『ごめんねメスカル。僕の部屋から書類を届けてくれないかな?』
外出許可が出たことをアメリカのATFに居るバイジウに報告すると、代わりとばかりにミッションを指示されてしまった。
「はあ!? うちをパシりにするん!?」
お使いをするには家に帰ってバイジウの部屋に入って書類を見つけて……何処に届けるんや?
『ジンに届けないといけない、重要な書類なんだ。お願い出来ないかな?』
ジンて……あのジン!?
もし届けんかったら『疑わしきは罰する』でうちだけでなくバイジウの命も危なくなるやん!
「じ……あの、うちは今警察学校におるんやから……」
今のうちがジンに接触したら警察学校の人間が組織に会うってことやん、全ての計画がおじゃんになってまう。
『大丈夫だよ、僕の指示に従ってくれれば上手くいくから』
、、、
「えーと……バイジウ……ヤンの部屋の鍵……鍵かかっとるやないの!!」
外出許可を得て、松田さん達が合コンに行っている間に家に戻った。
家にある携帯電話をスピーカーにしながらドアノブを触っても鍵がかかっとるなら意味ない。
『前に開錠の方法を教えたはずだよ?』
確かに訓練の一環で教わったけど……。
とりあえず鍵穴を弄ると鍵がカチャリと開いて、質素で生活感の無い家具と雑貨に相反する異様な様子をした部屋が現れた。
「な、なんなん? このポスターに雑誌や新聞の切り抜き……誰? まるで映画に出てくるストーカーの部屋……」
壁や天井には隙間がないほどの同じ男の人を写した写真が貼られていた。
『やだなぁ、ストーカーだなんて……。彼はエルダー・ブルドン。僕の優秀な兄だよ。映画業界にいるんだ』
へぇ……ヤンに兄がいたんか……なら俳優なん?
なら仕方がない……になるか?
「え……お兄ちゃん大好きっ子なんやな……」
大好きっ子だとして、こんなことするん?
『ふふ……僕は優しく穏やかな兄さんを模倣をして生きてきたから……兄さんは目標なんだ。それよりデスクの下段にあるラックに茶封筒があるでしょう?』
あかん!
部屋に気を取られていてミッションを忘れるとこやった!
使用感の無い引き出しを開けると茶封筒だけがポツンと入っている。
「あった!! これなんの書類なん?」
茶封筒はハトメ糸巻き式で封がされていなかった。
薄目で中をチラッと見ると『龍絶藍の生活態度、及び技能評価について』という評価書類だった。
その書類の総合評価は『優』になっている。
『メスカルには秘密だよ。それを持って今から言う住所にある公衆電話まで行くんだ』
よかった……もし『並』やったら、うちはジンに消されとったかもしれん。
バイジウ、うちのこと評価してくれとるんやな……。
「分かった!! 任せといて!!」
『よぉメスカル……学生生活はどうだ?』
公衆電話に着くと公衆電話が鳴り始めて、慌てて電話を取ったら相手はあのジンだった。
「えっと……順調です」
どないしよ、なんて答えればいいか分からん。
『よかったな。バイジウにおんぶに抱っこ、とことん甘やかされてるお姫様は特別に組織の仕事を請け負わなくていいらしい』
……え? 待って?
「え!? うちは仕事……」
そういえば、バイジウと暮らし始めてから大学生活中に組織からの暗殺の仕事は一回も無かった。
『バイジウが代わりに仕事をこなしていた事すら気付かねえとはな』
ただ単にうちはテキーラと組んでいたから、テキーラから離れれば仕事を振る必要が無いからとされてるとばかり……。
なら、バイジウが学生生活に集中させるために仕事を肩代わりしてくれとったってこと?
「うちは……スパイとして警察内部に入りこまんといけんから……」
義兄として……色々とやっとってくれてたんか。
『……書類は公衆電話のラックに置いておけ。メスカル』
低い声が受話口から聞こえるとブツリという音がして会話は終わった。
そのまま書類を分厚い電話帳の隣に差し込んで公衆電話から出て、ふらふらと歩いた。
「き、緊張したぁ……」
ジンから『裏切り者』『ネズミ』『無能』というワードが出んかったのは不幸中の幸いや……。
警察学校を卒業したら……うちもまた組織の仕事をせんといけんよな……。
未来が変わった今は満天堂の爆発事件が場所や日時を変えて起こるかもわからんから、テキーラを一人にはしておけん。
なにより義兄のバイジウにばっかり仕事を押し付けられへんから。
義理とはいえ、れっきとした兄妹、家族や。
コナンの世界で知名度がないっちゅうことは、組織の中でもモブで穏健派なんやろうし、そんな人間を巻き込んではあかんから。
「……絶対にうちは失敗せえへんから」
「おい龍絶!! お前昨日の夜何処ほっつき歩いてたんだ? 不良娘!!」
翌朝、顔を見るなり松田さんに絡まれた。
「別に何処でもええやろ!! ……そんなん言うて、松田さんの成果はどないやったん?」
腕を組んでそっぽを向いた。
……原作では5人共、特に何事もなく終わったんよな?
「俺? ああ、女を一人持ち帰って一晩中抱いたけど?」
そっか、一人持ち帰って……
「……ええ!? 嘘やろ!? なんで!? そんなん……そんな……ひどいわ……」
松田さんが別の教場の何処の馬の骨とも分からん女の子と一晩中……。
「陣平ちゃん!! 龍絶ちゃんが信じちゃってるでしょうが!! 泣かないで……よしよし」
萩原さんがハンカチで目の縁を拭ってくれた。
「……バーカ。何信じてガチ泣きしてんだよ」
松田さんが溜息をついて頭をグリグリと撫でてくる。
「だってぇ……松田さんイケメンやし……カッコいいし……優しいから女の子にモテるからぁ……」
えづくようにひゃっくりしながら泣いてしまうと三人分の足音が聴こえてき、松田さんが廊下の向こう側に吹っ飛んだ。
「痛ってえ……ゼロ!! テメェ本気で殴りやがったな!?」
いつの間にか隣には降谷さん、諸伏さん、伊達班長が立っていた。
「松田!! 龍絶さんは免疫が無いんだ!! 弁えろ!!」
振りかざした拳を引っ込めると降谷さんはニコッと微笑んだ。
「大丈夫? 龍絶さん。ごめんね? 松田には後で僕がよく聞かせるから」
手の甲、真っ赤やけど……。
「そうだ、お通しが美味くてな! 今度龍絶も一緒に食べに行こう!!」
伊達班長に肩を何度も叩かれて、感情の整理が追いつかん。
「お通しなら俺が再現できるからさ……。今の寮生活だと厳しいから警察学校を卒業したら部屋に遊びにおいでよ。作ってあげる」
諸伏さんが微笑むと松田さんに萩原さん、伊達班長が声を上げた。
「どさくさに紛れて部屋デートの約束を取り付けようとするな!!」
まって、まって。
お通しの作り方を教えるくだりは原作で諸伏さんが降谷さんに教える流れで……。
「えっと……デート?」
混乱したまま言われた口を開くと中に飴が突っ込まれた。
「馬鹿女!! 今は口を開くな!!」
松田さんに入れられた飴はハッカ味で、妙にスースーして涙も引っ込んでしまった。
「馬鹿っていうほうが馬鹿なんや!! はよ席に着かんと鬼塚教官からどやされるで!! ……みんな!!」