訳ありボイスロイドを拾った話   作:Miurand

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音声合成キャラの作品は初投稿です。シリアスは少なめと記載しましたが、今話はそこそこシリアスかもしれない。

小樽3人組は厳密にはボイロではなく、チェビオやボイスピになりますが、ここはボイスロイド(広義)ということでご容赦ください。



第1話 夏色花梨

時は20XX年。

 

タイムマシンが開発され、時間を移動可能になるほどは発展していないものの、先人の涙ぐましい努力により、主に人工知能が発達してきた。

 

最近のAIを積んだロボットは、人間と遜色ないレベルで自発的に思考し、行動することができるようになっていた。

 

その中でも、「ボイスロイド」と総称されているアンドロイドがいる。

 

「ボイスロイド」とは、一昔前までは音声合成読み上げソフトのことを総称する名称だった。今は"身体"を持ち、高性能な人工知能を搭載された上で、人間と遜色ない見た目で、高度な思考、自発的な行動ができる高性能アンドロイドのことを指す。

 

用途は様々だが、大半は動画に使用する目的と、生活におけるパートナーとして購入している人が多い。

 

こんな高度な知能を持つアンドロイドがいる現代だが、労働は基本的に昔と変わらず人間が請け負っている。

 

これには訳があるようだが、ほぼ明確なソースはなく、噂程度に留まっている。一応それらしいものがあり、政府が述べている言い分は、『人間主体の社会を維持するため』とのこと。簡単に言えば、人間が堕落し切ってアンドロイドに依存する事態を防ぐためなのだろう。

 

言いたいことは分かる。確かにこの世の仕事の全てをアンドロイドに任せてしまっては、いずれ我々人間が淘汰される可能性があるから。

 

とはいえ、昔と比べてこんなに発展しても未だに労働しなければいけないというのは、正直複雑な気持ちである。

 

「……はぁ、疲れた〜」

 

仕事を終えて帰宅している最中の俺は、俺しか住んでいない我が家のことを考え、ため息をつく。やはり話す相手はほしい。友人と住むことも考えたが、あちらにも仕事の都合があるからな。

 

「……ため息吐いても仕方ないか」

 

ようやく自分が住んでいる家の前に着き、美味しいご飯でも食べるかとか、そういえば明日休みじゃんとか、考えを前向きに切り替えた矢先……。

 

「…………嘘だろオイ」

 

人が倒れていた。いや、本当に人だろうか?ボイスロイドってぱっと見人間と見分けつかなかったりする。

 

取り敢えず意識があるかどうか確認しようと近づいたところ……。やはり人間ではなく『ボイスロイド』であった。

 

ぱっと見そんなに汚れていないから、野良ではなさそうだが。迷子で彷徨ってたらエネルギー切れか?もしくは野良になりたてなのか……。にしてもなんで家の前に?

 

普通、不法投棄されたボイロは、"保護"されるのを防ぐために、可能な限り人目のつかないところに逃げるはずなのだが。

 

「どうすっかな…………」

 

"所有者(マスター)"が存在するなら、その人に連絡をしなければならない。直ちに連絡をして、可能な限り早くマスターの元へ返してあげるべきだ。その方がこの子のためにもなるだろう。

 

「…………仕方ねえ」

 

だが、エネルギー切れではその子にマスターのことを聞くこともできない。

 

 

 

 

 

 

「後でこの子のマスターさんに電気代請求したろ……」

 

結局、この『ボイスロイド』を一旦家に招き入れ、充電させてやることにした。ボイスロイドのエネルギー摂取方法は大きく分けて2通りある。1つは、今やってる電源から電気を得て内蔵バッテリーへ充電する方法。もう1つは、我々人間と同じように食事を摂ること。不思議なことに、食べ物もエネルギーに変換させることができるらしい。これも開発者の設計思想が関わっているらしく、『人と一緒に楽しく食事できたらいいよね』って感じで。

 

どういう技術なん?そんなことできるなら人類が仕事する必要って本当にあるのだろうか?まあ、そんなしょうもないことはこの際置いといて……。

 

まあ、気絶している状態で食べさせてやることもできないし、第一俺の分しか用意できないので充電させることにしたわけだ。

 

ちなみに、この子のことについては、調べなくても、よく知っている。

 

この子は『夏色花梨(なつきかりん)』。

 

小樽潮風高校に通い、2人の後輩と共にバンド活動をしている、いいとこのお嬢様。という設定だ。お嬢様かどうかは明言されていないが、立派な屋敷に住んでいることと『じいや』なる人物が存在することは判明している。

 

音声ソフト時代では、『CeVIO』や『voicepeak』に分類されていたが、現代は、アンドロイドタイプだと、全て『ボイスロイド』と総称されている。

 

ちなみに俺がここまで詳しいのは、単純に音声合成キャラが好きだからである。とはいえ、公式設定を隅々まで知っているほどでもないが。

 

「ん……」

 

起動できるのに最低限の充電は済ませたのだろうか。彼女が動き始めるのが見えた。

 

「あれ……?私……」

 

「君、話せるか?俺の家の前で倒れていたから、一時的にウチに招き入れたよ。充電切れたままじゃ、流石に可哀想だったからな」

 

「充電……?えっ…?」

 

『充電』

 

この言葉を耳にするなり、彼女……花梨は、必死に自身の身体を確認する素振りを見せて、やがてコードを見つける。

 

マスターでもない他人の電気を使ってしまっていることに気を遣ってくれているのだろうか?なんだ無茶苦茶いい子じゃねえか……。そんなことを呑気に考えていたが、どうやら違うようで……。

 

「なに……これ?なんで私の身体にこんなものが……?なんで……?これじゃあまるで……!!!」

 

なんだ?明らかに様子がおかしいぞ…?あれ?もしかして、アンドロイドって基本的に食事でエネルギー補填するのが常識だったりする?もしや充電方式は非常手段だったりする?

 

「あー、君は普段から食事してるタイプだったのか?すまんが、流石に気絶している状態で食べさせてやるわけにもいかないからさ……」

 

「わ、私は……!!夏色花梨よ!!!」

 

はい存じております。もしかして、『君』って呼ばれ方を好まないタイプなのかな?ボイスロイドって個体によっては微妙に好みや性格が変わることもあるらしい。

 

この子は恐らく名前で呼ばれたいのだろう。

 

「ごめんな、ちゃんと名前で呼んだ方がよかったか?えっと、夏色ちゃん?」

 

「違う!そうじゃないっ!!なんで私にこんなものが付いてるのよ!!!!」

 

まるでパニックに陥っているような、慌てた口調で俺に怒鳴るように問いかける。しかし、コンセントを指差してこれは何かと問いかけている。

 

どういう意味だ?そのままの意味だとしたら、何故そんな当たり前のことを聞くのだろうか。

 

「取り敢えず落ち着きなって。俺は泥棒みたいな怪しいやつじゃない。君は『ボイスロイド』なんだから、充電用にコンセントが付いてるのは当然だろ?ところで、起きたなら君のマスターと連絡取りたいんだけど……」

「その『ボイスロイド』って何よッ!!!まさかあなたも私がロボットだって言うつもりなの!!?」

 

俺がマスターさんの連絡先を聞き出そうとしたとき、彼女は俺の話を遮ってそう迫った。正直ちょっと怖い。

 

ロボット三原則を厳守して設計されているはずだから、流石に暴力沙汰にはならないだろうが、ここまで叱責されるように迫られると怖いよちょっと。

 

「私は、夏色花梨ッ!!!!私は……!!!!」

 

ピンポーン

 

「ヒッ!」

 

彼女が何か言いかけたとき、ウチのインターホンが鳴った。こんなときに誰だ?宅配なんか頼んだ覚えはないのだが。まさか訪問セールスか?そういうのに一切興味ないから、今までフル無視してたのだが……。まあ、一応出てみるか。もしかしたら、前マスターさんが位置情報を辿ってここに来たのかもしれない。

 

……ってか、なんで夏色ちゃんはそんなにインターホンに怯えてるの?

 

ガチャ

「はーい」

 

「突然押しかけてしまい申し訳ございません。私、ボイスロイドサポートセンターの者です。こちらに当社の"製品"が迷い込んでいないでしょうか?」

 

出てみれば、ボイロの企業のサポートセンターを名乗る人が数人出てきた。ということは、この子のマスターがサポートセンターに問い合わせたのかな?なら話が早いな。

 

「あー、『夏色花梨』のことですか?その子なら、先程家の目の前にバッテリー切れで倒れていたので、ウチで充電しているところです」

 

インターホン越しにそう伝えると、サポートセンターの人は申し訳なさそうに電気代を支払うと言った上で、事情が説明される。

 

「その個体は、出荷前に弊社の工場から脱走してしまいまして……。おまけに致命的な不具合もあるため、こちらで回収させていただきます!ご迷惑をおかけし大変申し訳ございません!」

 

まさかマスターがまだ不在だったとは……。

 

回収……。聞いたことがある。商品を作る上で、必ず一定数はエラー品が出てしまう。修復可能な程度ならそれで済ませるのだが、新たに製造してしまった方がコストが安く済むと判断された場合………。

 

「失礼します」

 

サポートセンターの人たちが数人入ってきた。いや待てまだ入室の許可してないんだが。

 

ってか随分足早だな。

 

「いやっ!!離してッ!!!」

 

企業の人に捕まるなり、全力で抵抗して引き剥がそうとする夏色。それもそうか。先程、サポートセンターの人は『致命的な不具合』と言っていた。恐らく、回収されれば、長期間の調査の末に……。

 

「助けてっ!!誰か助けてよ!!」

 

「こら、大人しくしろ!」

 

「いやっ!!六花!!千冬!!パパ、ママ!!じいやっ!!!」

 

 

 

 

 

時を遡ること数日前……。

 

今日はいつもよりよく寝た気がする。さて、今日も学校があるのだからそろそろ起きなくては。そう考えて、いつものようにベッドから出ようとした。

 

だが、目が覚める前に声が聞こえた。

 

それは、ママの声でも、パパの声でもない。使用人でもなければ、じいやでもない。

 

「○○さん。インストール時にエラーが発生したようで……」

 

「ちょっと、面倒だからって手順飛ばしてないでしょうね?」

 

「いやいや、コレ頭に被せてボタン押すだけなんですから、手順という手順もないじゃないですか……」

 

だ、誰?なんで知らない人が家に!?

 

「だ、誰よあなた達!?どこから入ってきたのよ!!!?」

 

「うわっ!びっくりした!!」

 

聞いたこともない男の人と女の人の声。それぞれ1人ずつ。てっきり私の家に侵入してきた不審者かと思って、私は責め立てるように問いかけた。

 

でも、私は起き上がって初めて気がついた。

 

「……えっ?」

 

ここ、どこ?私の家じゃない。なんで?だって私は昨日、六花や千冬と部活をやった後に、いつも行ってるお店に寄って、その後帰宅したはず……。

 

慌しく辺りを見回した。灰色一色の無機質な空間の中、申し訳程度に用意されている真っ白なベッドの上に私は寝かされているらしい。

 

そのベッドの周りにはまた、メカメカしい何かが沢山あった。詳しいことはどうでもいい。私の頭は、一つの結論を導き出した。

 

(私、誘拐された!!?)

 

「あ、おい待てッ!!!」

 

その結論に達した瞬間、私の足は勝手に動いていた。

 

早く逃げて警察の人を見つけなければ。誰かに助けを求めなくては。とにかくまずはここを脱出しなければ。

 

私はとにかく走った。不思議なことに、いつもより早く走れる気がした。全力疾走しているはずなのに、疲れる気配すらない。もしかしてこれが火事場の馬鹿力というやつだろうか?でも今の状況では好都合。このままアイツらから逃げ切ってやる!

 

少し走れば、人を見かけた。優しそうな親子だった。ひとまず私は誰でもいいから助けを求めたかった。

 

「はぁ……はぁ……!すみません、私、怪しい人に攫われたみたいで……!!携帯とか持ってないんです!!警察呼んでくれませんか!!?」

 

「あら?あなたは……」

 

「あっ!おかあさん!このこ、ぼくしってるよ!たしか、「なつきかりん」っていう『ロボット』だよね?」

 

「…………はっ?」

 

耳を疑った。この子どもはなんで言った?なんで私の名前を知ってるの?いやそれよりも……『ロボット』?私のことを、ロボットって……??

 

「あら、あなた、もしかしてマスターさんがいないの?お気の毒に……。生憎ウチは余裕がなくて………」

 

まるで飼い主が見つからないペットを見るような、憐れんだ目でこちらを見る母親。なんで私をそんな目で見るの…?

 

「……!!!」

 

「あ、おねえちゃん?いっちゃった…」

 

バカみたい!アタシがロボット?そんなわけないじゃないっ!だって私は今までずっとあの家に、パパやママ、じいや達と一緒に暮らしてた!小さい頃からずっと!!

 

高校に入学して、先輩達とバンドして!六花や千冬が入学してから、その子達ともバントをして……!!

 

私がロボットだというのなら、この記憶はなんなの!!?

 

 

 

どこまで逃げてきただろうか。不思議とまだ疲れる気配がない。ここで嫌な考えが過る。さっき、あの小さな子が私のことをロボットと言った。

 

何故私がコレだけ走っても疲れないのか。もし私がロボットだとするなら……辻褄が合ってしまう。

 

いや、そんなわけないっ!!そんなの認められるわけがないっ!!

 

私は疲れていない身体を真っ向から否定するように、ひと休みすることにした。あれだけ走ったのだから、数分くらい休む時間はあるはず……。

 

ふと横に目をやると、そこには大量のテレビが展示されていた。どうやら家電量販店の前まで逃げてきたらしい。こんなお店があるということは、周りに田んぼしかないようなあの変なところからはだいぶ離れられたってことかしら。

 

ひとまず安心していると、私はあるCMに目を奪われた。

 

『みなさん。こんにちは。夏色花梨です!』

 

「だれ、あれ、あ、あたし……?」

 

何故か、テレビの前には私が映っていた。私はテレビに出演したどころか、ネットに自分の素顔をあげたことすらない。なのになんで私が……?

 

『本日紹介するのはこちら!つい先日一般販売が開始された、『ボイスロイド』夏色花梨、アンドロイドタイプ!』

 

「なに、それ……?あたしの、アンドロイド……?」

 

『ロボット』

 

あの子の台詞が脳内で勝手に再生される。繰り返し。何度も、何十回も。私の頭の中をループし続けた。

 

『公式設定を基にして、「夏色花梨」を忠実に再現!歌うこともできるし、動画の実況や編集など、クリエイターのサポート機能も充実!加えて基礎的な家事もできるから、あなたの生活に彩りを与えてくれること間違いなし!『ボイスロイド』夏色花梨のご購入は、お近くの家電量販店か公式サイトで!』

 

うそよ……。こんなの……。こんなのって……。

 

 

 

どれくらい走っただろうか。脱出したてのときは、空はかなり明るく、太陽も昇り始めてそんなに経っていなかったはず。でも、今はすっかり暗くなって、逆に月がはっきり見える。生憎、今はその景色を楽しんでいる余裕はなかった。

 

疲れていないはずなのに、直感的に分かる。私はもうすぐ倒れる。

 

それはそうだ。私は朝から何も食べていないのに、ずっと走り続けていたのだ。食べるどころか何も飲んですらいない。人間、食べ物ならまだしも、水分を取らなかったらすぐに死ぬと、どこかで知った記憶がある。

 

……やっぱり、軽く12時間は何も飲み食いせずに走り続けられた私って……。

 

「……お願い、次に目を覚ましたときには、いつもの日常に戻って……。パパとママに会いたい……。じいや……。六花、千冬………」

 

そう呟いたのがトドメになったのか、私の意識が一気に遠のくのを感じた。

 

これが、悪い夢でありますように……。次に目を覚ましたときには、きっといつもの天井が見えるはず………。そんな淡い期待に縋って、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

耳を疑った。彼女が人間だと?ボイスロイドが人間を自称することなんてあり得るのか?

 

「あー、この個体は自身がボイスロイドであるという認識が欠如しておりまして……」

 

サポートセンターの人が俺の考えを察したのか、質問するまでもなく説明してくれた。

 

致命的な不具合ってそういうことか。なるほど。それならば先程の行動にも納得がいく。

 

コンセントに対して、これはなんだと問いかける行動。自分が人間だと信じて疑ってなければ、そんなものがあるはずがないと考えるのは当然である。

 

そして、自分は夏色花梨だと言ったあの台詞。恐らく、『夏色花梨という人間だ!』と俺に訴えたかったのだろう。

 

「なんでそんなバグが?そんなバグ聞いたことがないですよ?」

 

「そうなんですよ。我々としても初めての事態でして……」

 

彼女らに記憶をインストールする際、最後の処理として、自身は『ボイスロイド』であり、人間に奉仕するために生まれてきた、という情報を入力することにより、彼女らボイスロイドが完成するようだ。

 

この花梨の場合、何らかのエラーによってそれが失敗したらしい。

 

「誰か助けて!死にたくない!!私はまだ高校生なのに……!!!」

 

『死にたくない』

 

そうか。ボイスロイドにとって、本社に回収されるということは……。

 

「……あの、一つ聞いても?」

 

「はい?なんでしょうか?」

 

「俺、この子のマスターになること、できますか?」

 

「……えっ!?」

 

「……!!」

 

本社のサポートセンターの人は、耳を疑ったようだ。普通ならこんな致命的な欠陥を持ったやつを欲しがる人なんていない。だからこそ、徹底的に調査した後に、廃棄する予定だった。

 

「いやいや、でもこの個体は致命的なエラーが出ていて、とても売りに出せるような状態では……」

 

「……いえ、この子は廃棄するべきではありません」

 

やはり普通にお願いするだけではダメだったか。ならば、あちら側にもメリットを感じていただけるような提案をする必要がある。無論、しけた金額ではなく、もっと企業にとって利益となるものを。

 

「……どういう意味ですか?」

 

「彼女は自身を人間だと断言するほど、彼女は自分のことを人間だと信じて疑っていません。その証拠として、他の個体より感情表現が豊かではありませんか?」

 

「……確かに。ここまで反抗する個体は初めてかも……」

 

実際、不良が出た個体を回収するのにここまで手間取ったりはしない。何故ならボイスロイドが抵抗することは殆どないから。どれだけ自分で思考ができようとも、高度な知能を持っていようとも、結局は人に従う『ボイスロイド』でしかない。人間の命令は忠実に守るのだ。

 

逆に言えば、彼女らボイスロイドが人間に近い程度になってる原因とも言えるが。

 

「この個体を生かし続けることは、あなた達にもメリットがあると思います。もちろんモニタリングしてもらって構いません。その代わりと言ってはなんですが、私が彼女のマスターになってもよろしいですか?」

 

「で、でも……」

 

よし。あとひと押しでいけそうだ。別に俺はその手の仕事に携わっているわけではない。でも、俺は『ボイスロイド』のことは詳しいんだ。

 

「この個体のデータを採取して活かせば、次世代のボイスロイドはより感情表現が豊かになりますよ?より人間に近づけるはずです」

 

もちろん、そうなったからと言って、必ずしも売上に繋がるとは言い切れない。でも、新しいことに挑戦したいと考える企業ならば、これは魅力的な提案に聞こえるはず。

 

何より、不良品だとしても、予め分かっている上で、消費者がそれを求めるのなら、売り手にデメリットはないはずだ。

 

でなければ、ジャンク品なんて概念は存在しないはずなのだから。

 

「……上に確認する時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いません。もし無理だったとしても、許可がもらえるまでの間はこの子と過ごしてもいいですか?」

 

「それは構いませんが……」

 

「あー、お金のことなら心配は無用ですよ。でなければ、エラーが出ている個体を買うなんて言い出しませんって」

 

「ほ、本当によろしいのですか?」

 

「ええ。なんなら、契約書を作ってもらえれば、判子を差し上げますよ?」

 

「……分かりました。上と掛け合ってみます」

 

そう言って、本社の人は夏色を拘束するのをやめた。今後の説明をされた上で、彼らはこの家を後にした。

 

「……あの、その、ありがとう」

 

自分が人間だと認識していたはずなのに、自分はロボットだと知らされて、混乱しているはずなのに、夏色はお礼を述べた。

 

待って、この子無茶苦茶いい子じゃない?今は自分のことで精一杯なはずなのに、人にお礼を言うことを優先するなんて。

 

というか、今お礼を言われても困る。

 

「お礼なら、正式に俺がマスターになれてからにしてくれ。これでもしダメだったら目覚め悪いから」

 

「そ、そうだったわね……」

 

流石高性能アンドロイドというべきか。理解が早い。

 

「本当はさ、君の両親やじいやさんのところに送り届けてあげたいところだけど……」

 

「いえ、大丈夫よ。私も、理解できないほど馬鹿じゃないから……」

 

一見冷静にも見えるが、取り敢えず一命を取り留めたから一時的に安心しているようにも見える。

 

この子は、バグによって中身は人間だ。中身も正真正銘のボイスロイドならメンタルケアに特別気を配る必要はないが、この子は思春期真っ盛りのJK。

 

……冷静に考えたら、俺、これからJKと一緒に暮らすってこと…………?

 

あれ?これ事案では?

 

……っと、ひとまずそれは置いといて。

 

「……多分、君の感覚だと、突然異世界に飛ばされたようなもんだと思うから、今からこの世界のことについて説明するな?」

 

まずは、少しでも冷静になってもらうために、現状説明かな。

 




夏色花梨:『ボイスロイド』の一種
バグによって、自分がボイロであることを認識できていない。プログラムのインストールにより擬似的に体験した、『自身の誕生から高校3年生までの生活』の記憶しかないため、自分が『夏色花梨という人間』であると思っている。

このバグが原因で、廃棄される未来しかなかった彼女だが、主人公がマスターになることを申し出たため、一応助かった。ただし、ちゃんと安心できるのは正式にマスター契約が結ばれてからである。

主人公:人間。普通の一般会社員男性。名前は増田(ますだ)一樹(かずき)
昔からボイスロイド系のキャラが好きで、ボイロ関連の規則に詳しい以外は、ただの会社員。あまりにも人間らしい彼女を見て、何か思うところがあったのか、彼女のマスターになることにした。

気が向けば続く……はず……。

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  • 書いて?……書け(豹変)
  • 大丈夫だ。問題ない。
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