黒衣の絡繰師   作:ummt

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爆処 其の十三

 

「はぁ……どうにかまいたな……」

 

 車体がひしゃげたタクシーを乗り捨てて、高架橋の下にあらかじめ用意していた暗殺稼業に必須の道具一式を取り出して黒いスナイパー用の静音ジャケットを身に着けて、首元に赤いビーズが斜め十字の真ん中にあしらわれたチョーカーを付けた。

 このチョーカーの意味は『必ずターゲットの中心部に赤い飛沫を浮かべる』っちゅう願掛け。

 テキーラと二人で駄弁りながらの仕事の時にはしまい、一人任務で確実に標的を仕留める重要なミッションの場合には必ずつけるもの。

 愛用しているライフル銃一式と拳銃、危険工作物は全て手入れを怠らず、故障や破損等の不備や銃弾や火薬の過不足も無い。

「こっからツクバ中腹まで走るのキッツ……ま、バイジウの鬼コーチに比べれば大したことないわな」

 もう東京都心ではなく千葉と埼玉、茨城の境にまで来ている。

 タクシーの走行履歴からでは三県のどちらに向かったか分からないはず。

 

「よっしゃ!! 利根川渡るで!!」

 

 、、、

 

「……はぁ、流石に退院から時間があんまり経っとらんて……体力が落ちとるな……」

 

 プラーミャが日本での爆発事件を起こした際に潜伏先に使った可能性のある建屋のうち、取り壊しや放置による家屋劣化等がなく定期的に管理者……つまり火薬保管の協力者が管理保全をしているものはツクバ付近に3件、ツクバ中腹に1件あった。

 そして最近、火薬の運搬があったのはツクバ中腹にある花火師が管理する花火大会用の倉庫。

 その近くにある潜伏先の可能性がある建屋にも大量の火薬が秘密裏に運搬された可能性がある。

 ツクバの山を登って、ポツンと建つ業用資材置き場になっている建屋を外からサーモグラフィーと臭気判定装置で確認すると、やっぱり大量の火薬が許可なく保管されていた。

「ビンゴ……ラッキーやな……」

 人体のような熱源は確認出来なかったため、鍵をピッキングして開けて中を見た。

 まず普段使いする倉庫で扉の開閉で起爆するようなものは無い。

 物を動かす、引っ掛ける、体重が乗る……これらをトリガーにして対侵入者用として倉庫に仕掛けるには建屋を専用のものに作り替えないとまず出来ない。

 ただし、赤外線センサーで侵入者に対してトラップや警告を出すものがあるかもしれんが、多機能ゴーグルからして赤外線センサーは無い。

 扉を開けて侵入者を察知するアラートがプラーミャに通知されたんやったら好都合や。

 

「へぇ……けっこう整頓されとるんやな。火薬の種類から信管に使う機器に発火に至るまで……几帳面で完璧主義ってところか」

 


 

「……これ、『ハロウィンの花嫁』で使う液体型の混合爆弾の試作品か……」

 

 粉末や固形の火薬とは別に鉄製のキャビネットでは理科室のホルマリン漬けのように複数の液体がガラス瓶に保管されている。

 ガラス戸を開けてラベルを見ると、ご丁寧に成分分析表が記載されていた。

「ああ……PLXをベースに硝酸ストロンチウムでピンク色、液体酸素で水色を作り出しとったんか……。TATPを参考にしとるからみたいやね。過酸化水素とアセトンみたいな水溶性無機化学物質、油分を含まん構成ならチューインガムやサッカーボールは溶けへんし、『ハロウィンの花嫁』では中和っちゅう言い方してたから水酸化ナトリウムと硫酸でもそうやな……実際は溶けてへんから酸性アルカリ性の話ではないんやろうが。含水爆薬やとしたらこんな感じか……」

 つらつらと持論を述べていると焦点レーザーの光が視界に触れた。

「ようやく来なすったか!? プラーミャ!!」

 側転をするとさっきまで頭があったところに窓ガラスをぶち破って鉛玉が撃ち込まれた。

 窓辺に立って正解やったわ、姿勢を低くして用意していたマシンガンで壁ごと外側に向けて連続発砲した。

 普通の人間なら、足元に撃ち込まれたら立っていられなくなるもんやけど……。

「お前か!? 私の名を騙り名誉を傷つけるゴミバエは!!」

 開けっ放しにした扉からワイヤーの楔が打ち込まれ、伸縮する勢いに乗ってペストマスクにフードを被ったプラーミャが無傷で拳銃を構えていた。

 やっぱり、尋常じゃない強さやな……なんで無傷やねん。

「美女のクリスティーヌ・リシャールさんは正々堂々名乗ったらええんやない!?」

 名前を呼ぶと一瞬動きが止まり、その隙に拳銃で頭と心臓、腹に向けて3発発砲したが、曲芸師のような動きで躱わされた上で1発発砲を受け、右耳の輪郭に三日月が出来た。

 頭と心臓にはド真ん中や命中したはずやが、カキンという音がしたからマスクは鉄製で防弾チョッキのようなものを身に着けているのかもしれん。

 それであの動きは反則やろ、本当に作中最強格である映画ボスキャラクターやな……。

 それもそうか、今は作中の7年前でプラーミャは二十代……肉体と総合力的にどう見たって全盛期や。

 

「……何故私の名前を知っている。……生かしてはおけない。名を名乗れ!!」

 


 

「うちはメスカル!! スナイパーや!!」

 

 そう叫んで手榴弾を上に投げるとプラーミャは回避の動きをして背を向けた。

 ……背中ならいける。

 ショットガンに持ち替えて2発発砲するとくぐもった声が聞こえてくる。

「……爆発しない、おのれ……図ったな」

 プラーミャが拳銃を向けた瞬間に宙に高く投げ、落ちてきた手榴弾をキャッチして本当に安全環を外し放り投げるとプラーミャはワイヤーを外の木に放って退避した。

「……逃がしはせんよ」

 床に置いていた下敷きサイズの鉄板を手榴弾めがけて放り投げ、拳銃で板を撃ち、その衝撃で飛んだ板により手榴弾はプラーミャに直進した。

 そして銃弾に撃ち抜かれた衝撃と板にぶつかった衝撃によって手榴弾はプラーミャの目前で爆発し、ペストマスクを粉砕した。

「ふざけるな小娘!! 貴様如きに」

 マスクが割れて血まみれになっても立ち上がろうとするプラーミャに向かって愛銃を構えた。

「スナイパーやと言ったはずや」

 スナイプ用のライフル銃でプラーミャの頭と心臓、腹を撃った。

 鉄板があるとはいえ、2発目を喰らってただで済む人間は居ない。

「……殺してやる。メスカル……」

 ……どんだけしぶといんや。

 念の為プラーミャの右腕と左腕を打ち抜いた。

 プラーミャは拳銃、手榴弾、サブマシンガンやら何でもありやからな。

「プラーミャはこれからも沢山爆弾を使って人殺しをしていくねん……せやから……」

 未来で人を大量殺人をするから、過去である今……その殺人犯を殺していいっちゅう理由になるんやろうか……。

 将来に悪行を働くからと、何も罪を犯していない人間を自分勝手な裁量で断じ裁いてもええんやろうか……。

 せやけど、プラーミャは実際に今も犯罪を犯していて、プラーミャを討伐する為ナーダ・ウニチトージティが既に結成している。

 だから……5人の未来を変えるために……うちは……。

「……貴様も人殺しだろうが!! メスカル!!」

 視線を外した瞬間に、プラーミャの握った拳銃から鉛玉が放たれ、躱そうとするも右肩を撃たれてしまった。

「知っとるわ!! うちは地獄に堕ちるんや!!」

 手榴弾をプラーミャに向けて投げ、拳銃で撃ち抜いた。

 

「……そうか……先に地獄で待っているぞ……」

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