考え始めた。
「お前が爆処に向いてねえって!? とんだ節穴だなあのオッサン!!」
そう背中を叩いてくる松田さんも、何処となく原因を察していて、敢えて触れないような配慮をしているように感じる。
「あとな? 『立場』を考えろって言われたわ……。そんなんわかっとるんに」
ちゃんと敬語も使っとるし、サボったり怠けたりは……少ししとるけど、そんなん言ったらうちだけやない。
「……龍絶ちゃん。1回俺達以外にも相談してみなよ。……たまには別の視点から自分を見つめ直すのも必要だと思うからさ」
「あの、ごめんなさい。今時間空いとる? 相談に乗ってほしいんやけど……」
別の教場で一度も話したことのなかった男子一人と女子二人が談話室で雑談していたので意を決して声をかけた。
「……なんだよ、優秀な龍絶から相談を持ちかけられるとは、明日は槍の雨が降りそうだな」
な、うちは別に優秀なんかじゃない。
成績は3位やし、音を聴き逃がすし、挙句は背後をとらりれる体たらく。
「ちょ、うちが優秀なわけ無いやん。大したことあらへんよ。優秀っちゃうのは……」
慌てて訂正しようとすると男子から苛立った声が上がった。
「はぁ、ウザ……。お前が優秀じゃないなら訓練でお前以下の成績しか取れないおれ等はクズ以下、存在価値を否定されたみたいだぜ? なあ、二人共」
誰もそんな事言ってへん。
うちには目的があるし、大学入学前と今はバイジウから鬼コーチされとるんやから、そもそもスタートラインが違う。
少しだけ先回りしとるだけで、みんなも経験を積めばうちと同じ土俵に上がれるのに。
「ち、ちゃうから。そんなこと思ってへんよ。学習スピードは人それぞれやから……」
一番人を苛立たせない説明方法が分からん。
「はいはい。俺達は三爆処トリオみたいに飲み込みが早い優等生じゃねーよ。で、相談て何? 萩原と松田で『私のために争わないで』とかやってる自慢話とかなら要らねえから」
うち、そんな風に周りから見られてたん?
「ちゃうよ……訓練監督から叱責を受けて……」
確かに前、英語が話せるか云々で別の教場の男子と『サークルの姫を気取るな』『外国人ならブラックジョーク言って悦に浸ってろ』って言われて喧嘩になりそうになったことはあった。
……あの時は伊達班長が割って入ってその男子を一喝してくれて場は収まったと思っていたのに。
知らん間に『姫ポジション』として共通認識されてたん?
だからその後、突っかかられることも嫌がらせされることも無かったってこと?
「お前さ、『調子に乗りすぎ』なんだよ。ここは学校じゃなくて『職場』、協調性くらい覚えたほうが良いんじゃね? 『出る杭は打たれる』って諺知らねえ?」
うち、でしゃばりやって煙たがられたん?
「うち……」
言葉に詰まると、男子は皮肉を放って談話室から出ていった。
「あのさー、やっぱ出来ない側の気持ちとか考えられないタイプなんだな。アレだけ『簡単なもの』『基礎知識』って言って俺達が1時間目一杯使って解除したものを5分も経たずに解体して訓練監督官に恥をかかせたんだ。目の敵にされるって普通分からねえ? ……上司たちも喫煙所でお前の扱いに苦慮してるってボヤいてたぜ」
「うち……そんな……そんなつもりじゃ……」
恥をかかせるなんてそんなこと思っとらんし、うちは『制限時間内に解除しろ』ってミッションやったから最速で終わらせただけ。
しかもあの爆弾は初歩やから直ぐにバラせんと技術力が疑われる内容やった。
「あー、アイツ口悪いから気にすることないよー」
残った女子二人は気さくに声を掛けてくれた。
「そ、そっか……。ありがとう。もしうちが変なこと言って嫌な気分にさせたらごめんなさい。言ってくれたら直すから。……うちでも5分で解体できるんに、なんでそれくらいで恥をかかせたことになるんやろ」
皆も訓練を積めば同じように出来るようになるのに。
「……龍絶さんさ、自分は謙虚なつもりなんだろうけど、それって私達を見下して馬鹿にしてるって意味に聞こえるけど」
……え?
「私達は龍絶さんが悪意がないってことを警察学校時代から知ってるから分かるけど……。他の人から見たら『上から目線』って思われちゃうかも。……って話」
……なんで?
「無自覚っぽいけどさ、イケメン達に守られてチヤホヤされながら囲われてるお姫様みたいだって思う人もいそうだよね。つーかぶっちゃけた話、一部から相当嫌われてたし」
チヤホヤって、うちは……。
「悪気はないんだろうけど、周りの空気を読まずに率先して動こうとするから『生意気』だって感じる事もありそう。『はいはい! うちがやりま〜す』って」
うちらは警察官やで?
自分から動かないと指示待ち人間になってまうやん。
「なら……なんで警察学校時代に言うてくれへんかったん?」
風呂掃除を手伝ってくれた女子達とは今も連絡取ってるし仲がいいと思っとるけど、本当は裏で悪口を言っとって全員に嫌われていたりしたん?
「だって、龍絶さんを邪険に扱ったら降谷君達から嫌な女だって思われそうじゃん。一々『龍絶さんは嫌われてるよ』なんて教える義理ないし」
……うち、知らない間に5人の庇護下にいて、ぬくぬくと学生生活を送れていたってことなん?
礼節を欠いた言行動を取っとって、5人が緩衝材になってくれていたって……そういうこと?
「今は降谷君や伊達君も居ないんだからさ、身の振り方に気をつけた方がいいんじゃない? 実際、先輩や上司から目を付けられてるよ。『態度が悪い新人』って噂が立ってるし、実力がいくらあっても同僚から嫌がられたら仕事になんてならないよ? 訓練監督も同じ職場にいる人間なんだから、その場でギャフンと言わせても『人間関係はその場限りで終わらない』って、分かる?」