「おい、意識はあるか?」
頭が痛い……こんなに頭が揺れるくらいの痛みはテキーラに拳骨を喰らって尻もちをついた埠頭でのスナイプ失敗の時以来や。
本当ならうちやなくて降谷さんに計画を話している伊達班長が後ろから近づいてきた強盗班の仲間に猟銃のストック部分で頭を殴られる場面だったはず……。
……なんで伊達班長が殴られるはずやったと決めつけとんの?
目の前が真っ暗や……手首を後ろ手に結束バンドで拘束されとるな……。
男の足音……呼吸音が5人分あるから一人だけ別場所に拉致された?
うちはコンビニ強盗に出くわして、伊達班長と降谷さんと一緒に監禁されたあとで萩原さんと松田さん、諸伏さんの三人に看板照明を使ってモールスでhelpを送らんと……。
メッセージを送ったら三人は鬼塚教場のみんなを連れて助けにしてくるんやから……。
……って、なんでそんな希望的観測をしとるんや?
原作知識……チート……?
なんで急にコミックで使われるような単語が出てくるん?
……名探偵コナン……?
なんやそれ……。
「むぐぐ……むぐ……」
口に粘着テープが貼られている……この場合……。
メスカルとしてコンビニ強盗を始末する他ないか……。
「流石に可哀想だよ、目隠しは外してあげなよ」
……諸伏さん!?
ならもうコンビニ強盗は捕まったん?
「バーカ諸伏!! 目隠ししてる方がエロいだろ」
「「「松田!!」」」
良かった、5人全員居る……。
シュルリと目隠しに使われていたネクタイが外されると、医務室のベッドの上で結束バンドをされた状態だった。
……いや、なんで?
「龍絶さんが強盗に殴られて意識を失った後、君と同じように拘束されてね。でも君が負傷者になったお陰で監視の目が緩み、拘束を外して外部に救援を出せたんだ。不幸中の幸いだったよ」
降谷さんが粘着テープをゆっくりと剥がしてくれた。
「ならお客さんはみんな無事なん!? 誰も負傷者だしてない!? 本当に!?」
泣きべそをかきながら無事を確認すると、伊達班長が肩を思いっきり叩いた。
「負傷者一名!! 龍絶 藍!! ……なんてな。頭を殴られての失神だったから心配したが、軽い脳震盪による気絶じゃないかってことだ。良かった良かった」
怪我したのがうちだけなら良かった……。
推しの二人の死につながる事態にならなかったんなら……。
……いやいや、推しって誰のことやねん。
「そうやったん!? 流石伊達班長と降谷さんやわ!! ……で、なんでうちだけ結束バンドで拘束されたままなん?」
「龍絶が一番最初にダウンしたからな。俺達からの愛の鞭っつうやつだ!! 自力で拘束を外してみせろ!!」
松田さんから無茶振りをされてしまった。
……けど、最強の暗殺者になる為にはこれくらい出来ないとあかんから。
うちはこのくらいの試練、なんてこと無く熟してなんぼ!!
「龍絶さん、拘束プレイだから安心してね。無理なようならオレが外すから」
「「「諸伏!!」」」
諸伏さんの手は借りんでも一人で結束バンドは外せる。
ベッドに寝転がって頭を布団に押し付けて前髪につけていた黒いヘアピンを外した後、起き上がって後ろ手に掴んで結束バンドの爪が噛み合うロック部分に挿し込んでから、体重を乗せて背中側から倒れ込んだ。
するとブチッという音がしてロック部分が壊れ、両手を外側に力一杯引っ張ると結束バンドは完全に壊れた。
「どや!? うちだって結束バンドくらい外せるわ!!」
ドヤ顔で両手首を5人に見せつけると降谷さんと諸伏さんの顔色がみるみるうちに変わっていった。
「松田!! 痕が残るくらいキツく拘束するヤツがあるか!!」
「龍絶さんの手首が赤くなってる!! どうしてくれるんだ!!」
別にこのくらいの痕、二日もあれば消えると思うんやけど……。
なんや諸伏さんは特に過保護やな……。
「零!! 諸伏!! お前達が甘やかしてどうすんだよ!! 訓練だっつってるだろうが!!」
そういえば、コンビニから医務室まで……誰が運んでくれたんやろ……。
まさかワッショイワッショイって胴上げしながら運んだとか……?
あり得る……めっちゃ恥ずかしい。
「痛くない? 平気? ……気付かなかったけど、龍絶さんって手首が細いんだね。オレと比べて全然違う」
諸伏さんがベッドに腰掛けて手首同士を重ねて目を細めた。
「うちが細いんやなくて、ただ単に男女の体格差やない?」
確かに道場以外では制服を着ているから体格差を意識することはほとんどないかもしれん。
「諸伏!! またどさくさに紛れて美味しいとこを持っていこうとするな!!」
松田さんが諸伏さんに詰め寄ろうとすると萩原さんもベッドに腰掛けて耳打ちしてきた。
「……陣平ちゃん、龍絶ちゃんが殴られたって分かったら犯人達をボコボコにしようとしてさ、俺達4人がかりでも止めるの大変だったんだ。アレでも救急病院に龍絶ちゃんを背負って連れ込んで、医務室に連れて来るまでずーっと龍絶ちゃんの心配してたんだよ」
……え、そうなん?
コンビニから病院、警察学校までって結構距離あるで?
松田さんの方を見るとバツが悪そうに医務室から出ていってしまった。
「……もう訓練は終いだ。そろそろ鬼公から与えられた時間を過ぎる。解散だ解散。……早く寝とけ、龍絶」
「龍絶さん!? 昨日の今日なんだから重装備訓練はやめておいた方がいいよ。鬼塚教官も事情は把握してるんだから……」
装備を装着していると降谷さんと諸伏さんに声を掛けられた。
「全然大丈夫や!! 平気平気!!」
この程度の負傷でへこたれていたら、最強の暗殺者になれへん。
うちは最強の暗殺者になって……。
なって……なにするんやったっけ。
爆発物処理班に潜伏して組織の指示を待つんやったかな。
「そんなこと言って……後でビービー泣くんじゃねえぞ!!」
松田さんに腕を引っ張られて立ち上がった。
うちは一人でも立ち上がれる。
警察学校を首席で卒業して、優秀な成績を納めて警察内部に入り込むんや。
そして来たるべき……えっと、何かの為に準備をする。
「もちろんや!! 松田さんこそヘバッて倒れても知らんからな!!」
、、、
「噂通りの手際の良さだ。松田 陣平と萩原 研二、そして龍絶 藍」
自動二輪車技能訓練中、サングラスにスーツ姿のオッサンが話しかけてきた。
「君たちは機動隊に興味はないかね」
機動隊……。
「ああ?」
「詳しく言えば爆発物処理班にスカウトしたいと思っている」
嘘やろ!?
本命の爆発物処理班にスカウトされるん!?
「機動隊の爆発物処理班だとぉ!? んなの興味あるに決まってんだろーが!! よろしくお願いしてやるぜ!!」
松田さんも爆発物処理班になるん?
同期も同じ班になるなら心強いわ。
「あー、えーと。萩原君、君は?」
萩原さんは顎に手を置いて宙を見た。
「ちょっと考えさせて貰おうかな……」
もし二人と一緒に班入りするなら、組織のメスカルだと悟られんように特に注意深く接さないといけんな。
気心知れた仲なら二人しか知らん警察内部の情報をサラッと口から滑らすかもしれん。
「龍絶君の方はどうかな?」
そんなん決まっとるやん!!
この日の為に爆弾解体技術、成分構成知識に関するアレコレを身に着けたんやから。
「うちも爆発物処理班希望です!! よろしくお願いします!!」