「きゃー!! 爆処の王子様が来た!!」
休みの申請の確認に爆弾処理班の班室を訪ねると女子達からの歓声が上がり、振り返ってみても誰も居ない。
松田さんと萩原さんは部隊訓練で出払っているようだった。
「……どないしたん? 爆処の王子様って何? ……誰?」
首を傾げると、同期の男子が真顔で答えた。
「お前だよ、お前。龍絶のことを『爆処の王子様』っつってんの」
……うちが?
「な、なんでそんなけったいな名前……うち、何かしたっけ?」
え……テニヌの王子様が好きみたいな話をしたとか……?
「したじゃん!! 萩原君を命懸けで助けたくせに〜!!」
……なんや、そんなことか……。
「特別なことなんかしとらんやん。病室から抜け出して爆弾処理をして、結果として萩原さん達を救っただけや。爆処として当然……やないな……始末書もんの身勝手な暴挙や……」
訓練監督、めっちゃ怒るやろな……。
「カッコいい!! 『当然のことをしたまでさ……』完璧に王子様のセリフ!!」
……あれ、もしかして煽られとる?
「そんなことあらへんよ、誤解や。ただやれることをしただけや」
肩を落とすと黄色い歓声が上がった。
「きゃー!! 龍絶様〜!! 萩原君なんかほっといて私を嫁にして!!」
あ、馬鹿にされとるな。
「もう!! 分かったから!! 萩原さんは誤解しとるし、みんなも誤解しとる!! ……なあ、訓練監督知らん? 始末書書かんといけんねん」
すると、一気に場が凍りついた。
「あー……まあ、どうせ開示されるからな……。訓練監督官は亡くなったよ……」
……は、はは、悪い冗談やな。
「……訓練監督が……亡くなった……? 冗談にしても言っていいことと悪いことがあるからな……」
嘘に決まっとる。
訓練監督は爆発事件のとき、松田さんの携帯電話から犯人確保の話をしとったし、爆発はせんかったんやから……。
「……爆発事件があった日、撤収しようとした時にビルの上から経年劣化で支えが錆びて腐った看板が訓練監督官の頭に直撃したんだ。……即死だったらしい」
……そんなこと……原作には……。
メインキャラクター以外の死は……原作には描かれていない……。
『二人を救いたいなら、二人を殺さないと。ちゃんと数を合わせないといけないんだ』
嘘や……うちが萩原さんを救ったから……爆処で身近にいた訓練監督が死んだん……?
「う……うちのせいや……うちが、うちが……」
膝から崩れ落ちて天を仰いだ。
うちが……訓練監督を殺してしまったんや……。
「龍絶さんのせいじゃないよ!! ……気に病むから龍絶さんには秘密にしとけって言われてたのに……。龍絶さんが病室を抜け出さなかったら爆発事故で大勢が亡くなったかもしれないんだから……」
「やっぱり……一人を救うには一人を差し出さんといかんの?」
休暇申請はバイジウ……ヤンからされて受理をされていた。
どういう仕組みなのかを問いただす気力は湧かず、警視庁のビルを後にした。
もし本当に命の数合わせが必要なら……松田さん、伊達班長、諸伏さんを救うために、今……未来を変えて早いうちに数合わせをせんといけない……。
松田さんが死ぬ要因になる爆弾犯Aは潜伏やのうて、既に逮捕されている。
けど、プラーミャが手引きして脱獄させるかもしれん……。
松田さんを救うにはプラーミャを殺せばええ。
4年待つことなんてない。
今、今、やれば未来は大幅に変わり『ハロウィンの花嫁』自体が起こらない。
そうすれば伊達班長や諸伏さんの行動も変わって死因に繋がるものが無くなるかもしれん。
休みを取った今なら……バイジウから盗み見たプラーミャの情報から彼女を追える、
うちは組織の三本指に入るスナイパーや……映画で見た動きからして体術では圧倒的に劣る。
けど、爆発物や危険物の取り扱いや飛び道具の扱いはうちの方が知識がある。
プラーミャは拳銃、散弾銃、ワイヤーとアクロバティックな身のこなしの総合戦闘力では作中最強格。
それでも得意なホームグラウンドに誘い込んで狙撃したら勝機は生まれるはずや。
皮肉なことにバイジウと暮らす家には訓練用に莫大な量の火薬や製造用の物品が揃っとる。
彼女は世界各国を回るなら、フットワークの軽さを利用して日本に誘き寄せればいい。
プラーミャ自身が自分をつけ狙うナーダ・ウニチトージティを一網打尽にしようとしたように。
……この休暇中に未来の懸念事項の芽を摘み取って、5人が平和に生き残る世界に作り変える。
うちがやらんと……うちにしかできない……原作知識を知っているうちが行動しないと5人は救えんのや……。
「ちょっといいかい?」
肩を叩かれて振り向いた。
……また、気配に気づけんかった。
「……はい。……珍しいなあ、降谷さんに声掛けられるなんて……」
「久しぶり。……って、居酒屋で会ったよな」
降谷さんの車の助手席に乗せられて、ドライブという名の尋問……聞き取りが始まった。
「……せやね。……うち、すぐに帰っちゃったけど。……白けさせたならごめんなさい」
ペコリと頭を下げても、降谷さんの放つプレッシャーは変わらない。
「……体調の方はどうだい? ……また倒れたんだろ」
……業務連絡みたいな確認やな。
「はい。うち……頭を打ってばっかりやから……」
他になんて言ったらいいか分からん。
「そう……。それは良かった。ところで、聞いた話によると萩原まで落としたそうじゃないか。……案外やるね。同期の3人を落としてみせるなんて、人心掌握術に長けているみたいだ」
……うちが八方美人で、誰にでも愛想振り撒いて気を持たせてるって言いたいんやな。
「萩原さんに関しては明確にちゃうよ。ただ病室を抜け出して爆弾処理に向かったら『自分のために身を賭す覚悟をした女』って勘違いしてるだけなんや」
二人を爆死から救うために今まで積み上げてきたんやから。
「……それを聞きたかった」
降谷さんの声が一段と低くなった。
「それ? ……爆弾処理班として居ても立ってもいられなくなって……」
……だから萩原さんに連絡して、場所を聞き出した。
「……どうして萩原だったんだ?」
……それは、本命の爆弾が萩原さんのものだったから。
「萩原さんの方が……」
……あかん、これは誘導尋問や。
「好き、という話をしているわけではないことくらい、君はわかっているはずだ。……どうして2カ所設置れていた爆弾のうち、松田が対応した高層マンションではなく、萩原の方しか眼中に無かったんだ?」
……答えられへん。
「……松田さんの方が爆弾解体技術が上やから、萩原さんの方が危なっかしいと思っただけ……」
これ以上、深入りされたら……。
「点滴を勝手に抜くほどまで焦り、電話をかけたのは訓練監督でも松田でもなく、萩原だった。それに、どうして朝7時にもならない時間帯に『爆弾犯による予告があった』と知る前から焦って電話する必要があったんだ? ……まるで、その日に爆発事件がある事を知っていたみたいに」
……どうして、どうして。
やっぱり組織やと疑っとるんや……。
「そんなん降谷さんには関係あらへんやろ!! 入院しとったのは先輩らが巻き込まれた爆発事件があったからやで!? せやから起爆発事件がまた起きるんちゃうかって焦って電話しただけや!! 萩原さんはハ行、松田さんはマ行!! 連絡帳の並び順が上にあっただけ!!」
捲し立てるように叫ぶと、降谷さんは静かに呟いた。
「そう……。僕は龍絶さんを6人の同期、仲間として見ていたんだけど……。龍絶さんにとっては、僕は関係ない人間だったってことかな」