── 3年後
「何よ、さっきの説得の仕方!! 助けられたから良かったけど、いつショックを受けて飛び降りるんじゃないかとヒヤヒヤしたわよ」
強行犯一係に移動して間もない松田君は無愛想でぶっきらぼう。
ルックスやスタイルは良いのに、口と態度が悪いから本当なら女性相手の聞き取りは有利なはずなんだけれど、聞き込みもまだまだってところ。
「少しは私の言うことを聞いて……。メール? ……早いわね」
松田君は使い古されてプリクラが貼ってあるようなガラケーのキーを指で叩いていた。
「ああ、人よりも指先が器用なんでね」
器用は器用でも、人間関係を上手くこなして欲しいわ。
まったく、ペアを組まされた私が育ててあげないと。
「もしかして……彼女かしら?」
助手席に座って煙草をふかす彼をバックミラー越しに確認しても、サングラスが反射して表情が伺い知れない。
「ああ、彼女に書いてるんだ。……送信しても受け取ってくれねえ……俺の恋人にな」
……え?
「受け取ってくれない……?」
それって、元カノを引き摺っているってこと?
案外可愛いところあるじゃない。
「……そいつは4年前に吹っ飛んじまったからよ」
、、、
「やれやれ……」
龍絶が亡くなった後、無縁仏になる所を警察組織が手を回し、もちろん俺達も出資して墓を立て守ることに決めた。
こうして1月6日の命日には必ず5人で集まっている。
「遅刻だぞ」
……例の爆発事件の直後、救急車両が到着するより前にトラックが複数台郊外にある家に立ち入って現場から何かを持ち去った。
町中にある防犯カメラで追跡しようにもケーブルが切断されるか破壊されており、行き先を突き止められなかった。
何者かがあの家の秘密を隠蔽しようとしたのは紛れもない事実。
「……来ないかと思ったよ、松田」
……背後に糸を引く者が必ずいるはずだ。
松田と萩原は特殊事件操作係に移動を望んだが、上の意向で強行犯一係に配属が決まった。
そして、俺も転属を願い出て、諸伏と降谷と同じ公安に配属された。
「悪い悪い、事件事件で抜け出せなくってよ」
二人と同じく例の組織に潜入し、諸伏はスコッチ、降谷はバーボン、俺は……プルケというコードネームを与えられた。
「捜一に移ったんだってな。居心地はどうだ?」
プルケとはリュウゼツランから採られる酒の一種、奇しくも龍絶と似た響きを持つ植物を由来とする名前だ。
「まあまあってとこかね。萩原も同じ部署だから、気は楽さ」
研究所の総責任者に収まっていた人間が交代したらしく、組織内は一部混乱していたために、三人が別々に潜入しても人員確保が優先されていたのも大きい。
「あのなあ、唯でさえごたついてんのに陣平ちゃんの面倒まで見きれっかっつうの!!」
龍絶の義兄であったヤン・ブルドンには経歴に傷が一つもない。
それが逆に俺達の疑念を深めた。
『龍絶は義兄に殺害されたのではないか』
『龍絶は義兄から俺達を守る為に動いていたのではないか』
「……でも、松田が来てくれて、龍絶さんも喜んでいるよ」
……俺達は必ず、組織の全貌を解き明かし、仇を討って見せる。
「……来ねえわけねえだろ。こいつの仇を取ってねえんだからよ……」
松田は龍絶の携帯電話を爆発現場からパーツを探し出し、組み立て直して今も使っている。
こいつには一生、新しい恋人はできねえだろうよ。
「俺達は同期6人組だ……。永遠にな……」
「兄貴、どうしたんですかい? その鍵……」
兄貴は封筒から鍵を取り出して鼻で笑った。
「フッ……バイジウからの贈り物だ。タイムカプセルってところか。銀行の貸金庫に残した中身の権利を3年後にあの方に渡すとな」
封筒には鍵とは別に紙とカプセル錠が複数入っている。
「いったい何なんです? その書類と錠剤は……」
錠剤を指先で摘むと、兄貴は宙に放り投げてキャッチした。
「『この世界、名探偵コナンに関する観測報告書』と若返り薬APTX5011、成長薬TLPN0140だとさ……。面白くなってきたじゃねえか……」