あと、流石にダークサイドタグは追加した方がいいかなってレベルになってしまったので、追加。この場合は残酷な描写タグも併せて追加。多分ないと叱られそうな内容になりそうなもんで……。
私の名は夏色花梨。今更だけど、"なついろ"じゃなくて"なつき"よ。
私はバグで自己認識が人間になっている『ボイスロイド』らしい。そのせいで処分寸前だったのだが、彼が正式にマスターになったことにより、助かった。
そこからはもう、何故か私よりも彼がハイテンションで、服を買うだの、ケーキを買うだの、美容品とか色々買おうかだの、もう大忙し。
日曜日はあっという間にその辺の調達で時間が潰れてしまった。
彼は真っ当に社会人をやっているらしく、明日から仕事なんだそう。貴重な休みを潰してしまって申し訳ないと口にすれば、彼はこう言う。
「なーに言ってんの。この時間もお金も必要経費よ」
相変わらず軽いノリで、そう流した。
というか、今更すぎるのは承知の上でツッコミたい。何故彼は一人暮らしのはずなのに一軒家に住んでいるのだろうか。
話を聞くに、どうやら借り家ではなくしっかり所有しているらしい。なんなら新築で建てたそう。
あんた本当にただの会社員なの?金遣いが荒いとかそう言う次元ではないように感じるのだけれど。
彼は独身貴族というやつなのだろうか。まあ、お金に余裕のない人が高価なボイロを引き取ろうとは思わないか。ボイロは維持費も相当かかるらしい。
話は変わるけど、今日は月曜日。私にとっては、平日とか休日の概念がないに等しいけど、彼にとっては別。週初めの仕事で流石の彼もテンションダダ下がりかと思えば。
「……人に作ってもらうご飯。あったけえよ……」
なんか感極まって泣いてるんだけど。
この家に来て、今日初めて私が朝ご飯を作った。流石に家事労働くらいはしないと申し訳ないからだ。正直、この程度では足りないくらいだと思っている。
「そして夏色のご飯美味い。温かい。最高。生きててよかった」
「さ、流石に大袈裟よ」
むしろその台詞を言いたいのはこっちなんだけれど。あまりにもオーバーリアクションじゃないかしら。
「ご馳走様。俺はそろそろ仕事に行ってくるよ。家にあるものは基本的に好きに使っていいから」
「ええ、ありがとう」
「あ、車だけはダメだぞ?」
「わかってるわよ流石に!」
と言っても、彼が早速買い与えてくれたスマホがあるし、彼の自室にもゲームがある。暇潰しには困らないんじゃないかしら。
なんと、彼がいるときも自室に入ってゲームをいじっていいとのこと。にも関わらず私の部屋に入るときにはしっかりノックする。
彼は自分のプライバシーに関心がないのだろうか。しっかりしているようで抜けているところもあるのよね、彼。
「そんじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
夫婦にも、親子にも見えるやり取りをして、家主が不在になった。
1人では広すぎる家に、私ただ1人。
ずっと家にいるのもなんか退屈だ。一応単独での外出はしてもいいらしいけど、ボイロが単独で行動すると何かと目立つらしい。
だが、彼はすでに一手先を読んでいた。既に私1人でも外出できるよう、変装用の服も買ってくれたのだ。いくらなんでも甘やかしすぎじゃないだろうか。
でもまあ、2日連続外出したから、今日は家で過ごすのも悪くないかもしれない。
まあ、その前に掃除や洗濯だけは済ませちゃいましょう。
洗濯や掃除を終わらせた。彼が毎日やってるからか、洗濯物も少なければ、部屋もほとんど汚れていなかった。
「好きに使っていいって言ってたわね」
好きに使っていいものの中には、彼のPCも含まれる。そこそこの性能はあるようで、基本的に余程重いゲームでなければ動くらしい。
とはいえ、調べ物をするだけで借りるのはなんか申し訳ないので、買い与えてもらったスマホを使って調べよう。
私が調べたいものは、『ボイスロイド』だ。
私以外にも、六花や千冬の他にも、様々な子がいるらしい。中には小学生型や園児型もいるようで、なんなら設定上はキメラとか、死神とか、妖精に精霊とか、人間じゃない型まで。
なんかもうなんでもありである。
あれから数時間が経った。色々調べて分かったが、微妙に性能差や性格にも違いがあるらしく、年式にもよって変わるとか。なんか調べれば調べるほど何が何だか分からなくなってくるわね。
取り敢えず、私が最も知りたかった六花や千冬については、あくまで"設定"的には私の知っている2人で間違いない。
そもそも、彼が私のことを感情豊かと言っていたけれど、普通のボイスロイドはどんな感じなんだろうか。
………お腹空いてきたわね。そういえばお昼用意してなかったわ。一つ言い忘れていたが、彼からお小遣いももらっている。10万円。
えっ?桁を間違えてないかって?それを言いたいのは私の方よ。しかも月に10万である。これで食費や光熱費を出せってわけでもない。本当にただのお小遣いとしての側面しかない。
いやなんで??私まだ家事労働すら碌にやってないのだけれど。
返すと言っても彼が聞かないのが目に見えているので、こうして大人しく受け取っているのだが。
「……着替えましょう」
そんなこと考えても仕方ないので、ボイスロイドだと一目では分からない程度に変装して、1人で外出する。
この辺の土地勘がないので、マップアプリを開きながら移動する。家の位置も分からなくなると困るので、事前に登録してある。というか彼が事前に設定していた。
目的地に辿り着いた。食べるものを決めきれていないから、ひとまずいくつもお店がある複合施設にきた。この前行ったショッピングモールほどではないけど、そこそこ大きいところだ。
「へーいそこのお姉さん!『ボイスロイド』に興味なーい?」
まるでナンパでもしにきてるんじゃないかと思える発言だが、声を聞けば分かる。女性、それも私と同年代くらいだ。
というか、この声は、聞き覚えがある。というか、嫌でも毎日耳に入ってくる声だ。
「ってあれ〜?もしかして私と同じ『夏色型』?マスターはいないの〜?」
間違いなく、私に声をかけてきているのは『私』。だけど、私とは違う。
まず服装。一言で言うと派手。髪はロング、爪は派手にデコレーションされていて、耳にはピアスやイアリングが付いている。
同じ私でも、明らかにタイプが違う。
「……マスターは仕事よ。私はちょっとお昼でも食べようと思って」
「へぇ?ということはぁ、お金持たされてるの?あんた恵まれてるわねぇ」
同じ顔でも一応初対面。にも関わらずここまで馴れ馴れしいのは、ギャルだからなのか、同じ『私』だからなのか。果たしてどちらなのだろうか。
「……というか、あんたも『夏色花梨』なのよね?なんでそんな派手な格好してるの?マスターさんの趣味?」
「はぁ?あんたボイロのくせにそんなことも知らないわけ?」
なんでそんな常識を知らないんだ?と言わんばかりの珍しいものを見る表情をしながら、そう返してきた。
「あのね、ボイロにも様々なタイプがいんのよ。ノーマルタイプが基本で、型によってギャルタイプだったり、幼体タイプだったり。逆にノーマルが幼体だと成体タイプだったりとね」
ちなみに私はギャルタイプね☆と明るめに自己紹介を挟んできた。眩しい。まるでこの世界には希望しかないと言わんばかりの態度だ。
「にしても、夏色型はつい最近一般販売されたばかりなのに、もう所有してるなんて、あんたんとこのマスターさんも金持ちね〜。ねえ、もう1人花梨がいらないか聞いてみてくれない?」
「あーはいはい。機会があったらね〜」
「え〜ノリわる〜い」
ギャルの花梨は、買ってもらえなさそうだと分かると少々不機嫌になっていた。わっかりやすいわねこの子。私ならここまであからさまに態度に出さないわよ。*1
……というか、この子はしっかりボイロとしての自覚があるのよね?にしては人間と遜色ないような気がするのだけど……。
「あっ、いらっしゃ〜い!そこのお兄さん、ボイロとかほしくなぁい?」
「お、ちょうどいいところに。"コレ"ください」
「えっ?私買ってくれるの?あざーすっ!」
私が去ろうとした瞬間、ギャル花梨は男の人に買われた。そして買われたことに感謝していた。
……そうか。これが『ボイスロイド』と人間の違いなのね……。
人間と同じように考え、行動することができても、自分たちが売買されていることに対して微塵も疑問に思わない。それが当たり前だと刷り込まれている。
そして、人間もボイロを"モノ"として扱うのが常識になっている。
それが、人間とボイスロイドの違い…。同じ姿をしている別人が買われる現場を見たからこそ、それを実感できた。
「へへっ!私も買い手がついたわ!サンキューな、平凡なあたし!」
「平凡って何よ……。まあ、よかったわね?」
なんで私が感謝されたのか分からないけど、まあ、本人が幸せならいいのかしら……?
自分に瓜二つのボイロが目の前で買われた光景を見て、少し複雑な心情になりながらも、本来の目的を遂行する。
お昼はハンバーガーにしてみた。なんだかんだで食べた記憶がないように思える。六花や千冬と過ごした記憶だけははっきりしているけど、他は朧げなのだ。
だから、このハンバーガーも実質初めてだと言える。
結論としては、美味しいけど健闘的ではなさそうな味だと感じた。でもたまには食べたくなる。そんな味だった。
用事も済ませたことだし、ついでに買い物も済ませてしまおう。
私が帰宅して数時間経つと、彼も仕事から帰宅してきた。
「ただいま〜……」
「あっ、おかえりなさい」
「お、おかえりなさい……?」
私が挨拶を返すと、彼は違和感あるとでも言いたげな声で小さく返してきた。
「あっ、お帰りなさいませ……。の方が良かったかしら?」
「そうじゃないそうじゃない」
彼は全力で否定した後、涙を流した。
「えっ!!!?」
これには流石に私も驚いた。何か余計なことをやってしまった?やはり彼に迷惑をかけていた?それとも、職場で余程辛いことがあった?
いや、彼の性格的に多分最後のやつよね!だ、だったら私が癒しになってあげなきゃよね……!?
「……仕事で辛いことがあったの?もしそうなら……。少しは甘えてくれても、いいのよ?」
「甘えるって……?」
「えーっと……、そう!胸に飛び込んでいいから!!」
確か男の人って、どんなに辛いことがあっても、おっぱいがあれば解決するって話よね?『大丈夫?おっぱい揉む?』って台詞があるくらいだし!
魔法の言葉だってネットに書いていた気がするわ!!
「……あの、俺、別に仕事や職場で辛いことがあったわけじゃないよ?」
「えっ!?じゃあなんで泣いてるのよ!?」
「いや普通に、帰宅の挨拶を返してくれる人がいることに感動しているだけ。ましてやその人が美人で可愛い上にご飯も作ってくれてることに感動していただけ」
「えっ、えぇ……?そんなことで泣いていたの?」
「夏色もしばらく一人暮らししてみれば分かるよ」
1人が寂しいって気持ちは分かるけど、それでも泣くのは大袈裟な気がするのだけれど……。
「あと、一つ聞いていい?」
「なによ?」
「……マジで辛いことがあったら、本当に胸に飛び込んでええの?」
「……本当に辛いことがあったらね」
我、増田一樹。一般会社員なり。
帰宅して早々、夏色に出迎えられた上に、美味しそうな匂いもする状況に感極まって涙を流したら、思いっきり心配されてしまった。
やっぱりこの子、いい子すぎないですかね?お父さん余計涙出そうよ?
しかも、胸に飛び込んでいいとか、マジで言ってる?夏色なりの冗談ってやつなのか?
試しに、マジで飛び込んでいいのか質問してみる。まあ、流石にこんな質問飛ばしたら、ビンタの1発はくらうだろうなぁ、と思っていたのに。
『……本当に辛いことがあったらね』
「えっ……??」
「さっ!しょうもない話はもう終わりにして、さっさとご飯かお風呂にしちゃいなさいよ!」
なんか、条件付きで普通にOKされたんだけど。
てっきり顔を真っ赤にして、俺は物理的に顔を赤くさせられるものかと思っていたのだが……。
「夏色っ!!」
「えっ、な、なに?」
少々声を荒げてしまったからか、夏色が驚いてしまったが、仕方ない。
この子は世間に疎いのではないだろうか。ここは教育せねばならない。
気軽に身体を差し出すことが如何に怖いことかを。
「自分の身体は大事にしなさい。そんな気軽に差し出していいものじゃない。相手によっては調子に乗って最後まで持ってかれるぞ!そういうのはもっと慎重にならなきゃダメだ!」
「いや流石に誰に対してもこうではないわよ!?」
「あー、そうなの?ならいいんだけど」
だとしたら、俺はOKな人間として認定されているってことになるのか?流石にまだ早くない?まだ会って数日しか経ってないけど??
「い、言っとくけど、本当に辛いことがあったときだけよ!!いつでも気軽に来ていいって意味じゃないからね!!」
「あっ、はい」
思わず返事をしてしまった。いや、本当に辛いことがあっても胸に飛び込むのは如何なものだろうか。
確かに、夏色の胸は魅力的だ。それを否定できるほど、理性を鍛えているわけではない。
しかしだ。普通に考えてJKの胸に飛び込む会社員は事案でしかない。ストレートで大学4年で卒業した新入社員ならギリセーフになるかどうかではないだろうか。*2
いくらボイロって言っても、夏色の中身はほぼ人間だぞ。流石にきついって。やったら引かれるって。
朝になった。さっさと起きて彼の朝ご飯の準備をしなくては。働かなくていい私とは違って、彼は出勤しなくてはならないのだから、可能な限り支えなくては。
……昨日は無茶苦茶恥ずかしいことを言った気がするけど、思い出さないことにする。
「なんか悪いね。わざわざ早起きしてまでご飯作ってもらっちゃってさ」
「これくらいはお安い御用よ。私のがお世話になってるくらいだし」
ふと思う。昨日のボイロショップで、別タイプの私を買った人は『コレください』と言っていた。故に、ボイロは物として扱うのが常識なのだろう。
でも、彼は昨日の言動といい、今までの接し方といい、私を年相応のヒトの女の子として扱っている節がある。
一体何故だろうか。私の背景を知っているとはいえ、たったそれだけで見る目を変えることができるのだろうか。
「んじゃ、俺は仕事行ってくるね〜。悪いが今晩分のお使い頼める?」
「いいわよ。何がいい?」
「うーん……そうだなぁ。なんとなくハンバーグでも食べたい気分?」
「分かったわ」
「できればオニオンソースがいい。あれが一番好き」
「任せなさい」
私はそう言い切って、彼を見送った。何故か分からないけど、料理はできる。記憶の中でも料理をしたような気がするけど、はっきりと覚えていないのに、だ。
きっと、その辺のプログラムは正常にインストールされたってことよね。自己認識の部分だけミスしちゃっただけで。
彼が人間として接してくれて、優しくしてくれたからだろうか。少しずつではあるけど、自分がボイロであること自体には嫌悪感はなくなってきた。
無論、物として扱われるのは嫌だ。それを肯定するわけではない。あくまで現実を受け入れられるようになってきたってだけの話。
「さーて、買い物さっさと済ませてゲームでもやっちゃいましょ。せっかく遊んでいいなら遊ばないと損よね♪」
彼にお使い用として持たされた財布を手に、マイバック片手に外へ出て、家の敷地から公道に出た、まさにそのとき。
スパッ!!……っと、高速で何か手から抜けるような、風を切るような音がしたと思い、つい財布を持ってた右手を見直してしまう。
……ない。持っていたはずの物が見えないし、重みも消えたように感じる。
そして、風が切った方を見やる。そしたら、何やら走っていく人影が…………。
「コラーッッ!!!!泥棒は許さないわよッッ!!!!」
私は疲れ知らずの"身体"を持っていることを知っている。ヒトのカラダとは違い、ボイロは疲れを知らない。感覚でバッテリーが切れるかは分かるけどね。
だから、その持ち前のスペックを活かして犯人を追いかける。徐々に追いついてきて分かったのだが、相手は私と同じくらいの女の子らしい。
いや、性別や年齢は関係ないわ!あれは彼から渡された財布よ。彼が例え大金持ちだとしても、1円たりともくれてやる気はないわッ!!
というか、私にあげる権利なんてないんだけれども!
「つっかまえたわよッッ!!観念なさいッッ!!」
「わっ!!!」
思ったよりも手強い相手だった。でも私の勝ちよ。人にしては、あのスピードをよく長時間維持できたものだ。
……まさか。ヒトじゃなくてボイロ?
恐る恐る、その女の子のフードらしきものを取ってみた。
「あ、あんた…………」
髪がクシャクシャになっていて、ところどころに汚れや傷が見受けられるけど、それでもはっきりと分かる。
白色に近い銀髪。左右に特徴的なお団子ヘア。セミロングの髪……。
身長は私より一回り程度小さい。
「あんた……六花なの?」
「花梨……先輩」
聞き覚えのある声。間違いなく、
彼女は、もっと周りを巻き込むくらい元気な声だった。こんな弱々しい声ではない。こんな、今すぐにも消えてしまいそうな、小さな声ではない。
元気で、少しお馬鹿で。でも先輩である私をも引っ張ってくれる活発さ。それらがこの子にはない。
「あんた……なんでこんなことしたのよ……!」
私の知る六花と別人だということは分かっているつもりだ。だけど、どうしても抑えられなかった。何故この子がこんなことをしたのか。
見逃せなかった。大切な後輩が、こんな姑息なことをするなんて。
「ごめんなさい……」
「……ちゃんと素直に返してくれれば、今回は見逃してあげる。でもこんなことは絶対に……」
やっちゃいけないことなのよ、と続けようとしたのだけれど、つい口が止まってしまった。
別にここで甘やかそうと思ったわけではない。むしろ、キツく叱っておかなければならないと思っているくらいなのだから。
だけど……。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!悪いことしてごめんなさい!言う通りにできなくてごめんなさい!殴らないでください!役に立てなくてごめんなさいごめんなさい」
……壊れたラジオのように、ただひたすらに謝罪を繰り返すこの子を見たら、彼でも口を止めてしまうと思う。
あまりにも、痛々しすぎて、見ていられない……。あんなに元気な子が、こんな姿を晒すなんて………。
「ほ、本社に通報だけはしないでください!私まだ役に立てるからっ!役立たずじゃないから!!なんでもする!あなたが望むなら毎日全裸で過ごします!!毎日お世話します!!なんでもするから、捨てないで!!!お願いだから私を捨てないで!!!!」
「ちょちょ、落ち着いて!?!?」
なんで、そんなに怯えているの?もしかして、あんたも廃棄の危機に?にしてもこの怯え方は異常よ。
なによ、捨てないでって。
なによ、まだ役に立てるって……。
なによ、なんでもするって……!
「やだ!まだ死にたくない!私はまだ"使える"!ちょっと汚く見えるかもしれないけど、まだ手足を動かせる!ちゃんと喋ることだってできる!だから本社に通報しないで!言う通りにするから!いい子にしますからぁ!!」
「六花ッッ!!!!!」
思わず、私は彼に買い与えてもらったマイバックを放り投げてまで、六花を抱きしめた。
確かに、この子は何日もお風呂に入ってなかったのか、そういう臭いはした。でも、気にならない。彼だって、同じ状況になったら、きっと同じことをしたはずだ。
「あんたの身に何があったのかは分からないッ!!だけど、私はあんたの味方よッ!!!何があっても、私はあんたの側にいるッッ!!!!だから、落ち着いて……」
「かりん……せんぱい……せんぱぁい…!!!」
安心したのか、この子は突然泣き出しちゃった。
本当に、何があったのかは分からないけど、きっと辛いことがあったのよね。苦しいことがあったのよね。
大丈夫。私がいるから。彼よりは頼りないかもしれないけど、私を頼りにしてほしい。
「せんぱぁああいっ!!ごめんなさぁああい!!!」
「今は謝らなくていいわ。落ち着くことだけを考えればいいのよ……。よく頑張ったわね」
きっと、私よりも長い期間、廃棄の危機に怯えて過ごしていたんだろう。必死に生き残るために、お金を盗んでまで……。
少し時間が経った。
六花はようやく泣き止んでくれたけど、ここでこの子とお別れするなんて、とてもじゃないけどできなかった。
流石に彼にマスターになってもらうのは図々しいのは分かっている。だから、せめてもの我儘として、お風呂くらいは貸してあげたかった。
彼に無許可で貸すのは、本来ボイロとしてあるまじき行為だと、なんとなく分かっている。きっと彼の優しさに甘えてしまってるのだろう。いつか大目玉をくらうかもしれない。
でも、この子をあの場で放っておいたら、私はきっと一生後悔する。
「先輩……、湯船までもらっちゃって、ごめんなさい……」
「そこは謝罪じゃなくて、『ありがとう』ってお礼を言うのよ。その方が彼も喜ぶでしょうし」
というか、いちいち謝罪してたら、彼だと逆に怒りそうよね。そんな遠慮するなって。
「ほら、髪を乾かしてあげるからこっちに来なさい」
「それくらいは自分で……」
「なに?私じゃ頼りないって言うの?」
「……えへへ。じゃ、じゃあ、お願いします……」
ひとまず今日だけでも、この子を家に居させてあげられないだろうか。引き取ることは難しくても……。
流石に、怒られるかしら……。
「ねえ先輩」
「なーに?」
「……先輩には、マスターがいるんですか?」
「ええ、そうよ。私も廃棄される寸前だったんだけど、彼に助けてもらったわ」
「そうなんですか……。家にあげたのも、当然先輩のマスターが許可を出したんですよね…?」
「いえ、彼は仕事中だからメッセージにも反応しないわよ?怒られちゃうかもしれないわね」
私が後半冗談混じりでそう言ったら、六花の顔が青ざめていく様子を確認できた。さっきから過剰に考えすぎじゃないかしら、この子……?
「先輩……!そんなことしたら、先輩はきっと叱られます!おしおきされちゃいますよ!!?」
「あー、そうね。確かに怒られちゃうかもしれないわね」
「なんでそんな悠長に構えていられるんですか!!?殴られるかもしれないんですよ!?お仕置きと称して、強姦されるかもしれないんですよ!!?ひたすら罵倒されるかもしれないんですよ!!?」
なにこの反応……?やっぱり何かおかしいわ……。自認がボイロかヒトかの違いが原因……ではないわよね?
「六花……。私のマスターはね、そんなことはしないわ。彼はむしろ優しすぎるの。私が心配になるくらい。誰かに騙されて、いいように利用されるんじゃないかって、心配になるくらいに」
「嘘だッ!!そんな人間がいるわけない!!先輩、一緒に私と逃げましょうッ!!!ここにいたら危険ですッ!!1人じゃずっと心細かったけど、先輩となら……!!!」
「落ち着きなさいッッ!!!」
本当は六花のフォローをしてあげるべきなのかもしれないけど、許せなかった。
私に人間として接してくれる彼を。
優しすぎて、最早心配になる彼を。
最早過保護とも言える彼を。
知りもしないのに、会ったこともないのに侮辱するなんて。
「断言するわ。彼は絶対にそんなことしない。彼は私を"人間"として扱ってくれるのよ?家にあるものを好きに使っていいって言うくらいなのよ?私がおかえりって言っただけで、ご飯を作ってあげるだけで、感動ですぐ泣いちゃうような人なのよ?」
私は六花の髪を乾かすのを中断して、抱きしめた。
六花に安心してほしい。いや、それよりも、彼が優しい人間だと、知ってほしいのだ。
「あんたが前にどれだけ酷い扱いを受けたのか、私には想像もできないんだと思う。だけどお願い……。私の信じる彼を……マスターを信じてほしいの……」
「せんぱい……」
六花が落ち着くのがよく分かる。取り敢えずはよし……ってところかしら。
「……六花」
私、決めたわ。
図々しいって言われても。調子に乗ってると言われようとも。
私は、六花をこの家に招きたい。例え彼に1発殴られることになったとしても、私はこの決意を曲げるつもりはない。
「彼が帰ってくるまで待ちましょう。そして、彼に相談しましょう」
「先輩!!」
「大丈夫。私を信じて……」
「……分かり、ました。先輩を信じます」
「ありがとう……」
彼なら絶対そんなことはしないって確信しているけど、それくらいの覚悟を持っているつもりだ。
お昼休憩中の一樹さんです。
今日はなんと、夏色がお弁当を作ってくれちゃいました。まさか3食も作ってくれるなんて、俺ぁ幸せもんですよ。まるで結婚した人みたい。実質愛妻弁当なんじゃ?
いや発想キモすぎだろ俺(賢者タイムRTA)。純粋に感謝の気持ちで作ってくれてる夏色に申し訳ない気がしてきた。
「おや?増田、もしかして彼女でもできた?」
馴れ馴れしく語りかけてくるのは、よくお世話になっている先輩だ。
「先輩、今の時代それはセクハラに該当されるそうですよ。あと結論から言うと違います」
「おおう……。今の時代怖いねぇ……。でも、今までの弁当とは違う気がしたからさ」
「なんで俺の弁当そんなによく知ってんすか。俺のこと大好きなんですか?」
「期待しているところ申し訳ないが、僕にはそっちの気はないぞ」
「いやなんでそうなるん……」
こんな感じで、いつも下らないやり取りを仕掛けてくる人だが、まあ、頼りになるときはすんごい頼りになる。
「ん?電話?」
そのやり取りの途中、夏色の番号から電話がかかってきた。メッセージでもなく、電話?
余程重要な用なのだろうか。
「もしもし、どうしたの?」
『今日の夜、時間あるかしら?なるべく早く帰ってきてほしいのだけれど』
「んー?分かったけど、今じゃダメなの?」
『時間かかるし、何より面と向かってじゃなきゃいけないことだ思うの』
「……分かった。なるべく早く帰れるようにするよ」
「お、おまおまおま、やっぱり彼女か!?」
「ちゃいますって。ほら、時代が時代なんだから『ボイロ』でもあり得るでしょうに」
「あー、あの人型アンドロイドの……」
ちゃんと説明したら、先輩は妙に納得していた。
「確かに増田はボイロキャラが好きだって言ってたね。そら独身貴族やってて好きなら買うよね〜」
そして先輩は、こっそり耳打ちするために俺の耳元に近づいてきた。
「今の会話、申し訳ないけど聞こえちまったわ。今日は残業させないように手を回しとくから、早く帰った方がいいぞ」
「お、本当ですか?ありがとうございます」
こんな繁忙期にそんな配慮をしてもらえるとは、とてもありがたい。
「あと、明日はもしかしたら遅刻するかもしれないことを課長に伝えとくから、安心しとけ」
「えっ?いやいやなんでそうなるんですか?終電まで飲みに行くわけでもないのに」
「誘導尋問とは卑怯だぞ?あとは、言葉は不要!今日は定時退社なさい!」
なんか盛大に勘違いされている気がしてならないのだが。まあ、配慮してもらえるのはありがたいので、素直に甘えさせてもらおう。
何故かダークサイド寄り多めですが、それは序盤だけのはず……。そ、そうだよな……?最終的には皆幸せなのが好物です。(隙自語)
まだ3話なのに色がついててびっくりです……。ありがとうございます。