── 4年後
『萩原と松田の墓参りに来ないか?』
伊達班長からのメールには『用があって行けません』とだけ返信して時計の針を見た。
松田さんは1年前、特殊犯罪捜査係ではなく強行犯一係に異動した直後、萩原さんを殺した爆弾犯の手によって殉職してしまった。
時計の針は11月6日11:59を示した。
「……うちが行ったって……萩原さんも松田さんも喜ばへんもん……」
警察学校同期6人組やと思っとったのはうちだけで、最初からうちは蚊帳の外やった。
だから、仲良しごっこはしまいやねん。
……うちが二人を救えなかったから、しまいにすんねん。
うちが萩原さんについて行ったら爆発は防げたかもしれん。
うちが現場にいたら防護服を脱がんように説得して死なせることはなかった。
うちがワガママ言って松田さんと一緒にいることを選んだから、萩原さんは死んでしまった。
うちが萩原さんを見殺しにしてしまった。
うちが萩原さんを殺したから、松田さんに嫌われたんや。
ちゃう、元から嫌われとった。
だから松田さんの異動を止められへんかった。
うちが一緒にいたら爆発を防げた。
うちが松田さんを助けなかった。
うちが松田さんを殺した。
うちが萩原さんと松田さんを殺したんや。
うちは誰も救う事ができへんかった。
うちは人殺しのクズや。
そもそも……うちは組織のスナイパー、メスカルとして大量に人を殺してきた。
罪は消えへんねん。
「うぅ……萩原さん……松田さん……ごめんなさい……ごめんなさい……」
枕に涙が伝っては染みた。
うちは……なんの為に生きとるのかな……。
大切な人たちはみんな離れていってしまった。
「ねえメスカル、ちょっといい?」
部屋の扉がノックされて、慌てて正座した。
「な、なんやねん……」
扉がギイッと開くとバイジウが珍しく困った顔をしていた。
「構成員の顔合わせをしてなかったからさ。新しいコードネーム付きの人間と合わせるよ。日程は後で知らせるから、例の埠頭に行って挨拶してきてね。……ホットチョコレートを用意したから後で飲みに降りておいで」
……そっか、うちが爆処でぬるま湯に浸っている間にもコードネームを与えられる程の人材が組織でも育ってきたんやな……。
それもそうか、あの日から4年も経ったんやから……。
「分かった。兄貴。……いつもありがとう」
「おうメスカル!! バイジウとはようやっとるか!?」
埠頭に着くとテキーラが出迎えてくれた。
「うん。……まあな、ぼちぼちや……」
爆処に配属された後はバイジウとペアでの任務や単騎での暗殺ミッションが多かったから、テキーラとこうやって話すのも久々な気がする。
埠頭の倉庫の中に入ると、ジンとウォッカとベルモットの他にカルバドスとコルンの他に5人の影があった。
「おうお前ら!! こいつはバイジウのお抱えスナイパー、メスカルだ。挨拶しろ!!」
ウォッカが叫ぶと暗闇から一人一人が順に出てきてコードネームを述べた。
「私はキール。よろしく」
気の強そうな女性やな……。
「アタイはキャンティ!! アンタと同じスナイパーさ」
更に気の強そうな女性が出てきたわ、スナイパーって短気で落ち着きが無さそうな人間程逆に向いとるんよな……。
うちのことやけど……。
「……俺はライだ」
ライ、聞いたな。
現状、組織のスナイパーで一番の狙撃手なんやないかっちゅう話。
いずれ実力をみてみたい。
残りの二人は中々倉庫に落ちた暗い影から中々出てこない。
「どしたん? 二人は恥ずかしがり屋さんなんかな?」
倉庫の中に足を踏み入れると、暗闇に目が慣れて姿を視認出来た。
「……俺はスコッチ。……君と同じスナイパーだ」
……嘘やろ?
「……僕はバーボン。アナタがバイジウの……」
嘘やと言って?
「どうした? メスカル……顔色が海に沈んだみたいに真っ青だ」
ジンが出方を伺うように声を掛けた。
「あ……いや……美人とイケメンやな……って思って……」
どうして諸伏さんと降谷さんがここにおるん?
……もしかして、警察から送り込まれたスパイなん?
……なんで……なんで組織なんかに潜入してしまったん?
……命を落とすかもしれんのに。
「はっはっはっ!! キャンティにライ、スコッチとは同じスナイパー同士や!! これからも仕事で顔を合わせるようになるやろうから、よろしくしとけ!!」
テキーラに背中をバシバシと叩かれた。
これから、うちは……諸伏さんと降谷さんと……組織の構成員として……ミッションを……。
それよりも……二人に……『龍絶 藍は警察に潜り込んだスパイだった』と知られた。
警察学校の思い出も全てが嘘というペンキが剥がれて、汚泥の中に沈んでしまった。
「……よろしく。メスカルさん」
「……龍絶さん、どういうことなんだ」
顔合わせが終わった後、近くの廃ビルの屋上にバーボン……降谷さんに呼び出された。
「ちゃうねん、ちゃうから……」
何も言えない。
だって、うちは組織の構成員として警察学校に潜入しとったんやから……。
「……君が組織のスパイだったとはね。……残念だよ。僕は君を同期6人組の仲間だと信じていたのに」
うちやって、みんなのことをを仲間やって思っとったのに……。
「うちもや!! せやから……。ちゃんと二人のことは秘密にするから。……うちを信じて……」
ずいっと近寄ると、降谷さんは後退りした。
「……そうやって女を使って甘えた顔で近づいて、萩原や松田の弱みを握ったんじゃないのか?」
……なんで、なんでそんなことを言うん?
「……そんなん酷すぎるわ……うち……うち……」
涙が溢れ出て止まらない。
「……色仕掛けをしても無駄だ。君はバイジウの情婦なんだろう? やり口は分かっているよ」
……うちはそんなんじゃない。
「違う!! うちはバイジウに何も話しとらん!! 学校のことだって……」
すると、非常階段を登る金属音が近づいて、降谷さんの顔が青ざめた。
「……スコッチのことだけは、見逃してやってくれ」
足音に振り向いた瞬間、パンッという乾いた音がして視線を戻すと降谷さんが胸ポケットにしまったスマホを撃ち抜く体勢で壁に背をつけながらズルズルと崩れ落ち、絶命していた。
「い、いやあああ!! 降谷さん降谷さん!!」
降谷さんの身体を揺すると、背後から哀しみを帯びた冷たい怒鳴り声が響いた。
「メスカル……いや、龍絶 藍!! 俺は絶対にお前を許さないからな!!」
諸伏さんが見たこともない形相をして、憎い仇になったうちを射抜くように睨みつけた。
「うちは……うちは……」
どうすればよかったん?
うちは何を間違ったん?
悪いことをしてしまったから、天罰なん?
そのまま立ち上がって、諸伏さんをただただ見続けながら後ろに下がった。
下がりきると、ふくらはぎに硬いものが当たって、視界は空を捉えた。
「うちは……ただのバカやったみたいや……」
耳を掠める風を切る音が心地良い。
もう、何も考えなくていいんや。
……迷惑かけて、ごめんなさい。
「龍絶!!」