二つ名が恥ずかしくなって新大陸へ逃げたオジサン、師匠ムーブしていたら再び有名になり始める   作:おじさん

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第9話 危険な依頼

 始まりの港町の冒険者ギルド。

 

 三十日ぶりに訪れたその場所は、旧大陸から一攫千金を夢見る冒険者がさらに押し寄せているのか、以前よりも随分と人が増えていた。

 

 荒くれ者たちが放つ特有の熱気と、汗と酒、それにむせ返るような魔力の匂いが空間を覆い、ひどく息苦しい。俺のような中年の肺には全く優しくない環境だ。用事だけ済ませて、いち早く外に出たい。

 

 しかし、若者達にとっては違うらしい。

 

 アレン、ミリア、ゼノスの三人は、ギルド内に渦巻く冒険者達の野心的な熱意に当てられ、負けるものかと瞳を爛々と輝かせている。

 

 そして全身から、三十日前とは見違えるような鋭い覇気を放ちながら、三人は男性職員の待つカウンターへと迷いなく近づいた。

 

 アレンが背負っていたリュックを下ろし、中から大きな魔石を幾つも取り出して、ドンッ、ドンッとカウンターの上に並べていく。

 

 そして、確固たる自信を込めて言い放った。

 

「この魔石、買い取ってくれないか?」

 

 カウンターの向こうにいる男性職員が、ゴクリと喉を鳴らし、目を大きく見開いた。

 

「……いつの間に、こんなデカい魔石を持つモンスターを狩れるようになったんだ……?」

 

 その言葉は、アレン達を疑っているというより、彼らの異常な成長速度に心底驚愕しているようだった。

 

 それもそのはずだ。少し前までゴブリン相手にボコボコにされ、ギルドを追い出されていた三人組が、マッドボアをはじめとした強力なモンスターの魔石を平然と幾つも並べたのだ。驚くのは当然だろう。

 

「師匠に扱いてもらったんだ! もう、今までの俺達じゃないぜ!」

「師匠?」

 

 職員が怪訝そうに首を傾げる。それと連動するように、ミリアがクルッとこちらを振り返り、ビシッと俺を指差した。

 

 途端に、ギルド中の冒険者たちの視線がいっせいに俺へと集まる。

 

「私達の師匠、ヴィルさんです! 初級魔法と初級スキルだけで無双するイケオジなんです!」

 

 やめてくれ、ミリア! 頼むからその紹介はやめてくれ!

 

 旧大陸の痛すぎる二つ名とはまた別の角度で、魂がゴリゴリと削られる!

 

 俺が胃のあたりを押さえて顔を引きつらせていると、反応に困った様子の職員は「お、おぉ、そうか……」と棒読みで返した。

 

「魔石、買い取ってくれるか?」

「当然だ。ちょっとまっていろ」

 

 アレンの問いに答えた職員は、気を取り直したようにテキパキと動きだす。魔石の純度を測り、重さを量り、そしてすぐに金貨が入っているだろう麻袋をカウンターに置いた。

 

 ゼノスがそれを受け取り、冷静な手つきでしっかりと中身の額を確かめる。

 

「……確かに受け取った」

 

 職員は頷いてから、ふと疑問に思ったように質問を加える。

 

「モンスターの肉や素材はどうした? あれだけ魔石があったんだ。それ以外も山ほどあっただろ? 買い取りはいいのか?」

「お肉は泊まっている宿に直接卸しているので大丈夫です! 素材は師匠に保管してもらっています!」

 

 またミリアが得意げに俺を指差す。また視線が集まる。だからやめてくれ……マジックポーチの容量が異常なことまでバレたくないんだ。

 

「なるほどな。素材を売りたくなったら、ちゃんと冒険者ギルドに来てくれよ? 旧大陸から来た商人に直接売っても、難癖つけられて安く買いたたかれるだけだからな?」

 

 職員の言葉の半分は本当のことだ。狡猾な商人と対等に交渉できる冒険者は少ない。足元を見られることはよくある。ただ、それだけではない。冒険者ギルドの独自の利益を護るための、釘刺しの言葉でもある。

 

「わかったよ! ところで、誰も受けたがらないような依頼はあるか? そろそろ本格的に依頼をこなしていきたいんだ!」

 

 アレンが気炎を上げる。三十日間の地獄のしごきを生き抜いた自信が、彼を後押ししている。

 

 職員は依頼掲示板の方をちらりと見たあと、表情を引き締め、ゆっくりと口を開いた。

 

「あるにはあるが……、相当危ないぞ? いくら成長したといっても、駆け出しのお前たちには紹介できない」

 

 たしかにギルド職員の立場からすればそうだろう。全滅されてはギルドの信用問題にも関わる。

 

 しかし、冒険者としてさらなる高みへ成長するには、安全な狩りだけでなく、大きな壁を超える経験が必要だ。

 

 俺はゆっくりとカウンターに近付き、三人の横に並び立った。

 

「依頼には俺も付き添う。とりあえず、内容だけでも教えてくれないか?」

 

 職員は黙って、俺の身体を足先から頭まで、舐めるように視線を這わせた。立ち姿の重心、筋肉の付き方、そして俺の身につけている装備の素材の質を値踏みするように。

 

「……ヴィル、って言ったか? あんた、腕が立つのは間違いなさそうだ」

「当然です!」

 

 ミリアが自分のことのように胸を張って得意げに答えた。

 

「いいだろう。……依頼内容を説明する」

 

 職員はカウンターの奥に厳重に仕舞われていた特別な依頼票を取り出すと、俺達に見えるように広げた。

 

「北の伐採場に現れる、巨大な蜘蛛型モンスターの討伐依頼だ。もう既に五つのパーティーが挑み、全て失敗している。今、この依頼を継続して受けているのは、とある大手冒険者クランだけだ。……それでも、お前たちは受けるのか?」

 

 モンスターの正式な名前が告げられない。旧大陸の文献にもない、新大陸特有の未確認の個体なのかもしれない。

 

 三人は僅かに息を呑み、互いの顔を見合わせ、そして力強く頷きあった。

 

「その依頼、うけるぜ!」

 

 アレンの迷いのない言葉に、職員は重々しく頷いた。

 

「では、詳細を話そう」

 

 職員は声を落とし、静かに、その未知の蜘蛛型モンスターがもたらした災害級の被害について語り始めた。

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