黒衣の絡繰師   作:ummt

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✧ rルート
爆処 其の十一


 

「うちのことなんて何にも知らんくせに!! 知ったような口を聞かんでよ!!」

 

 助手席で絶叫すると、車が減速して路肩に停まった。

「……君のことを知らないから、知りたいんじゃないか……。君の心の丈を打ち明けてくれないか……? 僕を信じて……」

 シートベルトを外した降谷さんの身体が近づいてくる。

 降谷さんは……公安職員で、のちのバーボンになる人間。

 人心掌握術に長けているのは降谷さんの方や。

 顎に手が置かれて、顔を右に向けさせられた。

 怖い……降谷さんの眼を見てしまったら……。

 全部見透かされてしまう。

「う、うっさいねん!! 自分だけが優位に立ってると思うなや!!」

 慌ててシートベルトを外して扉を開けようとするとチャイルドロックを掛けられた。

「なぜ、そんなに焦っているんだ……?」

 冷や汗が止まらない、動悸がして息切れを隠しきれない。 

 嘘をついていることが見え見えになってしまう。

 一刻も早くこの場から離れないと……。

「……ぎ、ぎゃあああ!! 変なことされ」

 大声で叫ぼうとすると、目の前が真っ暗になり口の中に何かが入ってきた。

「ふ? ……は? ……ん?」

 突然のことにフリーズすると、ゆっくりと光が差し込んで降谷さんの顔が目の前に現れた。

「……あれ、もしかして……キス、初めてだった? ……なんていうか、ごめんね」

 ……そっか、キスか……へえ……。

「へ? へ? え? な、なに? え?」

 待って、今うちは降谷さんの車に乗せられて『なぜ爆発事件がある事を知っていたような動きをしたのか』『なぜ萩原さんを助けに行ったのか』について尋問をされとったはず。

 ……キスしとる場合やなくない? 

 ……その前にうちのこと好きでもなんでもないやろ。

「……龍絶さん、耳まで真っ赤だね。……かわいい」

 ……あ、これ……。

「ハニートラップやな!? このスケコマシ!! バカ!! アホ!!」

 運転席から見を乗りだして覆いかぶさってくる降谷さんの肩を叩いた。

「痛い、痛いって。ごめんごめん、ファーストキス奪っちゃったね」

 全然罪悪感を抱いていないような口振りにカーっと身体が熱くなった。

「ふざけんなや!! こっちは真剣に5人の身を案じて動いとんのに!!」

 思いっきり腕で突き飛ばそうとすると、手首を掴まれて、また唇同士が触れて口の中に入ってくる。

 

「……ふ、やっぱり君は何か情報を掴んでいるんだね。……知っていることを教えて? ……此処じゃなんだから落ち着ける場所に行こう」

 


 

「あ、先にシャワー浴びてきなよ」

 

 ……こ、こ、此処……。

「ら、ラブホやないか!? ふざけんなや!! バカちゃう!? 帰る!! うちは帰る!!」

 急いで扉に向かうと、降谷さんが壁になって行く手を阻み制止した。

「龍絶さん、部屋に入るまでラブホだって気づかないからさ……。ヒロと来たりしなかったんだ」

 突然降って出た名前に降谷さんのネクタイを思いっきり引っ張って怒鳴った。

「諸伏さんは降谷さんと違って紳士やからこんなことせえへんかったもん!!」

 自分で言っていて、涙が溢れ出してきた。

 諸伏さんとのふわふわしたデートの記憶が思い出されて苦しくなる。

「そう……まあ、とりあえずシャワーを」

「シャワーシャワーうっさいねん!!」

 ネクタイを引くと降谷さんは足を軸に体を捻って、うちを挟む形で壁に押し当てた。

 これ、少女漫画の『壁ドン』か、リアルにやられたら恐ろしくてかなわんな……。

「……耳」

 そう一言いうと、降谷さんは耳を噛んできた。

「ぎゃあああ!? スケベ!! ……ん?」

 耳……? 

 つまり盗聴器のこと? 

 シャワーって、盗聴器や何かが仕掛けられていないかをチェックしろっていうメッセージ? 

「龍絶さん……」

 降谷さんは壁ドンしながらジーッとうちを見た。

「……なんや、そういう事ならモールスとか手旗信号で伝えるとかしてくれればええのに……。あ、いけない」

 慌てて口元を手で隠してシャワールームに向かった。

 焦ったわ、本当になんかそういう雰囲気なのかと思ってしまった。

 シャワーを浴びて用意されていたガウンを着て部屋に戻ると降谷さんがベッドに腰掛けて、うちのカバンを漁っていた。

「な……何やっとるんや!? この」

 腕を振り上げると、その勢いを使ってベッドの上に薙ぎ払われてしまった。

「……身体検査、していいかな」

 うちに覆いかぶさった状態で、降谷さんはガウンに手を掛けた。

「やだ……止めてぇな……」

 怖い、降谷さんがうちの知らない人みたいになったみたいで……。

 公安で……のちのバーボンになる人……。

「……そんな色っぽい声出されたら……僕、困るなぁ……」

 その時、『太陽にほえろ』の着信音が鳴った。

 爆処の二人からの専用着信音……。

「うぅ……松田さん、萩原さん……」

 あまりのプレッシャーに涙が溢れると降谷さんはカバンからうちの携帯電話を取り出して電話に出た。

 

「あ、もしもし松田? 今、龍絶さんとラブホにいるから個人的な用件なら後でにしてくれないか?」

 


 

『バカヤロー!! テメエ何人の女をラブホに連れ込んでんだ殺されてえのか!?』

 

 降谷さんは特に顔色一つ変えずに淡々と答えた。

「このラブホは建って間もないし、盗聴器や監視カメラを仕掛けられていないか確認済みで防音もしっかりしてるんだ。今から住所を言うから萩原を連れて来いよ。伊達班長とヒロには伝えてある」

 連絡事項だけを言うと降谷さんは電話をプツリと切った。

「な……ひ……それならシャワー浴びた後にそう言ってえな……」 

 状況が上手く飲み込めず泣きじゃくるうちに、再び降谷さんが覆いかぶさってきた。

「……君となら、そういう事になってもいいかなって思ってさ」

 ……ば、馬鹿にされとる。

「このスケコマシ!! 信じられへん!!」

 肩を押すと降谷さんは笑いながら隣に倒れ込んだ。

「『敵を騙すにはまず味方から』って、君が萩原に言ったんだろう?」

 ……そう言ったけど、それとこれとは別や。

「はぁ……心臓止まるかと思ったわ……」

 溜息をつきながら胸をなで下ろると、耳元で囁かれた。

「……松田たちが来る前に……しちゃうかい?」

 くるっと振り返ると意地悪な笑みを浮かべた降谷さんの顔が真正面にあった。

「アホ!! するわけないやろ!! ……ないやんか……」

 緊張の糸がプッツリと切れたのか、涙が洪水のように流れ出てきた。

「……ごめんね。こうでもしないと君のガードは崩せなかったから……泣かないで……」

 降谷さんは頭を撫でながら唇を重ねた。

「う……もうキスは要らん……泣かないから止めてえな……」

 うちが泣き止むまで、暫く口づけは続いた。

「……変な聞き方をしてしまうけど、君は未来予知みたいな事ができるのかな」

 ……もう、嘘はつけへんな。

「……はい。っていっても全部を見通したりは出来んよ。……ただ、一部の事件に関する情報の予知能力があるのは確かや……。それが最近出来るようになったみたいで……」

 こんなこといって、公安職員が信じるわけ無いのは分かっとるけど。

 

「例の爆弾事件の犯人達は君の存在も知らず、関与も否定していて物的な状況からしても君が加担していたとは考えにくい。……それでも君はあの日、萩原を助けるために病室から抜け出した。その理由を僕たち5人にだけは正直に打ち明けて欲しかったんだ」

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