「な……はぁ? な、んで……うちが兄貴を殺す話になるんや……。うちとバイジウは義兄妹やで? 義兄さんを殺す義妹が何処におんねん……」
『バイジウはうちの友達とやり合う予定でもあるん?』
『予定にあるって答えたら、メスカルは僕を殺すかい?』
なんで……二元論になるんねん。
「はは、そうだよね。メスカルが友達と仲睦まじそうだったからジェラシー感じちゃったみたい」
バイジウは真顔で拳を自分の側頭部にコツンと当てて、チロっと舌を出した。
……テヘペロみたいな生易しい会話してへんぞ……今……。
「……その口振りやと、友達に手出しするっちゅう話に聞こえるで? うち『あの二人には勝手に手出ししないで』って約束したよな?」
あまりの舐められた態度に眉間に青筋が立ってしまったのが自分でも分かる。
「僕は約束を守るよ? 僕は嘘つきは嫌いだから」
怒りで我を忘れて殴りかかっても確実に力負けする。
冷静になれ、うちはスナイパーなんやから。
「ならなんで予定を匂わせたんや……」
マグカップを握る拳に力が入った。
「ああ、近々なんだけど、もしかしたらメスカルの友達と会うかも知れないからさ」
……バイジウが?
ATF職員として?
組織の人間として?
「曖昧な表現でぼかすなや……。何の要件で誰と会う可能性があるんか教えろや。うちは潜入してんねんぞ? もしバレたら組織にどう」
「……誰に向かって口聞いてんだよ」
バイジウの口から聞いたことのない男性的な声が聞こえてフリーズしてしまった。
「……なんてね。ビックリした? メスカルを警察に潜入させたのは僕だから、もちろん責任を取るけれど……。かなりのリスクを背負っているのは自覚しているよね? メスカルが警察に捕まって自白なんかしたら組織が被る損害を考えて行動して」
体の芯が急に冷えたように冷たくなっていくのを感じる。
「それは……わかっとるよ」
温かいはずのマグカップからは陶器の冷たさしか感じられない。
「ATFに日本の警察から協力依頼が来たんだ。プラーミャっていう爆弾魔が予告を出したから専門家の知見を借りたいってね。僕はアルコール・タバコ・火器および爆発物取締局の日本滞在職員だからさ。……だから、爆発物処理班の同期と会うかもしれないってこと」
……ATF職員として接触を図るなら、二人に手出しすることは出来へんはずや……。
……暗殺を企てん限り……。
「そうなんか……うちは休暇中やから……その……二人と上手くやってえな……ヤン義兄さん……」
「もしもし萩原さん? そっちの方はどんな感じ?」
休暇中の間、バイジウは在宅勤務をしていたかと思えばふらっと外泊したりして、なかなか落ち着く事が出来なかった。
家の中は危ないから、庭先に出て連絡を取った。
『ああ、来たよ。君の兄貴。「お会いするのは三度目ですね。僕、そのムスクの香水は好きですが薬品を扱う職業的に」って会った瞬間、エレベーターホールで言われてさあ』
……やっぱり、香水から誰と居たかを探っとる。
「ほ、他には? 何も言われへんかった? 松田さんに絡んだりとかせえへんかった?」
もし、松田さんの匂いも嗅ぎ取ってたら、どうしたらええねん……。
爆処組と密室に居た……まではええとして、耳の噛み痕を二人が付けたになったら……。
『陣平ちゃんは大人しく様子を見ていたし、向こうさんも何もしなかったな。それにプラーミャの事は上層部と関連部署の秘匿事項になっていて、俺達二人はたまたま現場に配置される事になったから情報が降りてきたって形で、向こうさんがATF職員だとかは公式に知らされていない。個人的に会った事があるっていう建前』
……なら下手に動けんっちゅうことか。
「プラーミャについては何か分かったん? 何を爆破するかとか身代金があるかとか……」
プラーミャは要人の殺害から建造物の爆破まで金を積めば何だってやる……。
だから身代金を請求する事は考えにくい。
請け負って爆破するわけやから、その時点で金品は得られる。
『それが、身代金の要求があったんだ。「10億円を用意しろ」っていうものと「我は太陽に手を差し伸べられた重騎兵なり。哀れで滑稽な警察諸君に告ぐ。来たる日に運命の女神を嘲笑う愉快な花火を打ち上げる。止めたくば我が元へ来い。七十二番目の席を空けて待っている」っていう訳ワカメな脅迫文と一緒にね。まるで先輩達が扱った事件みたいな……』
……嘘やろ。
これは、萩原さんが殉職した3年後に松田さんが受け取る爆弾犯Aからの脅迫文とほぼ同じ。
あれは『我は円卓の騎士なり。愚かで狡猾な警察諸君に告ぐ。本日正午と十四時に我が戦友の首を弔う面白い花火を打ち上げる。止めたくば我が元へ来い。七十二番目の席を空けて待っている』というもので、円卓の騎士は病院の地図記号、席は観覧車のゴンドラを表しとった。
「待って!! 今から掛け直すから!! 多分やけど爆弾は2カ所に設置されるはずや!!」
『え……? 3年後に起きる爆弾事件と同じ文体だった?』
急いで降谷さんに電話をして、爆弾犯Aが脱獄していないかを確認した。
「絶対にそうや!! 細かい部分は違うけど、文体が爆弾犯Aとおんなじなんや!! 爆弾犯Aが入れ替わったり、なにか外部に指示を出したり、事件に関与してる可能性がある!!」
せやないとおかしい。
運命を変えたからって同じ爆弾犯Aみたいな奴が偶然湧いて出てくるなんてあり得へんやろ。
『それはないよ。刑務官が厳重に確認しているし、指示を出したとして火薬や製造を素人が一朝一夕で出来るわけないだろ? それに既に逮捕された爆弾犯Aに加担し協力する理由を持つ者がいるかい? 協力者が身代金を受け取れても爆弾犯Aは金品を得られるわけでもないのに』
そんな事は分かっとんねん。
「じゃあなんで3年後に松田さんが殉職する事件を模した脅迫文が送られてくんねん!! 相手はプラーミャやぞ!? 身代金を要求するんだっておかしい……」
おかしい……。
『まあ、そう聞くと他にも未来予知の人間がいて、3年後の事件を模倣して松田を殺害しようとしている風にも取れるかな……。でもまさか、早々未来予知の人間が居てくれちゃ困るよな。予知者が増えれば増えるほど可能性の分岐が広がっていくから』
未来予知を知る人間……。
うちは……テキーラの拳骨で倒れ頭を手術した直後、バイジウに『萩原 研二と松田 陣平という名の警察官が殉職したか』を18歳の時に聞いてしまっている。
もし、病床の上で『警察組織に捕まってしまったスパイに対する漏洩事項のヒアリング。催眠療法を使ったり薬剤を使ったり』これを既にされてしまっていたんだとしたら……。
「……ど、うしよ……他にも……うちの記憶を読み取って……未来予知しとる人間がおったら……」
膝から崩れ落ち、天を仰いだ。
『はは、今度はサイコメトリーかい? 何でもありになるじゃないか。……もしかして、超常的なものでは無く……自白剤というニュアンスの話か? ……龍絶さん? 大丈夫か? 聞こえているか? 返事をしろ!!』
最悪や……うち、原作知識を思い出した時点で詰んでたんや……。
「ごめんなさい。うち、本当に馬鹿やな……」