「ああ……危なかったわ……死ぬかと思ったわ……」
火薬と信管は密着しておらず、埋没もしていなかったため、解除の切り分けは見かけと複雑な仕掛けよりは一つ一つ丁寧に外していけば案外早く終わってしまった。
「……ならば、死ね!! ゴミバエ!!」
気配でバレバレやねん。
プラーミャのフードの布地とペストマスクの革が擦れる音のする方に向かって1発銃弾を撃ち込んだ。
「プラーミャ、お前……三流やな。暗殺者っちゅうもんは叫ぶ前に撃つもんや」
姿がグラついたのを確認して下方に2発目を撃ち込んだ。
「……ふざけるなよ……メスカル!!」
叫ぶ余裕があるっちゅう事は、防弾チョッキを着とるな。
うちの真後ろにワイヤーの楔が打ち込まれ、伸縮の勢いをつけながらプラーミャがサブマシンガンを放ってきた。
「危なっ!? 狭い場所でマシンガン撃つバカがおるか!?」
居るな、目の前に。
火薬をライダースーツの胸元にしまい、側転と後転を繰り返して遮蔽物がある場所まで異動した。
「バカはお前だ!! 私に爆発物の設置を依頼しておきながら警察に身代金を要求し、脅迫文など送りつけるとは……。私を愚弄し名誉を貶めるために利用したな!?」
そういう事か。
バイジウはプラーミャに『組織のメスカルから爆発物の設置を依頼』して、実際にプラーミャが爆弾を3箇所に設置した。
そして、プラーミャには内密に警察に『脅迫文』を送りつけ、プラーミャの流儀に反する事をして恥をかかせてプラーミャを激昂させ、依頼人とされる組織のメスカルであるうちを自発的に始末するように仕向けたんだ。
「プラーミャ!! アンタは操り人形にされとるんや!! それでプロを名乗れるか!? 爆弾設置を依頼したうちが解体すんのはおかしいやろ!!」
黒ずくめの組織のナンバー3……まるで舞台の天井から人形を操る『黒衣の絡繰師』や……。
「抜かせ!! 貴様は爆発物処理班のホープなのだろう!? 手柄が欲しくて私に具体的な材料をわざわざ指示して爆発物設置の依頼を行い、自分で解体する自作自演をして名をあげようとした!! 卑怯者のゴミバエめが!!」
そう来たか……それならプラーミャ側にも対しても理屈が通る。
「せやったなぁ……博物館とソーラー発電所以外の爆発物も解除せんとなぁ……」
遮蔽物から身を乗り出して1発銃弾を肩に撃つと、プラーミャもサブマシンガンを撃ち込んできた。
「あはは!! 最後の爆弾は既に空に舞っているだろうが!!」
「空……ああ、風船やったっけ?」
おどけた声で鼻で笑ってみせると、プラーミャは座椅子をの背もたれを破壊して突進してきた。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!! 自律型ドローンはお前が用意したものだろうが!!」
じ、自律型ドローン!?
原作の7年前の今、制度の高い自律型ドローンを入手出来る流通経路があるのか……いや、作ったのはバイジウか。
あかん、早く場所を特定して止めんと……。
まさか……花火大会の会場でリハーサルをしている!?
「ドローンの制御はどうやってるんや!?」
自律型だとしても、普通なら近い距離で操作するコントローラーがあるはずだ。
「はあ!? 知るかそんなもの!! 私の姿を見た者は生きては帰さない!!」
背もたれ越しにナイフの切っ先がヒュンヒュンと飛んでくる。
「それでええんか!? ドローンに括り付けた爆弾もアンタの作品ちゃうんか!?」
それを必死に躱しながら銃を向けても、近距離過ぎて銃を奪われそうになる。
「括り付けただあ!? 『鷲爪のように抱えるように』と言っただろうが!! 他人の手により介入された物など……私の作品と呼んでたまるか!!」
それなら、目的地に辿り着く前に何かの拍子に落ちて爆発するかもしれない。
「……そうか。アンタにプロの矜持は無いんやな。なら……しゃーない」
手元を疎かにして拳銃を奪わせた隙にプラーミャのナイフを奪って首元を掻っ切ろうとすると、背後から叫び声が響いた。
「龍絶!!」
振り返ると伊達班長が防護盾を持って突進してきた。
「次から次へと……うるさいハエめ!!」
プラーミャが発砲した瞬間、プラーミャの右肩が撃ち抜かれたと同時にうちが彼女の首に沿わせていたナイフが銃弾によって弾き飛ばされた。
「大丈夫か!? 龍絶さん!!」
声のする方を見ると天井付近の整備用のキャットウォークから諸伏さんが拳銃を構えて息を切らせていた。
「小癪な真似をするな!! 皆吹き飛んでしまえ!!」
プラーミャがポケットから手榴弾を取り出して安全輪を抜くのを背もたれが邪魔して止められない。
「いけない!!」
「危ない!!」
振り返ると降谷さんが手榴弾をキャッチして天井まで放り投げると、銃弾2発と鉄板により手榴弾が天井窓まで押し出されて空中で爆発した。
「いやあ、危なかったね。……王子様?」
なんで……みんなして……。
「だーかーらー!! 待ってろって言ったろうが!! 龍絶!!」
「みんな……うぅ……」
伊達班長がプラーミャを確保すると、押し寄せるように機動隊がなだれ込んで来た。
「もう心配しなくていいぞ。龍絶……よく頑張ったな」
プラーミャを引き渡して、伊達班長が頭をワシャワシャと撫でてくれると涙で……。
「あかん!! ドローンを止めなきゃあかんのや!! ごめんなさい!!」
リュックサックから赤いビーズのチョーカーを取り出して首に巻き付け、ライフル銃を構えた。
「おいお前たち!! 騙されるなよ!? ソイツは組織のスナイパーで爆弾事件を自作自演した卑劣極まりない卑怯者だ!!」
プラーミャが叫ぶと、場はしんと静まりかえった。
「……知ってるさ、龍絶さんが深い事情を抱えている事くらいは……ね」
……え、降谷さん……もう公安配属なん?
「……コイツが仄暗い事情を抱えていたとしても、今は関係ねー。コイツ自身の口から説明させるまでは白黒つけねえから」
松田さんまで知ってたん?
うち、今までみんなに『悪事を見て見ぬふり』っちゅう罪を背負わせててたん?
「……姉貴が外で待ってる。行ってきな。藍」
、、、
「千速さん。今から言う方角の道路を真っ直ぐ北に走ってください」
千速さんのバイクに跨ってライフル銃を構えた。
「藍……お前を信じて走るからな」
飛びもの対策で電波感知操作器具類一式を持ってきとってよかった。
この時間帯ならドローンの使う周波数帯からの検知と花火大会の立地から飛行コースは絞られる。
そんで、反応があった場所は遮蔽物が紅白鉄塔以外にない田んぼ道を通っていることを示している。
「はい。……いまからうち、体を反らします。なるべく真っ直ぐ走ってください」
うちはみんなを守るために最強の暗殺者になる。
最強の暗殺者ってことは、のちに来る赤井 秀一……ライよりもスナイプの腕が優れた『組織内ナンバー1のスナイパー』にならやきゃあかんのや。
この赤いチョーカーに誓って、曲芸師めいた芸当をしてみせよう。
いいや、しないとあかんのや。
「見えた!!」
紅白鉄塔の航空障害灯が光った瞬間、空中にドローンの影が月明かりに見えた。
ドンッというライフルの銃弾特有の低い雷鳴のような音が響くと、空中に爆発した際の閃光と炎、そして煙が立ち登り爆風がバイクをごと地面を揺らした。
「……やるじゃないか。藍」
千速さんの安堵が滲む声に、涙をこぼしてしまった。
「はい……。やりました……。……あの、その……。ごめんなさい。この体勢から起き上がれないので……止まっていただけると……」