「みんな!! お待たせ!!」
指定された居酒屋に行くと、5人は畳席に座って丁度松田さんと諸伏さんの間が1人分空いていた。
「待ってたよー!! 陣平ちゃん、ほらほら龍絶ちゃんが来てくれたよ」
萩原さんは電話越しとは全く違い、酔っ払っている様子は無く、顔も赤らんでいない。
そして向かい側に座る……というより突っ伏している松田さんの肩をテーブルに乗り出して揺すっている。
「龍絶……俺の……」
もうあかんやん。
「同期が迎えに来てやったで!! 三爆処トリオの要はうちやったんやな!!」
……そんなわけないけど。
「そ!! 待ってました!! 龍絶ちゃん、生ビールでいい?」
コクッと頷いて空いている席に座って見ると、松田さん以外の4人は殆ど酔っ払っておらず、素面に近かいように見える。
「萩原さん、なんで酔っ払ったフリなんかしたん? うち、萩原さんのことめっちゃ酒癖悪い人なんかと思ったわ」
すると座席の奥に座る松田さんが左肩に顎を乗せて腕を引っ張ってくる。
「龍絶……」
……な、なんなん?
「松田さん、酔っぱらったら柴犬みたいになるんやな……」
何か言いたそうに腕を引っ張られても、何も言われないか何も出来へん。
「いやあ、俺も酔っぱらったと思わせたら責任感が強い龍絶ちゃんがすっ飛んでくるかなって」
萩原さんは注文をし終えると満面の笑みを浮かべた。
「……ま、まあ……萩原さんの作戦は成功やな。……ところで、なんで急に5人が集まったん? ……集まる約束してたんかな」
……1人だけ誘われないっちゅうことは、警察学校同期6人組っていう認識はうちだけだったんかな。
「偶然街でばったり会ってな。さっき飲み始めたばかりだ。……さ、ビールも人数分揃ったことだ、乾杯し直そう。乾杯!!」
伊達班長の豪快な声と共にグラスが当たるカチンという音が鳴った。
さっきという割には松田さんベロンベロンやけど……。
「ところで龍絶、お前の噂は俺達にも届いてるぞ」
……噂……生意気で空気の読めない不適格な新人の話。
「龍絶さん、リミット60分をたったの3分で解除したそうじゃないか。尋常じゃない。……あまりに手慣れすぎている」
……やっぱり降谷さんはうちを疑ってるんやな。
「すごいじゃないか!! 龍絶さんの噂を耳にして鼻が高くなったよ。『流石オレの見込んだ女性だ』……ってね」
右手に諸伏さんの手のひらが乗った。
……もしかして、萩原さんが凹んでるうちを励ましてくれって頼んだんかな。
「ヒロの旦那!! 龍絶は俺の!! 手え出すんじゃねえって言ってんだろうが!!」
「あはは、松田ったら告白してから言えよ、そういうことは……。龍絶さん、落ち着いたら二人で旅行に行かない? 行きたい温泉宿があってさ……」
諸伏さんの肩が近づいてスマホの画面を見せられた。
「温泉……みんなで行けばええやん。なあ?」
向かい側にいる萩原さんと伊達班長、降谷さんに目線を送っても視線が合わない。
「だーかーらー!! タイミングっつうもんがあるだろうが!!」
左肩に乗る重さが増して、右に傾くと諸伏さんと肩がぶつかる。
「松田……松田には好きな相手がいるって前に話していたじゃないか。交通警備隊に配属されたっていう……萩原の姉さん」
……そ。
……そうやったんや……。
松田さんには、好きな人が……おったんか……。
「ば、バカ!! それは初……じゃねーよ!! 今その話をするなって!! ややこしくなる!!」
諸伏さんがテーブルを指で叩いて萩原さんに合図を出すと、スマホで写真を見せてくれた。
「これが俺の姉貴。美人だろ? ま、身内贔屓無しで美人だけど、完璧ってわけじゃないからさ。ほら、色々と得意分野と苦手分野っていうか……」
萩原さんのお姉さんだけあって、絶世の美女で……警察官で意見をハッキリいえそうな自立心と向上心が高そうな女性の姿がそこにはあった。
「ホンマや……本当に素敵な人やね……」
こんな完璧な女性がおるのに、うちを好きになるわけないやんか……。
馬鹿やな……うち、組織のしがらみがある以前に、最初から叶わない恋をしとったんや……。
あかん……今までずっと我慢しとった涙が決壊しそうで……。
帰りたい……もう何も考えたくない。
「すみません、義妹を迎えに来ました。藍は居ますか? ……あ、いた。藍。どうしたの? 大丈夫?」
声のする方を見るとバイジウが心配そうな顔をしてテーブルを見つめていた。
「バ……兄貴……」
涙を拭って立ち上がり駆け寄った。
「あなたが龍絶さんのお兄さんですか?」
視線が一点に集まるとバイジウはニコッと微笑んだ。
「初めまして。ATFのヤンです。松田さんと萩原さんとは一度空港でお会いしましたよね? 貴方達が藍の同期5人組なんですね。……会えて良かった。……盛り上がっているところすみませんが、用事があるので藍を連れて帰りますね」
「……なんで迎えに来たん? なんで店の名前分かったん? なんで……」
駐車場に停めてあった車の助手席に座ると、涙腺が壊れてしまったように涙が溢れた。
「……義兄ちゃんだから。……って、理由になってないね」
バイジウがアクセルをゆっくり踏み込むと同時に景色は移り変わり始める。
「うち……どうしてこんなに……」
弱いんやろ。
5人を守る為に誰よりも強くならんと行けないのに。
「メスカルは頑張っているのにね。……失恋しちゃった?」
……うちの好きな人には、好きな人がおる。
「うぅ……う……」
涙を腕で拭っても止め処なく涙は流れる。
「……辛かったね。僕がいるからもう安心だよ。……ほら、水筒に温かい飲み物を入れてきたから飲んで」
、、、
「それで、例の日に死亡する者の名前は?」
なんやろ、ふわふわする。
「あ……し、しらない……」
ゆらゆらしてる。
「松田陣平と萩原研二が死亡する日は?」
あったかい、ゆりかご?
「う……う……しらない……」
おふろにはいってるみたい。
「工藤 新一が江戸川 コナンになり、宮野 志保が灰原 哀になる薬の名前は?」
まっさーじ?
「し……しらない……」
すごくねむい。
「いずれ組織に入る降谷 零と諸伏 景光のコードネームは?」
まっしろ。
「っ……しらない」
くものうえ。
「組織に入ったバーボン、スコッチ、シェリー、ライ、キールはスパイ?」
かすみ、きり?
「……らない」
おとがきこえない。
「APTX4869の副次効果は幼児化、解法は白乾児?」
なにもつかめない。
「……しらっ……ない……」
からだがうごかない。
「僕たちは『名探偵コナン』の世界の住人で、君は11月7日に殉職する警察官を救うために別世界からやってきた精神体なの?」
あたまがまわってる。
「……しらない……」
かんがえられない。
「……ふう。やっぱりピンポイントでこの世界の知識が消えてるみたいだ。強盗にあった時にガリアーノの居る警察病院に運ばれていたら……。起こったことは仕方がない。充分過ぎる程カードは手元に揃った」
ひとりぼっち。
「メスカル、お義兄ちゃんに慰めて貰って君は寝てしまい、ぐっすり眠ったら今のやり取りを忘れちゃうから大丈夫だよ」