「お目覚めかい? 龍絶さん」
見覚えのあるミントグリーンのカーテン……。
頭が割れるように痛い。
身体を起こすと2つの点滴のチューブに両手が繋がれている。
「はい……うち……」
爆弾解体の現場に行って、橋を目指して走って、それで……。
「君は金属片にぶつかって意識不明の重体だったんだよ? 意識が戻ってよかった」
そう言って笑ったのは警察病院に潜伏している組織の人間、ガリアーノだった。
「そんなに酷かったんですか?」
首を傾げると、レントゲンとカルテを見せてくれた。
「君は何度も頭に衝撃が加わっわたからね……五体満足で麻痺や後遺症が無く生きているのが奇跡だよ」
テキーラに拳骨されて、コンビニ強盗にストックで殴られて、車の天井に頭をぶつけて、今度はビルの金属片に当たったんか……。
「そっか、生きててラッキーなんか……」
あの爆破、まさか死者が出たんちゃうんか?
そうでないと信じたい。
「……もう直ぐ例の日だね」
……例の日、11月7日。
うちの推しだった萩原さんと松田さんが殉職する日……。
……思い出した……うち、うちは名探偵コナンの世界にいる……。
なんで今頃思い出したんやろ。
……あ、……待って……待ってよ。
どうしてガリアーノが例の日って知っとるん?
……あ、あああ、あ……うち、うちは……。
前世の記憶を取り戻したあの日、バイジウに当時18歳だった『萩原 研二と松田 陣平という警察官が爆発事件で殉職したかどうか』を聞いてしまっとる。
もし覚えていた場合、二人が警察学校の同期として存在してることを認識されてしまった……?
つまり……未来予知をしたと思われとる?
事の始まりはテキーラとガリアーノにまだ企業として立ち上がってすらいない『満天堂の爆発事件』を聞いてしまったこと。
だから、テキーラがスパイのカウンセリングという方便の『尋問と自白を専門とした組織のナンバー3』を寄越して『世話になれ』……つまり、他組織からの薬剤や洗脳の有無を確認させた。
そしてナンバー3のバイジウと言う名前を知らないと言ったうちをバイジウは観察対象とした。
ラボの総責任者なら姿を滅多に表さないのも頷ける。
企画立案統制管理なら現場に降りてくることがほぼ無くても現場を回せるからな。
それに宮野エレーナが部下っちゅうことはAPTX4869の開発に携わっとるはずや……。
もし予知だ思われてしまったらとんでもない事になる。
「例の日……? 何の日ですか?」
ガリアーノも恐らくバイジウの部下や、うちが原作知識を忘れたままだと思わせんと……。
組織に原作知識が渡ったら大惨事、絶対に避けんと。
予言が出来るなんて思われたら終いや。
うちは『爆発事件』関連のことしか話してへんはず。
「……いや、何でもないよ。ゆっくり休んでね」
「うちの携帯電話……」
ガリアーノが去ってベッドに備え付けられたキャビネットを開けると携帯電話と財布、元の衣服と着替えが入っていた。
意識不明の重体での入院なら、今何日か分からん。
携帯電話を開けて待ち受け画面に表示された時刻を見て心臓が止まった。
『11月7日 6:56』
……嘘やろ、今日やないか。
うち、どんだけ寝てたんや……。
バクバクと心臓が高鳴り始めて鼓膜に響く。
……今日、萩原さんが……殉職する。
腕に刺さった点滴の針を引き抜いて着替えると病室を走り去った。
「ちょ、龍絶さん!! まだ安静にと」
「ガリ……塞本医師から臨時の外出許可貰っとるから大丈夫です!!」
とにかく走って病室から出るとタクシーを拾った。
「お嬢さん、どちら迄?」
あかん、原作では高層マンションとしか描かれてへんかった……。
「警視庁までお願いします!! 交通ルールに則って現在まで飛ばしてください!!」
爆発事件は少なくとも日中だと描かれていた。
……まって……早朝やったらどうする?
「すみません運転手さん!! 電話かけます!!」
携帯電話を開いて連絡先から萩原さんの電話番号に通話を掛ける。
プルル……プルル……という気の抜けた呼び出し音が鳴る度に苛々して貧乏揺すりする脚を止められない。
早く出て……お願いやから……。
『……あ、もしもし? 龍絶ちゃんから電話してくるなんて珍しい……いつ意識戻ったの? 体調は大丈夫? 俺達に会えなかったから寂しくなっちゃった?』
今そんな世間話はええねん!!
「萩原さん!! 今何処!? まさか爆発処理班として臨場してへんよな!?」
うちらは新人やからと見学をさせられたんや、爆発事件に関与しなくてもいいルートに成ってるかも知れん。
『俺? 龍絶ちゃんが巻き込まれた爆発事件で先輩達が負傷したから穴埋めとして松田と一緒に動いてるよ。爆発物処理班だからね』
……ウソや、嘘や嘘や嘘や。
「場所を言って萩原さん!! 萩原さんが行く高層マンションは何処なん!? 早う言って!!」
『駄目だよ龍絶ちゃんは寝てなくちゃ。休息は大切だよ。また意識不明で頭を打ったんだ。大事を取って……』
「いいから教えろや!! 萩原!!」
思い切り怒鳴りつけると、受話口の先のおちゃらけた声が静かになった。
『……どうしたんだよ、そんなに焦って……。龍絶ちゃんが寝てる間、松田と俺で爆発物処理を複数回こなしてる。君が爆弾解体のスペシャリストとしてプライドを持ってるのも分かるけど、俺達二人を侮られたら流石に頭にくるからさ……』
……せやから、今日……萩原さんは爆弾解体に失敗して死んでしまうんよ。
「うちがムカつくのも分かる!! 嫌いになってもらってもええし憎んで恨んでくれてもええ!! だからお願いします!! 臨場する高層マンションの場所を教えて下さい……何でもしますから……お願いやから……一緒にいたいんや……お願い……」
タクシーの車内には鼻水を啜る音と嗚咽が耳障りに鳴った。
『……龍絶ちゃんが俺にそこまで言うんだ……何か理由があるんだね……。分かった。場所は米花町初台11の……』
携帯電話にノイズが入って、見ると充電が3%になっている。
あかん……このままでは……。
「萩原さん!! 防護服を脱いで煙草なんか吸うたら百叩きの刑やからな!! 聴こえてる!? 萩原さん!!」
ツーッツーッという通話が切れた音と同時に、画面が真っ暗になった。
そんなの……。
「運転手さん!! 米花町11の……その近くに高層マンションありますか!? そこに向かってください!!」
運転席に身を乗り出してカーナビを見た。
「高層ビル群が立ち並ぶエリアだからね……少なくとも近くには行けるよ。取りあえず落ち着いて、ね? ちゃんと座って」
近くにいけば爆発物処理班が所有する特殊車両が止まっとるから分かるはず。
「あ!! 運転手さん!! 行く前に高い橋を通るルートはありますか? 到着誤差が3分程度やったらそっちを廻ってください!!」
高い橋を通れば見下ろして特殊車両を見つけられる可能性が出てくる。
とにかく、萩原さんの方に行って解体をうちがしなければならん。
その為に5年間爆弾解体の技術を身に着けたんやから。
「丁度ビル群を見下ろせる橋があるけど、高いビルたちが邪魔して下は見えないんじゃ……」
うちは組織の三本指に入るスナイパーや。
「目がいいんで窓ガラスへの反射や隙間から見えますから大丈夫です!! 早う飛ばしてな!!」