「兄さん!! 来てくれたんだね!!」
な、なんで長野県警の諸伏 高明警部が……あ、今は刑事か……ああ、そもそも諸伏さんのお兄さんか……なら来てもおかしくはないか……。
「って、来る!? 何!? 今のどんな意味!?」
「『なぜ腐った俗世に合わせて生きることが出来ないのだろうか』って意味だ。……まあ『なぜ能力を隠して居られなかったのだろうか』っていう皮肉じゃねえか?」
伊達班長の解説に一旦言葉を飲み込んだ。
……そっか、能ある鷹は爪を隠すっちゅうか、未来予知みたいなアホらしいこと普通は隠すし、バラすなんて称賛浴びたいだけの承認欲求の固まりで……。
「え!? え!? うち、なにも知りません!!」
慌ててホワイトボードを隠すように腕をバタバタとさせると、咳払いされた。
「兎も角、ガウンからそちらにあるショッピングバッグの衣服に着替えて頂けませんか? 他の者には目の保養かもしれませんが、私には刺激が強く、目に毒です」
腕の動きを止めて、下を見るとガウンがはだけて乱れた状態になっている事に気がついた。
「ぎゃあああ!! スケベ!! アホ!! なんでみんなして言うてくれへんのや!!」
ベッドの上にあった萩原さんが買ってきてくれたショッピングバッグを抱えてシャワールームに駆け込んだ。
最悪や……コウメイさんにふしだらな女やと思われた。
うち、痴女みたいな格好でプラーミャ対策を語ってたってこと?
信じられへん!
なんで……言うてくれれば直ぐに着替えたんに……。
べそべそ泣きながらショッピングバッグから服を取り出すと、丁度いいサイズの可愛らしい下着とド派手な下着、革でできた黒いライダースーツと白いワンピースという謎の組み合わせが入っていた。
「え……な、なんなん? 萩原さんの考えとることは、よう分からんわ……」
とりあえず可愛い方の下着と白いワンピースを着て部屋に戻るとホワイトボードの前に明るい髪色をした美しい横顔をした女性が立っていた。
「……お? おお!! 君か、うちの研二を堕とした魔性の女とやらは。うんうん!! 陣平が可愛い女と言うのも頷ける。で、サイズはちょうど良かったろう? アレは勝負下着にでもするといい!!」
は、は、は……。
「萩原 千速さん!? な、なんで!? なに!? 何が起こってんねん!?」
なんでコウメイさんと千速さんがこの場におんねん!
……この場……ラブホやぞ!?
二人が居ていい場所ちゃうし、そもそも6人で入るとこちゃうし、まず男女で入ったらあかん場所で……。
「おっと、気絶してしまったらしい。ベッドに寝かせるぞ!! 退け退け男共!! 手出しはさせんぞ!!」
「うーん……」
見知らぬ天井……やないな、降谷さんに押し倒された時に見た。
「気が付きましたか?」
ホワイトボードを囲んでいる輪の中からスタスタとコウメイさんが歩いてきて、不用意に近寄ったり接触したりせずにベッドサイドに置かれている水を勧めてくれた。
諸伏さんのお兄さんだけあって紳士やな……。
「はい……。いきなり気絶してしまってごめんなさい。うち、爆発物処理班っちゅう警察の一員なんに……お恥ずかしいです」
自分で言っていて情けない。
警察がパタパタ倒れていたら日本国民を守れるわけないのに。
「……まずは貴方の無事を確認したい。……彼。降谷さんに何か嫌なことをされませんでしたか?」
聞き方も『いかがわしい』『淫らな』っちゅうセクシャルなニュアンスを使ってこない……流石に刑事やな。
「あはは、大丈夫です。でもガウンなんか着るの初めてやったし、押し倒されて『松田たちが来る前にしちゃうかい?』なんて囁かれる心理戦をされるのも初めてやったから、心臓止まるかと思いました!!」
水で喉を潤してニコッと笑った瞬間、伊達班長が降谷さんを壁まで殴り飛ばした。
「……よし。龍絶、話の続きをするぞ」
……えっと。
壁の修繕費は誰が出すんやろうか……。
「藍。悪い虫から守ってやるからこっちにおいで」
千速さんに手招きされて、恐る恐る近づくと背中から抱きしめられて二人羽織のような体勢になった。
「まず、未来予知云々の話は止めましょう。確実たり得る証明など不可能なのだから。現実に起きた事実と複数の情報源から把握された客観的事実から、現実的なプラーミャ確保案を練るべきです」
コウメイさんがサインペンを握ってナーダ・ウニチトージティに星マークを付けた。
「龍絶さんの話では自衛団が自作自演みたいな形でプラーミャを誘き寄せる事が出来たんだよね? それなら同じ方法を取れればいいんだけど……オレの部署でも依頼方法までは掴めてないんだ。金を積めばどんな仕事もやるらしいとは聞いているんだ……」
……やっぱり警視庁公安部、警察庁警備局のどこに所属しとるとは明かさんか。
「警察内部に上げたとして、法螺話だと一蹴されるのが関の山だろうからな」
千速さんがぎゅっと抱きしめてくれる。
いい匂い……香水かな……安心して眠たくなってきてしまう。
「……ぐっ、はぁ……はぁ……その必要は無くなったみたいだ。……はぁ……プラーミャからの爆破予告がたった今届いたらしい……」
「宜しいんですか? 我々に情報を明かしても」
コウメイさんがボロボロになり床に這いつくばってスマホを操作する降谷さんを見下ろしながら嗜めた。
「……いずれ所轄内で共有される情報です。……『ツクバ付近の花火大会中に爆弾を起爆するが、大会を中止したり爆破予告があったことを市民に知らせても同様に爆発させる』とのことで……ゴホッ……」
降谷さんが息も絶え絶えに教えてくれた情報。
「待ってよ降谷ちゃん……。それって、俺達の動きを見越されていないか? なんで急に日本で市民を巻き込む爆破予告なんてしたんだ? 原作になかった事件であって、ここからは未知な状況になるにせよ、いきなりピンポイントで近日中に起きるなんて変じゃないか?」
確かに、4年後まで存在を語られていなかった存在で、『ハロウィンの花嫁』の映画を飾る作中最強格のボスキャラクター。
「確かに、俺達三爆処トリオに爆弾解体をしてみせろっつう宣戦布告にも見えるな。……あ、龍絶は休暇中か」
……まさか。
『ロシアで頻発している爆発事件の犯人の目星を伝えます』
バイジウのスマホに来ていた通知、そこに書かれていたのは、明らかにプラーミャの実態と潜伏先に関する断片的な情報だった。
……もしかして、組織がプラーミャを使って何かを爆発させるつもりなん?
それなら、プラーミャの援護にジンやウォッカ、コルンにカルバドスがつく可能性だってある。
……最悪は、バイジウが直接乗り込んでくるかもしれん。
「龍絶、顔色が悪いぞ……大丈夫か?」
……うちは。
うちはまだ肝心な秘密を話すことは出来へん。
……組織に所属するスナイパーで、義兄が組織のナンバー3だという事実を話してしまえば、即時逮捕勾留拘束尋問ののち極刑は免れない。
うちは地獄に堕ちる。
だから罪を裁かれるのは甘んじて受け止める。
……けど、今捕まるわけにはいかへんねん。
5人の将来に渡る障壁になり得るプラーミャという存在を解決してからやないと、うちは地獄に行くわけにはいかんのや。
「……大丈夫や。問題ない……。……対策、一緒に考えてください」