「はぁ……右肩かぁ……プラーミャが諸伏さんに撃たれた場所……」
手榴弾の爆風を2回近距離で受け、右肩からは出血している。
蒼く光る夜空はいつの間にか黒雲に包まれて、仰向けに倒れるうちの身体にぽつりぽつりと雨粒が落ちた。
『運命に逆らえってな!』
あれ、これは何のセリフやったかな……。
名探偵コナン内のものではない気がするけど……。
……逆らうっちゅうことは、これは正史ではないし……萩原さんが生きてる時点で、うちが知っとるコナンの世界では完全に無くなった。
「……ボロ雑巾みたいになったうちを、誰が愛してくれるんやろか……」
涙と雨粒、そして血が混ざり合って水溜りを色を付けた。
雨に打たれて天を見上げていると、ポケットから耳障りな『モリタート』の着信音が流れてくる。
左手で携帯電話を開いて通話ボタンを押した。
「……なんやねん。……うち、今は感傷に浸ってるんや……」
受話口からは低く蔑むような声がする。
『よぉメスカル……警察の生活はどうだ?』
……個人の携帯電話に連絡を寄越すっちゅうことは、もう……うちは組織として用済みになったって事なんかな……。
「……飽きたわ……ぬるま湯に浸かっとるみたいで……居心地悪いねん……」
……本当に幸せな毎日だった。
大好きな人達に囲まれて、厳しくも励ましてくれる同僚に恵まれて……。
思い残すことなんて……。
『愛してる』『好きだよ』
……うち、みんなと一緒に居たかったなぁ。
『お前に仕事が入った。埠頭まで来い』
、、、
「……はぁ、なんやねん……うちは警察に潜入しとんのやぞ? ……そんなうちに命令ってなんやねん……スナイパーなら他にもおるやろ……」
右肩を医者に見せる暇も無く、埠頭に着くなりジンにウォッカ、テキーラが哀れなピエロを観る観客の様な眼つきで出迎えた。
「お? 兄貴に口答えするいつもの生意気なメスカルに戻っていやすぜ!!」
……うちは龍絶 藍という前世の記憶を思い出した代わりに組織の記憶を一部失って、組織のナンバー3であり自白担当者あったバイジウという危険人物を見逃した。
「威勢がいいじゃねえか。じゃあ命令を言い渡してやろう。……爆弾処理班の松田 陣平、萩原 研二を殺せ」
「……は、はあ? な、なんでその二人なん? ……いや、大体爆弾処理班を同僚のうちが殺したら怪しまれるし、そもそも組織にとって何のメリットがあんねん……」
意味が分からない。
組織にとって爆弾処理班の隊員を殺害することが何の特になる?
そもそも組織の者の手による犯行だと分かったら捜査の目が組織に及ぶ、完全な愚策としか言いようがない。
「今迄見返りを求めることのなかった組織の忠実な下僕、バイジウから初めてのワガママだ。あの方も了承してる」
……は?
「バイジウが……なんで?」
どうして……うちが未来予知みたいな事をしたキッカケの名前だから?
「そりゃあ、自分の嫁さんにチョッカイ出す男なんざ消しておきたいだろうよ」
……よ、嫁さん?
なんや、こんな時に馬鹿みたいな冗談言って……。
「は……はあ? バイジウは……義兄妹で……義兄で……」
バイジウは確かに『家族になろう』って……。
それで戸籍を偽造して……。
『義兄さんは通名なの? 苗字が……』
苗字……もし、義兄妹として籍を入れるならどっちかが親になるけど、バイジウの改竄は六親等まで出来ると言っていた。
……けど、『やった』とは言ってへん。
苗字が別々のままで家族になる方法は……国際結婚による夫婦別姓……。
「何言ってんだお前……。バイジウに世話になって嫁にしてもらったから警察組織に潜入なんて危険極まりないミッションを許されたんだろうが!! バレたらどうなっていたかわかっとんのか!? また拳骨食らわすぞ!!」
……警察学校に入校を勧め、公的な書類を用意して大学入学から警察学校入校まで手続きをしたのは……バイジウだ。
警察の懐に入り込むなんて、裏を返せば情報漏洩の火種を放ったに近い。
『日本の警察はATFに忖度をする』
表向きにATFで勤めとるバイジウから『結婚の事実は内密に』とされたら『何かしらの捜査または事情』と判断される。
「おぇぇ……げぇぇ……」
胃の中の内容物を全て吐き出した。
「じゃあバイジウの旦那によろしく伝えろよ。お姫様のメスカルよ」
、、、
「なんなんよ……これ……」
急いで家に戻り、バイジウの部屋をピッキングして開けると部屋中に貼られていたバイジウの兄さんの写真やポスターが無く、代わりにうちの写真に変わっていた。
寝顔や歯磨きをしている後ろ姿、大学生活中のキャンパス内での人との会話、警察学校のランニング中やコンビニに行く姿……こんなん……ストーカーやないか……。
「こら、人の部屋を勝手に開けないの」
「バイジウ……なんで、なんであの二人を殺すミッションをうちに課したんや……」
ゆっくりと接近してくるバイジウから距離をった。
距離を詰められれば、命を取られかねん。
「え? 元から死ぬ運命だったんだから殺してもいいでしょう? それよりえらいね。メスカルは『名探偵コナン』の最強格であるプラーミャを殺害できたんだ。つまり、メスカルが最強格に躍り出たってことだね」
……名探偵……コナン。
「な、なんの話? 意味わからん……なんやの? 名探偵コナンって……」
嘘や、嘘や嘘……『名探偵コナン』を知られてる?
「君がテキーラに『満天堂』の事件を話した後、君が『殉職した警察官がいるか』って聞いたでしょう? だから自白剤で聞き取りをしたんだ。そうしたらビックリ、この世界は『名探偵コナン』っていう漫画の世界なんだって」
……信じるわけないやろ、そんなん。
「は、はあ? そんな世迷い言を」
「君はまず、原作知識を思い出した時点で組織を警戒するべきだった。けど、君のおかげで宮野エレーナ達に研究させる前に立案していた薬品を前倒しして個人ラボで精製出来た」
そう言ってポケットから両手を出してカプセル錠の薬剤を掲げた。
「これはAPTX4869の解法が『白乾児』……バイジウの一種であるバイカルである結論から逆算して作った若返り薬の『アポトキシン5011』で、こっちが成長薬の『トリアムパン0140』これがあれば工藤 新一がコナンになったり、宮野 志保は灰原 哀にならない。これから生まれる悲劇を回避できるんだよ」
……全部、知られてる……。
「まさか、それ」
「みんなにはまだ内緒。でもメスカルが二人を殺してくれなきゃ薬剤を隠しちゃったり、これから組織に入る諸伏 景光と降谷 透をNOCだって言っちゃうかも」
……あかん。
「でもさ、すごいよね。僕だったら漫画のキャラクターに此処まで肩入れして感情移入出来ないよ? けれどキャラクターの死は別のモブを当てればいいし、原作を変えても僕たちに何の支障もないことが証明された。良かったね」
……何も、何も良くない。
「だから……なんで二人やと聞いとるんや……」
覚悟を決めろ、うちは5人を救うんや。
「え? 重要人物じゃないみたいだから。別に居なくてもいいよね」
松田さんと萩原さんの運命は変わった。
伊達班長と諸伏さんの運命は命に代えて変えてみせる。
「バイジウ、重要人物ではないのは、お前とうちの二人や」
スナイパー用のジャケットを開いて中にある二つのガラスパイプを見せた。
「……まさか、『ハロウィンの花嫁』で使う混合爆弾? ……せっかくこの世界に来れたのに、死んじゃうつもり? そんなこと出来るわけないでしょ……」
だっと駆け出してバイジウの胸の中に飛び込んだ。
「……うちは出来る。……さようなら」