「はぁ……今度は10億を要求してくるとか、正気じゃねえな」
ここ最近、東京……それも東都周辺を狙った金銭目的の爆弾事件が多発していた。
うちと松田さん、萩原さんの三人は即戦力であることして、訓練監督官が不在になり人材不足に陥った爆発物処理班の期待の星扱いで実戦に投入されてから、既に一カ月ほど経過していた。
「本当に毎回毎回俺達に解体されるっていうのに……飽きないねえ」
恐らく、同じ犯人が爆発物を仕掛けてきているのは爆弾の傾向から見て取れていた。
わざと覗き窓を作り緻密に組まれている外観から見せつけて解体者にプレッシャーを与え、液晶パネルにタイマーを表示させて焦らせるパターンが共通している。
だから、必ず解体現場を野次馬としてか、望遠鏡から覗き込んでいる筈やけど……。
「せやね、うちらは淡々と解体をしていくだけやから……」
うちが出しゃばったら、また他人から反感を買ってしまう。
与えられたミッションを淡々とこなしていけばええねん。
「貴様ら!! 今回は別々の高層マンションの2カ所に爆発物を仕掛けたと予告が来た。二班に分かれろ!!」
二班って……。
「龍絶ちゃんは松田と一緒に行きな。……二人っきりのチャンスだ、吊り橋効果ってやつさ」
萩原さんに肩を組まれて耳打ちされた。
「な、なな、そんなんちゃうし……まあ、でも……」
この程度爆弾を作る犯人や。
2カ所の爆弾も大したことないらへんやろ。
多分、タイマーを別々に起動して焦らせる策やろうけど、根本的にタイマーを使う爆弾犯は『交渉のために時間を使う』に過ぎん。
テロのような爆弾なら破壊力と脅威さえあればいい。
タイマーがあるんは要求を飲ませるためであって、人を殺して楽しむタイプの犯人が用いるもんやない。
もし解除できんくても、要求を飲む姿勢を見せれば退避はできる。
人も退去しとるやろうから、爆破させる理由はない。
「で、龍絶……俺と萩原、どっちに付いてくるんだ? 早く決めろよ」
……うちは……。
「ま、松田さんと行くわ。松田さんはやんちゃやから何をしでかすか分からんし……」
少しの間だけでも、好きな人と一緒におりたいから……。
「……そうか。松田を頼んだよ、龍絶ちゃん」
萩原さんにポンッと頭を撫でられた。
「はい! 萩原さん、いってらっしゃい! 帰りにまた飲みに行こな? 約束やで!!」
『……松田、何のようだ』
嘘みたいな事が……現実に起こってしまった。
「萩原……お前何のんびりやってんだ。さっさとバラしちまえよ……」
萩原さんの対応している爆弾の方が、今までのものよりも複雑な別パターンによるもので、解除に時間がかかってしまい、やむ無く警察は犯人の要求を飲んだ。
『オイオイ、そうがなりなさんな。タイマーは止まってんだ。……そっちは終わったのか? って聞くまでもないか』
うちらの方は既存パターンのもので、ゴテゴテした外側は虚仮威しにしか過ぎなかった。
「ああ……空けてみたら案外単純な仕掛けだったからな。あの程度なら……」
『3分もあれば充分だ。だろ?』
萩原さんが早々に上に『解除に時間がかかる』とまで言った爆弾、うちの目でも確かめんと……。
今すぐに見に行かんといけん気がして心臓がバクバクと跳ねた。
「……そっちはどうなんだ」
冷や汗が止まらず、隣で萩原さんと電話越しに話す松田さんの側から一歩も動けない。
『こっちは3分とはいかないな。基本的には単純なんだがトラップが多くて、どうやらこっちが本命だったみたいだ』
……止めないと、電源を止めないと。
「ところでお前、ちゃんと防護服は来てるんだろうな」
あ……。
『あんな暑苦しいもん着てられっか!!』
「馬鹿野郎死にてえのか!?」
防護服を着ていない?
着脱には人の手と時間がかかるから、今から着用するにしたって間に合わない。
「松田さん電話代わって!? お願い!! 電話代わって!? 萩原さんに逃げてって言って!!」
松田さんに縋り付くように腕を掴むと、勢いよく振りほどかれて尻もちをついてしまった。
『そんときは仇を取ってくれ。……冗談だ、冗談。俺がそんなヘマするけないだろ』
擦りむいた手のひらで必死に電話を奪い取ろうと松田さんにしがみついた。
「早く逃げてって言って!! 松田さん!!」
うちの言葉などに聞く耳をもたないように、二人は会話を続けた。
「とにかく、さっさと終わらせて降りてこいよ。いつもの所で龍絶と待ってるからな」
嫌や、早く、早くしないと……萩原さんが……。
『そういうお誘いとあらばアクセル全快で……なっ!? タイマーが復活したぞ!! みんな、逃げ』
ドガンッという鈍い破裂音が上から落雷のように鳴り響き、萩原さんが落命したのだと悟るには充分だった。
「萩原!!」
「嫌やぁ……萩原さん……なんでぇ……」
警察葬になった萩原さんの葬儀には、沢山の友人達が駆けつけていた。
うちは警察学校という短い時間しか共に過ごせていなかったのだと、改めて思い知らされた。
「……君が龍絶 藍か? 研二から話は聞いている」
納骨が終わった直後、明るい髪色をした美人さんに肩を叩かれた。
「……誰やの? ……萩原さんの彼女さん?」
美人さんは困った顔をして微笑んだ。
「私は萩原 研二の姉の千速だ。交通警備隊に所属している」
そう言って右手を差し出した。
「……うちは龍絶……龍絶 藍。爆発物処理班の……同僚です」
ゆっくりと右手を伸ばすと、強い力で握りしめられた。
「優秀な同期6人組の紅一点というやつか。君が……」
千速さんの言葉はそこで途切れた。
「お姉さんがいらっしゃったんですね……うち……存じ上げなくて……」
お姉さんが警察に居たこと、どうして黙っていたんやろうか……。
……ただの同僚にプライベートな話は出来なかった、うちはただの職場の人間でしかなかったんやな。
「……陣平のことを頼んだぞ。……復讐に燃えて我を忘れてしまう前に、君がブレーキになり止めてやってくれ」
目線を松田さんの方に向けると、激しい怒りと憎しみに焼かれて今にも爆発しそうになっている。
そのただならぬ殺気に恐る恐る近づいて、声を掛けた。
「松田さん、萩原さんの志を継いで……うちら二人で爆処を」
「……気安く話しかけんな。お前とはただの爆処の同僚。……俺は特殊犯罪捜査係に転属を申し出る。……お前とはこれでさよならだ」
静かに冷たい言葉が放たれて、膝から崩れ落ちた。
「……陣平、そう辛く当たってやるな。彼女だって必死なんだ。……これをくれてやる。サングラスだ。お前の凍てつく目線でこれ以上人を傷つけるな」
千速さんが松田さんにサングラスを渡すと、フッと笑って千速さんに笑い掛けた。
「……んだよ、千速。やっぱり俺に気があるんじゃねえのか? どうせなら付き合ってくれや」
松田さんはいつもの顔に戻って、八重歯を見せて笑いながら千速さんと二人で火葬場の冷ややかで暗く静かな場所から、明るい陽の差す階段の方へと歩いていった。
うちは……うちはなんだったん?
……ただからかう為に丁度いい女で、親友が居なくなれば用済みなん?
「……助けてよ……もう嫌や……兄貴……助けて……」