黒衣の絡繰師   作:ummt

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爆処 其の八

 

「見えた!! あのビルに向かって下さい!!」

 

 橋の上からはチラッとやけど特殊車両とパトカーが見えた。

「じゃあ法定速度ギリギリで飛ばすね!!」

 ノリのいい運転手さんのアクセルによって、そのビルはどんどん近づき巨大な影になっていく。

 うちは絶対に萩原さんを死なせはしない。

 

「お願いします!! かっ飛ばして!! 早く行かんといけんのや!!」

 

 、、、

 

「訓練監督!! 萩原さんは!?」

 

 特殊車両の扉を開くと、目を丸くした訓練監督が言葉を失っていた。

「な……龍絶、昏睡状態だったんじゃないのか……動いて大丈夫なのかか? そもそも何故此処に……お前は一旦救護班の世話に」

「うちにも防護服を着させて下さい!!」

 訓練監督官にずいっと近づいて叫んだ。

「バカモノ!! 病み上がりの新人を現場に入れ」

「ならうち……単独で現場に入ります。ええんですか? そんな無謀なことをさせて……管理責任が問われますよ」

 うちが言ってるのはめちゃくちゃな暴論で支離滅裂なのほ分かってる。

 頭がおかしい、異常だ、常識がない。

 今すぐに謹慎や停職の通達を受けてもええ、クビにすらなってもええから。

 それでも、うちは現場に行かなきゃならんのや。

「……龍絶、後で始末書を書きなさい。そして面談をし、処分を言い渡すからな」

 深い溜息をこぼすと、訓練監督官は防護服着用の為に人を呼んだ。

「ありがとう御座います。訓練監督……。松田さんと萩原さんに防護服を着脱させる担当の人達に『防護服を脱いだままにさせるな』『脱ごうとしたら下に降ろせ』と伝えて下さい。……よろしくお願いします」

 レンズ曇り除去用呼吸冷却兼用ヘルメットを身に着け、金属製の防護板が入った分厚い防護服は一人では着脱する事が出来ない。

 服の中は40℃を超えるから、5分程度が着用限界。

 だから着脱させる担当の人間が複数人付いていく。

 爆発物処理班の先輩らに着用を補助してもらって、特殊車両から降りて工具箱を持ちエレベーターに向かった。

「……ああ。必ずルールを徹底させる。……萩原は先に向かった。行ってきなさい」

 なら、すでに5分は経っている。

 一旦、踊り場か何処かで防護服を脱いで休憩をしているか、休憩が終わって再び着用しているか。

 どちらにしろ、着脱のタイミングはあり、それは他者からの介入が無いと行えないこと。

 少なくとも萩原さん一人で着脱が出来ない以上、勝手な事はしないはず。

 ……それに、爆発物処理班に対して『原作では起爆タイマーが再稼働して爆発するというシナリオになっているから、爆弾を解体せずに逃げてほしい』なんて馬鹿みたいな話をするわけにはいかない。

 

「うちは必ず爆弾を解除してみせます。……後はよろしくお願いします。訓練監督」

 


 

「……本当に来ちゃったの……龍絶ちゃん」

 

 エレベーターが開き、廊下を見渡すと胡座をかいて煙草をふかす萩原さんと爆処の先輩達と目が合った。

「なんで防護服を着とらんのやドアホ!! 先輩らも止めろや!!」

 ……先輩らも止められない程、爆発物処理班での萩原さんの立場は上になっとったっちゅうことか。

「俺達に先を越されて悔しいのは分かるけど……。龍絶ちゃん、俺に対して無礼が過ぎるんじゃないかな? 怒らせたいの?」

「ああそうや!! ドアホにドアホと言って何が悪いんや!! そこを退け!! うちに場所を開けろ!!」

 座りながらこちらを睨みつける萩原さんを突き飛ばして爆弾と向き合った。

 感光起爆装置用光電管に水銀レバーから白いコードが出ていて液晶パネルがセブンセグメントを示している。

 ……タイマーはまだ止まっていない。

 これは光電効果を利用して光を電気信号に変換し、サイラトロンかバイアス回路を使って増幅させて信管を着火するもの。

 真空か不活性ガスで満たされたガラス管に光が当たると反応を示す陰極……カソードから陽極……アノードに電子が流れると光電流が流れる単純な仕組み。

 それをスイッチング回路のサイリスタやフォトカプラで制御しとる。

 ここで通電したら起爆になるけど、光を当てない遮蔽遮光で処理をしたうえで火薬と切り離せばええ。

 問題は水銀レバー……水銀スイッチの方や。

 傾きを検知するチルトセンサーが感震器の役割を示しとる。

 ……普通なら、そう思うやろうけど時間稼ぎが見え見えや。

 爆弾っちゅうもんは信管が着火して火薬に火をつける。

 これが全て。

 逆算していって、火薬に渡される着火が信管からどのように発せられるかの根本の切り分けをして火薬に着火しないようにすればいい。

 なによりこの爆弾には液晶パネルと水銀レバーからの白いコードというご丁寧に『電源を別途使っている』っちゅう最大のヒントを説明してくれている。

 それに大量のトラップも電源からの目眩ましや、そんなん主要な方を切り離していったあとで『念の為』で解除していけばええん。

 爆弾魔A、Bも所詮は素人犯罪者。

 ……うちは組織のメスカルや。

 踏んでる場数が違う。

 命をかけて危険物や爆発物を扱ってきたんや、愉快犯と一緒にしてもらっちゃ困んねん。

 ……これで解体は完了や。

 

「……これは解除できへん。……聞いてんのか!? 爆発物処理班!! 退避しい!! 10億円の要求を呑むんや!!」

 


 

「はぁ!? あんなに啖呵を切って大見得切ったのに解除出来ないだあ? ……龍絶ちゃん、見損なったよ」

 

 これでええ。

 10億円を手にし制限時間を解除した爆弾犯Bが警察に電話を掛け、逆探知した警察から逃げるために交通事故で死亡。

 その一部始終を見ているはずの爆弾犯Aが警察の罠だとしてこの爆弾の制限時間を復旧させる。

「タイマーは止まったか!? 爆弾犯は止めたと言っている!!」

 タイムリミットを示す液晶パネルの時刻版は真っ暗なまま。

「龍絶ちゃんは何故、逃げない? ……何を考えているんだ」

 爆弾処理班の皆が一斉退避し、廊下の向こう側に行ったことを確認した萩原さんが苛立ちを隠さずにうちをゴミを見るような目で廊下と廊下の真ん中から遠巻きに尋ねる。

「……うちは防護服があるから上手く歩けんだけや。……着脱なんかさせとったら危ないやろ……」

 そろそろ息が苦しくなってきたな。

「……なら俺が運ぶ、逃げるぞ」

 そんなんせんでも……。

「ドアホうに運ばれんでもええ……。うちは……萩原さんを救いに此処まで来たんやから……」

 うちの役目は終わった……。

『萩原!! お前何のんびりやってんだ!! さっさとバラしちまえよ!!』

 松田さんの声がする……そろそろタイムリミットを復旧させるタイミングか……。

「そうがなりなさんな……。タイマーは止まってんだ」

 遠くから逃げたはずの爆処の人間の足音が聴こえる。

「おい!! 犯人がタイマーを復旧させたと連絡してきたぞ!! お前ら、逃げろ!!」

 萩原さんがうちに駆け寄ろうとした瞬間、受話口から騒々しい声がし始めた。

『松田、変われ!! 一体全体どうなっているんだ!? 犯人がタイマーを復旧させたのに爆発しないのは罠かと言って……何!? 絶叫する犯人を確保しただと!? 龍絶!? お前、あの爆弾を解除したのか!!』

 当たり前やろ……うちを誰やと思てんねん……。

「警察が解除に失敗したはずの爆弾が爆発しないとなったら……発狂して叫ぶタイプやと思ったわ……」

 あかん……暑苦しさで意識がもう……。

「なんで解除出来ないなんて嘘をついた!?」

 そんなん決まっとるやろ……。

 

「敵を欺くにもまず味方からや……も……だめ…………」

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