「オイ落ち着けって陣平ちゃん!! 漫画では俺は死ぬ運命だったのを龍絶ちゃんが変えてくれたって事だろ? だから……」
萩原さんが立ち上がった松田さんの手首を掴むと、松田さんはその手を振りほどいた。
「俺が龍絶を好きになって、今日プロポーズするってことも全部『漫画に描かれていた運命』で、お前には運命を変えるか変えないかの取捨選択が出来る……『神様』みたいになった気分だったろうよ!!」
吐き捨てるように怒鳴られて、我に返った。
……うち、自分なら『人の運命を変えられるし、変えてもいい』って思っとった。
まるで、『神様の気まぐれ』のように『推しキャラクターを救いたい』という自分勝手な理由で原作を捻じ曲げて、自分が見たい『都合のいいストーリー』に作り変えようとしとった。
「プロポーズの話は原作に無いし、龍絶 藍っちゅうキャラクターも居らんかったから少しちゃうけど……。確かにうちは描かれていた事件の中でスルーした事件もあった……あれ、あったっけ……」
思い出すようにしてホワイトボードに事件名を書いた。
三、事件
・鬼塚教官が銃弾紛失時に天井から落ちた保守点検員を助け、ロープで首が絞まりかけるのを降谷さんが松田さんが直した拳銃でロープを撃ち抜き助ける
・コンビニ強盗に遭い、伊達班長が頭を殴られるも降谷さんの機転で外部に連絡して萩原さんと松田さん、諸伏さんが駆けつけて確保する
・意識がない運転手が乗る暴走トラックにぶつかった車を止めるために萩原さんのドライブテクニックで降谷さんと松田さんをトラックと車に乗せて危機を回避
・外守クリーニング店で諸伏さんの両親の仇である外守さんが誘拐した女の子を助けるために爆弾を降谷さんが松田さんに解除法を教わって解除し、2階に上がった外守さんを助けるために火災に飛び込んだ諸伏さんを爆風を追い風にして4人が教場旗でキャッチする
・11月7日に爆弾犯Bが死亡した逆恨みにより萩原さんが解除出来なかったタイマーが爆弾犯Aにより再起動して爆弾犯さんが殉職する
・3年後の同じ日、潜伏していた爆弾犯Aによる二つの爆弾のうち一つの卑劣なタイマーの罠により松田さんが殉職する
・諸伏さんが何らかの理由により自害する
・伊達班長が張り込み明けに飲酒運転をした車により轢かれて亡くなる
・7年後のハロウィン、爆弾犯Aを囮にロシアの爆弾魔プラーミャが降谷さんを狙う
「色々とツッコミたいんだけどさ……銃弾がなくなった時、鬼塚教官がピンチだったってことかな? コンビニ強盗で実際に殴られたのは龍絶さんだったよね」
諸伏さんが怪訝そうな顔をしてホワイトボードをペンで叩いた。
「そうや……多分うちが鬼塚教官を救ったから、しっぺ返しされて殴られて未来予知の記憶をなくしたんやと思う。……この記憶が蘇ったのは先輩らの爆弾解体現場の見学で頭を打って、昏睡状態から目を覚ました11月7日の当日やから……」
「……ん? 知っている事件はこれだけか? 萩原が爆弾解体が出来なかったのなら、なぜ龍絶は解体出来たんだ? 花火大会の事件だったり、他にも日常に起こった事件はあっただろう」
伊達班長が腕を組みながらうちを見定めるように問いかけた。
「……うち、松田さんと萩原さんが推し……大好きやったから……二人を救うために爆弾の製造と分解について猛勉強と特訓をしたんや……。せやから爆弾解体のスペシャリストとして爆弾を解体した。花火大会の事件や日常の事件は原作に描いてない事件やったから……自己解決しただけで……」
そう申告すると、再び場が静まりかえった。
「……龍絶ちゃん、この日の為にわざわざ勉強したんだ。……『解除出来ない爆弾があるから気を付けろ』とか『お前は死ぬ運命だから逃げろ』って言えば済んだ話なんじゃないか?」
萩原さんが鋭い眼差しでうちを見据えた。
「せやかて、爆弾解体が出来へんと根本的な解決にならんし、次に来るハロウィンのプラーミャは史上最強の強敵なんや。うちが最強にならんとみんなを救えんから……。それに松田さんや萩原さんに『解体できずに死ぬから逃げろ』なんちゅうて『はい分かりました』っちゅう人らやないやんか!!」
必死に身振り手振りで技術知識やスキルの必要性を訴えた。
「なら、龍絶さんは花火大会の見立ての見解だったり、爆弾解体の方法を知っていたわけじゃなかったってこと?」
諸伏さんも顎に手を当てながら目を光らせた。
「……知らなかった。……ごめんなさい。知らなかったからこんなにもたもたしてもうて……。正解を知ってたらみんなの役に立てたんに……」
原作に爆弾解体の解除方法の記載はない。
犯人特定と犯行のプロファイリング方法の答えもない。
今を生きている、実在するみんなに対する答えの正解は何処にもない。
「……なあんだ。俺はつい、全部答えが書いてあるものを見通す超常的な力なのかと思っちゃったよ……。やっぱり龍絶ちゃんは……龍絶ちゃんだったんだね」
「せや……うちは漫画に登場しないキャラクター。存在してはいけんから、こうやって……。もう原作のルートから外れてしまっているから……未来予知が出来へん……ごめんなさい……」
床に腕をついて流れ落ちる涙を見ていた。
うちが原作を引っ掻き回したから、早期にプラーミャを潰さんといけんくなって、伊達班長が事故死するか、諸伏さんと降谷さんが組織に入るのかさえ分からない。
「……龍絶ちゃん。……いや、藍ちゃん。……結婚しよう」
萩原さんがうちの腕を引いて抱き寄せた。
……抱えとった秘密を暴露したから、世界がバグってまた再放送が始まったん?
「え……なに? おかしくなったん?」
萩原さんのほっぺたを手のひらで包むと、そのまま唇同士が重なった。
「……愛してるぜ、藍。やっぱり俺の王子様ってことじゃねえか」
……え?
「えっと、うち……その……未来予知みたいなアレで、事件が起こることを知ってて……だからそれを防ぐために動いただけで……うちはズルをして前もって技術知識を学んでたんや……」
萩原さんの唇がまた近づいて慌てて手のひらでガードした。
「ん、そうだな。解除方法を自分で導いた……。そして、俺に予言して終わりではなく、俺と周りの命、将来失われる命を救うためにプロフェッショナルになる道を選んだ」
そうしないと『名探偵コナン』の世界では何が起こるか分からへん。
自分自身が最強になって技術知識やスキルの面で優位に立たないと、いつ新たな敵が現れて未知の爆弾や事件のトリックが表出してくるかわからへん。
「だって応用が出来へんと、一つの見知った事件を解決して終わりにはならへんもん!! みんな、こうやって現実に生きとるんやから!! うちはワガママやから、どうしても5人を救いたいんや!!」
叫んだ瞬間、ぎゅうっと抱きしめられた。
「……ずっと独りで抱えてきたんだな。……辛かったろ。全部投げ出して逃げたくなる時だってあっただろ。……安心していい。これからは俺達がついている。……心配するな」
頭をゆっくりと撫でられて、胸が苦しくなって子供のように嗚咽してしまった。
「うわぁぁん……うち……うち……みんなと一緒にいたいから……ズルしてもうた……ごめんなさい…………ごめんなさい……」