爆処 其の十一
「うちのことなんて何にも知らんくせに!! 知ったような口を聞かんでよ!!」
助手席で絶叫すると、車が減速して路肩に停まった。
「……君のことを知らないから、知りたいんじゃないか……。君の心の丈を打ち明けてくれないか……? 僕を信じて……」
シートベルトを外した降谷さんの身体が近づいてくる。
降谷さんは……公安職員で、のちのバーボンになる人間。
人心掌握術に長けているのは降谷さんの方や。
顎に手が置かれて、顔を右に向けさせられた。
怖い……降谷さんの眼を見てしまったら……。
全部見透かされてしまう。
「う、うっさいねん!! 自分だけが優位に立ってると思うなや!!」
慌ててシートベルトを外して扉を開けようとするとチャイルドロックを掛けられた。
「なぜ、そんなに焦っているんだ……?」
冷や汗が止まらない、動悸がして息切れを隠しきれない。
嘘をついていることが見え見えになってしまう。
一刻も早くこの場から離れないと……。
「……ぎ、ぎゃあああ!! 変なことされる!!」
大声で叫ぶと一瞬だけ隙が生まれ、それに乗じてチャイルドロックを解除すると叫びながら路上に出て、歩行者たちの注目を降谷さんの車に集めながら人混みに身を隠した。
「……何故、僕達を頼らないんだ。……同期組だろ……」
、、、
「はぁ……はぁ……うちはうちしかできんことをするんや……」
流石にあそこまで人がざわついたら追ってきたりせえへんはずや……。
それに、うちの義兄であるバイジウ……ヤン・ブルドンはATF……アメリカの機関に勤めとるから、尾行やマークなんてしたら『日本の警察がアメリカの機関を独断で捜査している』っちゅう越権行為になって、警察組織間の国際的な軋轢に繋がる。
新人である降谷さんが警察の方針を無視して家に盗聴器を仕掛けたり、監視をするとは考えにくい。
なにより、バイジウ自身が諜報に気づかんはずがない。
家に帰るとバイジウは居らず、リビングの共用パソコンがスリープモードになっていた。
「……もしかして、プラーミャの情報があったりせんか?」
画面を立ち上げるとゴミ箱やフォルダには何もない。
バイジウも迂闊に痕跡を残したりせんか……。
隠しファイルの拡張子を探したり、cmdで履歴を見ても怪しいものはない。
……まって、検索エンジンを見てへん。
ブラウザを立ち上げてブックマークを見てもそれらしきものはない。
……もしかして入力……入力候補に。
検索エンジンで『プラーミャ』と入力すると、入力候補に『プラーミャ花火倉庫資材調達ツクバ山腹』というキーワードが表示された。
「……運命の女神様はうちに味方してくれとる。……プラーミャは花火用として火薬を調達しとるんや……」
「火薬や危険物の調達には必ず記録が残る……。それにツクバ付近でやる大規模な花火大会は11月中に行われる……。つまり、日本での火薬調達は11月前後、今……日本に居るかも知れん」
バイジウのスマホに書かれていたのはプラーミャのが使用した爆弾から解析した爆発物に関する備品の調達先リストの断片と、クリスティーヌ・リシャールを含めた偽名の数々。
そして爆発事件が起こった日付と日時、予告の有無。
ナーダ・ウニチトージティの複数ある拠点とプラーミャが潜伏に使った可能性がある建屋の目星。
これを照らし合わせれば……プラーミャを誘き寄せれられる。
プラーミャは『ハロウィンの花嫁』からして自己顕示欲が異常に強く、プラーミャという異名に誇りを持っているくせに自分の正体を暴かれることは極端に嫌がる。
……つまり、神聖視されていると認識している自分の名誉に傷が付き、名前に泥を塗られたとすれば激怒して向こうから報復に現れる。
「出て来いプラーミャ……うちと爆発物のスペシャリストとしてサシで勝負や……」
花火大会の実行委員会に対してプロキシサーバーを経由して『天より地上で華火より奇麗な火を魅してやるよ ブラーミャ』という誤字まみれの脅迫文を送りつけた。
必ずプラーミャは使ったプロキシサーバーから送り主がツクバ付近だとして潜伏先である倉庫を巡り、異変がないか確認しに来る。
そして、送り主を探し出して報復に走る。
その前には確実に『自身を名乗ったのだから、自身の倉庫にも手がついた可能性』を考えるはずだ。
……爆発物を扱う人間だ、管理に不手際がなかったかどうかを確実にしようとする。
もし送り主がバイジウのPCだと分かったとして、バイジウと対消滅してくれたら脅威がいっぺんに消えてなくなる。
プラーミャとバイジウが消えてくれたら……5人は救えるのに……。
メール送信欄から脅迫メールを削除すると、携帯電話のメール着信音が鳴った。
『今から東都タワーに来い!! 来なかったらぶっ飛ばすからな!!』
「……なんの用なん? ……うち、休暇中なんやけど……」
タクシーを使って東都タワーに出向くと、松田さんがすっかり夜なのにサングラスを掛けて立っていた。
「ああ? 俺からの呼び出しはワンコール以内、メールならぜってえ直ぐに返事しろよ!!」
相変わらず無茶苦茶やな……。
「ちゃんと呼び付けれたから来たやんか……」
降谷さんの差し金……?
それとも伊達班長から様子を見るように言い付けられたんか……?
「……まあ、それは許してやるよ」
松田さんは背中側に何かを隠し持っている。
……拳銃ならヒップホルダー、手錠もショルダー、まさか公衆の面前でスタンガン使って気絶させるつもりなんか?
「松田さん、ずっと気になっとたんやけど……なんでサングラスかけ始めたん? うちが昏睡状態になる前は掛けとらんかったよな……」
……夏場はもう過ぎた。
誰かからのプレゼントなんかな。
……交通警備隊の……萩原 千速さんからとか?
「ば、バカ!! お前が同僚達に俺を『柴犬みたい』だって言うから……じゃねーよ!! 視線で感情を悟らせないためだ!!」
そっか……松田さんは捜査一課の強行犯一係にいずれ行く運命やったもんな。
萩原さんが生き残って爆弾犯Aが捕まっても、松田さんが異動する未来はあるのかもしれん。
「だって、松田さん……やんちゃなんやもん」
口元が緩んでしまう。
うちは……松田さんを守る為に、今からプラーミャを迎え討ちにいくんやから……もう二度と会えないかも知れんのに。
未練は断ち切らんといけんのに。
涙が伝うと、唇に柔らかいものが触れた。
「……子供扱いすんなっつたろ」
サングラス越しに、優しい眼差しと目が合った。
「う、うち……」
腰に手が回されて、再び唇が塞がれた。
「……俺の女になれ、藍」
そして後ろ手に回された手が、真っ赤な薔薇の花束を二人の間に差し込んだ。
「うち……」
なんで……なんで今なんや……。
「俺がお前を一生守り抜くと誓う。……俺と結婚してくれ」
嬉し泣きなのか苦しくて泣いているのか、自分でも分からない。
虚しくて空っぽな心から涙が溢れて止まらない。
子供みたいに泣きじゃくりながら、鼻水を啜った。
「うち……やっぱり松田さんが好きやぁ……。大好きで……大好きやから……。……さようなら。松田さん」