訳ありボイスロイドを拾った話   作:Miurand

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 クロスオーバータグをつけるべきか、正直悩んだのですが、ハーメルンのカテゴリー上、原作として『VOICEROID』があるので、このままクロスオーバータグはつけない方向で行こうと思います。小樽3人組以外の音声合成キャラは今後登場してくるかと思います。

 まあ、オリ主がマスターになる可能性は現状低いですが。



第2話 保護者(マスター)

私は夏色花梨。小樽潮風高校3年で、軽音部に所属している、所謂華のJK。

 

……そのはずだった。ところが、その記憶は、出荷前に『プログラム』の一部としてインストールされた、偽りの記憶に過ぎなかったらしい。

 

俄には信じがたい。実はロボットだったなんて。

 

六花や千冬と過ごしてきた、あの日々が作られた記憶だったなんて、信じたくない。

 

私にボイスロイドの自覚が欠如していることがバグとして判定されるらしく、あと少しで殺される寸前だった。

 

それを、この人は助け出してくれたのだ。まだ油断はできない状況だけど、この人が手を差し伸べてくれた事実は変わらない。

 

しかも、この人は私の心情を察してくれた。君にとっては、異世界に飛ばされたようなものだろうと。

 

まさにそうだった。これ以上的確な言葉はないんじゃないかと思えるほど、彼の言葉はしっくり来た。

 

そして、彼はこの世界のことも説明してくれた。この世界には、私の他にも『ボイスロイド』がたくさんいて、人間の頼れるパートナーとして日常に溶け込んでいるらしい。

 

男性型もいるが、女性型の種類の方が多いとのこと。

 

私からすれば、人身売買と変わらないのではないかと思えてしまえるこの状況だが、当のボイスロイド自体がこの状況を受け入れているらしい。というか、そうなるようにプログラムされているらしい。

 

……待って?基本的になんでも人の言うことは聞くのよね?ってことは……。

「ねえ、人間の言うことを聞くってことはさ……。もしかして、あんなことやこんなことを………?」

 

「それについては安心しな。その辺はセーフティ機能がついていて、ボイスロイドの同意無しで行為に及ぼうとした場合、自動的に規約違反が本社に通達される。そうなれば、その人は2度とボイスロイドのマスターになることはできなくなる」

 

「そ、そうなのね……」

 

その言葉を聞いてホッとした。無茶苦茶失礼なのは分かっているけど、この人がそういう目的で私を保護したかもしれないと思ってしまったが、それも杞憂だったようだ。

 

でも、だからと言って、何もしないわけにはいかない。当然、え、えっちなことはできないけど…!家事とかなら私にだってできる。

 

「あ、そういえば夜ご飯はまだよね?冷蔵庫の物使っていいなら、何か作ってあげる!あなた……名前まだ聞いてなかったわね。なんて言うの?」

 

「俺は東北きりたん。11歳です」

 

「えっ?その見た目で小学生なの!?」

 

「嘘に決まってるじょん」

 

「ちょっと!私は真面目に名前聞いてるのよ!!ふざけないでよ!!」

 

全く。この人は何を考えているのよ。ってか、よくよく考えたら、きりたんって名前というよりは渾名でしょうよ。その時点で気づきなさいよ私。

 

「俺の名前は、音街ウナだよ。アイドルやってまーす」

 

「そうそう分かったわ。今夜は釜茹でにするわね?」

 

「やめてくださいマジで。今度こそちゃんと名乗るので」

 

「最初からそうしなさいよ全く」

 

さっきまでの知的な感じはどこに行ったのやら。私は呆れながらも、3度目の正直を待つことにした。

 

「俺は増田(ますだ)一樹(かずき)。よろしくな?」

 

「……」ポチポチ

 

「えっと、夏色さん……?何をしていらっしゃるのでしょうか?」

 

「……うん。今度こそ本当の名前みたいね」

 

「申し訳ございません……。ってか、なんで俺のスマホのパスワードが……」

 

「いや、あんたつけっぱなしだったからパスワード入力しなくてもいじれたわよ。もっと用心しなさいよ」

 

「アッ、ハイ」

 

そら2度も連続で嘘つかれたら疑うに決まってるでしょうよ。2度あることは3度あるって言うし。

 

というか、企業の人を一時でも説得させた人と同一人物とは思えない。なんて杜撰な管理をしてるのかしら。

 

「私のことは花梨でも夏色でも、好きに呼んで」

 

「分かった。夏色。俺のことも自由に呼んでくれていいから」

 

「ええ、分かったわ。ところで話を戻すけど、何か作ってあげるわよ?」

 

「いや、それだとまた買いに行かなきゃいかんし、俺の分は用意してある。夏色はそのまま充電しててくれ」

 

「……そ、そうね。分かったわ」

 

私がロボットであるということ、この一連の出来事で受け入れられたかと思っていたが、やはりそう簡単には行かないらしい。

 

私が充電することにより、食事の代わりとしてエネルギーを得る。どうしても違和感というか、嫌悪感は拭えなかった。

 

「…………はぁ、そういやそうだったわ」

 

「えっ?どうしたの?」

 

「そういや、これ晩飯用に買ったんじゃなかったわ。朝用だった。悪いが、買い物に付き合ってくれるか?」

 

「……!!え、ええ!」

 

 

 

夏色と共に晩飯を調達するために家を出る。先程の発言は無神経だった。そういや、この子は自分のことを人間だと思っていたのに、唐突にロボットだと告げられたような状態だった。

 

まだ自身がアンドロイドだという現実を受け入れられるはずがない。

 

昔、友人にもたまに言われたっけな。無神経なこと言うなと。社会人になってから直ったと思ったが、どうやらそうでもなかったらしい。気をつけなければ。

 

「そういや、夏色は何が好物なんだ?」

 

「えっ?私?特に嫌いなものはないけど……」

 

「おっけ」

 

取り敢えず無難なものを選択するか。今日はなんとなく魚が食べたい気分だから、シャケにでもしよう。シャケに、時間的に味噌汁はレトルトでいいや。あとはテキトーなサラダでも買ってくか。

 

「あの、多くない?あなたってそんなに食べるの?」

 

「……?なんで?」

 

「いや、なんでって、1人で食べる量にしては多くない?」

 

「なんだ?夏色は食欲ないのか?」

 

「……!!」

 

「……まあそうか。こんな状況だから、そんな食う気にもならんか。悪い、そこまで気が回らなかった」

 

「い、いえ!あなたさえ良ければ、食べたいわ……」

 

「ん?そうかそうか。じゃあ戻す必要はないな」

 

よかった。まあ、まだ碌に充電ができていないはずだから、食べ物を欲するか充電したがるのは当然のことだ。んで、彼女の場合、後者は普通にNGだろう。

 

 

 

ひと通り買い物を済ませて帰宅した。なんか他の客や店員さんに思いっきり見られていた気がするが、気にしないものとする。

 

「ねぇ、さっき他のお客さんや店員さんからチラチラ見られてたわよね?やっぱり、私がいたから?」

 

と思ったら夏色から話題を振ってきた。まあ、ただでさえ容姿端麗でスタイルも抜群。それに加えて高価なボイスロイドときたものだ。ボイスロイドって正規の値段で買おうとしたら、軽く新車の軽自動車は買えてしまうからな。まあ彼女らの性能を考えればそれでも安い気はするが。

 

「まあ、そら高校生と社会人が一緒に行動してたら普通に浮くわな。人が人ならパパ活も疑ってるだろうな」

 

「……?パパ活の何がいけないのよ?」

 

「……はっ?

 

えっ、この子、今なんて言った?まさかのパパ活肯定派?え、嘘でしょ?夏色さんって、そんなことする子だったの!?お父さんすんごくショックなんだけど。

 

いや何父親面してんだろ俺。きめぇな普通に。口に出さなくてよかった。でもパパ活肯定には流石に物申したいよ?

 

「あの、夏色さんや。パパ活がどういうものかご存知でない……?」

 

「馬鹿にしないでよね!私だってそれくらい知ってるわ!あれでしょ?父親にお礼をする活動のことでしょ?そりゃ、みんなに馬鹿正直に伝えるのは気恥ずかしいかもしれないけど、私は別に隠すようなことでもないと思うわ……ってなんで泣いてるのよあなた!?」

 

いやいや、だって無茶苦茶いい子すぎるじゃん?きちんと親にお礼しようと考えるだけでも偉いし、それを恥ずかしがらずに誇るべきと断言までしている。何この子。俺を昇天させるために現れたのか?天使か?女神か??

 

心が浄化されて天に召されちゃうよ俺。これがわからせか?多分違う?いや多分これがわからせだな!(混乱)

 

「ちょ、ちょっと!?いきなり土下座してなんなのよ!?」

 

「いや、なんかやらないとバチが当たる気がして……」

 

「私が意地悪な神様か何かだと思ってる?」

 

こんな子がこんな可哀想な目に遭ってるとか理不尽にも程があるだろ。神様が実在するのだとしたら、多分闇堕ちして打倒神を掲げるよ?俺。

 

っと、誤解したままでは今後の会話にも支障が出そうだ。ここは保護者(マスター)(仮)として、正しい知識を教えてあげるべきだ。

 

 

 

「……そ、そうだったのね……。道理でみんな公にしたがらないわけだわ……」

 

「まあ、公の場でやらかさなかっただけよかったと思うよ。これも勉強だ勉強」

 

今は恥ずかしくても、外で大恥をかくよりはよっぽどマシなはずだ。早めに直せてよかったねとだけ言っておこう。

 

さて、そろそろ始めますか。

 

「えっ?料理なら私が……」

 

「夏色はお腹空いてて今にも倒れそうなんだから、そこでじっとしてなさいな」

 

安くなるという理由で普段から自炊をしているので、俺でも料理はできる。まあ汁物は野菜を用意するのに時間がかかりそうだから、今回は米炊いて魚焼いて、買ってきたレトルトの味噌汁とサラダを合わせるくらいだが。

 

お嬢様の夏色からしたら、貧相な飯になってしまうかもしれないが、まあ許してくれ。俺も腹減って早くありつきたいのよ。

 

「ほい、出来上がり。食べたきゃご飯おかわりしてもいいぞ」

 

「ほ、ほんとにいいの?別に、私は充電でも……」

 

変に遠慮してるなこの子。多少は感謝されることをした自覚はあるとはいえ、もう少し砕けてくれてもいいのだが……。なんて言うのも野暮か。そら会ったばかりのやつに無遠慮で接することなんかできるわけないか。

 

「まあ、食べたくないってなら、最悪捨てるしかないな」

 

「それは卑怯じゃない……?……いただきます」

 

「どうぞ召し上がれ。お嬢様には少し庶民的すぎるやもしれませんが」

 

「一言余計よ。食べさせてもらってるのにそんな失礼なこと考えるわけないでしょ」

 

そう言って、夏色は箸を進める。余程お腹が空いていたのか、夏色の箸のスピードは徐々に加速しているようにも見える。

 

さて、俺も腹が減っているのだ。今日も残さず食べよう。

 

 

 

「ご馳走様でした。美味しかったわ」

「お粗末でした。まあ、既に味付けされたものに火を通しただけだからな」

 

さて、食事も済ませたことだし、食器洗いでも済ませてから、お風呂にでも入るとしますかな。

 

「ちょっと待って!流石に洗い物くらい私がやるわよ!何でもかんでもやってもらってばかりじゃ悪いし!」

 

「いやいつもやってることなんだが……」

 

……まあ、ちょっとくらいはやってもらってもいいか。

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

「うん、それがいいわ!あんたはその間にお風呂でも入ってなさいよ」

 

「そうする」

 

洗い物は夏色に任せてしまおう。なら俺は着替えを用意してから……っと、ここで1つ問題が発生した。

 

夏色の着替え、なくね?残念ながら彼女なる生き物を見かけたことがない俺には、女物の服など当然ない。

 

困った。もうこの時間では服を売ってる店なんてほぼ皆無に等しい。

 

……困った時は報連相だな。この場合は『相』の行使だ。

 

「なあ、夏色。着替えとか用意してたりしてないか?」

 

「…………ないわね」

 

「ですよね〜……」

 

まあ知ってた。ワンチャン持ってるかもと思ったけど、やはりありませんでしたね。そら手ぶらかつ無一文で家出しているようなもんだからな。ある方がおかしい。

 

「すまんが、夏色の着替え、俺の服でもいいか?それくらいしか今日は用意できそうになくてな……」

 

「ふぇ……!!?」

 

夏色は驚いて思わず持っていた食器を手放した。幸い、桶の水の中に落ちただけなので、何も被害はなかったが。

 

まあ、そんな反応にもなるよな。年頃の女子が、男物の服を、しかも中古品を着るなど。嫌がるに決まってるよな。いくら洗濯していると言えども。

 

「……まあ、仕方ないわね。用意してこなかった私も悪いし……」

 

「いや用意できる方がおかしいでしょうに」

 

「……ってか、私も入っていいの?だって、私は……」

 

彼女が何かを言いかける。全く、卑下するように言うんじゃない。ロボットとか人間とかこの際関係ないっての。

 

「いいのいいの。うちの狭いお風呂でよろしければいくらでも使ってくだせぇ。それに、一日中行動してたならサッパリしたいだろ?」

 

「……ありがとう」

 

ツンデレなイメージのある花梨先輩に素直にお礼を言われると、なんかこう、グッとくるものがあるね……。最高です。ありがとうございます。

 

「じゃあ、俺は先に風呂いただくな」

 

「ええ」

 

 

 

食器を片付け、彼がお風呂から上がったから、私も今入浴中である。

 

……確かに、彼が言ってた通り、少々狭いかもしれない。いや、世間一般的には私の実家の方が広いっていうのはわかっている。使わせてもらっている立場で何失礼なことを考えているんだか。

 

湯船に浸かって、今日起こった出来事を振り返る。思えば壮絶な一日だった。見知らぬ部屋で起きて、自分が実は『ボイスロイド』というロボットであることを知って。

 

街行く人や、広告とかを見て、自分が人間でないことをこれでもかというほど見せつけられて……。

 

それで、もうすぐ連れて行かれそうになったところで、彼が助けてくれた。元々私みたいな『ボイスロイド』が欲しかっただけなのかもしれない。何か下心もあったりするのかもしれない。それでも、死ぬ寸前だった私を助けてくれて、しかも人間扱いしてくれている。その事実は変わらない。

 

もし、万が一彼に求められでもしたら……。我儘を言わずに受け入れるべきだったりするのかしら……。でも、やっぱりそんなことは……。

 

「……何考えてるのかしら。さっさと上がろう……」

 

……一応、私は容姿端麗でスタイルもいいのは自覚している。記憶の中の六花や千冬に散々言われたことだから。

 

あの人だって、私より歳上とはいえ、まだまだ若い男の人。当然そういった欲はあるだろう……。

 

……私が人間ではないってことを理解しつつある。でも、それでも、やっぱり怖い。そういうことになったら。

 

 

彼に用意してもらった服に着替えた。非常時だから細かいことは一切考えないでおく。さて私もそろそろ寝たいなと思った矢先……。

 

「ん〜……zzz」

 

「も、もう寝てる……!?」

 

あの人はもう寝ていた。しかも何故か自室のベッドではなくて、リビングのソファで。余程疲れているのかしら。と思ったら、テーブルの上に置き手紙が……。

 

『悪いが、客用の布団とか持ってないから、夏色は俺のベッドを使ってくれ。一応シーツとかその辺は変えておいたから』

 

全く……。この人は本当に私を人間だと思い込んでいるのかしら。記憶は人間でも、この身体は充電可能なロボットだというのに。

 

……でも、その気遣いは素直に嬉しかった。ありがたく使わせてもらうわね。ってかあんたがぐっすり寝ちゃってるから、私がベッドを譲ることすらもできなくなってるわけだけど。

 

もしや、それを狙ってもう寝てたりするのかしろ……?

 

「ほんと、卑怯よ……あんた」

 

言葉とは裏腹に、頬が緩むのが自覚できる。きっと、この人は信じても大丈夫な人だろう。

 

少しは、警戒心を緩めてもいいかもしれない。

 

「でも、そんなとこで何も掛けなかったら風邪引くじゃないの……。おやすみ」

 

「かりんせんぱ〜い」

 

「……!!?」

 

突然呼ばれたかと思えば、どうやら寝言だったらしい。

 

「釜茹ではやめて……」

 

「……どんな夢見てんのよ……もう」

 

 

 

「……りん……ぱい」

 

「……ん?」

 

妙に意識が重たい。さっきまで寝ていたんだっけ。

 

「か……せん……」

 

誰かを呼ぶ声が聞こえる。あ、きっとあの人の声だ。流石に朝ご飯は……って、もう用意あるんだっけ。だったら掃除とか洗濯とか、やらなきゃいけないことがあるだろう。

 

住まわせてもらっている身で、家事も全て任せるだなんて、そんなことあってはならない。彼がどんなに優しい人だとしても、それに甘えきるのはよくない。早く起きないと。

 

「花梨先輩ッ!!!」

 

うわっ!!!?

 

「あっ、やっと起きましたね!」

 

耳元で叫ぶようにして私を起こしてきた。鼓膜破れたかと思ったじゃない。てか、彼ってそんなことするキャラだっけ?まあ、会ってまだ1日経ったかどうかってところだものね。彼のことなんてまだまだ全然知らなくて当然よね。

 

「……えっ?六花…?」

 

「はい!あなたの可愛い後輩、六花ちゃんですよ!」

 

目を開けると、そこには六花がいた。それにスマホをこちらに構えている千冬も。

 

辺りを見回してみれば、見覚えのある部屋……否、教室だった。

 

「私、なんでここで?」

 

「パイセンが疲れて眠いって言ってたから、ちょっと寝かしてあげてたんじゃないですか!」

 

六花がそう言って、私は気がついた。六花の膝を借りて呑気に寝ていたらしい。ってか、なんでこんなことになってるのよ?

 

「花梨先輩があまりに気持ちよさそうに寝ていたものなので、写真撮っちゃいました」

 

静かに、しかしテンション高めで千冬がそう言った。

 

「あ!ちょ、消しなさいよそれ!!」

 

「うっひょー!!パイセンの寝顔とか国宝じゃん!取り敢えず私にも送ってよ千冬ちゃん!」

 

「もちろんです」

 

「やめなさいよあんた達!!」

 

これまで当たり前だと思っていた日常が、突然作られたものだと告げられた。そう思っていたけど、やっぱりあれは悪い夢だったのかしら。そうよね。私が実はロボットだったなんて、あるわけないものね。

 

「花梨先輩が無防備に寝るのがよくないと思います」

 

「そーですよ!それに私の膝を使ったんですから、それ相応の対価ってものが必要だと思いませんか?」

 

「馬鹿なことやってないでさっさと練習に戻るわよ!」

 

「千冬ちゃんやったね!消さなくていいってさ!」

 

「2人とも、消さなかったら今夜のウチの晩ごはんになってもらうからね?」

 

「おー、花梨先輩って大胆ですね」

 

「きゃー!花梨パイセンのえっち!」

 

「一回マジで釜茹でにしてやろうかしら……」

 

そう悪態をつきつつも、つい笑みが溢れてしまっている。そうよ。私の日常はこっちよ。こうして、今までも、これからも、こんな馬鹿なやり取りをしながらも、楽しくやっていくんだわ。

 

きっと、あの夢は当たり前の日常を噛み締めろって警告だったのかもしれない。いつまでも続くものじゃないから、大切にしろって意味なのかもしれない。

 

もう私も3年生。今後のことも考えて、そろそろ部活も引退しなくてはいけない。卒業してしまったら、この子達と一緒にいられる時間も大幅に減ってしまう。

 

悔いが残らないよう、1日1日を大切にしよう。

 

「さあ、馬鹿なこと言ってないで練習を再開するわよ!」

 

「えっ?じゃあ写真はそのままでいいんですか?」

 

「よっしゃーっ!!!」

 

「んなわけないでしょうがッ!!」

 

全くこの子達は……。

 

 

 

 

 

「……ん?あれ?」

 

目を覚ました。目の前には、つい最近初めて見た天井。

 

辺りを見回す。モニターに、パソコンに、ゲーム機が何種類か。棚には漫画も置かれている。

 

どう考えても私の部屋ではない。

 

「……はぁ」

 

思わず溜息を吐いてしまった。命拾いしただけでも運がいい方だと分かっているはずなのに。

 

他の子がどんな扱いを受けているのか知らないけど、それでも私はいい扱いを受けている。それは分かっているのに。

 

あの日常に戻りたい。そう思わずにはいられなかった。

 

以前に話を聞いたときは、六花型と千冬型もいるとのこと。物好きの間では『CeVIO型』とか『小樽3人組』とか呼んでいるそう。

 

あの子達2人も迎え入れれば、あの日常を取り戻すことができるのだろうか。

 

でも、恐らく記憶の中にいる六花や千冬とは、恐らく別人だろう。

 

……考えても仕方ない。私はこの現実を受け入れるしかない。自分に言い聞かせるしかない。私はロボット。人間を奉仕するために生まれてきた存在なのだと。

 

他の子達は、自分達の使命を全うしているのだ。私だけ人間です、なんてのは贅沢なのかもしれない。

 

「おー、おはよう」

 

「あっ、ご、ごめんなさい!私が作るべきだったのに……」

 

目覚めたら、彼が朝ご飯を作り終えていた。目玉焼きにご飯に、サラダと、朝ご飯にしてはなかなか凝っているようにも見える。

 

「気になさんな。これが俺のルーティンだから」

 

彼はそう言って軽く流した。しかも、当たり前のように私の分まで用意してくれている。

 

「さて、今日明日は俺、仕事休みだからさ、ちょいと買い物行こうか」

 

「えっ?なんかあった必要なのかしら?」

 

「いやいや、夏色の服を買わないとでしょうよ。いつまでも俺の服で過ごすつもりか?」

 

「あっ、ご、ごめんなさい!そうよね、いつまでもあなたの使ってたら、迷惑よね……」

 

(いや、夏色が嫌がるかと思ったんだが……。つか迷惑どころかご褒美なんですが)

 

彼がまるで違うと言わんばかりの微妙な表情を浮かべる。迷惑じゃないなら良かったけど……。

 

「で、でも!まだ私は助かったことが確定したわけじゃないのよ!せっかく買ってもらっても、すぐ使わなくなっちゃったら……」

 

「……」

 

私がそう言えば、彼は考え込むような仕草をする。それはそうよね。すぐ使わなくなるものを買うのに躊躇するわよね、普通……。

 

彼からは十分すぎるほどの施しを受け取っていると言っても過言ではない。いくら彼が善人で人格者だとしても、これ以上受け取るわけにはいかない。ましてや、これから生きていけることが確定しているわけではない私は。

 

「……じゃあ安めの服にしとくか」

 

「えっ?」

 

いや、そこはやっぱりやめとくか、ってなるところじゃないの!?というか最初は値を張るやつ買うつもりだったの!?

 

「最低限の服だけ買っといて、俺が正式にマスターになれたらちゃんとしたのを買おう。夏色はそれでいいか?」

 

「え、ええ。でも本当にいいの?」

 

「あのなぁ……」

 

彼は呆れたような仕草をして、こう続けた。

 

「金がどうのとか、損得で考えているようなやつなら、そもそもお前を引き取るなんて真似はしないよ」

 

……冷静に考えればそうだった。一般的には致命的なバグ扱いされている私を、彼は引き取ると言った。売り渋る企業の人を説得してまで。

 

「そういう遠慮ができる辺り、親御さんの教育が良かったんだろうが、遠慮しすぎだ。まあ、出会ったばかりの男に甘えろってのも変な話だが、もう少し頼ってくれてもいいんだぞ」

 

まあ、俺じゃ頼りないかもしれないけどな、と彼は付け足すように呟いた。

 

「……分かった。お願いするわ」

 

「ほーい。んじゃ、ひとまず朝ご飯にしますか」

 

いただきます。

 

そう言って、私は彼が作った目玉焼きを口に運ぶ。

 

少し話し込んじゃったから、若干冷めてしまっていたけれど。

 

不思議と、この目玉焼きは、今まで食べたどの食べ物よりも、温かい気がした。

 




 ここでこの世界観について一言補足。
 ボイスロイドをちゃんと『人間』として扱っている人はかなり少ない。

続きを

  • 書いて?……書け(豹変)
  • 大丈夫だ。問題ない。
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