『……分かった。爆弾はツクバの博物館とソーラー発電所の七十二基目の可能性が高いって事ね。高明さんの知見だって事にして爆発物処理班から上に上げるよ。ありがとう、藍ちゃん』
うちが推測したってなると『なぜ爆発物処理班の新人が暗号文を解けるのか』『暗号文の解読に根拠はあるのか』『あやふやな情報源で警察組織は動けない』という常識の壁にぶち当たるし、バイジウが捜査協力として警察内に居るんや。
うちが未来予知として積極的に警察組織に協力しているとされてしまう。
「はい。萩原さん……あと、一つだけいいですか?」
……バイジウが『名探偵コナン』の知識を把握してプラーミャを裏で操っているのなら、筋書き通りに進むとは考えにくい。
『……いいよ。何でも言って』
プラーミャが7年後に混合爆弾を使うと把握しているのなら、それの材料を推測したはず。
でも18歳の時に記憶を覗かれたとすれば、当時のうちに爆弾解体の知識は無かった。
なら、原作知識としては『ピンクと水色の液状混合爆弾だで紫色の炎になり、中和剤で解決した』としか言えていない、言えるはずがないんだ。
……もしうちがバイジウだったら、爆弾の材質を予測してプラーミャに混合爆弾の作り方を教えて、早期に開発をさせるはず。
……そして……。
「……チューインガムで防げるような水溶性無機化学物質による爆弾ではない可能性があります。原作知識をうちらが知っていることを利用して裏を突いてくる相手がプラーミャの後ろに居ます。……気をつけてください。予告文が送られたって事は、爆弾の設置は完了している筈です」
映画で見た『ハロウィンの花嫁』とは似て非なる爆弾を用意して、異なる解除方法を要求してくるも意地の悪い設計のはず。
『……うん。陣平ちゃんにも伝えるよ。藍ちゃんは待っててね。待つのも仕事のうち。ね?』
今、休暇中のうちが動いたらバイジウが必ず動き、最悪は組織の精鋭が加勢に加わるかもしれない。
コルンとカルバドスの二人のスナイパーはうちの同業やから、日本に居ない事は連絡網で知っとるけど、裏を返せばスナイパーの動き以外は把握出来ていない。
「はい。待ってるから、絶対に帰ってきてください……」
受話口からの声が途切れるまで、ずっと携帯電話を握り締めていた。
『帰ったらお帰りなさいのチューね。じゃあ……行ってきます』
萩原さんの冗談をいう声色が、死地に向かう覚悟を灯していることに気づかないフリをするのが精一杯だった。
「いってらっしゃい……萩原さん」
「それでは龍絶さん。私も個人的に調査に動きます。何かありましたら、こちらの連絡先まで連絡を下さい」
コウメイさんが名刺を渡してくれて、うちも爆発物処理班の名刺を渡した。
「頂戴致します。……まさかこうやってコウメイさんのお力添えを頂けるとは、予想外で……まさに百人力……」
未来予知みたいな馬鹿みたいな話を真剣に捉えてくれるなんて……。
「簡単に言ってしまえば三人寄れば文殊の知恵、毛利の三本の矢……でしょうか。様々な角度から知見を持ち寄れば視えざる霧も掴めましょう」
……三か、3……。
バイジウは組織のナンバー3、うちは組織のスナイパーで三本指に入り、警察学校では総合成績3位で、爆発物処理班では三爆処トリオと言われとるから『三』に縁がある……。
『我は太陽に手を差し伸べられた重騎兵なり。哀れで滑稽な警察諸君に告ぐ。来たる日に運命の女神を嘲笑う愉快な花火を打ち上げる。止めたくば我が元へ来い。七十二番目の席を空けて待っている』
……あかん、あかんあかんあかん。
うち、原作で『爆弾は2か所にあった』という事実から勝手に『今回も爆弾は2か所』だと思い込んどった。
この予告文には何処にも『2か所』だと読み取れるものは無い。
そして、予告文が原作を踏襲するものだとした場合、太陽に手を差し伸べられたがソーラー発電所で重騎兵が博物館なら、『七十二番目の席』は博物館の他にも該当する。
花火大会に用意される閲覧席は当然のこととして、もう一つ該当する場所がある。
「ま、待ってコウメイさん!! 爆弾はもう一箇所あるかもしれん!! ツクバには博物館扱いの宇宙エキスポ星雲センターがあって、中にあるプラネタリウムの『七十二番目の席』も当てはまります!! 『太陽』を示したってことは太陽に近い衛星をコントロールする宇宙エキスポ星雲センターを示しているかも知れません!!」
コウメイさんは一瞬考えた後、口を開いた。
「今、動いている2か所に集中している爆発物処理班以外を動かすとなると別部隊を動員する他なく、臨場させる迄には時間がかかるやも知れません」
……なら……。
「うちが動きます!! うちは休暇中やから、警察内部には動きを把握されんはずです!!」
個人で動けばバイジウを出し抜けるかもしれん。
「それでは、宇宙エキスポ星雲センターに通達をし、水面下で職員に避難指示をさせ、客には点検目的として一時退避を。警備監視室にもそれとなく不審者や不審物が無いかを監視カメラや目視から確認させておきましょう」
もしかして、コウメイさんは既に目星が付いていて報連相も済んでいて……うちを試したんか?
でも、どうやってツクバまで行けばいいんや……。
すると、携帯電話の着信音が静かな森に鳴り響き『月のワルツ』が流れた。
『藍!! お前の家は分かりづらい!! コンクリートで舗装された道路で待っているから、ライダースーツで決めて来な!!』
「千速さん!! どうして此処に!?」
黒いライダースーツに着替えて工具箱と……念の為に分解したライフル銃と……チョーカーが入った銃弾袋をリュックに背負った。
今は未だ、チョーカーは着けない。
首元に赤いビーズが斜め十字の真ん中にあしらわれたチョーカー。
このチョーカーの意味は『必ずターゲットの中心部に赤い飛沫を浮かべる』っちゅう願掛けやから。
最悪の事態に備えてのお守りや。
「なあに、藍の危機を察知して……とは言っていられないな。諸伏の兄貴から連絡があったんだ。なあ? 高明」
千速さんがバイクに跨りながらコウメイさんにウインクすると、コウメイさんは頭を下げた。
「予告文から『警察内部とは別の部隊が動く必要性』を把握したのですが、いかんせん私は警察の人間です。ですので、貴方の力が必要になると判断し、独断で彼女を呼びました」
……やっぱりそうだ。
コウメイさんの『私は警察の人間です』という言い方……。
うちが組織の人間やと……気づいとるんやな……。
「お二人とも、ありがとうございます。……千速さん、うちを乗せてツクバの宇宙エキスポ星雲センターまで走ってください!!」
すると、目の前が真っ暗になった。
「……良し!! ヘルメットを着けたら後ろに跨がれ!!」
あ、ヘルメットか。
位置を調整して視界が開けると、千速さんの眩しい笑顔が覗き込んだ。
「はい!!」
千速さんに抱きつく形でバイクに跨ると、千速さんが小さく零した。
「……信じているぞ、藍」
その言葉の意味にうちが『善か悪か』『警察か組織か』という立場の確認も含まれている事にも気づかないフリをした。
「はい。……信じてください。千速さん」