二つ名が恥ずかしくなって新大陸へ逃げたオジサン   作:おじさん

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第6話 ヴィルの戦い方

 

 始まりの港町から一時間ほどの森の中の湖に向けて、もうすっかり通い慣れた道を三人と話しながら進んだ。

 

 アレン、ゼノス、ミリアの三人は同じ村の出身らしい。

 

 地元では期待の若手としてそれなりに名が通っていたそうだ。あの香ばしいパーティー名、「不可視の境界線(インビシブル・ボーダー)」として……。

 

 そんな彼等が新大陸に来たきっかけは、市場に入ってきた新大陸産の高価な素材を見たこと。

 

 高値で取引される巨大な魔石や高位モンスターの素材に、一攫千金を夢見たのだ。

 

 しかし、夢は打ちひしがれる。

 

 雑魚モンスターの筈のゴブリンにだって苦戦する始末。

 

 旧大陸で積み上げた自信は脆くも崩れ、渡航費で金もなくなり、今はどん底だという。

 

「そろそろ、モンスターと出会す可能性が高い……」

 

 湖が近づいたところで、斥候役のゼノスが注意を促した。その声に、アレンとミリアはすっと臨戦態勢をとった。

 

 パーティーとしてはそれなりに機能しているようだ。

 

 ちなみに今、湖の周りにはモンスターらしき気配が五つある。

 

 魔力を大気に波のように発し、その戻りの反応でモンスターの場所を掴む手法で得た情報だ。

 

 魔力を込め過ぎると相手に気付かれるので加減が難しく、今は流行っていない。

 

 ゼノスも使っていないようだ。

 

「よし、俺は釣りをしながらモンスターの出現を待つ。お前達はどうする?」

 

 三人、顔を見合わせる。特に考えはないようだ。

 

「道具を貸してやるから、お前達も釣りするか?」

「えっ、いいんですか?」

 

 ミリアが瞳を光らせる。単純な興味か、食費をうかせる為か? あるいは、両方かもしれない。

 

 腰のマジックポーチから、釣具を出して三人渡す。

 

 予想外の展開にアレンとゼノスは戸惑っているが、ミリアはノリノリで餌を探し始める。

 

「少し湿った落ち葉の下を探すといい」

「なるほど〜」

 

 三人は当初の目的を忘れて、ミミズ探しに夢中だ。斥候役のゼノスでさえ、警戒が薄れている。

 

「……ふむ」

 

 魔力の波を打つ。さっきより、モンスターの反応が近い。

 

 五体は一塊になり、じわじわと寄ってきている。恐らく、ゴブリンだろう。

 

 さて、どんな戦い方を見せようか……。

 

 いきなり高度なことや、特定の魔法やスキルに依存した技を見せても意味がない。

 

 冒険者ならば誰でも使える汎用的な技だけで、ゴブリンを倒すのがいいだろう。

 

 マジックポーチから丸盾と短剣を出す。左腕に丸盾を装着し、右手で軽く短剣を握った。

 

 ゼノスが俺に気付き、アレンとミリアに合図を出す。

 

 俺の視線の先。

 

 不自然に下草が揺れる場所がある。身を低くしたゴブリンが迫ってきているのだ。

 

 新大陸のゴブリンは頭も少し良いようだ。

 

 静かに歩き、ゴブリン達に近づく。

 

 魔力で強化した聴力が、三人が唾を飲み込む音を拾う。

 

 彼等は俺の戦いから、何を学ぶのだろう?

 

 そんなことを考えながら、俺は静かに屈み、石を一つ拾った。

 

 モンスターとの戦いにおいて、先手を取ることは重要。

 

 先に動いた一手で、後の戦いを操作出来るからだ。

 

 俺は五体いるゴブリンのうち、最後尾を進む個体に狙いを定めた。そして、魔力で強化した筋力で小石を投げる。

 

 ビュッ! っと風を切る音。

 

「ギャッ!」という悲鳴。

 

 最後尾のゴブリンがやられたことに、先を行く四体は驚き、背後からの攻撃者を想定して振り返った。

 

 チャンスだ。

 

 俺は身体を強化したまま、地面を踏み付け、推進力に変える。身を低くしたまま、ゴブリンに近づく。

 

 先頭の一体が俺の存在に気付いた。だが、遅い!

 

 俺は丸盾を正面に構え、全ての勢いを持ってゴブリンに体当たりをした。

 

 先頭のゴブリンは吹き飛び、その身体はすぐ近くにいた二体とぶつかる。

 

 一対多の戦いにおいては、如何に一対一の場面を作るかが鍵になる。

 

 今、無傷のゴブリンは二体。一体はすぐ近く、もう一体はまだ距離がある。

 

 まずは近くの個体からだ。

 

「ギャギャ……!!」

 

 事態を把握し、棍棒を大上段に振りかぶるゴブリン。動きは直線的だが、その盛り上がった筋肉によって恐るべき速さがある。

 

 その分、逸らされると弱い。

 

 俺は棍棒の軌道上に丸盾を構える。インパクトの瞬間に捻りながら流すと、ゴブリンは体勢を崩して前のめりになった。

 

 腹部がガラ空きになる。

 

 俺は短剣を筋肉の薄い脇腹に刺し、グリと捻った。

 

「ギャッ……!?」

 

 腹部を掻き回されたゴブリンの悲鳴が俺を加速させる。

 

 地面に転んだ三体のうち、一番近くの一体の首に短剣を刺す。

 

 鮮血が勢いよく吹き出し、同じく地面に転がっていた二体に降り注ぐ。

 

 いきなり吹き飛ばされ、次は血が降ってくる。

 

 地面に転がる二体はパニックだ。

 

 首を刈るのは容易い。

 

 二度、短剣を落とすと、立っているゴブリンはもう一体しかいない。

 

 最初に投石でやられたゴブリンは当たりどころが悪かったらしく、激しく痙攣している。

 

 首を斬られた三体は血の池を作っている。

 

 脇腹を抉られた一体は体内から飛び出してくる臓器を手で押さえるのに必死だ。

 

「ギャ……」

 

 最後の一体は、信じられないものを見るような視線を俺に向ける。

 

「こないのか?」

「ギャギャ……!!」

 

 仲間をやられた怒りを思い出したゴブリンは棍棒を振り上げて迫ってくる。

 

 物凄い速度。旧大陸のオーガより速いかもしれない。

 

 俺は魔力弾を血溜まりに向けて放つ。魔力弾が弾け、血飛沫をあげる。向かってくるゴブリンの視界を塞ぐ。

 

 俺は出鱈目に振り回された棍棒を易々と躱し、短剣をただ速く振り抜いた。

 

 ビュッ! と音が鳴り、ゴブリンの頭部が宙を舞う。

 

 頭はクルクルと回転しながら、飛び出す内蔵を押さえるゴブリンの元へ。

 

「ギャ」

 

 仲間の頭に反応したゴブリンは、両手でそれをキャッチしようとする。胴がガラ空き。

 

 俺は思い切り身体を伸ばし、短剣でゴブリンの心臓を突いた。

 

 最後のゴブリンは仲間の頭を抱えたまま、地面に崩れる。

 

 特別な武器や魔道具、高位のスキルも魔法も使っていない。基礎的な技の組み合わせだけで、新大陸のゴブリン五体を破ってみせた。

 

「ふう……。こんなものか」

 

 振り返ると、三人はあんぐりと口を開けてこちらを見ている。

 

「いや、驚きすぎだろ」

「凄いです……。ヴィルさん、凄いです……」

 

 ミリアが感動したような声を出す。

 

 正直、これと同じことを出来るやつは上級の冒険者ならいくらでもいる。

 

 これぐらいの基礎を固めた上で、自分だけの特別なスキルや魔法を磨いていくのが、本物の冒険者だ。

 

「少しは、学びになったか?」

「もちろんです! 凄く勉強になりました!」

 

 瞳を輝かせて話すミリア。

 

「二人は?」

 

 いまだ黙ったままのアレンとゼノスに尋ねる。

 

「……なかなかやるじゃねえか、おっさん……」

 

 悔しそうなアレン。

 

「どうやったら、あんな戦い方が……」

 

 必死にさっきの戦いを振り返るゼノス。

 

 三人ともに、何かしら示唆を与えられたのなら、良いのだが。

 

「じゃ、俺は釣りに戻るからモンスターが来たら頼むぞ?」

「はい!」

「任せとけ!」

「……やってみます」

 

 三人のそれぞれの返事を聞いてから、俺は釣りに専念することにした。

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