「やったぁ!! 降谷さんと諸伏さんと同じ教場やん!!」
入校式が終わり、教場の組分けが発表されてテンションマックスになってしまった。
二人と同じ鬼塚教官の教場なら、推しの萩原さんに松田さん、伊達班長と一緒に座学や訓練を受けられる。
「男女混合でしたか。宜しくお願いしますね、龍絶さん」
……降谷さん、流石に初期段階じゃ名前で呼んでくれへんか。
「宜しく。龍絶さん」
諸伏さんは気にするほど神経質ではないのかもしれん。
実際に敬語を使うてへんし。
「鬼塚教場の奴ら!! 全員集合!!」
聴いたことのある男らしい声に振り返ると、伊達班長が腕を組んで立っていた。
「伊達班長や!! 宜しくお願いします!!」
ついつい大声で叫ぶと周りの人達が一斉にこっちに視線を向けた。
「……班長?」
「もう班長を発令してたの?」
「普通、教室に入ってから班長を決めるか発表しねえ?」
ヤバい……またやってもうた……。
あかん、原作知識があると人の名前を作中の呼び名で呼んでしまう。
「違うわ!! 班長みたいな人やなって思うたから口が滑ってしまったんや!!」
慌てて大腕を振って訂正をすると恰幅のいい男性が割って入った。
「確かに伊達を班長に任命する予定だった。事前の成績からして『降谷、伊達』……そして龍絶、お前の三人が班長の候補者だからだ」
本物の鬼塚教場の圧に気圧されそうになった。
……ちょ、まって!? 二人だけじゃなくて、うちも班長候補者なん!?
「ほぅ……俺を高く買ってくれてるのか嬢ちゃん」
伊達班長がズカズカと歩き寄ってくると思いっ切り両肩を叩かれた。
「見る目あるじゃねーか!! 俺は伊達 航!! 宜しくな!!」
ニカッと白い歯見せて豪快に笑う顔の近さに思わず後退りすると、背中が誰かとぶつかった。
「あ、すまん……」
咄嗟に振り返ると、目に映った二人の姿に言葉を失った。
「同じ教場に席を置く者同士だよ〜? 嬢ちゃんじゃなくて名前で呼ぶべきじゃないかな〜? ね? 陣平ちゃん!」
「うるせえぞ萩!! お前だって名前を呼んでねえじゃねえか!!」
信じられない……。
推しの萩原さんと松田さんが生きてる……。
「良かったぁ……生きてて……」
そう思うと涙が零れ落ちて泣きじゃくってしまった。
「はぁ!? なーに『人生最良の日』みたいに浸ってんだよ!!」
「さっきの下り『生きていて良かった』と思える場面だったかなぁ……」
「うわぁ……本当に松田さんと降谷さんで殴り合いの喧嘩をしたん?」
二人は原作通りに派手に喧嘩をやらかした。
そんでもって国旗掲揚の時間に指摘されると、鬼塚教場だけ駆け足訓練が追加されたから、とばっちりでエラい目におうたわ。
机を挟んで顔色を伺ってみても、二人ともツーンとして顔を合わせくれへん。
「こらこら陣平ちゃん、女の子を無視しないの! ごめんねぇ? 龍絶さん」
今のは嘘。
萩原さんに名前を呼ばれ、ウインクされただけで天にも昇る気分やわ……。
「ゼロ、シカトは良くないよ。龍絶さん、察しの通りだけど一応『部屋にゴキブリが出た』って話で通してくれないかな」
諸伏さんに微笑まれてドキッとしてしまった。
「シカトじゃないよ。どうやってあの晩の出来事を説明しようか考えていただけさ」
なんか新鮮やな……。
降谷さんが子供みたいにムキになる光景。
本編だと隙が無さ過ぎるし、唯一の沸点は『赤井秀一』だから、若い時のヤンチャな言動が初々しくてほっぺたが緩みそうになる。
「俺は単にうぜぇ女を無視してるだけ」
頬杖をしながらぶっきらぼうに答えられて、そういう人だと分かってはいても心にトゲが刺さった。
「……うち、そこまで嫌われるようなこと、したかなぁ……」
しょぼくれて下を向くと伊達班長の声が響いた。
「アレだろ? 巷で流行りの『ツンデレ』ってやつだ!! 龍絶、気にすんな!!」
それ、降谷さんが松田さんに言う台詞よな?
「誰がツンデレだ!! 誤解すんじゃねーぞ!! ……龍絶」
信じられへん……。
松田さんに名前を呼ばれてもうた……。
「オイオイ龍絶さん、なーに堕とされかかってんの! 『不良が雨の日に子犬に傘をさしてやる』みたいなシチュエーションに弱いみたいだね」
そんなん嫌いな女子いないやろ!
しかも相手は推しの松田さんやで?
同じ空気を吸って会話出来るだけでも尊いんに!!
「だって『ガラが悪いと思ったら実は優しい』とか王道でキュンキュンせえへん?」
首を傾げるとようやく松田さんと目が合った。
「龍絶テメェ、俺に喧嘩売ってんのか!?」
喧嘩とちゃうわ!!
もー……どないしたら推しとスムーズに会話できるん?
「お前ら、静かにしとけよ!! そろそろ鬼塚教官が入室されるぞ!!」
「拳銃訓練かぁ!! 緊張するわぁ……」
緊張は緊張でも、別の意味で緊張してしまう。
そもそもうちは組織の人間、メスカルや。
しかもスナイパーライフルやら銃器の扱いには慣れとるから、うっかりして全弾ど真ん中に命中なんてさせたらえらいこっちゃ。
それに日本の警察官が使うS&W社製のM360J……通称SAKURAは回転式拳銃、リボルバーだ。
うちが使うとった自動式拳銃より安定性があると言われとる、殺傷能力をあえて落とした『犯人を生きて捕らえる』為の代物。
「何ちんたらしてんだよ龍絶!! 実力を見せてみろ!!」
……松田さんに発破をかけられちゃしゃあないな!
「本気見せたる」
グリップを握って引き金に手をかけた。
……5発発砲を4セット、計20発はほぼど真ん中をぶち抜いた。
流石に初めて触る拳銃で正確に打ち抜く事は、現場で経験を積んだうちでも出きない。
「なかなかいいセンスをしているな降谷、龍絶」
鬼塚教官に褒められてガッツポーズをしてしまう。
「ちぇっ、可愛くねぇ女……」
松田さんに悪口を言われてカッとなり迫った。
「なら松田さんの成績はどないやねん!」
的を見ると、真ん中とは言いがたい場所に当たっている。
「これはだな、誰かがチャカを落っことしてシリンダーストップが破損してやがんだよ」
そうやった。
「リボルバーは落下の衝撃に弱いもんなぁ!! 落としたらあかんわ!!」
それで拳銃をバラし始めたんだったよな?
「言い訳はいい!! 沖矢に龍絶、あまり天狗になるなよ? 上には上がいる事を覚えておけ!! 貴様らの先輩は試射で『全弾ど真ん中、満点を取った者』が天才がいるからな」
……知ってる!!
「その人は刑事課でバリバリ仕事しているんですか?」
毛利小五郎やろ!!
「その人は米花町で探偵事務所をやっていると聞いている」
「眠り……」
また口をつきそうで慌てて手で口元を覆うと、鬼塚教官の怒鳴り声が訓練場に響いた。
「松田!! 何をやってる!!」
「やっぱりシリンダーストップ逝っちゃってたわ」
松田さんは拳銃をいつの間にかバラしてしまってるやん。
「ほんまや!! バレルとシリンダーの軸線もおかしいし、グリップに小さい亀裂入ってんな!!」
手元を覗き込むとムスッとしたジト目と目が合った。
「なんだよ龍絶、お前もこういうの分かる奴だったのか。早く言えよ」
そんなん言われても『拳銃の仕組みに詳しいねん!』って突然言われへんやんか!
「陣平ちゃんは分解魔。その分メカには詳しいんだけどな」
知っとる!!
だから爆弾とか専門知識にも詳しくて実技の訓練の成績がトップクラスやったんよな?
後々機動隊に萩原さんと二人でスカウトされるし!
「拳銃訓練は中止だ!! 全員装備返却!! 松田と龍絶はそこに立ってろ!!!!」
な、なんでうちまで巻き込まれてんの!?
「ハハッ!! 陣平ちゃんと龍絶さん、仲が良さそうで何よりだ!!」