《鉄騎》と呼ばれる傭兵がいる。
伝承で語られる天界の鉱山都市、《フルクライトジオ》にルーツを持つと囁かれる空の戦士たちだ。
一説によると、彼らはカムラの里に住む民族の直系の祖先であったといわれている。
カムラの里民の一部が卓越した身体能力を持つ理由は、屈強な傭兵である鉄騎の血を引いているからだと考える者もいる。
鉄騎は今も存続しているが、導きの青い星の誕生によって世界の勢力図がハンターズギルドの一強となってからは、他の傭兵団と同じように衰退していった。
鉄騎の団長は、遺跡平原で導きの青い星と会話していたという目撃例を境に消息を絶っている。
《強者のみ必要》という信念を持つ鉄騎の傭兵たちにとって、人類最強と目される導きの青い星の出現は存在意義を揺るがす一大事であったことは想像に難くない。
『それ、僕じゃなくてハモンさんに聞いたら?
悪いけどさ、君たちが入ってくると話がややこしくなるんだよね。
君たちもそろそろ、親戚付き合いってやつに向き合ってみたらいいんじゃない?』
導きの青い星というカードを手に入れたハンターズギルドに対抗するべく、彼らは《竜操術》と呼ばれる禁術の探究に勤しんでいた。
かつて、鉄騎はフルクライトジオで学んだ竜操術を武器にその名を世界に轟かせていた。
彼らは竜都の滅びと共に失われた栄光を手にすることで、ハンターズギルドから栄誉を奪還しようとしているのだ。
彼らの力に対する執着には、《赤の女王》と呼ばれる不老の女狩人の影響が色濃く残されているとされている。
赤の女王。
その輝かしき名は畏怖と共に語られ、狂気と共に広められる。
赤の女王は竜人族の女性であったと記されているが、専ら男性格の三人称が用いられることが多い。
──便宜上、彼女と呼称することにしよう。
彼女は煤けた群青の鎧を着た危険な美女で、しばしば情熱的なファム・ファタールとして寓話などに登場する。
その悍ましき美貌、美声は何者にも喩え難いほど魅惑的であると同時に、その心根は何者にも喩え難いほど傲慢であったという。
その存在は天廊の文献にも記されており、かつてはバルカヌス(ηφαιστοσ、ミラ・バルカン)と呼ばれる神格を天上から地上に導く為の巫女であったと記されている。
書簡によれば、鉄騎に鍛治術を授けたのは赤の女王である。
シキ国やカムラの里などが卓越した鍛治技術を持つのは、古代人がフォンロンに塔を建造することでバルカヌスの祝福を得たからだという説がある。
赤の女王はバルカヌスの力を象徴するものとして幾つかの神器を持っていた。
その一つがかつてギルドに保管されていた黒龍槍と呼ばれるドラゴンウェポンである。
赤の女王は槍の使い手であったが、黒龍槍を武器として用いることはなかった。
それは祭祀の道具であり、これをフォンロンにある龍脈に向けて突き立てることで何らかの神学的儀式を行っていたと見られる。
鉄騎は本来、この儀式の後継ぎとして編成された組織であったとする文献もある。
長い歴史の中で赤の女王の後継ぎとしての側面が風化した結果、鍛治と戦闘という側面だけが残り、最終的に傭兵として組織化されていったのだという。
『赤の女王は、儀礼の巫女に強くあれと願った』
バテュバトム樹海に見られる邪神信仰は、赤の女王によるバルカヌスへの信仰が間違って伝わったものという説が一般的だ。
しかし、近年ではそれを反証する記録も幾つか見つかっている。
最も新しいものによれば、邪教の実質的な崇拝対象はバルカヌスではなく赤の女王そのものである。
これは、かつてバテュバトム樹海を文字通り樹海に変えた《呪われた世界樹事件》において、赤の女王がロンギヌスの槍(Rhongomyniad、ロンゴミニアド)を用いて敵意ある古代樹を毒殺した事例に由来すると云われている。
彼女が用いたロンギヌスの槍はロンゴミニアドと呼ばれることもあり、転じて現在でいうバゼルミニアドを指すという説が有力だった。
しかし、経典ではこの槍にはペルレベギールテという別名があるとされており、壁画に描かれた形状は寧ろローゼンランツェに近い。
古代樹は新大陸に見られるものと同様に、古龍のエネルギーを栄養源とする多種多様な植物の集合体である。
バテュバトム樹海の地下には夥しい数の古龍の死体が眠っているとされており、計算上この古代樹はフォンロンすら覆い尽くす規模まで成長する可能性を秘めている。
悪意ある根が洪水のように押し寄せ、一夜にして人口と文化の大半が失われた。異教徒は繰り返し警鐘を鳴らす。あれぞ呪いなのだと。
〜フォンロンで回収された日記
新緑と花弁が日光を遮り、我々の昼は奪われた。生臭い血の雫を浴びて上を見上げると、枝に刺し貫かれた大小様々の人体が見える。
〜フォンロンで発見された石碑
数々の記録は、古代樹のことを敵対的な生物として恐れ、獰猛な獣のように扱う。
ラオシャンロンの死体を苗床に発生したと見られるこの異質な植物群は、鋼龍の古龍天候による大雨を飲み干して成長したとされる。
現在では、この古代樹は生物学上大部分が死んでおり、枯れた部位を苗床に成長する植物も一定の月日が経つと成長を停止する。
研究の結果、内部に杭のように打ち込まれた何らかの物質が古代樹を殺し続けていることが判明している。
仮に赤の女王がこの超自然的な現象を起こしたのだとすれば、その鍛治技術は国家間のバランスを覆しかねないことすら予想される。
しかし、ハンターズギルドやその他の大国を以ってしても彼女やその仲間の足取りは掴めていない。
竜大戦すら誘発しかねない行動の数々は伝説に違わぬ凶悪さであり、存命だった場合、世界の安全を脅かす人物であるとみて間違いない。
「ロンギヌスの槍は回収しなくていいし、回収されるべきでもない。
あの植物を槍なくしてバテュバトム樹海に封じることは不可能だ」
従って、導きの青い星の存命中に赤の女王の生死を解き明かし、万が一生存していた場合は即刻制圧することがギルド上層部によって決定されている。
なお、導きの青い星が何らかの事情で行動不能となっていた場合の代役には、猛き炎が自ら立候補している。
『やるよ。これは俺たちの問題なんだろ?
俺はギルドナイトじゃねーから、正直気は乗らないけど』
赤の女王は巫女の一人に過ぎず、導きの青い星の任務はあくまで赤き凶星の狩猟である。
救い主を保有する──は祈祷のため感受性が豊かな──歳の女性を不老とする必要があり、倫理上の問題を回避できないため却下された。
『黒龍の狩猟によって、全ての条件は揃った』