「すっごく綺麗やわ……ナタリーさん……」
初めて出席した冠婚葬祭の祝い事が伊達班長とナタリーさんの結婚式になるとは……。
「来てくれてありがとう。龍絶さんのお洋服もとっても素敵だわ」
コウメイさんが選んでくれたワンピースの袖を触りながらウエディングドレス姿に身を包んだナタリーさんがニコッと微笑んでくれた。
「次は龍絶の番だな!! 龍絶は間違ってもブーケトスにちゃっかり参加しないように!!」
同じく出席していた鬼塚教官に背中をバシッと叩かれて、思わず蹌踉めいてしまった。
「大丈夫かい? 龍絶さん。君はプライベートな場だと途端におっちょこちょいになるからな」
降谷さんに腕を掴まれて、体勢を立て直した。
「降谷さんに言われとうないわ!! ……しっかし伊達班長、人望があるんやな。こんなに広い会場の結婚式なんて漫画で見るくらいやのに……」
何の因果か、伊達班長とナタリーさんの結婚式会場は『ハロウィンの花嫁』でプラーミャ……クリスティーヌ・リシャールか選んだ結婚式会場だった。
「あれあれ? もう未来は変わったんじゃなかったの? その話しちゃって大丈夫? なら漫画に出てくる未婚の美人さん教えてくんない?」
小洒落た服を身に纏った萩原さんが肩を抱いてくる。
「それはセクハラや!! ただ例え話で使うただけや!! そんなんで出逢っても『決められているから』が好きになる理由になるやんか!! そもそもうちはズルして……」
うちは、ズルをして5人に近づいて、鬼塚教官の事故のルートを回避して、コンビニ強盗の話をしようとして罰が当たったように原作知識の記憶がすっぽり抜け落ちて……またこうやって記憶が蘇ったから萩原さんを救えた。
……いずれ、運命の女神様からしっぺ返しされるんやろな。
諸伏さんに萩原さん、降谷さんに千速さんにプロポーズされて……コウメイさんと婚約するなんて都合が良過ぎるし、出来過ぎている。
「龍絶さんはズルなんかしていないじゃないか。……たまには自分を認めてあげなよ」
柔らかい声が耳に落ちると、諸伏さんがふにゃっと笑って千速さんと共に佇んでいた。
「そうだぞ藍!! 自分を過小評価するな!!」
そう言ってバシッと背中を叩くと、千速さんはうちの手を引いて挨拶に回っていた伊達班長と合流したナタリーさんの元へと導いた。
「お!! 千速さんも来てくれたのか!! シフトに無理言わせてすまない」
伊達班長がお辞儀をすると千速さんは豪快に笑った。
「ハハッ!! お前はもっと堂々としていろ!! こんなにも器量よしの別嬪さんを娶ったんだからな!!」
場が笑いに包まれると、ナタリーさんが千速さんの袖を引いた。
「私より目立たないでください。千速さん、すっごく美人だから……」
ナタリーさんが目を伏せた。
千速さんは明るい色の服や華美な装飾を身に着けていなくても、どうしても人目を惹く華やかさがあった。
「どんな宝石より貴方の純白の眩しさに敵う光などないだろう?」
サラッと千速さんが言ってのけると、ナタリーさんは頬を染めた。
……息を吸うように口説き落としたな。
……やっぱりうちへのプロポーズはその場のノリで……。
「……龍絶、話がある」
振り向くと松田さんが渋い顔をして廊下を指差した。
「で、話って何?」
踊り場まで移動すると、松田さんはタバコをふかしながら苦虫を噛み潰したような顔をしてボソっと零した。
「龍絶……お前、プラーミャ戦の時……俺に告白したよな」
……したわ。
「……しました。その……」
「悪い。俺もお前が好きだった……ただ、アイツにボコられて……成り行きで」
「私と松田は付き合う事にしたぞ!! だが、藍!! お前に対する愛は変わらない。いつでも抱いてやるから来い!!」
……とうとうカップル成立したんか。
「おめでとうございます!! よかったな? 松田さん!!」
「少しは嫉妬したり未練がましくしたりしろよ!! はぁ……やっぱりお前には敵わねえな……」
ピンポーンと自宅のチャイムが鳴り、玄関まで行きドアスコープを覗くと諸伏さんが佇んでいた。
「どしたん? 突然……」
防犯用のチェーンを外して扉を開けるとガバっと抱きしめられた。
「会いたかった……龍絶さん……」
諸伏さんはうちをだっこすると、胸に顔を埋めた。
「ちょっ……やめっ……それはセクハラや!!」
肩をグッと押すと顔が離れて、ふにゃっとした笑顔が咲いた。
「ごめん……嫌だった? 義姉さんが出来たから嬉しくなっちゃって……」
まあ確かに姉弟が出来たら嬉しいわな……。
玄関から外を見ると、家までは山道であり宅配業者は麓で荷物を受け渡しするはずなのにスーツケースと段ボール箱が置かれていた。
「……あの荷物、何なん?」
不安に思って尋ねると、諸伏さんはニコッと笑った。
「東京では一緒に住まない? 部屋が一つ空いたよね?」
バイジウが確保されてから、警察と公安が荷物を回収していったせいで唯でさえ殆どなかった家財道具はスッカラカンになっている。
「え……? 別にええけど、理由は何なん?」
まさか義弟になったからが理由だと、コウメイさんと兄弟なのがバレてまう。
うちはバイジウの嫁で、『コウメイを誑かして潜入を続けている』と組織側には認識されとるけど……。
「龍絶さんは兄さんの婚約者になったでしょ? だからオレ達が接触すると怪しまれるから『メスカルの情夫』として同棲すればいいと思って……」
な、確かに性にだらしないからバーボンやスコッチとも親しい間柄とすればカモフラージュにはなるんかな……。
「でも、コウメイさんに」
「兄さんにはオレから伝えるから。心配しないで」
そう言ってうちを降ろすと段ボール箱を室内に運び始めた。
「ほ、本当に大丈夫なん!?」
なんだか、心がザワザワする。
「大丈夫だよ。龍絶さん……藍義姉さんはゆっくり寛いでいてよ」
荷解きをする諸伏さんを横目に、ソファにうつ伏せに寝っ転がった。
「そか……ならメールでもするか」
毎日送っているコウメイさんへのメール、今日は『アオサギが居ました。アオサギは獲物が確実に捕れるまで動きません。ブロンズ像かと思いました』にしようかな。
携帯電話をポチポチ打っていると、背中に覆いかぶされて顎を肩に乗せられた。
「へえ……こういう可愛い文章で兄さんを誑かしたんだ……」
硬直する指先を指先がなぞった。
あかん、また気配を察知できんかった。
また背後を取られてしまった。
身動きが取れへん……。
「スコッ」
「これからも義弟としてよろしくね? ……メスカルさん」
「思い返せば、初めて名乗ってくれたのも、初めてデートしてプロポーズしてくれたのも、初めて猫のぬいぐるみっちゅうプレゼントをくれたのも全部全部、諸伏さんやったな……。せやのに諸伏さんの気持ちを蔑ろにしてしまってごめんなさい。うちは未来予知で諸伏さんの仇を知っとったのに、うちが知っとったことを知ってもうちを責めんでくれた。うちが一番両親の仇のことで傷ついとる諸伏さんに寄り添わんといけんかったのに、置いてきぼりにしてしまって、寂しい思いをさせてごめんなさい。諸伏さんが怒った4回、全部降谷さんがうちに何かしようとした時やった。うちのために幼馴染である降谷さんに怒ってくれたのに。うちが馬鹿なせいで嫌な思いをさせてしまってごめんなさい」
「……ごめん、龍絶さん」
「……うち、今でも諸伏さんを大切な同期6人組やと思っとるよ」
「……うん。一緒にいこう」
「……冬の波、案外温かいな。諸伏さんの手、あったかいからかなあ……」
「……龍絶さん、永遠に君だけを愛すると誓うよ」