「本当に此処で降ろしていいんだな?」
千速さんに宇宙エキスポ星雲センター前で降ろしてもらうと、すっかり陽は落ちていて施設内は消灯し、人けは無いように見えた。
「はい。ありがとうございました。千速さん」
バイクから降りて、ヘルメットを返した。
「……私に出来る事は、他にはないか?」
……千速さんは交通警備隊に入ったばかり……そして、松田さんの初恋相手で、千速さんも松田さんのことが好きで……でも萩原さんの殉職があったから疎遠になる関係だった。
けど、今は違う。
萩原さんは生きていて、二人は両片思いのままだ。
「もう対策は打ってあると思いますけど、神奈川県警の横溝さん達と連携して、ツクバ近県で包囲網を張ってもらって下さい。少なくとも茨城県警、群馬県警、栃木県警、千葉県警、埼玉県警の5県で検問を。利根川やツクバ山近隣の山林に潜伏する可能性もあります」
頭を下げると、千速さんはポンッと頭に手をおいて撫でてくれた。
「重吾達の事まで把握しているのか……。了解した。一度県警本部と連絡を取ってから直ぐに戻ってくるから待っていろ」
千速さんはニコッとほほ笑むと、バイクに跨って颯爽と去ってしまった。
「はい。萩原さんのお姉さんで……松田さんのお嫁さん……千速さんはうちが必ず守ります」
、、、
「流石に人払いは出来とるみたいやな……」
宇宙エキスポ星雲センターの中に入ると『プラネタリウムの映写機故障の為、点検作業中につき臨時休業』という張り紙があった。
……これでプラーミャが警察の差し金によるものだと察しないわけが無い。
プラーミャは分かりやすいヒントがあった博物館やソーラー発電所には居ないはず。
閑散期のプラネタリウム……七十二番目の席に工作物を設置する事など容易だっただろう。
「プラーミャは確実に此処にいる……」
リュックから分解しておいたライフル銃を組み立て、銃を装填して故障が無いかを確認してリュックからはみ出す形でしまった。
プラネタリウムに続く廊下に人けはなく、監視カメラは点灯している。
けれど、真っ暗になるプラネタリウム内に監視カメラがあるかどうかは分からない。
すると、携帯電話から『刑事コロンボのメインテーマ』が流れた。
「コウメイさん、何か分かりましたか?」
受話口からは落ち着いた声色が響き、状況説明がなされた。
『プラーミャと思わしきフードをかぶった人物が閉館前にプラネタリウム内に入り、約30分後に退室しましたが、センター内から退去した様子はありません。恐らく貴方を狙っていると考えられます』
「分かりました!! ありがとうございます!! 念の為警備室に『黒いライダースーツの女が配電盤制御室やガス水道周りのコントロールルームに入っても騒ぐな』って伝えてください」
コウメイさんにお願いをして電話を切ると、念の為に拳銃を片手にプラネタリウムの扉を開けた。
プラネタリウム内には居ないらしいけど、外からプラネタリウム内を狙撃できる窓空間があったらあかんからな。
中には映写用の白い壁と視聴席が並んでいて、丁度七十二番目の席は通路側の真ん中に位置する所に面していた。
「なんや……探す手間が省けたわ。普通なら爆弾っちゅうのは見つけづらい場所に隠して配置するもんなんに」
相手はプラーミャや、『ハロウィンの花嫁』でもわざと見つかりやすい場所、物、配置にして混合爆弾も複雑な回路部分を剥き出しにして液体が入ったパイプを見せつけるようにしていた。
つまり、自分の実力を誇示したくて仕方がないプライドの高い人間で、爆弾魔のプラーミャという異名に誇りさえ持っている。
「あった……座席の下……」
七十二番目の座席の下にはプラスチックの半透明なケースの中に解体者を威嚇するように配線や基板類が入り組んだ構造で待ち構えていた。
「そうはいうても火薬と着火する信管を切り離せばええねんから……」
表示類はセブンセグメントのデジタル時計のみで、タイマーではなく時刻を表示している。
「デジタル機器があるなら電源があんねん……もしそれが起爆装置なら辿っていけば……」
今うちが歩いてきて何も起きないということは、少なくとも歩いた振動で起爆する感震装着類は無い。
外観から辿っていくと、ピンクと水色の粘土のようなものが配線がスパゲッティ状になっているド真ん中に設置されていた。
「あかん……プラスチック爆弾かい……」
これならこの小さいケースでもセンターを吹っ飛ばせるわな。
……待って、見落としとる。
慌ててデジタル時計を見ると、時刻の他に日時と曜日、天気マークに気温の表示があった。
「あかんあかんあかん!! ……もしもしコウメイさん!? 警備室に『閉館後も灯りとエアコンを切らんように』と伝えてください!!」
「……なんで日時が『1月6日』になっとんねん……。今は11月やぞ……」
天気マークと気温は外気に連動していても、日時は『1月6日』で曜日『火』になっている。
……やっぱり、バイジウはうちの原作知識を使ってプラーミャに依頼をしたんや。
せやなかったらアニメ版で萩原さんと松田さんが殉職した日である『1月6日』にするわけが無い。
「……ふざけんな。うちは絶対に二人を助けんねん」
リュックから工具箱を取り出して、ゆっくりとネジを外していく。
爆弾が作られたっちゅうことは、作る工程があったはずで、うちはそれをリバースエンジニアリングをすればええだけのこと。
表示機器、爆薬から逆算して元を辿ればええ。
マイナスドライバーで解体作業をしていると携帯電話が鳴り『太陽にほえろ』が流れた。
仕方がなくスピーカーにして床に置いた。
携帯電話の電波で起爆する感知式だったらとっくのとうに誰かが帯域を使ってプラーミャごと吹っ飛んどるからな。
「どうしたん? 松田さん。そっちは終わったん?」
気楽に問いかけると松田さんの怒鳴り声が響いた。
『龍絶!! お前何勝手に動いてんだ!! こっちは水溶性と油溶性のミックスで手こずっちまった!! 今向かってるから何もせずに待ってろ!!』
そっか、やっぱり二人は解除出来たんや。
「よかった……こっちは案外単純な仕掛けやから……直ぐに終わる。松田さん達が出る幕はない」
もし爆発してもうちが抱きかかえれば被害は最小限で済む。
『……だったら何のんびりやってんだ、さっさとバラしちまえよ……』
そうパパっと解除出来ないように配線が混線しとるから、一つ一つ慎重にやらんと……何かに接触した時点でアウトになるやもしれん。
「うちにはうちのペース配分っちゅうもんがあるんや。そう急かすなや……」
静電気からの着火が無いように……。
『……ところでお前、ちゃんと防護服は来てるんだろうな』
……あ、これ萩原さんにも聞いたセリフやな。
11月7日に……うちが爆弾犯Aの爆弾を解除したんや。
せやから萩原さんは生き残った……。
だから……うちは爆弾解体のスペシャリストなんや……うちなら出来る……。
うちに出来へん事はない。
「もちろん着てるに決まっとるやろ……。アホちゃうか?」
うちには千速さんから貰ったライダースーツがあれば充分や。
『……馬鹿野郎。……さっさと終わらせて……6人で飯に行くぞ』
……うち、本当に幸せ者やなあ。
「分かっとる。……電話は切るで? ……さようなら松田さん。大好きやったで」