またソロ攻略ですか? ――アインズ様の作戦だけが失敗するようです――   作:ブンチョウ

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5話 趣味欄と命令欄

 対象村落への支援は、継続されていた。

 

 契約は結ばれていない。

 

 忠誠も誓わせていない。

 

 保護停止条件も提示していない。

 

 ただ、食糧が運び込まれ、薬が置かれ、井戸が直され、橋板が替えられた。

 

 ナザリックの記録上、それは慈善行為ではない。

 

 対象村落支援行動。

 

 敵性干渉条件の段階的観測。

 

 周辺地域における影響測定。

 

 アインズ・ウール・ゴウンが下した命令に、慈悲という文字はない。

 

 だが、村人から見れば、食糧は食糧であり、薬は薬だった。

 

 そして、支援物資の存在は、村の中だけに留まらなかった。

 

 食糧の匂いは、人を呼ぶ。

 

 薬の噂は、病人を抱えた者を呼ぶ。

 

 守りの薄い村に物資が集まるという話は、別の種類の者たちも呼び寄せる。

 

 盗賊である。

 

 報告は、日没前に届いた。

 

 村の南西、森の外縁部に、武装した一団を確認。

 

 人数、十七。

 

 装備は粗末。

 

 ただし、周辺の流民ではなく、組織化された盗賊団と推定。

 

 目的は、支援物資の奪取。

 

 副目的として、村人の拉致も計画されている可能性あり。

 

 作戦室で報告を聞いたデミウルゴスは、静かに眼鏡の位置を直した。

 

「想定内です」

 

 その一言には、驚きも怒りもない。

 

「物資を集めれば、それを奪おうとする者が現れる。周辺の治安程度を測るうえでも、有用な反応です」

 

 アインズは、報告書に視線を落としていた。

 

 村を支援する。

 

 その結果、盗賊が来る。

 

 盗賊を排除する。

 

 その結果、村はさらにナザリックへの依存を深める。

 

 デミウルゴスの考えそうな流れだった。

 

 そして、実際にその通りなのだろう。

 

「対処案は」

 

「村へ到達する前に捕捉し、排除するのが妥当です。ただし、敵性存在の介入条件を観測するため、処理方法は段階的に分けるべきでしょう」

 

「段階的、か」

 

「はい。殺害、捕縛、尋問、見せしめ、放逐。反応を分けて取れます」

 

 デミウルゴスは、当然のことのように言った。

 

 そこに人間の苦痛はない。

 

 あるのは、反応条件の分類だけだった。

 

「ふむ」

 

 アインズは考える。

 

 盗賊は村を襲うつもりだった。

 

 ならば排除に問題はない。

 

 村人に被害が出る前に処理するのは、支援行動の継続にも必要である。

 

 対象村落の安定を保つため。

 

 周辺治安の把握のため。

 

 敵の介入条件の観測のため。

 

 理由は十分だった。

 

「シャルティア」

 

「はい、アインズ様」

 

 控えていたシャルティアが、一歩前へ出る。

 

 紅い瞳が、わずかに輝いていた。

 

「盗賊団を捕捉せよ。村へ到達する前に行動不能にする。必要に応じて尋問を許可する」

 

「畏まりました」

 

 シャルティアは恭しく頭を下げた。

 

 その仕草は優雅で、同時に嬉しげだった。

 

 アインズは、その喜色を見た。

 

 任務に対する喜び。

 

 アインズの命令を受けたことへの歓喜。

 

 そして、それ以外のもの。

 

 その区別をつける必要がある。

 

 そう処理した。

 

「ただし、敵の干渉が確認された場合、即時報告せよ。独断による追加処理は禁止する」

 

「追加処理、でありんすか?」

 

「そうだ」

 

 シャルティアは少しだけ首を傾げ、それから笑った。

 

「承知いたしました。任務を、見事に果たしてご覧に入れます」

 

 その声は甘い。

 

 任務という言葉の中に、何を含めているのか。

 

 アインズは問いたださなかった。

 

 問いただすための欄は、まだ用意されていなかった。

 

     *

 

 森の外縁部で、盗賊団は足を止めていた。

 

 村までは、あと半刻もかからない。

 

 彼らは、村に食糧が運び込まれたことを知っていた。

 

 薬もある。

 

 布もある。

 

 工具もある。

 

 そのうえ、村は怯えている。

 

 怯えている村は扱いやすい。

 

 誰かに助けられた村は、次に来る者にも従うと思い込む。

 

 それが人間の弱さであり、盗賊にとっての入口だった。

 

 だが、一団の中には、一人だけ落ち着かない男がいた。

 

「やめた方がいい」

 

 小柄な男が言った。

 

 顔の左に古い傷がある。

 

 盗賊団の中では下っ端に近い。

 

 だから、誰もまともに聞かなかった。

 

「あの村は、妙だ」

 

「今さら怖気づいたか」

 

「違う。昼間、変な女がいたんだよ」

 

 周囲の数人が笑った。

 

「変な女?」

 

「薬師みてえな格好だった。荷車の車輪を直してた。口が悪くて、村のガキに薬を飲ませるのだけは妙にうまかった」

 

「それで?」

 

「俺たちを見て言ったんだ」

 

 小柄な男は、声を潜めた。

 

「仕事と趣味の区別もつかない奴は、長生きしないって」

 

 また笑いが起きた。

 

 だが、小柄な男は笑わなかった。

 

「それから、こうも言った。身内の悪趣味みたいな真似をするなら、せめて本家より面白くやれって」

 

「何だそりゃ」

 

「知らねえよ。だが、あの女、俺たちのことを見てた。村じゃなくて、俺たちをだ」

 

「で、その女はどこへ行った」

 

「荷車の下に潜ってたはずなんだ。車輪を見てた。けど、目を離したらいなかった」

 

「逃げただけだろ」

 

「足音がしなかった」

 

 その言葉で、笑いが少し薄くなった。

 

 盗賊団の頭目が、苛立ったように唾を吐いた。

 

「女一人の戯言で引き返せるか。村には食い物がある。薬もある。売れる物がある。行くぞ」

 

 小柄な男は、それ以上何も言わなかった。

 

 言ったところで無駄だった。

 

 それに、彼自身も盗賊だった。

 

 忠告されたからといって、足を洗えるほど上等な人間ではない。

 

 森が、急に静かになった。

 

 虫の声が止んだ。

 

 風の音も消えた。

 

 頭目が振り返る。

 

 そこに、少女が立っていた。

 

 白い肌。

 

 銀の髪。

 

 真紅の瞳。

 

 黒と赤の衣装。

 

 森の薄闇の中に、場違いなほど美しい少女が立っている。

 

 盗賊たちは、一瞬だけ息を呑んだ。

 

 次の瞬間、何人かが笑った。

 

 笑いはすぐに止まった。

 

「ごきげんよう」

 

 シャルティア・ブラッドフォールンは、優雅に会釈した。

 

「あなた方が、対象村落への支援物資を奪おうとしている盗賊でありんすね?」

 

 答える者はいなかった。

 

 頭目が剣を抜く。

 

 それが合図になった。

 

 盗賊たちは散開し、囲もうとした。

 

 悪くない動きだった。

 

 人間の盗賊としては。

 

 シャルティアは、少しだけ笑った。

 

「では、任務を始めるでありんす」

 

 それから先は、戦闘ではなかった。

 

 盗賊の剣は届かない。

 

 矢は当たらない。

 

 逃げようとした者は、いつの間にか地面に転がっていた。

 

 叫び声が三つ上がり、四つ目は途中で途切れた。

 

 シャルティアは、殺さなかった。

 

 アインズの命令は、行動不能。

 

 必要に応じて尋問。

 

 だから、殺さない。

 

 少なくとも、まだ。

 

 数分後、十七人の盗賊は、森の地面に転がされていた。

 

 骨は折れている。

 

 腱も切れている。

 

 だが、命はある。

 

 シャルティアは頭目の髪を掴み、顔を上げさせた。

 

「では、質問でありんす」

 

 声は優しい。

 

 優しすぎた。

 

「誰から村の物資について聞いたのでありんすか? 誰に売るつもりだったのでありんすか? どこの領主の手の者が混じっているのでありんすか?」

 

 頭目は答えなかった。

 

 歯を食いしばり、唾を吐こうとした。

 

 吐く前に、顎が外れた。

 

 シャルティアは笑う。

 

「あら。まだ質問は始まったばかりでありんすよ」

 

 彼女は任務を遂行していた。

 

 情報を取る。

 

 敵の目的を探る。

 

 村への脅威を除く。

 

 それは命令の範囲に入っている。

 

 入っているはずだった。

 

 ただ、そこに少しだけ余分なものが混じっている。

 

 痛みの長さ。

 

 恐怖の順番。

 

 相手がいつ折れるかを測る楽しみ。

 

 それらは命令欄に書かれていない。

 

 だが、シャルティアにとっては不自然ではなかった。

 

 自分はそのように作られている。

 

 ペロロンチーノ様に、そう作られている。

 

 ならば、それは自分の在り方だ。

 

 忠誠と矛盾するはずがない。

 

 彼女が、次の盗賊に手を伸ばした時だった。

 

 頭目を縛っていた黒い拘束具に、文字が浮かんだ。

 

 魔力反応はない。

 

 罠でもない。

 

 呪いでもない。

 

 ただ、革の表面に、白い傷のような文字が走った。

 

『趣味欄と命令欄を混ぜるな』

 

 シャルティアの手が止まった。

 

「……何でありんすか、これは」

 

 文字は消えない。

 

 拘束具に、最初から刻まれていたように残っている。

 

 シャルティアは目を細めた。

 

 不快だった。

 

 意味が分からないからではない。

 

 少しだけ、分かってしまったから不快だった。

 

「趣味、でありんすか」

 

 彼女の声が低くなる。

 

 周囲の盗賊たちは、何が起きているのか分からないまま震えていた。

 

 シャルティアは拘束具を見下ろす。

 

 趣味欄。

 

 命令欄。

 

 混ぜるな。

 

 まるで、自分の行為の一部が任務ではないと言われているようだった。

 

 まるで、ペロロンチーノ様より賜った自分の在り方を、余分なものとして切り離せと言われているようだった。

 

 ふざけるな。

 

 そう思った。

 

 だが、アインズからの命令がある。

 

 敵の干渉が確認された場合、即時報告。

 

 独断による追加処理は禁止。

 

 シャルティアは、ゆっくりと手を引いた。

 

 殺していない。

 

 まだ、追加処理もしていない。

 

 そう分類した。

 

「アインズ様へ報告するでありんす」

 

 その声には、怒りが混じっていた。

 

     *

 

 報告は、すぐにアインズへ届いた。

 

 シャルティアの前に浮かべられた遠隔視の向こうで、アインズは拘束具の文字を見ていた。

 

『趣味欄と命令欄を混ぜるな』

 

 趣味欄。

 

 命令欄。

 

 その言葉を見た瞬間、アインズの中で、いくつかの記憶が勝手に開いた。

 

 ペロロンチーノ。

 

 シャルティアの創造主。

 

 その悪趣味。

 

 過剰な設定。

 

 冗談半分、本気半分の嗜好。

 

 そして、その姉。

 

 ぶくぶく茶釜。

 

 弟の趣味に呆れ、突っ込み、時には本気で怒っていた声。

 

 そんなことを思い出す必要はない。

 

 これは敵の干渉である。

 

 NPC設定情報を利用した行動制御への介入である。

 

 そう分類できる。

 

 そう分類するべきだった。

 

「アインズ様」

 

 シャルティアの声が聞こえる。

 

「これは、私への侮辱でありんすか」

 

 アインズは答えなかった。

 

 画面越しのシャルティアは、怒っている。

 

 ただし、その怒りの下に、別のものがある。

 

 困惑。

 

 不快。

 

 そして、自分の一部を切り分けろと言われた者の、反射的な拒絶。

 

「私の在り方は、ペロロンチーノ様より賜ったもの。それを任務から切り離せと?」

 

 作戦室の空気が変わった。

 

 アルベドが、わずかに目を細める。

 

 デミウルゴスは表情を変えない。

 

 だが、何かを考えているのは明らかだった。

 

 アインズは、シャルティアを見ていた。

 

 アルベドの設定。

 

 シャルティアの嗜好。

 

 創造主の記述。

 

 NPCの人格。

 

 どこまでが設定で、どこからが本人なのか。

 

 その問いは、分類欄を持たなかった。

 

 かつてゲームだったものが、今は人格を持っている。

 

 ならば、設定とは何か。

 

 創造主の趣味とは何か。

 

 それを任務で利用する支配者の責任は、どの欄に記されるのか。

 

 その問いもまた、危険だった。

 

 危険な問いは、報告書に載せるべきではない。

 

「既知の干渉痕跡は」

 

 アインズは問う。

 

 デミウルゴスが即座に答えた。

 

「確認されておりません。拘束具への通常刻印でもなく、精神支配反応もありません」

 

「つまり、攻撃ではない」

 

「少なくとも、既知の攻撃として分類するのは困難です」

 

 アインズは、画面の文字を見る。

 

 攻撃ではない。

 

 上書きでもない。

 

 命令の強制変更でもない。

 

 ただ、そこに書かれている。

 

 追記。

 

 その言葉が、頭の中に浮かんだ。

 

 アインズはそれを口にしなかった。

 

 口にすれば、形を持つ。

 

 形を持てば、認めることになる。

 

「敵は、NPCの創造主由来情報を利用し、任務遂行に干渉している可能性が高い」

 

 デミウルゴスが言った。

 

「特に今回の文言から推測するに、個体の嗜好設定と任務命令の混在に反応したものと思われます」

 

 正しい。

 

 少なくとも、報告書に記すならば、それで足りる。

 

 アインズは頷いた。

 

「そうだな」

 

「であれば、任務目的と個体嗜好を一時的に切り分けて検証するのが妥当かと」

 

「同感だ」

 

 アインズは、シャルティアへ視線を戻した。

 

「シャルティア」

 

「はい」

 

 返事はすぐだった。

 

 だが、その声はいつもより硬い。

 

「お前の在り方を否定しているのではない」

 

 シャルティアの目がわずかに動いた。

 

「今回の任務目的は、対象村落への脅威排除、および敵性干渉条件の観測である。尋問は情報取得のために限定する。嗜虐行為、見せしめ、村人の前での処分は禁じる」

 

 シャルティアは黙っている。

 

 アインズは続けた。

 

「盗賊は捕縛。情報を得た後、処分は保留する。任務完了後、即時帰還せよ」

 

「……処分は、保留でありんすか」

 

「そうだ」

 

「理由を伺ってもよろしいでありんすか」

 

「敵の介入条件を切り分けるためだ。殺害、尋問、嗜虐、見せしめ、処分。それらを同時に行えば、敵がどれに反応したか判別できない。今回は捕縛と情報取得のみに限定する」

 

 理由はある。

 

 名目もある。

 

 シャルティアを守るためではない。

 

 盗賊に慈悲を与えるためでもない。

 

 任務目的の純化。

 

 敵反応の分離。

 

 シャルティアの安定運用。

 

 それで足りる。

 

「……畏まりました」

 

 シャルティアは頭を下げた。

 

 完全に納得している顔ではなかった。

 

 だが、命令には従う。

 

 そのために作られている。

 

 その言葉が、アインズの中で引っかかり、すぐに別の欄へ押し込まれた。

 

「なお、現地にいたという薬師風の女についても調査せよ。追跡は不要だ。痕跡のみを集めろ」

 

「御意」

 

 デミウルゴスが頷く。

 

「その女が敵の実働要員である可能性がありますね」

 

「可能性の一つだ」

 

 アインズは言った。

 

 薬師風の女。

 

 口が悪い。

 

 子どもの扱いがうまい。

 

 荷車の車輪を直していた。

 

 仕事と趣味の区別。

 

 身内の悪趣味。

 

 足音なく消えた。

 

 情報が、嫌な形で並ぶ。

 

 偶然であればよい。

 

 偶然でなければ。

 

 アインズは、その先を考えなかった。

 

     *

 

 シャルティアは命令に従った。

 

 盗賊団は捕縛された。

 

 尋問は行われた。

 

 必要な情報だけが抜き取られた。

 

 支援物資の噂を流した者。

 

 盗品を買い取る予定だった商人。

 

 周辺領主の手の者が、村の様子を探っていた可能性。

 

 それらは記録された。

 

 盗賊たちは殺されなかった。

 

 村人の前に引き出されることもなかった。

 

 悲鳴を見せしめに利用されることもなかった。

 

 シャルティアは不満を口にしなかった。

 

 だが、静かだった。

 

 静かすぎた。

 

 盗賊の怯えた顔を見ても、どの欄に置けばいいのか分からなかった。

 

 森の中で、彼女は拘束された盗賊たちを見下ろしている。

 

 任務は果たした。

 

 アインズ様の命令に従った。

 

 それで十分であるはずだった。

 

 それなのに、拘束具に浮かんだ文字が消えない。

 

『趣味欄と命令欄を混ぜるな』

 

 それは、自分を否定しているのか。

 

 それとも、任務を否定しているのか。

 

 ペロロンチーノ様の御心は、趣味欄にしかないのか。

 

 この身も、嗜好も、振る舞いも、すべてペロロンチーノ様より賜ったものだ。

 

 ならば、切り分けられた後に残る自分は、何なのか。

 

 シャルティアは答えを出さなかった。

 

 出す必要はない。

 

 アインズ様が命じた。

 

 ならば従う。

 

 それで十分だった。

 

 十分であるべきだった。

 

     *

 

 夜、ナザリックに報告書が提出された。

 

 盗賊団捕縛、完了。

 

 対象村落到達、阻止。

 

 尋問、完了。

 

 支援物資奪取計画、確認。

 

 周辺商人との接触予定、確認。

 

 領主側関係者の関与、調査継続。

 

 薬師風の女、所在不明。

 

 荷車の修繕痕、確認。

 

 使用工具、不明。

 

 既知の干渉痕跡、なし。

 

 拘束具への追記現象、確認。

 

 アインズは最後の行をしばらく見ていた。

 

 追記現象。

 

 攻撃ではない。

 

 上書きでもない。

 

 ただの追記。

 

 それをどう扱うべきか。

 

 敵性干渉と分類することはできる。

 

 できるが、それだけでは足りない。

 

 足りないと感じたこと自体を、アインズは記録しなかった。

 

 デミウルゴスは報告書を読み終え、満足そうに頷いた。

 

「条件が一つ増えました。対象村落の保全。創造主由来情報。いずれも、アインズ様の御判断に接触しております」

 

「そうだな」

 

「しかし、これは同時に好機でもあります。今後、任務要素を細分化することで、敵の反応条件をより精密に抽出できます」

 

 デミウルゴスは、すでに次の実験を考えている。

 

 さすがだ。

 

 そう思うべきだった。

 

 アインズは報告書を閉じた。

 

「処分は保留する」

 

「盗賊団の、でございますか」

 

「そうだ。情報の再確認が必要だ。薬師風の女との接触情報も、まだ不十分である。処分は後日判断する」

 

「御意」

 

 デミウルゴスは、自然に受け入れた。

 

 理由はある。

 

 情報不足。

 

 追加尋問の可能性。

 

 敵反応条件の継続観測。

 

 処分を保留する名目は、いくつもある。

 

 アインズは、それらを順に並べた。

 

 並べれば、命令になる。

 

 命令になれば、記録に残せる。

 

「シャルティアについては」

 

 アルベドが静かに問う。

 

「問題なし。命令に従い、任務を完了した」

 

「畏まりました」

 

 アルベドはそれ以上言わなかった。

 

 言いたいことがあるかどうかも、アインズには分からない。

 

 分かる必要はない。

 

 分かれば、また別の欄が増える。

 

 その夜、ナザリックの記録には、盗賊団処理任務、完了、と記された。

 

 尋問欄は記入済み。

 

 捕縛欄も記入済み。

 

 ただし、処分欄は空白のままだった。

 

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