二つ名が恥ずかしくなって新大陸へ逃げたオジサン、師匠ムーブしていたら再び有名になり始める   作:おじさん

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第16話 武具店と遺物

「三つ編み武具店」と木彫りの看板が出た店に来るのは、今回で二度目だ。

 

メタルスパイダーの魔石を換金した日に、武具の作成依頼に来たのが一回目。その時に急ぎで注文品の受け取りに来たのが今日、というわけだ。

 

 三つ編み武具店は、始まりの港町の入り組んだ路地裏にひっそりと佇んでいる。華やかな大通りの人気店というよりは、「知る人ぞ知る玄人向けの名店」といった風情だ。

 

 丸太造りの、がっしりした構えの店舗の重い扉をアレンが開く。

 

「いらっしゃい。おっ……お前達か」

 

 店内にいたのは、決して可憐な三つ編みの少女などではない。顎まで伸びた豊かな髭を、太い三つ編みに結い上げた屈強なドワーフの男だった。

 

 店主は俺達の顔を見て、一瞬だけ顔を強張らせて面倒臭そうな表情をのぞかせ、すぐに何事もなかったかのように普通の顔を取り繕った。

 

 あまり愛想よく接客するのが好きではないのだろう。いかにも気難しい職人肌、という感じだ。

 

「三つ編みのおっさん、俺の盾は出来ているか……!?」

「私の杖も……!?」

「俺の矢は?」

 

 三人はカウンターに詰め寄り、矢継ぎ早に問う。無理もない、自分たち専用に誂えられた新しい武具が待ち遠しくて仕方ないらしい。

 

「出来ているに決まっているだろ」

 

 店主はチラリと俺の顔を窺うように見てから、そそくさと奥の工房へ引っ込んだ。ドカドカと押し入ってきた若者たちを見て、「うるさいガキをなんとかしろ」とでも思っているのかもしれない。

 

「ほらよ」

 

 すぐに戻ってきた店主によって、店の真ん中にある大きな作業台の上に、新しい丸盾と杖、そして矢の束がドンッと置かれた。

 

 どれも俺たちが持ち込んだ、あの硬固なメタルスパイダーの素材で作られたものだ。

 

「こんなに贅沢に『魔鉄』を使ったのは久しぶりだぜ」

 

 店主は自作の武具を満足げに眺めながら呟く。魔鉄とは、モンスターから採取された特殊な金属のことだ。

 

 極めて魔力の通りがよく、市場では非常に高値で取引される。もし、今回使った純度の高い魔鉄を旧大陸の貴族にでも売ったら、それだけで一財産築けただろう。

 

「うおおぉ……!! すげえカッコいい!!」

 

 アレンが作業台から真新しい丸盾を手に取り、興奮で顔を紅潮させた。

 

 鈍く銀色に輝く鋼の表面には、勇壮な獅子の顔のレリーフが精緻に彫り込まれている。アレンが少し魔力を流しただけで、獅子の瞳がうっすらと光を帯び、盾全体を強固な魔力膜が包み込んだ。

 

「わぁ……! これ、すごく手に馴染みます!」

 

 ミリアは、先端に龍の意匠が施された美しい銀の杖を胸に抱きしめて喜んでいる。

 

 龍の口にあたる部分には、彼女の魔力を増幅するための小さな魔石が計算し尽くされた角度で嵌め込まれており、見た目の美しさと実用性を兼ね備えた芸術品だった。

 

「……素晴らしいな。重心の狂いが一切ない」

 

 ゼノスは静かな声で呟きながら、一本の矢を手に取って鋭い鏃に指の腹でそっと触れた。

 

 空気抵抗を極限まで減らした流線型の鏃は、メタルスパイダーの脚の先端を削り出したものだ。これなら、どんな装甲だろうと魔力を乗せて容易く貫けるだろう。

 

 三人は瞳をキラキラと輝かせながら、いつまでも各々の真新しい武具を見つめている。

 

「店主、会計を頼む」

 

 俺は作業台の奥で縮こまっている店主に声を掛けた。

 

「……今回は余った魔鉄をもらったから、代金はチャラでいい」

 

 店主はなぜか俺の目を見ようとせず、不自然に視線を逸らしながら、早口でそう言った。

 

「いくらなんでも、それは申し訳ない。あれだけの装飾と加工の手間だ、ちゃんと払う」

「ほ、本当に大丈夫だ! その代わり……これからもウチの店を贔屓にしてくれりゃ、それでいい」

 

 なるほど。どうやらこの不器用な店主は、三人の武具への魔力の通し方を見て「将来有望な若手冒険者」だと高く評価してくれたらしい。

 

 冒険者は、駆け出しの頃に世話になった恩人をずっと大切にする生き物だ。だから、いまのうちに破格の待遇で恩を売っておこうという、商人らしい魂胆だろう。

 

 店主は恐る恐る、顔色を窺うような上目遣いの視線を俺に向けた。

 

「……分かった。これからも利用させてもらう」

「ふぅ……」

 

 俺が頷くと、店主は心底安堵したように深くホッと息を吐いた。そんなに、三人の将来に投資できたことが嬉しいのだろうか。根は良い奴らしい。

 

 俺は武具を手にしてはしゃぐ三人の方を振り返る。

 

「余った魔鉄を譲ることで、今回の代金はいらないそうだ。よかったな」

 

 アレンがすぐに飛んできて、勢いよく泡を飛ばしながら歓喜の声をあげる。

 

「マジか!? 三つ編みのおっさん、本当にいいのか……!?」

 

 ミリアもぱぁっと顔を輝かせて続く。

 

「ありがとうございます! この杖、一生大切に使います!」

 

 ゼノスも深く頭を下げる。

 

「恩に着ます」

 

 店主は若者たちの真っ直ぐな感謝の言葉に少し気まずそうに、髭をいじって照れ隠しをしてから、真面目な顔で話し始めた。

 

「ところで、お前らが持ってきた魔鉄の素材となったモンスターは、一体何処で現れたんだ?」

「南にある、スギの木の伐採場です」

 

 ゼノスが答えると、店主は腕組みをして唸った。

 

「なるほど……。もしかすると、あの伐採場の奥深くに『遺跡』があるのかもしれんな……」

「遺跡ですか?」

 

 ミリアが不思議そうに首を傾げる。

 

「あぁ、そういえばお前らは新大陸にきてあまり経ってないんだったな」

 

 そう言って店主は棚から、古びた金属製の小箱を手に取り、作業台の上に置いた。

 

 カチャリ、と店主が箱の留め金を外して蓋を開ける。

 

 中には、手のひらサイズの精巧な金属製の人形が収められていた。

 

 店主がその頭部にそっと指で触れると、カチ、カチ、と微かな歯車の音を立てながら、人形が自立し、滑らかな動きで優雅な円舞を踊り始めたのだ。

 

「すっげぇ! ゼンマイもないのに、ひとりで動いてる!」

「可愛い……! まるで生きているみたいです」

 

 アレンとミリアが作業台に身を乗り出して驚きの声を上げる。ゼノスだけは、その未知の駆動方式を、注意深く鋭い視線で観察していた。

 

「新大陸の奥地には、はるか昔に滅びた『古代文明の遺跡』が眠っているんだ。そして、その未踏の遺跡の近くには、変わったモンスターが出現することが多い」

 

 ゼノスの視線がさらに鋭くなる。

 

「つまり、俺たちが戦ったあの蜘蛛の群れも……伐採場の近くに古代遺跡がある証拠かもしれないと?」

 

「そうだ。もし誰にも荒らされていない未踏の遺跡を見つければ、そこにはこの人形のような『古代文明の遺物』が、手付かずで残されている可能性がある」

 

 三人の、目の色が変わった。

 

「古代文明の遺物……!? めちゃくちゃ夢があるな!! 見つければ、がっぽり儲けられそうじゃん!!」

「旧大陸では失われた、未知の魔法書とかもあるかもしれません……!」

「……確かに、冒険者として非常に興味深い」

 

 アレン、ミリア、ゼノスが、弾かれたように一斉に俺を見た。その瞳は、新しいおもちゃを見つけた子供のように爛々と輝いている。

 

「師匠! 俺たちで、その遺跡を探しに行こうぜ!」

「行きましょう、ヴィルさん!」

「……行きませんか?」

 

 三人の熱い視線が突き刺さる。

 

 古代の遺跡か。暗殺稼業ばかりだった旧大陸では縁のなかった、純粋な『冒険』の世界。確かに、少しばかり面白そうだ。

 

「よし。遺跡探索、行くか」

 

「「「やったぁあああっ!!」」」

 

 俺が頷いた瞬間、三人は作業台の前で跳び上がってハイタッチを交わし、手を取り合って喜んだ。

 

 スローライフはどこへやら。また、忙しいことになりそうだ。

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