「藍義姉さん……飴がついてるよ」
ヒロに『尾行に気を付けながら龍絶さんの家に来て欲しい』と連絡を受けて、ヤン関連で進展があったのかと来てみれば……。
龍絶さんと高明さん、ヒロが綿あめメーカーを囲んで、あろうことかヒロは龍絶さんの頬を舐めている。
「スケベな真似はやめなさい!!」
龍絶さんがヒロの肩を押してデコピンをした。
……デコピンで済ませられる事か?
「義姉さんの指……甘いね」
ヒロは悪びれる様子も無く、龍絶さんの綿あめが絡まった指をしゃぶり始めた。
「こら!! 諸伏さん!! まったく……躾のなってない大型犬みたいやな!!」
龍絶さんは高明さんの婚約者だぞ!?
目の前で弟による不貞が繰り広げられるなど、高明さんにとって言語道断ではないか。
「だ、大丈夫なんですか? 高明さん……」
恐る恐る目の前に座り、静かにコーヒーを飲む高明さんの顔色を伺った。
「見ていればわかります」
見ていればって……肌を舐めたり指をしゃぶるのは性行為の前戯に近いだろ……。
「……なら、オレを調教して躾けてよ……義姉さん……」
ヒロはゆったりとしたワンピースに身を包んだ龍絶さんの胸に顔を埋め、抱きつきながら顔を見上げた。
……アウトだろ、どう考えても。
「うぅ……セクハラになるから止めてっていっとるやん……」
龍絶さんは顔を手で覆って涙声を出した。
当然だろ……。
「ごめんね、龍絶さん……。嫌だったよね?」
慌てた様子で正座すると、ヒロは龍絶さんの顔を覗き込んだ。
「……隙あり!! ぱちぱち飴の刑や!!」
龍絶さんがバッと手のひらをヒロの口に押し当てると、ヒロは目を丸くしたあと、ニコニコと笑った。
「もふ、もふもふ……パチパチして痛いよ……義姉さん……」
……まさか、これで限りなく黒に近いグレーの行為が帳消しになるのか?
「というわけです」
何が『というわけ』なのかが分からない。
ヒロと高明さんの兄弟の関係性が分からない。
龍絶さんは高明さんの婚約者になってから性教育を受けてセクハラを正しく認識するようになったのではなかったのか?
……ならば、僕もいけるのか?
「龍絶さん、僕にも優しくして?」
ヒロの反対側に座り、龍絶さんの頬にキスをして胸に顔を埋めた。
……相変わらず龍絶さんの肌は柔らかい。
「ひっ……うう……うわぁあん」
ビクッとして顔を上げると龍絶さんは本当に涙を流していた。
何故だ……ヒロは舐めて、僕はキスだけなのに。
「降谷さん……」
高明さんの刃物を突き立てるような目線が突き刺さる。
「ゼロ……ラインを考えろよ」
穏やかだったヒロの表情が般若に変わり、場の空気が凍った。
「……すみませんでした」
、、、
「聞いてくれよ。綿あめパーティに呼ばれてさ、その時に龍絶さんの頬にキスして胸に顔を埋めたら……龍絶さんが泣いたんだ」
久しぶりに男5人で集まって、雑談から始めようとした瞬間に伊達班長の鉄拳をくらい、吹っ飛ばされそうになるのをなんとか耐えた。
「ガハッ……待ってくれ。ヒロは龍絶さんの頬と指を舐めたんだぞ!? それに胸に顔を埋めたんだ!! 明らかにヒロの方こそセクハラだろ!?」
萩原と松田に同意を求めると梯子を外されていた。
「降谷ちゃん……まだセクハラやってんの? 藍ちゃんはもう人の女だよ?」
なっ……。
萩原だってまだドサクサに紛れて腰を抱いたりしてるだろ。
「ヒロの旦那がそんなことするわきゃねえだろうが」
松田……龍絶さんに新妻は裸エプロンで旦那様に接するんだとか馬鹿みたいな法螺を吹き込んでいるくせに。
「オレは龍絶さんが嫌がることはしていないよ。……ゼロはその後三回も同じ事を繰り返して龍絶さんを泣かせてさ」
ヒロが零した瞬間に伊達班長の拳が振り上がり、体が宙を舞った。
「なぜ……」
「ねえ聞いた? 長野県警の孔明と言われる殿方がうら若き女性を囲ってしっぽり7泊8日のお泊りしたんですって! きっと男女のいろはを教え込まれたんだわ……想像しただけで興奮しちゃう!」
コウメイが龍絶を連れ込んだ旅館に来てみれば、この有様だ。
28歳の刑事と22歳の爆処勤め……長野県の人間じゃねえから、警察関連だとも思われねえ女との長期宿泊はあらぬ誤解を生む。
……つーより、婚約したから何かしていても問題では無いんだが、警察官としての顔がある立場。
アイツの経歴に泥を塗ることになっちまう。
「きゃ、孔明刑事って意外と情熱的なのね」
上原……長野県警の恥になると……。
「警察官が不純なイメージを持たれてどうする」
、、、
「コウメイ、お前がヤンとの争いのためだけに泥をかぶる必要はねえだろ」
義兄であるヤンとの裁判に係る処理のために龍絶を囲ってるんだろう。
「愛し合っていますので、問題ありません」
だから、そうじゃねえ。
「噂になってる!!」
若い女にうつつを抜かした刑事だと、人から後ろ指をさされてもいいのか?
「人の噂も七十五日です」
コウメイは相変わらずの様子で窓の外を眺めた。
「はあ……」
、、、
「龍絶、月1の遠距離恋愛でいいのか?」
龍絶が長野県警に顔を出した時、声を掛けて引き留めた。
「事情があって長野には住めんし、一日でも満足できるくらい愛してくれますから大丈夫です!」
愛してくれます……ねえ。
「あのなあ、お前……体目的とか考えたことねえのか?」
龍絶は首を傾げたあと、ニコッと笑った。
「体目的やと思います!!」
「ゴフォッ」
あまりの爆弾発言に噎せてしまった。
なんで肯定的なんだよ。
「それに東京では弟……ええと、なんやったかな? 情……間夫? が住んどりますから淋しくないです!!」
そうか、間夫……。
「ゴフォッゴホッゴホゴホッ」
噎せかえってしまった。
東京で間夫と住んでいる!?
とんだ悪女じゃねえか!!
コウメイはインモラルな関係を許しているのか?
「敢ちゃん大丈夫?」
上原が近寄ってきて背中を撫でた。
なんてこった……。
「大丈夫なわきゃねえだろ」