「龍絶ちゃん、顔色悪いけど大丈夫? 昨日のことだったら後でちゃんと陣平ちゃんに説明させるからさ……」
昨晩の萩原さんの美人なお姉さんを見たショックで悪夢を見て寝付けなかったなんて言えるわけない。
松田さんには好きな相手がおって、交通警備隊にいる正義の警察官。
……組織の悪事を働くうちとは全然ちゃうし……とにかく綺麗で……別嬪さんで……傾国の美女……。
「……龍絶。……その、あのな。……あー」
気不味そうに頭を搔く松田さんに微笑みかけた。
「……気にしてへんよ!! 松田さんってモテるんやろうし、たっくさん女の子を泣かしてきたんやろうなって分かっとったから!!」
そう言って訓練室の扉を開けた。
「げぇ……龍絶……」
座席には奇譚なき意見を言ってくれた男子一人と女子二人のグループと他の三人がすでに座っていた。
「おはよう!! なあなあ、今話してもええ?」
男子の目の前に立って声をかけると明らかに怪訝そうな顔をされた。
「……なんだよ。王子様を連れて報復か?」
チラッと後ろを向くと萩原さんと松田さんがじっとこちらを見ている。
「ああ、二人は関係あらへんよ!! この間はありがとな? うち、あれから言われたことをよく考えたんや」
……うちには人を立てるとか、人の心情を汲むとかが上手いこと出来んらしい。
特に上下関係やら横との連帯が上手く行かない……社会人として致命的や。
「で? 考えた結果を言えよ。エリートの龍絶様」
だからと言って昨日の今日で解決出来るほど状況は甘くないし、思考の矯正や行動を改めるなんて一朝一夕で出来るもんやない。
「うち、爆弾解体のスペシャリストやねん!!」
そう宣言すると場はしんと静まりかえった。
「……はあ? 何? 開き直って自慢する方針にしたってこと? 龍絶さんさぁ……ここは」
「警察やろ? そんでみんなも同期で同僚や!! うちは爆弾解体なら得意やけど、人間関係がからっきしで全然ダメの落第生。……せやから、お願いします。仲間としてうちに人間関係のイロハを教えて下さい」
頭を深く下げて願いを乞うた。
「……あのさ、龍絶さん」
これでもダメなら……どうしよう。
「……負けた負けた。あれだけコテンパンにボロクソにこき下ろした相手に頭を垂れるとか、お前の胆力には負けたよ。……その代わり実地の練習に付き合えよ? な、みんな」
男子が周りを見廻すとみんなはバラバラと頷いた。
「うん!! せやけど応用は基礎ができてからやないと頭でっかちになって危険やから、後から訓練監督官から聞こうな? やっぱり体系的なカリキュラムは重要やから。練習にはいくらでも付き合うで!!」
「訓練監督官!! うち、この爆弾解体は他に方法があると思うんです。まず砂を発火する雷管の横に入れるやろ? そしたら重さが変わって密閉性が上がるから、着火しなくなるねん、酸素の供給を絶って重さがトリガーになる場合を除けば安全性が増す」
嫌な顔をする訓練監督の人も、次第に耳を傾けてくれた。
「なら重さがトリガーなら比重を調整しながらになるが、都合よくゴミのない砂がある場合に限られるだろう。確かに一考の価値はある。爆弾解体には教科書的ではなく製作者の意図で崩されることが多分にあるからな。しかし、皆にはまだ早い。そこは弁えなさい」
爆弾処理班に向いていないと評価した、どうしようもないうちの話を聞いてくれる……ちゃんとした上司や。
警察なんやもん、人間が出来ている人達しかおらんよな。
「はい!! うち、みんなと歴代で一番優秀な爆弾処理班として日本国民を守れるように頑張ります!!」
、、、
「龍絶さん、さっきの話聞いた? また爆破予告が来たみたいだね。そろそろ私達の出番が来るのかなぁ」
更衣室で女子三人から話を振られた。
「爆破予告……犯人もアホやなぁ。予告なんて宣言をしてしまったら対策を取られるやないか。いきなり制限時間を提示して判断力を奪った上で欲しいもんを奪って爆破したらええのに」
うちらは入ったばっかりの新人やからと一旦帰宅を指示された。
「り……龍絶さんって、やっぱり変わってるよね。……犯人側の目線っていうか……なんていうか……」
だって『犯人がどういう意図で仕掛けたか』が重要で、爆弾解体は『気持ちを汲む』作業だから。
「後でどういう爆発物やったか、どう処理したか聞かせてもわんとなぁ」
爆弾解体はフィードバックがすべて。
仕様と種別、傾向と手段を次の次に活かさんと。
いたちごっこになるかも知れんが、知識は積み重なって意義を産み出す。
「龍絶!! 居るか!? 訓練監督に爆発物処理班に同行を許してもらった!!」
外側から扉を叩く音と松田さんの叫び声が室内に響いた。
「……行ってきなよ、龍絶さん」
女子三人から背中を押されて、再び爆処の制服を身に纏った。
「うん!! 行ってきます!! 後でどんな事件だったか聞かせるからな!!」
「お前達は下がっていなさい。今、臨場した隊員達が解体作業を始めたところだ」
松田さんと萩原さんと共に先輩たちが駆け込んだビルを見あげた。
「なら高圧防水や冷凍による非破壊での移動が出来ない……。設置固定型で何かと繋がってるんですか?」
訓練監督官は頷いて、クリップボードを渡してくれた。
そこには発見時の状態や外観から見た形状、犯人からの予告の内容がメモされていた。
『我は光を目指すものなり、警察署君には灯台守の職を用意した』
予告犯は警察が現場に入った途端に爆発物の起爆時間を指定したらしい。
この犯人は細かい細工をわざわざ見える窓を用意して、解体者に威嚇をするタイプ。
神経質でありながら自己顕示欲が高く、怯える人を眺めて楽しむような奴。
恐らく爆発物はビルの屋上か一つ下の階。
……それなら、近くにいるな。
遠隔操作にしても起爆可能な範囲は限られとるし、警察がどう動いて焦っているかを目視確認したいはずや。
「龍絶、どうしたキョロキョロして……まさか、犯人を探し当てるつもりか!?」
ビルを灯台として見立てての犯行なら……犯人は海上、船の上や近いニュアンスを持つ場所で見ていると考えられる。
この付近では河に架かる大橋があり、橋からはこのビルが遮蔽物無しで望めるはずや。
「龍絶ちゃん!! 報連相!!」
萩原さんに肩を揺さぶられて我に返った。
「訓練監督!! 犯人は灯台を目指す船橋からビルを監視しとるかも知れん!! 他の人らが動いとるかも知れんけど、うちも見に行きます!!」
そう言って肩に置かれた腕を振りほどいて走り出すと二人の声が背中越しに聴こえた。
「龍絶!! 戻れ!!」
「龍絶ちゃん!! 俺たちを置いていくな!!」
うちは、早く、早く、早く走って……犯人を……。
……犯人を殺さないといけないんや。
……爆弾を設置した犯人を葬り去る。
……そうすれば……二人は助かる。
二人……二人を……うちは二人を救う。
脚を踏み出して数秒後、背後で爆発音が聴こえた。
嘘……爆発したん……?
まさか、爆弾解体に失敗したっちゅうこと?
人が……人が死んでしまったん?
「「危ない!!」」
後ろを振り返ろうとした瞬間、窓ガラスのフレーム部分が目の前に見えた。
「あ……」