黒衣の絡繰師   作:ummt

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警察学校 其の三

 

「何ぃ!? 銃弾が不足しているだとぉ!?」

 

 鬼塚教官の怒気を含んだ怒鳴り声が無機質な射撃訓練場に響いた。

 あかん、この流れだと上から落ちてきた高所作業のオッサンを鬼塚教官が助けようとしてロープが首に巻き付いてしまう!! 

「あ、あれや!! きっと誰かが『記念に』とかいって隠し持っとるんやない!?」

 必死にその誰かを探しても『モブキャラ』の顔なんていちいち覚えておらへん!! 

「バーカ!! そんなマヌケが鬼塚教場にいるわきゃねえだろうが!!」

 呆れた顔をした松田さんにデコピンを食らってしまった。

 ……幸せ……。

 やない!! 今は鬼塚教官を救わんと!! 

「確かに、仲間を信じたい気持ちも山々だが、紛失だろうと持ち去りだろうと俺達全体の不得の致すところで連帯責任だからな」

 腕組みをしながら伊達班長が周りを見渡すと、みんな不安気に下を向いて目を泳がせた。

「うーん、龍絶さんはまだまだだねぇ。分かりやすく『犯人が潜んでる』なんて責め立てたら誤って所持していたとき、萎縮しちゃって名乗り出れないじゃない」

 た、確かに……、萩原さんの言う通りや。

 この気不味い雰囲気じゃ『実は持ってた』なんて言い出せへんな。

「う、すみません……。みんな、もしかしたらポッケとかに紛れ込んでるかもしれへんから、一斉にポケットを裏返しにしよ? まずは右太もものポケットからな? せーの!!」

 一斉にポケットをひっくり返して裏地を見せるとハンカチやらボールペンやらの他にカランという音が響いた。

「あ……すみません。つい万年筆のキャップと勘違いしてポケットに入れちゃったみたいです……」

 コイツの証言が丸っ切りの出鱈目で『記念に』として持ち帰ろうとしていたのは分かっとるけど……。

「そっか! 仕方ないなあ、まあ人間やし勘違いはあるからなぁ……」

 弾丸を受け取ると降谷さんに見せた。

「はいコレ、どうぞ!」

 すると伊達班長に肩をつつかれた。

「……なんで俺じゃなくて降谷に渡すんだ?」

 あ、またやってもうた。

 原作では降谷さんが松田さんが組み立て直した拳銃でロープを撃つから、つい渡してしまった。

「えーと……。なんとなく……」

 どないしよ、なんて説明したらいいのか分からん。

「あはは、龍絶さんはゼロに気があるのかな」

 諸伏さんがご両親の因縁が解決する前にこんなに笑顔を見せることってあるんやな。

 

「ヒロ! 冗談でも軽々しく女性にそんな事を言うなって……」

 


 

「お!! ちゃんと不足は解消されたな!!」

 

 鬼塚教官が降谷さんから銃弾を受け取った瞬間、高所作業中のオッサンが天井から落ちてきて、部屋の真ん中辺りで『天井から水漏れしてへん?』と指をさしていたお陰で伊達班長や萩原さんたちを含めた教場の仲間が胴上げの要領で抱えて上げたから助かった。

「お手柄だねぇ! 龍絶さん!」

 ……どうしよ、素直に喜べへん。

 うちの知ってる展開やない。

 これって、未来が少しずつ改変されとるってこと? 

「そやね……死なんでよかったわ……」

 オッサンの無事を確認して立ち去ろうとしたとき、パラッと音がして上を見上げると、天井からコンクリートブロック片がうち目掛けて落ちてきた。

「危ねえ!! 龍絶!!」

 松田さんに肩で強く押されると、床に向かって思いっ切りコケてしまった。

「痛ったい!! ちょ、松田さん!?」

 見上げると、松田さんの顔が近くにあった。

 ……これ、少女漫画の『押し倒しシチュエーション』のハプニングやんか!! 

 心臓が飛び出て頭が真っ白になっちゃう……。

 じゃないわ!! 

 松田さんが落下物からうちを守ってくれたんや!! 

「松田!! 龍絶!! 大丈夫か!!」

 ゆっくりと体が離れて、大きな溜息と共に松田さんが手を床につけて天井を眺めた。

「無事だ……。ったく、冷っとさせんじゃねえよ!! バカ女!!」

 うちの横に落ちたコンクリート片は床に突き刺さり、亀裂が入っていた。

 ……もし、あれが頭に当たっていたら。

 確実にうちは死んでいた。

「ありがとうございます……松田さん……すみませんでした」

 それに、もしかしたらうちを庇ったせいで松田さんが身代わりになっていたかもしれない。

 ちゃうわ、これは……。

「んだよ……急にしおらしくなりやがって……。やり辛えったらありゃしねえ!」

 さっき起こる筈だった『九死に一生』の危機を回避したから、別の人間に『九死に一生』を迫る危機が迫ったんとちゃうん? 

「まあまあ陣平ちゃん。龍絶さんも咄嗟の事で驚いちゃったんだよね?」

 床に伏せたうちに差し伸べられた萩原さんの手を取ることに一瞬躊躇ってしまった。

 手を握ったら、萩原さんも危険に引きずり込みそうで怖かった。

「うん。ありがとう、萩原さん」

 温かい手を取ると、無性に悲しくなって涙が流れてしまった。

「はぁ……龍絶さんを泣かすなよ。大丈夫? 龍絶さん」

 諸伏さんの優しい声かけに嗚咽してしまった。

 

「いい歳して泣いてんじゃねーって!! ほら、医務室行くぞ。……龍絶」

 


 

「なぁヤン……よくSFで未来を変えても運命は変えられないってあるやんかぁ……。あれってなんでなんかなぁ……」

 

 医務室で松田さんと二人して降谷さんに手当てしてもらったのはいいけれど、食堂ではものが喉を通らず、せっかくの5人との貴重な会話も楽しめなかった。

 そういえば、降谷さんが松田さんに『ツンデレ』っていう所、まだ見てへん……。

『多元宇宙論ではなく単一電子宇宙仮説、所謂運命論に近いものだね。それがどうしたの?』

 自由時間になると真っ先にバイジウに泣きついてしまうくらいに疲れ果てていた。

「もしもの話やで? 太郎さんと一郎さんが死ぬ未来を変えるために別の世界から花子さんが過去に来たとするやん? ……花子さんは太郎さんと一郎さんを救えるんかな……」

 こんなしょーもない話を出来るのは流石に義兄であり組織の人間であるバイジウだけやから。

『……花子さんは別の世界から来たのか。……そのパターンなら難しいだろうね』

 なんでや!! 

「なんで!? 別の世界からだと何があかんねん!! あ、あとアレや!! 花子さんは精神だけが来てる……えーっと……」

 受話口からクスクスと小馬鹿にしたような笑い声が聞こえた。

『意識の転送だとしても、世界Aと世界Bの因果律の干渉が起こってあるからね。たとえ花子さんが世界Aで太郎さんと一郎さんと同じ世界でも、過去で二人を救えば二人は死なないから過去にくる理由を失う。別世界からなら理由だけでなく存在意義を失う』

 ……あかん、疲れているからか何を言われているのか分からん。

 ちんぷんかんぷんや……。

「なら、花子さんは二人を救えへんの……?」

 泣きそうになりながら公衆電話の受話器を握った。

『いいや、可能性はゼロじゃない。……代わりに死ぬはずではなかった近しい二人の人間を同じタイミングで殺せばいい』

 ……はあ? 

「え……? 殺す……?」

 近しい二人って……。

 まって、萩原さんと松田さん以外の諸伏さんと伊達班長も数年後に亡くなるから、残るのは降谷さんだけ。

 あかんあかん!! 

 5人を死なせるなんてそんな事……。

『二人を救いたいなら、二人を殺さないと。ちゃんと数を合わせないといけないんだ』

 ……二人を救うなら二人を、更に二人を救うなら更に二人を……。

 そんなん嫌や。

 確かにうちは組織のスナイパーとしてテキーラと共に暗殺稼業をやってきた。

 それでも罪のない人を殺すなんて出来へん。

 

「な、なーんてな。ただの雑談や。警察学校生活を満喫しとるから安心してな!!」

 

 

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