たとえば家の中にラスダンが生えてしまった場合の対処法。 作:埃の山。
【オース Lv251 ステータスが閲覧できません】
「……ぁ、────!」
知らない、大きすぎる痛みに声すら出ない。
考える間もなく地面に倒れ込み、右手で存在しない左腕を抑える。
どうにか痛みに耐える? できるわけないだろそんなこと。
これが、ダンジョン。
これが、戦場。
いや──違う。
これが、危険度Ex?
「カカカカカカ」
「っ、にげ、なきゃ……!」
嘲笑うようにカタカタと首を傾げる牛骨──オース。
動物型のスケルトンなんて聞いたことがない、いやそもそもなにをされたんだ?
未確認モンスターなんて冗談だろう。
そんな、ことこの場においては命取りにすらなり得る煩悩を痛みで塗りつぶしながら、必死に壁を伝って逃げる。
さっきの衝撃で全身が痛い。でも、歩けないほどじゃない。
たとえ、これがヤツの気まぐれだとしても、それで助かっているのなら、逃げなきゃ。
「カカカカカカ」
──音が離れない。
入り口側にオースがいるせいで戻れないから、ひたすら奥に進む。
進む、進む。進んでいるはずなのに、音が一切離れない。
離れず、されど近づくこともなく。
……完全に、遊んでやがる。
つまり、死んでないのは気まぐれでもなんでもねぇ……!
「性悪が……っ!」
顔を痛みで歪めながら、必死に進む。
離せる気はしない、と言うか多分できない。
少し冷静になった頭は云う、あれはただの高速移動だと。
ただ、俺のことをダンジョンの入り口から離そうとしただけだ。
でも、たったそれだけで俺の腕は千切られた。
あまりにも、格が違いすぎる。
それに、こうやって入り口から離されていってるのも最悪だ。
なにか奇跡が起こって見逃されたとして、それで俺は戻れるか?
戻れるわけないだろ、もう既に迷ってんだよ。
勝ち目──いや、生存の目は。もう、ない。
「にげ、ろ──」
「カカカカカカ」
──そうして、時は訪れる。
俺という玩具を、オースが処分するときが。
小さな死神が笑う。
カタカタ揺れて、首をかしげる。
そうして絶望の表情を一通り愉しんだソイツは、ゆっくりと血の付いた口を開けていく。
本当に趣味が悪いな。
殺す時すらこれかよ、クソが。
走馬灯のようにこれまでの流れが鮮明に浮かび上がる。
はは、これで終わりか──そう、覚悟した。
──だから。
それはお互いに想定外で。
「GAAAAAAAA!」
ナニカ、巨大な咆哮が鳴り響いた。
それと同時にオースが消え去った。
激震。
背後でなにかが、地面に叩きつけられる。
【レベルが上がりました。
個体名:新堂イズナ
Lv1→2】
【特殊条件:瀕死の漁夫の利を確認しました。
余剰獲得経験値をスキルへ変換可能です。
獲得可能スキル:『隠密Lv1』『生存Lv1』】
【特殊条件:弱者の命拾いを確認しました。
余剰獲得経験値をスキルへ変換可能です。
獲得可能スキル:『トレインLv1』】
【モンスター討伐 ×1 達成確認
スタンピードまで:72:00:00】
「……は?」
何が起きたのかわからない。
レベルが上がったということは、オースは死んだ?
わけがわからないまま恐る恐る、背後へと顔を向ける。
【≪boss:顎の王≫啼龍グラン Lv450 ステータスが閲覧できません】
そこには王者の如く君臨する、ティラノサウルスの如き巨大な龍。
俺のことは、気付いている。
気付いていない筈がない、だって先程その目で俺を一瞥していたのだから。
だから俺が今生きている理由は、俺という存在に興味がないから。
息一つできないほどの圧倒的なプレッシャーを放っておきながら、興味がない。
固まっている俺の横を、大きな足音を立てて。
隠れる様子も、周囲を気遣う様子もなく、王者として歩いていく。
呆然とその巨躯が消える様を見送り、ふと先程の激震があった場所に目を向ける。
「……はは、冗談だろ」
もはや腕の痛みはどうでもよかった。
感じている余裕すらない。
尻尾を叩きつけたのであろう、壁に出来たクレーターには砕けた骨の残骸がこびりついていた。
最早元の形すらわからない程に粉々となったそれを見て、心の底から理解した。
最初からあのオースは、ここではただの弱者に過ぎない。
あれほどの強さを誇りながら、ここではあれは弱者だ。
そして俺は、その弱者すら遊ばれる、虫に過ぎなかったのだ。
【特殊条件:敗北した者を確認しました。
余剰獲得経験値をスキルに変換可能です。
獲得可能スキル:ユニークスキル『敗者』】
システム音声を聞きながら、確信する。
ここは、人間が居ていい場所じゃない。
だというのに、生き延びてしまったからこそ。
そんな場所で、俺は身一つで生き延びなければならないのだ。
呆然と、乾いた笑いが漏れた。
そりゃ、ないだろ。