二つ名が恥ずかしくなって新大陸へ逃げたオジサン、師匠ムーブしていたら再び有名になり始める   作:おじさん

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第10話 大手クラン【終焉を刻む者】の登場

 蜘蛛型モンスター討伐の依頼を受けて冒険者ギルドを後にし、俺達は少しの贅沢を求めて新しく出来たレストランにきていた。

 

 旧大陸の何処かの国で宮廷料理人をしていたとかいう人物が、最近始めた店らしい。

 

 美味いモノに目がないミリアが「今日は魔石を売って沢山お金をもらったので! たまには贅沢しましょう!」と強く主張し、皆で向かうことになったのだ。

 

 そして今、俺たちは四人掛けのテーブルについている。

 

 ランチには少し遅い時間だったが、定員三十人ほどの店内は人で溢れていた。

 

 新大陸に渡ってくるような連中は、皆、新しいもの好きなのだ。

 

「ヴィルさん! メニューを読んでもどんな料理か想像できません! どうしましょう!?」

 

 給仕が水と一緒に持ってきたランチメニューを熱心にみていたミリアが、瞳を輝かせながら声を上げた。

 

「流石は宮廷料理人だな! メニューもなんか凄い!」

 

 ミリアからメニューを受け取ったアレンも楽しそうに続く。

 

 ゼノスも静かにメニューを見て、珍しく首を捻っている。

 

「かしてみろ」

 

 メニューを受け取り、眺める。羊皮紙には、達筆な文字でこう書かれていた。

 

『薄切り黒毛獣と玉葱の甘辛煮込みの湖 ~純白の穀物山に寄り添って~』

『黄金色に輝く大地の衣を纏いし豊穣豚の揚げ焼き ~細切り翡翠菜と発酵大豆のスープを添えて~』

『琥珀色の秘伝清湯スープに泳ぐ黄金の細線 ~煮込み豚肉と発酵竹の子の調和~』

『真紅の海神の切り身と白銀の穀物からなる二重奏 ~漆黒の雫を垂らして~』

『灼熱の鉄板で踊る牛挽肉の円盤 ~目玉焼きという名の太陽を乗せて~』

 

……全然わからないな。

 

 無駄に単語が長く、情景描写ばかりで、全く味の想像がつかない。いったい、どんな料理が出てくるんだ?

 

「ご注文はお決まりになりましたか?」

 

 タイミングを見計らって給仕の女が来た。まだ全然決まってないのに……。

 

「……お勧めのランチを四つ」

「かしこまりました」

 

 結局どれも分からないので、無難な答えを返し、その場をやり過ごす。給仕はスッと離れていった。

 

「明日から討伐依頼でしばらく野営する可能性がある。食事を終えたら、足りない備品がないか、よく確かめるんだぞ?」

「はい! 師匠」

 

 ミリアが素直に返事をする。

 

「しかし、どんなモンスターだろうなぁ」

「五つのパーティーが失敗……。強敵なのは間違いない」

 

 アレンの問いに、ゼノスが静かに答えた。

 

「私達にやれるでしょうか?」

 

 ミリアの少し心配そうな声。俺が勇気付ける言葉を選んでいたら、不意に隣のテーブルから知らない声が飛んできた。

 

「お前達みたいなガキが、やれるわけないだろ」

 

 冷たく、そして鋭い声。

 

 隣の四人掛けのテーブルで食事をしていた、冒険者達の内の一人だ。銀髪に浅黒い肌。黄金色の瞳が印象的な男が、忌まわしいものを見るような視線を俺達に向けている。

 

「……なんていった?」

 

 短気なアレンが怒気を込めた声で返す。

 

「ガキ三人とピークを過ぎたジジイが、高難易度の依頼を達成出来るわけないだろ? あの蜘蛛型モンスターを倒すのは、俺達の大手冒険者クラン【終焉を刻む者(エンドカーヴァー)】だ」

 

 終焉を刻む者(エンドカーヴァー)。

 

……ブッ。危ない、出されたばかりの水を吹き出しそうになった。

 

 なんて痛いクラン名だ。かつての俺の二つ名『影を喰らいし虚無の暗殺者(シャドウイーター)』とタメを張るレベル。

 

「終焉を刻む者? 知らねえなぁ」

 

「まだ新大陸に来たばかりのお前達に教えてやろう。【終焉を刻む者】は新大陸で急激に勢力を伸ばす新鋭の冒険者クランだ。複数の街に拠点を持ち、その影響力は日に日に増している。冒険者達が今一番、所属したいと憧れるクランが【終焉を刻む者】だ」

 

 嫌だ。絶対にそんな恥ずかしい名前のクランに所属したくない。依頼票にサインするたびに顔から火が出る。

 

「興味ねえなぁ。俺達のパーティー名は【不可視の境界線(インビジブル・ボーダー)】。いずれ、この新大陸中に轟くことになる名前だぜ」

 

 アレンが負けじと言い返す。

 

 エンドカーヴァー対インビジブル・ボーダー。やめてくれ。いたたまれなさで呼吸が苦しくなってきた。

 

「ふふふ。よく吠えるガキだ。この場で実力の差を分からせてやろうか?」

 

 銀髪の男がナイフとフォークをテーブルに置き、拳を握る。

 

「ガーランド、やめておけ。もう行くぞ。集合時間に遅れる」

 

 仲間の一人に窘められ、銀髪の男、ガーランドは渋々といった様子で拳を収めた。

 

「命拾いしたな。もっとも、あの蜘蛛に挑むのなら、その命、長くはないだろうが」

 

 そう言い残し、ガーランドと【終焉を刻む者】の三人は席を立ち、レストランから去っていった。クランハウスに戻ったのだろうか。

 

 緊張感が霧散し、ミリアが「ふう」と息を吐いた。

 

「嫌な感じの人達でしたね。師匠のこと馬鹿にしてたし」

「奴等より先に依頼を達成して、吠え面をかかせてやろうぜ!」

「ああ。俺達がやつらに終焉を刻んでやろう」

 

 三人が意気込んでいると、「お待たせいたしました」と給仕が料理を運んできた。

 

 運ばれてきたのは『黄金色に輝く大地の衣を纏いし豊穣豚の揚げ焼き ~細切り翡翠菜と発酵大豆のスープを添えて~』らしきお勧めランチ。

 

 要するに、分厚い豚肉にパン粉をつけて揚げたものと、山盛りの千切りキャベツ、そして発酵大豆スープと白米のセットだった。旧大陸の東部で有名なメニュー、「とんかつ定食」であった。

 

「うわぁ! お肉がサクサクで美味しいです!」

「衣に甘みがあって、ご飯が進むぜ!」

「この発酵スープも、五臓六腑に染み渡る……」

 

 三人は宮廷料理という思い込みで、目を輝かせてトンカツを頬張っている。

 

 俺もサクッと一切れかじってみる。……うん、油が少し重いが、ジャンクで気取らない美味さだ。労働者の味方という感じがする。

 

「細切り翡翠菜と発酵大豆のスープはお替りができます」

 

 すっと現れた給仕の声に三人は大喜び。キャベツの千切りと発酵大豆スープを何度もお替りする。

 

 俺は一人食べ終えて、食後の茶を啜りながら、先ほどの銀髪の男の顔を思い浮かべていた。

 

 ……面倒なことにならなければいいが。

 

 未知のモンスターの討伐に、痛い名前のクランとの競争。

 

 俺は小さくため息をつき、もう一口、茶を啜った。

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