「おい待て龍絶!! 待てっつってんだろうが!! 行くな!! 俺の隣にいろ!!」
……アホやなぁ、松田さん。
東都タワーで公開プロポーズなんてするから、見物人が集まって雑踏に紛れる事が簡単に出来てしまった。
「大好きやった……。松田さん……みんな……」
東都タワーから離れて、タクシーを待たせていた場所に向かって駆けた。
「おっと、こんな夜道を一人で歩くと危ないぜ? お嬢さん」
……伊達班長。
やっぱり降谷さんと連絡を取り合ってたか。
爆処の松田さんと萩原さんにまで連絡すると、うちが勘付くと思って連絡せえへんかったか……。
「……なんやねん、班長は警察学校で終いやろ? ……うちに関わる必要なんてあるか? ……あんなら理由を言うてみい」
伊達班長……本当に警察官の鑑みたいな男やな。
「理由? 同期6人組だからだ。……他に理由が必要なら居酒屋でゆっくりと聞かせてやるよ」
あかん……泣いたらあかんのに、涙が溢れて止まらない。
コンクリートの歩道に涙の雫がいくつも弾けた。
「……あほちゃうか……はぁ……ふぅ」
腕で涙を拭って深呼吸をした。
底抜けに真っ当な人間な。
うちみたいな組織の構成員という罪深いクズに関わらせてはいけんかったんや。
「龍絶、お前の抱えてるもの、全部俺達にぶつけろ!!」
言えるわけないやんか……。
「……伊達班長、道場では負けたけど、次はそうはいかんよ」
姿勢を低くして、ポケットに手を突っ込みながら真正面に向って突進した。
伊達班長が使うとしたら警棒か手錠、手を警戒してホルスターに手を掛ける。
予測通り伊達班長は掴みかかる姿勢をブラフにして足払いを仕掛けてきたのを後転しながら交わし、街路樹に飛び乗って街路樹間を移動した。
警察学校では樹の上の移動は教えんから、アドバンテージはうちにある。
「龍絶!! 俺達はそこまで信用ならないか!?」
信用しとるから、うちがみんなを守るんよ。
「伊達班長!! 恋人とお幸せにな!!」
叫び声を上げると、後ろから伊達班長の声がした。
「龍絶!! お前も幸せになるんだ!!」
振り向いたら決心が鈍るから、ひたすら前を向きイチョウの樹を渡ってタクシーを目指す。
「あった……あとは」
パンッという銃声が鳴り、振り向くと向かい側の建物の屋上に諸伏さんが立ち、威嚇射撃を天に向かって撃っていた。
「……なんなん? 次から次へ……。発砲したから書類を書かないけんくなったやない? 諸伏さん……」
……どうして背後を取られるようになったのか、今分かったわ。
うちが弱くなったんやない……。
スナイパーの身分を忘れ、警察学校時代に『仲間に守ってもらえる』という安心感を植え付けられてしまったせいや。
組織の暗殺者に最も悪影響を及ぼす気の緩み生み出し、殺気の察知を鈍らせた。
「書類ならいくらでも書くさ……。龍絶さん、行かせないよ。オレは愛する君を助けたいんだ」
「……うちは休暇を取るだけや。……うち、なにかした? なんで指名手配犯みたいに追われとるん?」
組織やとバレたんやったら、新人である5人が動くはずはない。
「……君の爆発物処理の手際の良さと、病体でありながら現場に臨場した……つまり、犯人達と繋がっていたんじゃないかって……」
そんなわけないやろ……うちは……。
爆弾事件が起こることを知っていて、その為に5年以上必死に訓練を積んで……この日の為に……殉職を回避するためだけに人生をかけて……。
「犯人達からうちの情報でも出たん?」
諸伏さんの表情からして、憶測の域を出んのやろう。
「出てるわけ無いよ……オレだって龍絶さんを信じてる。……でも、疑念の火種が燻っているから、きちんと上に潔白を証明して欲しいんだ」
そんなん悪魔の証明やんか。
うちが犯人達と繋がってないと主張しても『解体技術が異様に優れているから』『その場に向かった事実』を疑われとるなら、弁明の余地なんてない。
過剰に有り余るスキルの証明をしてくれる訓練監督も亡くなってしまった。
……もし、聞き取り程度やなくて尋問に近い事情聴取で自白剤なんか使われたら組織やとバレてしまい、最悪は原作知識がある事が分かって現場は大混乱になる。
「『結婚してくれ』なんていうから、てっきりうちのことを好きで信じてくれとると思っとったわ。逃がしてくれへんのやね。やっぱり諸伏さんとは気が合わへんなぁ……諸伏さんには優しくて気立てのいいお嬢さんの方がお似合や。……お幸せにな。」
ポケットに手を突っ込むと諸伏さんは警戒して銃をこちらに向けた。
その瞬間、樹の上で飛び跳ね樹木を揺らし、イチョウの木がガサガサと揺れて視界にノイズを作った隙に垂直に木から静かに降りて銃声に驚き顔を上げて野次馬になっている人々に紛れた。
「諸伏さんは優しすぎんねん。……直ぐに撃ってればうちを仕留められたんに……。諸伏さんらしいわ」
「あった、タクシー……」
後部座席の扉が開いて乗り込み、シートベルトを着用しようとした瞬間、慌てて閉まりかけた扉を腕で押した。
「こんなに月が綺麗な夜に、一人で出掛けるなんて勿体ないんじゃないか? ……僕と夜明けまでデートをしよう」
降谷さん……。
なんでタクシーに指示した場所が分かったんや……。
盗聴器の類はバイジウの家にあった探知機から付けられて無いのは分かっとるし、家電に仕掛ける違法捜査はしないはず。
携帯電話はスマホとちゃうからアプリを仕込めない。
となると……昼間、車から逃げ出たあと……ずっと尾行しとったってこと?
少なくともあの場から直ぐには追いかけて来れんかった筈で……つまりは、あの場に他の4人も待機しとって……うちを確保しようとしていたんや。
……うちは、最初から信用なんてされてなかった。
「嫌や……うち、降谷さんのこと苦手なんやもん。……全てを見通すような態度、嗜めるような口振り……全部が好かんのや」
そう吐き捨てると降谷さんは一瞬固まった後、運転席から振り向いて手錠を掛けようと腕を伸ばしてきた。
「……僕は同期組として君が好きだよ。女性の中で一番に気の置けない気心知れた友人だと思ってる」
……女やと思って油断したな。
降谷さんの腕ごと上半身を運転席から力いっぱい引きずり出して手錠を奪い去り、後ろ手に拘束すると背中から後部座席のドアから蹴り出して、代わりに運転席に座ってアクセルを踏んだ。
「あとは任せたで……降谷さん。みんなと幸せにな」
降谷さんが怪我をしてないことをバックミラーで確認し、路肩から幹線道路に走り出ると車体に衝撃が走った。
……ぶつけられてる!?
あおり運転やなく……やっぱりか……。
「なんなんや萩原!! 交通ルールは守れや!! 千速さんが泣くぞ!!」
言うて、千速さんも危うい方やけど。
「命を助けてくれた王子様をみすみす見送るお姫様じゃいられないんでね!! 何があっても俺達5人は藍の味方だ!! いいから止まれ!!」
止まれと言われて止まる奴はおらん。
……車体をぶつけてきたお返しや。
運転席から身を乗り出して萩原さんの乗る車の前輪2つを拳銃で撃ち抜いた。
すると運転が不安定になり、やむなく車を安全に停止することを選んでくれたようだ。
いくら追いかけるっちゅうても、萩原さんは通行運転中である周囲の国民を危険に晒す人やないからな。
「うちも5人の味方や!! せやからお別れする……離れるしかないんや!! 萩原さん……幸せになってください。さようなら」