「龍絶さん、班長に一本取られたからって其処までヘコむことないよ」
諸伏さんに慰められても、心は沈んだままや。
うちは4年間大学生活の傍ら、組織の構成員であるバイジウに暗殺術と対人格闘訓練を習ってきたのに……あんなにもあっさり投げ飛ばされるなんて……。
バイジウの評価表の『優』は甘い身内贔屓だったん?
それとも組織の構成員より警察学校同期組の方が優れとるん?
……そもそも原作に出てこないからバイジウの立ち位置を知らん。
実はバイジウが下流の構成員で、だから教えられた技術やスキルのレベルが低かった……?
「正直、俺の懐に入って一瞬の判断で取りに来る速攻型で立ち回ったのは龍絶、お前くらいだぞ? 大したもんだ、自信を持て!!」
戦った相手からフォローされると、惨めに感じて涙腺がまた緩んでしまう。
「なあ、験直しに週末どっかに行かねえか?」
松田さんに肩を引っ張らた……あれ、これもしかして……。
「工具店じゃなくカーショップやバイクショップならいいぜ? あ、龍絶ちゃんは機械系見るの好きな感じかな?」
機械系が好きなんやなく、爆発物処理の技術を磨くために結果的に見る機会が増えたというか……。
「はい! 回路を見るの好きやから!」
車やバイクの仕組みの理解が信管起爆の原理理解に繋がるからな。
「それならオレも付き合うよ」
諸伏さん、萩原さん、松田さんと週末に出かけるとか夢みたいやな……。
「よし! 決まりだ。カーショップとバイクショップどっちに決める?」
……ん?
「……バイクショップつったら、この前バイクショップで妙なタトゥー入れた男を見かけたな」
あかん!!
「……妙なタトゥー?」
これは諸伏さんのご両親の敵に繋がる重要な場面やないの!?
「ああ、台付きの杯……ゴブレットっつうの? あんな図柄の」
あかんあかんあかん!!
「それどんな男だ!? 何処に住んでる!? 名前は!?」
その男はクリーニング屋の……。
「知らねーよ……」
でも今言ってしまったらご両親の事件も次に起こる事件も解決しないかもしれん。
「おい、どうした? 諸伏ちゃん……」
うち、諸伏さんに嘘をついてることに……なるんかな……。
「悪い、松田……」
諸伏さんは真剣ご両親の敵を探しているのに、うちは原作知識で犯人も、その場の状況も知っとるんやから……。
「……そんなに興味あんなら今夜そのバイクショップに行ってみっか?」
まって!?
このイベントがあるっちゅうことは……今晩はコンビニ強盗が起こるやん!!
コンビニ強盗が起こるコンビニに未来の小さな変化によって伊達班長と降谷さんが訪れなかったら、もし外部に連絡する手段が無くなっていたら……。
何の罪もない買い物客の人らが口封じのために殺害されてしまう!!
それだけはあかん、うちは伊達班長と降谷さんと一緒に行動せな。
「あ、うち……今晩はやることあるからパスするわ……ごめんなさい」
「バイ……ヤン!! 次のホリデー、絶対に帰ってきて!! うちを最強の構成員にして!! うちの鍛錬が甘いからや!! 努力が足らんからこうなってまうんや!!」
自由時間になると直ぐに公衆電話で国際電話を掛けた。
『いいけど……君は充分闘えるはずだよ? 比較対象が雲の上だったらいつまで経っても満足出来るレベルには到達しないよ』
そんなことを言ってられんのや。
うちは5人を救う。
その為には5人より強くなっとらんと救いきれない、一人の命も取りこぼせんのなら、攻撃は最大の防御として武術を極めないといけんから。
「兎に角、鬼コーチで構わんから頼むわ!! お願い!!」
、、、
「はぁ……徹底的に鍛えんと……うちはズルしてなない。自分の力で……」
運命論なら、運命の女神様みたいなのがおって……因果を回しとるとして……うちが5人を救うことを許してくれるんやろか……。
うちに有利に働くように原作知識を使ってへんのやから……ズルやチートを……。
「はは……馬鹿みたいやな、うち……」
ふらふらと寮室まで戻ろうとすると肩を叩かれた。
「龍絶さん、どうしたの? 大丈夫? 顔が真っ青だけど……」
あ、あかん……降谷さんも買い物に出かけるんやった……ついて行かんと……。
「うち、急にめっちゃ外の空気吸いたくなって……」
上手いこと言い訳が考えられへん……。
「あはは、変わった言い訳だね。……後で僕に事情を聞かせて? 秘密は守るよ」
言えるわけ無いやん『この世界はコミックの中の出来事で、うちは一読者であってキャラクターである5人を救いに来た』だなんて……。
「ありがとう降谷さん。うちのことは気にしないで……。外行こ外!! 今夜は三日月やから!! 着替えて来るから伊達班長と一緒に待っててな!!」
急いで寮室まで走った。
今からうちはコンビニ強盗に遭って、一旦拘束された上で脱出し、三人を待たなあかんのや……。
「いいけど……って行っちゃった。伊達班長と出かける約束でもしてたのかな」
「昼間は道場で悪かったな、降谷。ちと言い過ぎた」
とりあえず三人で外に出掛けられたのはいいものの……。
「いやいや」
例のコンビニへの道がこっちで合っているのかサッパリ分からん。
「俺の親父ことなんざ、お前らには何の関係もないのにな……」
伊達班長はお父さんの事を誤解したままでいる。
「確か、お父さんも警察官だったんだよな」
誤解してる、そう言いたい気持ちをグッと堪えた。
「ああ、交番勤務の巡査長。ヒョロっとしていて見た目は弱そうだったけど、俺は尊敬してたよ。……親父が非番だったあの日まではな……」
道すがら、伊達班長のお父さんが警察官を退職するまでの話を黙って聞いていた。
「……後で知ったことだが、あの事件は抗争に負けた暴力団員が逃亡資金欲しさに起こした犯行で、その後も違う店で傷害事件を起こしていたそうだ」
でも、それは結果論であって、もし伊達班長のお父さんが居なかったら他の客にまで危害を振るう殺人事件に発展していたかもしれない。
「つまり、あの日親父が強くてあの男をその場で捕まえていたら、被害者を誰一人出すことなく正義は遂行されたというわけだ。……くだらねえ話につき合わせて悪なったな」
「まってえな!! 伊達班長、どうしてお父さんがそう行動したかを考え……」
コンビニにはいる瞬間、咄嗟に伊達班長の腕を掴むと『バンッ』という聞き馴染みのある発砲音が後ろで聴こえた。
「騒ぐんじゃねー!!」
振り向くと強盗二人組が猟銃を構えて入り口付近に立っていた。
あかん、来るのが早すぎひん!?
……もしかして、うちが着替えるのが遅かったせいでタイミングが狂ったん?
「……とりあえず、指示に従うフリをするぞ」
伊達班長が小声で囁くと降谷さんは頷き、うちも頷いて店内のレジ前にある陳列棚に外から姿が隠れるように他の客と同じく座らされた。
「降谷、龍絶。犯人は二人、俺と降谷で一人ずつ制圧し、龍絶がサポートに回る」
ダメや、後から強盗犯の仲間が来る!!
「様子がおかしい。なんでレジの金を盗んで直ぐに逃走しないんだ?」
「それは仲間が」
ガツンッという鈍い音と衝撃が頭に響くと、目の前が真っ暗になった。
「龍絶さん!!」
「龍絶!!」
「何コソコソ喋ってんだ……殺すぞテメー……」