ピンポーンと自宅のチャイムが鳴り、玄関まで行きドアスコープを覗くと諸伏さんが佇んでいた。
「どしたん? 突然……」
防犯用のチェーンを外して扉を開けるとガバっと抱きしめられた。
「会いたかった……龍絶さん……」
諸伏さんはうちをだっこすると、胸に顔を埋めた。
「ちょっ……やめっ……それはセクハラや!!」
肩をグッと押すと顔が離れて、ふにゃっとした笑顔が咲いた。
「ごめん……嫌だった? 義姉さんが出来たから嬉しくなっちゃって……」
まあ確かに姉弟が出来たら嬉しいわな……。
玄関から外を見ると、家までは山道であり宅配業者は麓で荷物を受け渡しするはずなのにスーツケースと段ボール箱が置かれていた。
「……あの荷物、何なん?」
不安に思って尋ねると、諸伏さんはニコッと笑った。
「東京では一緒に住まない? 部屋が一つ空いたよね?」
バイジウが確保されてから、警察と公安が荷物を回収していったせいで唯でさえ殆どなかった家財道具はスッカラカンになっている。
「え……? 別にええけど、理由は何なん?」
まさか義弟になったからが理由だと、コウメイさんと兄弟なのがバレてまう。
うちはバイジウの嫁で、『コウメイを誑かして潜入を続けている』と組織側には認識されとるけど……。
「龍絶さんは兄さんの婚約者になったでしょ? だからオレ達が接触すると怪しまれるから『メスカルの情夫』として同棲すればいいと思って……」
な、確かに性にだらしないからバーボンやスコッチとも親しい間柄とすればカモフラージュにはなるんかな……。
「でも、コウメイさんに」
「兄さんにはオレから伝えるから。心配しないで」
そう言ってうちを降ろすと段ボール箱を室内に運び始めた。
「ほ、本当に大丈夫なん!?」
なんだか、心がザワザワする。
「大丈夫だよ。龍絶さん……藍義姉さんはゆっくり寛いでいてよ」
荷解きをする諸伏さんを横目に、ソファに座り直した。
「あんな? うち、諸伏さんに言わないといけん事があんねん」
うちが絶対にしないといけない最後のけじめ。
「……どんな話?」
諸伏さんは段ボールから手を離して、向かいのソファに座った。
「諸伏さんが最初にプロポーズしてくれたんに、お兄さんと婚約する形になってしまって……ごめんなさい」
頭を深く下げると、諸伏さんの声が震えた。
「……しょうがないよ。君の立場を考えたら、兄さんの保護下にはいるのが当然で……組織と公安の目を考えたら一番安心できる……」
震えながら、膝に置いた拳を握りしめている。
「諸伏さんごめんなさい、謝って済む問題やないのは分かっとる。諸伏さんの気持ちを蔑ろにして……置いてきぼりにしてごめんなさい。ご両親の事件を知っていたうちが諸伏さんに寄り添わんといけんかったのに、ひとりぼっちにしてしまって……ごめんなさい」
諸伏さんの潤んだ目をジッと見つめると、諸伏さんが一筋の涙を零した。
「……オレの方こそ……君を守ろうと一歩前に出ればよかった……。兄さんから『龍絶さんを今でも愛していますか? 私はバイジウ戦に向けて婚約をしますが、愛がないのであれば、私が彼女を愛します』って宣言された時……オレ……オレは……」
涙は大粒になって手の甲に弾けた。
……やっぱり、バイジウ戦に向けての婚約やったんやな。
「……うちは今でも諸伏さんを大切に思っとるよ。……諸伏さんに憎まれても蔑まれても受け止める。……恨まれて当然やから」
そういった瞬間、テーブルを跨いでぎゅうっとハグをされた。
「龍絶さん……ごめんなさい。オレ、龍絶さんを諦められない……忘れるなんて……引き下がるなんて出来ないよ……ずっと好きなままでいい?」
嗚咽混じりの声に、うちも涙が溢れてしまった。
「うん……うん……ええで……」
背中をさすると顔が離れて、いつものふにゃっとした笑顔が咲いた。
「龍絶さん……大好き……ずっとずっと……愛してる……」
「そんでな? これがお祭りの時に諸伏さんからもらった猫ちゃんのぬいぐるみ!! これが松田さんからもらったピンク色の花で作ったブレスレットのドライフラワー。これが松田さんが千速さんにプロポーズする為にラブホに持ってきた薔薇の花束のドライフラワーや!! ……それに5人がくれた浴衣も飾っとるで?」
諸伏さんの荷解きを手伝った後、自室に飾ってあるインテリアを紹介した。
「……持っていてくれたんだ……嬉しい」
猫のぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめながら諸伏さんはふにゃっと笑った。
「大切な人達からの贈り物やからな」
人からの想いは、ちゃんと受け止めんといけないから。
「……部屋は後で見せて? 龍絶さん……藍義姉さん、何か食べたいものはある?」
腕まくりした諸伏さんにニコッと笑った。
「わたあめ!!」
すると、ふにゃふにゃっと笑って頭を撫でてくれた。
「仕方がない義姉さんだなぁ……。材料を一緒に買いに行こうか。……兄さんも呼んでわたあめパーティしよっか」