訳ありボイスロイドを拾った話   作:Miurand

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 タグに記載してる六花達ですが、もうそろそろ登場予定です。初登場時付近はそこそこダークになるかもしれませんが、ダークサイドや残酷な描写タグはつけるほどではないかなって思ってます。今のところは……



第3話 条件

食事を済ませて、朝の用意も終えたことで、俺と夏色は休日デートをすることになった。

 

まあ、デートってのは冗談で、夏色が必要な服とか色々を調達するための買い物って感じだ。

 

「……あんた、なかなか高そうな車持ってるのね」

 

「こいつが出すエンジン音は最高だぜ?」

 

実はそれなりに車好きでもある俺。独身貴族を謳歌しているため、多少税金が上がろうが問題ない。ならハイスペックな車欲しいなってことで、スポーツ系の車を買った。

 

その手の車には珍しく、他の普通車と同じように5人乗ってもそこまで窮屈ではない。大抵は実質二人乗りだったりするのだが。

 

「お金はそこそこあるのね。なんでB○Wやべ○ツじゃないのよ?男の子ってそういうのが好きなんじゃないの?」

 

花梨先輩からこの言葉を聞けるとは。余の耳は満足じゃ。うん、きめぇな俺(無茶苦茶早い賢者タイム)

 

「そういうのが好きやつもいれば、性能に憧れる男もいるってことさ」

 

「……警察とカーチェイスしてないでしょうね?」

 

「してないしてない!……今は

 

「今なんか言わなかった?」

 

「気のせい気のせい」

 

そんな下らないやり取りをしつつ、相棒を起こして出発する。うむ。音を聞いた感じはいつも通りですな。よきよき。

 

 

 

「……こんな車乗ってるのに無茶苦茶丁寧だったわね」

 

「お嬢様乗せてますからね。無礼はできませんよ」

 

「何よそれ。私がいないときはやってるような言い方ね」

 

「こんな人通りの多いとこでやるわけないよ。そもそもガソリン勿体ないし」

 

それやるなら山道とか、夜中の大通りだなって言いかけたが、なんか夏色に怒られる気がしたので抑えておいた。

 

「んな下らないこと言ってないで、はよ行きますよ〜」

 

「はいはい」

 

夏色も慣れてきてくれたかな。初めて会ったときよりは砕けた態度を取ってくれるようになった気がする。

 

まあ、初めて会ったの昨日の夜だから、まだ24時間も経ってないんですけどね。

 

 

 

ということで、そこそこ大きなショッピングモールにやってきた。まず来たのが寝具コーナー。流石に毎日ソファは嫌なのでね。かと言って夏色をソファーや床で寝かせるのはもっとないし。

 

「えっ?ベッドなんて買うの?」

 

「夏色だっていつまでも俺のベッドじゃ嫌だろ?」

 

「いや、私はまだ助かったわけじゃ」

 

またですかこの人は。確かにまだマスターになれるか分からんが、それをここで気にするようなことじゃないっての。

 

「まあ、俺にはありがたいことに、友人に恵まれていてな。今度泊めてやるときにちゃんとした寝具があってもいいかなって思ってたところさ。だから細かいことは気にすんな」

 

「ほ、ほんとに……?」

 

「お嬢様はお嬢様らしく命令しなさいな。『早く私の寝具を買いなさい!こんなこともできないの?』ってな具合で」

 

「お嬢様に対する偏見が酷すぎるわね……」

 

いやいや、もちろんネタですよ。少なくとも花梨嬢様が言う姿は想像できない。

 

そこから、夏色にベッドの寝心地を試してもらったり、合いそうな枕を選んでもらったり。色々してたら軽く30分は経ってしまった。

 

「ほんとに、ごめんなさい。色々買ってもらっちゃって」

 

「こういうときはお礼が一番ですよ、お嬢様」

 

「またそうやって茶化す……。ありがと」

 

うーん。パイセンの素直なお礼が俺の身体に染みる。素晴らしい。なんか今まで生きてきたのって、もしかしてこの瞬間に立ち会うためだったのでは?

 

「んじゃ、次は服だな」

 

流石に思春期の少女が着替えている側にいるわけにもいかないし、下着とか色々買いたいだろうから、ここはお金だけ渡しとくか。1万……じゃ足らんよな?ええい、めんどいから多めに渡しちまえ。

 

「はいこれ。この範囲内なら好きに買っていいから」

 

「えっ……?」

 

夏色は万札5枚を見て固まっている。あ、あれ?もしかして少なすぎたか?あーそうか、お嬢様だから服の水準も高いのか!

 

「あー、すまん足りなかったか?もう5万くらい渡した方がいいか」

 

「いやいやいや多すぎよ!!最低限にしては多すぎるわよ!?」

 

大事なことだったのか、2回繰り返して多すぎると主張してきた。そんなに?

 

「そ、そうか?ちょっとTシャツとズボン買うだけでも1万近く行くから、これくらいはいるかと思ったんだが」

 

「とにかく追加はなし!余った分は返すから!」

 

「お、おう」

 

なんか拒絶されました。なんで?乙女だから色々必要だと思ったのに。まあ夏色がいいというならいいのか……?

 

「じゃ、俺はその辺で待ってるから、夏色は試着なりなんなりして買ってきなよ」

 

「えっ?あんた来ないの?」

 

「……えっ?なんで来るの?」

 

「……あっ、そ、それもそうね」

 

もしかして説明してやらなければならないのかと思ったが、あちらから察してくれたのでセーフ。モーマンタイである。

 

ほら、同行しちゃったら、何かの事故で着替えシーンを拝むことになっちゃうかもしれないから、一応ね?

 

「……そういえば、そもそも私みたいな、ボイロだっけ?1人だけで買い物ってできるものなのかしら?」

 

「現金なら大丈夫だよ。クレカみたいに翌月支払いになるやつだとダメなとこ多いらしいけど」

 

これは不正利用防止が目的なんだそうで。人間の同行なしでの買い物は現金のみ。たまに電子マネーとかOKなところもある。が、ボイロのみに買い物に行かせるとかするのであれば、現金を持たせるのが確実らしい。

 

俺現金アンチなんだけどな。まあしゃーなし。

 

 

1時間は経っただろうか。俺は飲み物買ったり軽食買ってつまんでたりして時間を潰していた。その間に友人と連絡したり、ネットサーフィンしたり、まあ色々やって暇つぶしていた。

 

やはり女の子の買い物には時間かかりますな。ここは気長に待つとしましょうか。と思っていたところで、夏色がこちらに来るのが見えた。

 

「ごめん!待たせちゃったかしら?」

 

「いや、色々溜まってるタスクあったからちょうどよかったよ」

 

「タスク……?まあ、暇してなかったならよかったわ。はいこれ。ありがとね」

 

そう言って夏色は……2万円ほど余ったのだろうか。こちらに返してきた。あれ?割と余ってね?

 

「だから、必要最低限だって言ってるでしょ?これでも使いすぎてる方だと思っているくらいだもの」

 

考えていることが顔に出ていたのか、夏色が先に答えてくれた。

 

うーむ、まあここは安い服が多めだからな。これくらいは余るか。

 

にしても、お嬢様なのに金遣いが荒くないとは、これまた意外である。ちゃんとその辺も教育を徹底している"設定"にしているのだろうか?

 

「じゃあ次は……」

 

化粧品や美容関係か……と言おうと思ったが、一旦踏みとどまった。

 

そういえば、夏色ってボイロだから、その辺なくても普通に美貌維持できたよな?それとも本人的には……いや、聞いたところで多分遠慮されるな。

 

「よし。ならそろそろ昼だな。夏色は生魚とかいける?」

 

「ええ。むしろよく食べてたわよ。というか、私の実家が何やってるかとかも知ってるんでしょ?」

 

「いやほら。触れすぎて逆に嫌いになったってパターンも聞いたことあるから一応ね?」

 

まあ生魚が大丈夫ということで、ここは少し我儘になってしまおう。これだけ夏色の物を買ったのだ。ちょーっとくらいは俺の言うことを聞いてもらおう。

 

 

 

「ん〜!やっぱ寿司は3食いけるくらい美味いなぁ!」

 

そう。寿司屋にしたのである。俺の好物は寿司。ぶっちゃけ1日3食寿司でも飽きないと思う。それくらいには寿司が好きである。

 

ぶっちゃけ寿司を食べない人は人生の8割は損してると思っている。異論は認めない。

 

「……ねぇ?ほんとに私も食べていいわけ?割とするんじゃ……」

 

「ご心配なく。先程夏色お嬢様が2万円ほど返してくれたので、全然余裕ですわ」

 

まあ、夏色の住んでたとこに比べたら質は落ちるかもしれないが、それでも美味しいぞ。お食べお食べ。

 

と言っても、夏色は遠慮しようとする。うむ、小奴め。また遠慮すると申すか!

 

……それとも、実は寿司が嫌いだったり?

 

「……ごめんな、俺の我儘に付き合わせちゃって。やっぱり寿司は苦手だったか?一旦店出て別のとこで食べるか?」

 

「いやそんなことしなくてもいいから!というかどっちかというと好きな方よ!もう、いただくわ!」

 

その言葉を皮切りに、夏色はどんどん注文していく。お、おお……。なかなか値を張るものばかり頼みますね……。

 

「ええい!これで文句ないでしょう!?」

 

「グッド。俺も負けてられない」

 

「えっ?そんなに頼んでいいの?ちょちょ、頼みすぎじゃない!?」

 

 

 

 

またまた小1時間が経過した頃。

 

デザートのプリンで〆て、お会計へ。

 

………おっふ。軽く2万飛んじゃった。流石に頼みすぎたわ……。ちなみに7割くらいは俺の分です。はい。

 

「全く……。あんなに頼んだんだから、それはそうなるわよね」

 

「まあ寿司食うときはこうなりがちだからね。仕方ないね」

 

「えぇ?いつもこうなの?お金なくなっちゃわない?」

 

「大丈夫。俺、人よりはちょっとだけお金あるからさ」

 

「ちょっと、ねぇ…?」

 

 

 

私は夏色花梨。先日、ある男性に拾われたボイスロイド……という名のアンドロイドらしい。

 

らしいって言うのは、私にはその自覚がないから。単なる覚悟とかの話ではない。自分がボイスロイドであることを知らないのだ。

 

私の中にある記憶は、間違いなくニンゲンとして過ごしてきた記憶。バグによってボイロであることを自覚できていないらしい。

 

まあ、仮に私が人間だとしてもだ。彼は妙に私をもてなしすぎている節がある。

 

まだ私が本社に引き取られる可能性が残されているにも関わらず、私の服やベッドを調達するだけでなく、お寿司までご馳走してもらった。ちなみにその寿司は、回るとはいえそこそこするとこだった。

 

まあ、私が人間ならまだ納得できる扱いだが、私はボイスロイド……。自分で言うのも嫌だが、私は法律上はペットと同じ『物』として扱われるはず。

 

彼は、その考えを真っ向から否定するように、振る舞ってくれる。

 

気遣いなのか、普段の彼の姿なのかは分からないけれど、どちらにせよ、今の私の心の支えになっている。

 

「さて、取り敢えず最低限必要なものは買ったと思うが、どっか行きたいところとかあるか?」

 

そんな。あれだけ買って、食べさせてもらったのに、これ以上を求めるなんて烏滸がましいにも程がある。遠慮する気配を察知するだけで、何かと強引に事を進める彼が相手とはいえ、今回は流石に断らなければいけない。

 

「特に欲しいものも食べたいものもないわよ。お腹いっぱいだしね」

 

「ふむ……。それもそうだな。じゃあそろそろ退散しますか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

家に帰ったら、せめてもの恩返しとして、掃除とか洗濯とかしなければ。このまま何も返さないなど、恩知らずにもほどがある気がするから。

 

帰路に向かって歩き出した、その時。

 

 

彼の携帯が鳴った。

 

「はい、もしもし。……はい。……はいそうです。昨日はご迷惑をお掛けしました」

 

まさか……?恐らく『本社』の人から電話がかかってきたのだ。これで決まる……否、すでに決まっているわけね。私がこれから生きるかどうか。

 

まだ彼と出会って24時間も経っていない。それでも、生きたいとか、死にたくないと思う前に、彼から離れたくないと思った。

 

 

 

「…………はい。分かりました。では失礼します」

 

どうやら通話が終わったらしい。彼の表情は……分からない。これはどっちなのだろうか。

 

私は、生きていいのだろうか?

 

「……夏色」

 

「は、はい!」

 

呼びかけられ、緊張のあまり思わず返事してしまう。

 

「夏色の好きなケーキって、ドゥーブルフロマージュで合ってる?」

 

……何の確認だろう?いや、この質問はケーキの好み。このタイミングで突然ケーキの好みを聞いてきたということは……。

 

「ねえ、それって……。私は、これから生きていいってこと?生きてていいの?殺されずに済むの?」

 

思わず、単刀直入に聞いてしまった。どうしても気になってしまったから。遠回しに聞くつもりだったのに、どうやら私は冷静を装うことすらできていないらしい。

 

「うん。そうだよ」

 

彼は、いつものようにふざけた様子ではなく、真剣な顔をして、私の方を向いて、そう答えた。

 

「俺は、正式に君の『保護者(マスター)』になれたんだ」

 

「……!!!」

 

「えっ、ちょ!?」

 

その言葉を聞いて、思わず泣き崩れてしまった。

 

まだ24時間経っていないけれど。

 

自分が人間ではないという事実を突きつけられ、挙句、人の勝手な都合で殺されるところだった。

 

この人のおかげでひとまず延命したとはいえ、今日も気になって仕方なかった。不安だった。

 

でも、もうそんなことは考えなくていいのだ。私は生きていける。

 

「お、おいおい……、ここで泣くのはちょっと……」

 

ごめんなさい。せめて家に帰ってからのがいいのは分かっている。でも、我慢できなかった。

 

「……と、取り敢えず車まで戻ろう」

 

 

 

夏色が突然泣き出した。まあ、この瞬間まで不安だったんだろう。俺も同じ立場なら、むしろ平静を装うことすらできなかっただろう。そう考えれば、夏色は相当頑張っていたはずだ。

 

……泣き止んだかと思えば、今度は寝てしまった。……よっぽど安心したんだろうな。

 

「……しゃーなし。ケーキは取り敢えずまた後にしよう」

 

お眠りになっているお嬢様を起こさないよう、細心の注意を払いながら、なるべく衝撃を感じないよう運転した。

 

 

 

ひとまず我が家に着いたが、お嬢様はまだまだお休み中。このまま車で寝かし続けるのも良くないと思ったので、思い切って夏色を抱えてみることに。

 

「ふぉ……!?か、かるっ!?」

 

予想以上に軽くて情けない声を出してしまった。高性能なアンドロイドだし、ドコとは言わないが、立派な物をお持ちになっているので、てっきり重いものと思って覚悟を決めていたのだが。

 

まあ、なんにせよラッキー。取り敢えずこのお姫様をソファまで運んであげよう。荷物はその後だ。

 

 

 

「……ん?」

 

私、何をしていたんだっけ。

 

恐らく寝ぼけているであろう頭を起こそうと思考する。

 

徐々に思い出してきた。確か、私は正式に生きることが認められて、それに安堵した私は泣き崩れてしまったのだ。

 

あの人がずっと側にいてくれたことは覚えている。彼が車まで付き添ってくれたことも。

 

……その後のことは覚えていない。きっと眠ってしまったのだろう。

 

「今、何時かしら……」

 

一体どれくらい寝たのだろうか。ふと時計を見たら、おやつの時間どころか、夕食にしては少々遅いと感じる時間になっていた。

 

「う、うそ!!私そんなに寝ちゃってたの!?」

 

「おっ。やっと起きたか。目覚めたばかりだけど、食欲ある?」

 

すると、彼が気づいたようで、またしても当たり前のように私の分まで夕食を振る舞ってくれている。

 

「ええ、いただくわ。ごめんなさい。またあなたにやらせちゃって……」

 

「いいってことよ。習慣になってるから気になさんな」

 

彼は軽く流して、ここに来て2度目の夕食をいただく。

 

……うん。出来立てだから、昨日よりも暖かく感じる。

 

食べ終えて、他愛のない話をして、少しお腹に余裕が出てきたかなってところで、彼が唐突に立ち上がった。

 

そして、冷蔵庫から箱を取り出してきた。

 

「あー、すまんな夏色。探してみたんだけど、ドゥーブルフロマージュは見つからなかった」

 

少し申し訳なさそうにしながら、彼はホールのショートケーキを取り出した。

 

「えっ……?ほ、ほんとに買ってきたの?」

 

「ん?まあね。夏色が無事これからも過ごせるということで、お祝いをしないとでしょ」

 

そう言いながら、彼は上機嫌にホールケーキのカットを始めた。

 

「まあ、今日は細かいことなぞ考えずに、美味しいものでも食べようよ」

 

「……うん」

 

私は彼に与えてもらってばかりだ。私は何もしていないというのに。唯一私にもすぐにできそうな家事も結局彼がやってしまっている。

 

いくら彼が優しいからって、このままではダメだ。私が人間とかボイロとか関係なく、このままではいけないと思った。

 

「あ、そうそう。夏色がこれから過ごすための条件なんだが……」

 

そう言って、彼が懐から取り出したのは……。

 

「……えっ?それって……」

 

銀色に輝く輪っか……。指輪だった。

 

……ん?モニタリングか何かをするのが条件だったんじゃないの?てっきりカメラか何かを仕掛けられるものとばかり思っていたのだけれど。

 

「夏色。これをつけてくれないか?」

 

「えっ?そ、それどういう意味?」

 

指輪をつけるって、どう考えても、そういう意味……よね?

 

ま、待って!私を引き取ることは彼にとって何もメリットがないと思っていたけど、ひょっとして私のことを……!!

 

それなら今まで異常に優しかったのも納得できる。『夏色花梨』に恋をしたのだとしたら……。

 

「ま、ままま待って!確かにあなたには色々助けてもらったけど、いきなりそんな……」

 

「頼む……!つけてくれ!じゃないと、今後に関わるんだよ!」

 

そ、そんなに!?あなたにとって、私と結婚することはそんなに重要だっていうの!?

 

まだ出会って間もないっていうのに、付き合ってすらいないのに、いきなりにもほどがありすぎるわよ!?それほどまでに私のことが好きなの!?

 

「頼む夏色!この通りだ!」

 

そして、彼は土下座までしてきた。頭をあげるように頼むけど、一向にあげてくれる気配がない。

 

お、男の人に土下座までさせてしまった。でも、この人はそれほど『覚悟』があるということなんじゃないだろうか。

 

このケーキといい、さっきのお寿司といい、『君に不自由はさせない』って意味なんじゃ……!?

 

「……し、仕方ない、わね…!あんたがそこまで頼むなら……、私も応えてあげないとね……!」

 

流石に急すぎるけど、それでも、彼が悪い人ではないのは分かりきっていることだ。

 

彼なら、きっと私のことを大事にしてくれるし、何よりここまで人間扱いしてくれるのも、彼だけかもしれない。

 

「ありがとう!では早速……」

 

少々慣れない手つきで、彼は指輪を嵌めた。

 

…………小指に。

 

「………はっ?」

 

もう一度言う。小指だ。

「よし!これでOK!実はその指輪、夏色の感情値を記録することができるらしいぞ?夏色の感情値をリアルタイムで提供するのが条件らしくて」

 

……ああ。だからあんな必死になって指輪をつけようとしたのね。そりゃ必死にもなるわよね。私が拒否したら、この話はなかったことになってしまう可能性があるから。

 

………うん。多分勝手に勘違いした私が悪いんだろう。それは分かってる。だが。

 

「ふんっ!!」

 

「ぶへっ!?」

 

軽く平手打ちした。大丈夫、ほんのちょっと痛いだけだから。その程度に加減はしている。

 

いや、無意識かもしれないけど、乙女心を弄んだんだから、これくらいしても許されるわよね?

 

「な、夏色さん!?何故いきなり平手をなされたのです!?」

 

「自分の胸に聞いてみなさい!」

 

「理不尽!?ロボット三原則は何処へ!?」

 

「私はバグで自己認識が人間なので関係ありません!」

 

「ねえ怒ってるよね!?俺何かした!?やっぱりモニタリングは嫌だった!?」

 

「そこじゃないわよ!」

 

数分後。彼は原因が分かったようで、また土下座してまで謝罪してきた。

 

流石にそこまでされたら、怒ってる私が悪いみたいじゃない。……まあ、冷静に考えたらいきなり平手した私は確かに悪いのだけれど。

 

「……ごめんなさい。軽めとはいえいきなり暴力なんて……」

 

「いや、明らかに俺が悪かったから気にしないでくれ……。確かに指輪をいきなりつけろって言ったら、勘違いしても仕方ないよな……。あれ?でも最終的に了承してなかった?」

 

「あら♪そんなに大釜で煮られたいのかしら♪」

 

「アッ、ハイ余計な思考は閉じときます」

 

「よろしい」

 

全くもう。彼といると調子が狂っちゃうわ。まあ、嫌な感じはしないけどね。




 左手小指に指輪をつける意味は、『チャンスを引き寄せ、幸せを留める』だそうです。
 ちなみに、指輪は花梨パイセンが寝ている間に届きました。この本社の対応、早すぎる。

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  • 書いて?……書け(豹変)
  • 大丈夫だ。問題ない。
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