「ただいま〜」
「おかえりなさい」
いつも通り仕事から帰ってきた。今日は定時だったので、電車がいつもより混んでたなぁ。なんてことはどうでもよくて。
「夏色。昼の電話の件だが……」
「そのことだけど、まずはお風呂にしてきたら?もしかしたら、だいぶ時間かかるかもしれないし」
「そんなに……?」
一体何の相談事だ?まるで見当もつかないのだが。まあ、素直に従うとしよう。
数分後。
綺麗さっぱり。家事やってくれる人がいることのありがたみを久々に感じている。いやほんと、自分でやらなくていいのは楽だなこれ。
ほんで、今日も今日とて夏色の特性料理をいただけることに感謝を込めて……。
「……あっ、お邪魔してます」
「ごめんなさい、勝手にあげちゃって。事情は後で話すから、この子にもご飯食べさせてあげてもいいかしら?」
あれれ〜?おかしいぞ〜?俺の目に、何故か花梨パイセンの後輩、小春六花さんがいるではありませんか。
ちなみに"立花"と言い間違えたり、名前書いたヨーグルトを勝手に食べると、小樽市内にある『トド岩』なる場所に送り込む能力があるらしい。ただし諸説あり。
いやいや、今はどうでもいいことを思い浮かべんでええわ。
無茶苦茶気になるんだけど。もしかしなくても、相談って六花のことだよな?
「あの、もしかして、やっぱりダメだったかしら?」
「あーいや、別に構わない。ただ、急なことに少しフリーズしてただけだから」
まあ、あの子もお腹空いてそうだし、まずは食べさせてあげよう。
うん。美味い。なんでこんなに上手に作れるの?俺割と料理作ってたつもりだけど、夏色のが美味しい。ちょっと悔しい。
美味しく平らげ、夏色と俺でちゃちゃっと洗い物を済ませたところで、本題といきましょうか。
事情を聞いたところ、六花の前マスターが相当酷いやつだった疑いがあるらしく、現在は野良状態だとのこと。財布を盗まれ、捕まえ注意した夏色だが、その様子を見かねた。
そして、俺が引き取ってくれないかと。そういうことらしい。
「うーむ……」
「図々しいのは承知の上よ。まだ私はあなたに碌な恩返しができてすらいないのに……」
「いや、別に構わんと言えば構わんのだが……」
「えっ?このマスターさん、あっさり承諾しちゃいましたよ?」
「……正直ここまであっさり承諾してくれるとは思ってなかったわ」
しかし、問題はある。前マスターは所有権を完全に放棄したのか。
もし放棄しているのであれば問題なし。しかし、所有権があったとしたら、最悪盗難扱いされて色々と面倒なことになること間違いなしだ。
「……六花。君のマスターは本当に所有権を放棄したのかい?これだけははっきりさせたい」
そもそも、野良になっているということは、正規の手続きを踏んでいないわけで……。
「……違います。逃げてきました……」
だよね……。しかも野良になって日が浅いとの話も聞いた。故に、前マスターはもしかすると六花を探しているかもしれない。
「こればっかりはなぁ……」
「えっ!?どうにかならないの!?」
最終的に、俺がなんとかしてくれると確信していたのだろうか。夏色は意表をつかれた様子で俺に尋ねてくる。
「金銭とか俺の意思とかだけで決まるのなら、全く問題ない。しかし、前マスターが所有権を放棄してないとなると、最悪俺が犯罪者になっちまうからな……」
そして、そんなことになりでもしたら、六花はともかく、夏色がどんな扱いを受けるのかが想定できない。
一応、企業の管理下で生きていけるとは思うけど、人間的な扱いをされる保証は、正直ない。
「……花梨先輩。もう大丈夫です」
「でも!このままじゃあんたは!!」
「もう、大丈夫です。花梨先輩が幸せに過ごしてるっていうの、なんとなく分かったから……。これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」
全てを諦めたような顔……。この六花は覚悟を決めようとしている。
夏色は必死に足掻いていた。それは自分が人間であり、これからも生きていけると信じていたから。
でも、この六花は『ボイスロイド』として、欠陥がない。それはつまり、人間都合で生き絶えることも、受け入れることができてしまうとも言える。
「……なあ、六花」
「どうしましたか?」
「……話す覚悟があるなら、聞かせてくれないか。君がどんな扱いを受けてきたのか。もちろん、話したくないなら拒否していい。俺はまだ君のマスターじゃないから、そんな権限ないしな」
「……分かりました。でも、聞いてて気分が良くなる話では決してないですよ。それでも……聞きたいですか?」
「六花に不都合がなければ、という前提で肯定する」
……思ったより、悲惨だった。
まず、普段の扱いだが、そもそも服をまともに着せてもらったことがないらしい。気に入らないことがあれば土下座させ、顔だろうが構わず殴られ、蹴られ……。
ソイツの気分一つで犯され、罵倒され、殴られ……。そんな生活を繰り返していたらしい。
「ひっ……」
夏色は最早泣いている。きっと、夏色が思い浮かべていた状況よりも悲惨だったのだろう。
「っというか!!なんで!?そういうのって同意がなかったらセーフティか何かが働くって話よね!?」
「夏色。そんなものは裏技一つで解除できるらしいぞ。俺はやり方知らんかな」
「えっ……」
「ええ、先輩のマスターのおっしゃる通りです。人間が物理的に特定の箇所に触れることによって容易にON/OFFできますよ」
「そ、そんな……」
……まあ、知らないってのは嘘。昔ネットか何がでやり方を見ただけだ。
でも、俺は不正規の使い方を基本的にやりたくないから、知ったところでほぼ無意味なんだが。
「……どうですか?聞いてて気分を害しちゃいましたよね……。殴るなり蹴るなりご自由にどうぞ……。もう、慣れてますから……」
「ちょっと六花!?あんた何言ってんのよ!?」
「……ああ、そうだな。そうさせてもらおう」
「はぁ!?あんた何馬鹿なこと言ってんのよ!!!?」
「落ち着け。もしボイロが問題を起こしたとしたら、プログラムの中枢とかが原因じゃなければ、基本的に所有者に責任が行く。つまり未成年の保護者と同じようなもん。いや、それよりも責任重いかもな」
「何が言いたいの……?いや、あんたまさか……!」
このお嬢様、本当に賢いし勘が鋭いな。人が人なら嫌いって言いそうなタイプだ。
まあ、俺はそういうやつ好きだけどね。
「俺を不快にさせたのは、六花の責任じゃない。そのマスターさんとやらに、きっちり清算してもらいましょうや」
「いや人相手はもっとやばいやよ!?あんた捕まっちゃうわよ!?」
「いやそいつはどうだろうな。まあ、もうちょい六花のマスターさんとやらの情報を聞こうじゃないか」
そもそも、物として見ても高価なボイロをここまで粗末に、雑に扱うような大馬鹿者だ。どういう意図でボイロを使ってるのか、なんとなく分かる。
だが念のため確認しておかないとな。
……なるほど。俺の予想は大体合ってたらしい。
というか、予想を遥かに上回っていた。もう警察突き出さなきゃやばいレベルだった。
俺が個人的に解決できるレベルではない。社会的に殴り飛ばしてやろうと思ったけど、もう俺が勝手にやっちゃいけないレベルだったよ。
「えーっと、これマジ?俺、てっきりただの乱暴者かとばかり……」
「違法薬物売買、って……だいぶやってるじゃないの……」
幸い、六花は接種していないものの、売買に関わっていたらしい。犯罪に加担させるような行為を確認した場合、セーフティが有効になっていれば、それも自動で通報してくれるのだが。まあ裏技でOFFにしたらそれも無効になるわけで。
「そうですよ…。どんな事情があれど、私は犯罪者です。花梨先輩が一緒に暮らそうって言ってくれたのは、とても嬉しかったです。でも、先輩と暮らしてしまえば、先輩にもマスターさんにも迷惑をかけてしまいます……」
実際、ボイスロイドが自らの意思で犯罪に加担した場合、最悪廃棄処分となるケースも聞いたことがある。
だが、セーフティを無効にされ、暴力と恐喝で支配されていた六花に、その責任を負えというのは、あまりにも酷ではないだろうか。
「んー、まっ、どうにかなるっしょ」
「いやアンタ気軽に考えすぎじゃない!?素直に通報したら六花が…!!」
「大丈夫。俺には友人が多いって、前に言ったでしょ?」
……明日、休みにできるかな。やっちゃいけないことだと分かっているけど、体調不良と偽ってしまおうか……。いやこんな繁忙期にやるのは御法度……いや閑繁関係なくあかんのは理解しているけれども。
「……よし、明日は仕事休むわ」
「えっ!!?そ、そんな!私なんかの為にそこまでしなくても!!」
「いやいや、これは俺のためだから。ちょっとでも心残りあると、俺ってば凄く業務効率落ちちゃうのよ。だからお気になさらず」
「で、でも……」
「六花。彼はこういう人なのよ。分かったら黙って任せればいいわ。こうなると彼、頑固になって聞いてくれないから」
「言うようになっちゃって……。お父さん悲しいよ。反抗期かな?」
「誰がお父さんよ!!?あと反抗期じゃないわよ!!?」
さて、今夜は忙しくなるな。
小1時間が経過した頃のこと。
「夜分遅くに申し訳ございません。警察の者です」
「よっ!上田久しぶり!相変わらずお勤め頑張っておりますな〜!」
「……お前さぁ、俺が仕事中だっての分かってるよね?」
「分かってる。だからこうしてお前を呼んだんだし」
「えっ?えっ??」
「なに?どういうこと?」
あー、そういや、夏色や六花には説明してなかったっけ。
「こいつは上田。学生時代からの友人で、今は警察やってる」
「こちらは……あー、電話で話してたボイスロイドの……」
「私は夏色花梨です。そしてこの子が小春六花。今回はこの子に関係があって……」
「なるほど……。承知しました。では、『データ』を確認させていただいても?」
「そんな堅っ苦しくしなくてもいいのに……。六花、大丈夫か?」
「……はい。お願いします」
ボイスロイドの内部データを確認する権限は、基本的にボイロを作っている本社、もしくは警察にしかない。所有者であるマスターですら、この権限は与えられていない。
六花の発言が本当かどうか、しっかり確認するには、本社か警察のどちらかにお願いしないといけない、というわけだ。
まあ、本当のことだとしたら、六花が回収後廃棄なんて未来もミリでもあり得るので、こうして融通が利きそうな友人を呼びつけた、というわけである。
「えっ?そんなところにUSBが……」
夏色は六花の髪飾りにUSBスロットが隠されていたことに驚きを隠し切れていない様子だ。きっと夏色にもどこかしらにあるのだろうが……。
……そういえば、夏色を正式に引き取った時に説明書ももらったよな。後でしっかり読んどこ。
「……なるほど。これはガッツリやっちゃってるね〜。しかも、この子は脅されて、無理矢理やらされているのもしっかり確認できたよ。多分この子には何の処分も下らずに済むね」
「ほ、ほんとですか……?」
「ついでにマスター権限も剥奪できたりするの?」
「まあ、そもそもセーフティをOFFにして犯罪に関わらせている時点でね……」
「よーし。じゃあ、無事剥奪できたら俺に引き取らせてよ」
「あの……。俺はまだまだ下っ端の方だから、そこまで権限はないぞ……?」
「引き取り希望者がいるってことを伝えてくれればいいからさ」
確か、マスター権限が剥奪された場合は、本社の審査が通った後に、公式中古サイトで売られる仕組みになっているはずだ。
審査自体はいるだろうが、あらかじめ引き取り希望を出せば、俺に購入権が渡るはずだ。
ドンドンドンッ‼︎
「開けろッ!!!ここに俺のボイロがいるのはわかっとんのやッッ!!!!」
「ひっ……!!」
「り、六花!大丈夫!?」
ドアが凹むのではないかと思えるほど強く叩き、夜中にも関わらず怒号をあげている。
近所迷惑ったらありゃしない。だが丁度いいか。
「はい、どちら様でしょうか」
「てめぇ人のもん盗んどいてとぼけた面してんじゃねえぞぶっ殺すぞ!!」
なんだ急に。……いやまあ、確かに状況だけ見れば盗んで連れ込んだと思われてもおかしくはないが。
よくよく顔を見たら……。うわ、目がガンギマリじゃないか。明らかに正気の人ではないな。少々怖いが、こっちには強い味方がいるので心強い。
それに残念だったな。もう証拠は出揃っているんだ。
「小春六花型の所有者はあなたですね?違法薬物の所持及び販売の容疑がかかっております。署までご同行、いただけますよね?」
「な、なんでサツがこんなところに……?!」
「おっと。逃げてもあなたのアジト、もう既に割れてますよ?」
手慣れているのか、いつの間にか犯人の背後に回って手錠をかけていた。あれ?現行犯でもないのにいきなり逮捕して大丈夫なの?そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、上田が察して答えてくれた。
「ボイスロイドの記録データはきちんとした証拠にもなるからね。実質現行犯みたいなものだよ」
「そんなアバウトでいいの……?」
「それだけボイスロイドのシステムは信用されているってことだよ」
とまあ、こんな感じで。
特に苦戦することもなく、あっさり六花のマスターは捕まってしまったとさ。
麻薬以外にも色々やってたらしいけど、ボイスロイドを従えていたのは六花だけだったらしい。他は基本的に人間で、麻薬に依存した奴らを利用したんだとのこと。
そして、本来なら特定の処置を施された上で本社公式の中古ショップに売りに出されるところ、俺の希望により引き取る形となった。
なんでも、本社の人が説明するには、
『夏色型の感情データを提供してくれているから』
だそうで。小春六花も特別にお金を取らずに差し上げますよとのことで。
んで、翌日になって手続きするときには、ボイロ本社の人に来てもらう流れになったのだが。
「しかし、「夏色花梨」を引き取ってからまだ1週間も経ってないのに、もう一体を所有なされるとは……」
「あはは……。たまたまじゃないですかね……」
「まあ、彼女の感情数値は、あなたが仰っていたように、とても興味深いデータを出してくれているので、我々に異論はないのですが……」
そんなこんなのやり取りを経て、無事に六花のマスターにもなることができました。
いきなりボイロ2体所有ですか。先週の俺に言っても多分信じないだろうな……。
「あの……。本当にありがとうございます……!!なんとお礼を申し上げれば……」
「別にいいよ〜。それはそうと、服とか色々買わないとね〜」
「えぇ!?この前私のをあんだけ買ったのに!!?」
せっかく休みを取れたのだから、さっさと物を調達しようと思った矢先に、夏色にツッコまれる。
「そらね?夏色だけ買って六花に買わないのは不公平でしょ」
「いや確かにそうだけど、流石にお金が心ともないんじゃ……」
「大丈夫。お金なかったらそもそも引き取るって話はしないよ」
「あ、あの、私のことはお構いなく……。しばらくは同じ服でも大丈夫なので……」
「ダメだ。マスター権限により六花には色々な服を着てもらう。服装に関心がない以外の理由で同じ服を着続けることは許しません」
「えっ?マスター権限ってこういう時に使うものなの……?」
「言ったでしょ、六花。彼はこういう人だって」
というわけだ。せっかくだから色々買ってやらねば。
どうも。つい最近まで、世間一般では酷い目にあっていたらしい、小春六花です。
色々ありまして、今は花梨先輩のマスター……いえ、私のマスターでもありましたね。
マスターが色々な服とか美容品とか、これでもかというほど買ってくれて、スマホまでもらっちゃいました。
その日のうちにベッドまで買われちゃいました。この人、フットワーク軽すぎじゃないですかね……?
ついこの前まで一文無し生活をしていたのが嘘のようです。感動のあまり涙が出てしまいそうです……。
どうやら、ここの花梨先輩は、私の想像の100倍は、人として扱われているようです。
なんですか、自分用のスマホって。
なんですか、部屋をもらえるって。
なんですか、服こんなに、しかも自分の好きなような選んでいいって。
この人が神ですか?もしかして、神と書いてマスターって読むんですか?
世間一般的なボイスロイドよりも遥かに高待遇ですよ。下手したら人間よりも……。
「ご馳走様……。めっちゃ美味しかった」
「お粗末でした。六花はゆっくりしててね。片付けは私がやるから」
「あっ、でも……」
「いやいや、俺がやっとくよ。夏色は六花に対して積もる話でもあるんじゃないの?」
「住まわせてもらってるんだからこれくらいやらせとけばいいのよ。ってかあんたは明日仕事でしょう?早いところお風呂入りなさいよ」
お風呂……。そうだ、前マスターに教え込まれたことがある。
マスターがお風呂に入るってことは、それ即ち、背中を流せ、という意味だと。
……うん。ここまで色々与えてもらっているんだ。私だって、何かしら恩返しをしないと、ボイロ失格だ。何より、花梨先輩だって言わないだけで、色々やっているはずだ……。そうに違いない。
でなければ、このマスターは聖人君子になってしまう。
「そ、そうですよマスター!先にお風呂に入っちゃってください!」
「んー?分かったよ。じゃあ頼むわ」
そう言って、マスターはお風呂に向かった。
……そうだよね。本来、犯罪者として扱われてもおかしくない私を、何の迷いもなく引き取ってくれたのだ。
これくらいはしないと、ダメだよね…?
大丈夫。彼は優しい人だ。あんな乱暴する人を相手にしてきたんだ。私ならやれる……。
どうも、温泉の後に飲む牛乳が大好きな一樹さんです。
今日も極楽じゃ。お風呂は心の洗濯とも言われている。そろそろ温泉にでも入りたい気分だな。そういや、夏色や六花も加わったことだし、旅行がまた一段と楽しくなりそうだな。
今度休みが取れそうなときには、2人も連れて旅行に行こう。いっそのこと小樽とかどうだろうか。それだと2人は旅行気分にはなれないかな?
「んー、でもなぁ、やっぱり北海道は行きたいなぁ。久々に新鮮な海鮮を食べたい」
「うんうん。海鮮もいいけど、メロンとか牛乳も捨てがたいよ〜?」
「あー確かに。メロンを贅沢に半分使ったソフトクリームとか食べたいなぁ」
……ん?俺の独り言に誰が反応してんの?いやちょっと待て?どういうこと?明らかに扉越しの声ではない気がするのだが。
「あ、マスター……。お邪魔しています……」
「どわっ!!!?」
り、りりり、
「マスター、お、お背中お流しいたしますね?」
「いや、それは自分でやるから、はよ出てって……」
「でもあれだけの厚意に応えるには、これくらいはしないと釣り合いが取れないと思いまして……」
「いやいやそんなことないからね?君、華のJK。俺、しけた一般サラリーマン。OK?」
「いえ、私はボイスロイドですので…。人間様とは根本的に価値が違います…。だからお気になさらないでください」
あ、ダメだの子。ボイスロイドとして一切欠陥がない。
マジか。欠陥ないとこうなるんだ……。やべぇ、この子にも夏色みたいな欠陥があれば良かったのにと思ってしまった。
でも、もしこの子の自認が人間になったとしたら、それはそれで鬼畜では?中々惨いような……。
……考えようによっては、それだけ六花が感謝しているとも取れる。家事全般は夏色がやってしまっているからな……。
うむ……。下心は0ではないけど、ここは素直に流してもらった方が後腐れなくていいかもしれない。うんそうしよう。決してJKの肌堪能したいとかそんなんじゃないからね。そもそもタオルで洗うだろうから無問題……ではないけど。
「……そこまで言うならわかったよ。でも一応言っとくが、ちゃんとタオル使ってね?」
「……えっ?」
「いや、えっ?って何よ……??」
いやいや、まさか前マスターさん、タオル使わせずに洗わせてたとか?それなんてソープ?まさかソープごっこしてたわけじゃないよね?
ねえ?JKに何やらされてるの?やっぱり俺殴りに行った方がよくない?ロボット三原則が通用しない夏色と一緒にラッシュ決めた方が良くない??
「あの、背中流すときって、身体を使うのが普通なんじゃ……」
「…………」
いや、もう言葉出ないよ。夏色のときとは違って、別の意味で涙出てきた。夏色のときの涙は大歓迎だけど、こういう涙はちょっと……。
「あの、なんで泣いて……?」
「いや、ちょっと六花には本当の常識を教えなきゃなって思って……」
「……常識とか、今はどうでもいいです」
ピタッ
「ふぉ!!?」
なんか暖かい。いや温かい!?えっ、まさかとは思うけど……。
ちょっと待って。ボイスロイドってこんなに積極的なの?ネットとか見てもこんな展開になるなんて誰も書いてなかったよね??
あ、もしかして、セーフティを有効にしないと性接待とかも進んでやっちゃう感じなの?いやそんな話聞いたこともないけど。
てか、そもそもセーフティは本社の人が有効にしてくれたはずだ。だったらなんで……?
ともかく、JKと肌で触れ合っているのはヤバすぎないか?止めないとまずいまずいまずい……!!
「マスターが嫌じゃなければ、私は背中を流したいです……。ダメ、ですか?」
「ダメ……じゃ、ないです……」
これ以上我慢してもね、もっと過激なことをしてきそうだからね。謂わばこれは妥協だよ、妥協。
いや待て、理性をしっかり!ここは断らなきゃいけないとこだろうが!!
「いやね、やっぱりこういうのはよくないと思うんですよ?六花さんや」
「あっ……。そうですよね、使い込まれた中古品なんかに洗われても、不潔ですよね……」
「お背中お願いしますっ!!」
「えっ?さっきと言ってることが……」
「六花は全然汚くないのでお背中お願いしますハイ!六花さんが嫌じゃなければ」
「なんでマスターが敬語なんですか…?……分かりました」
すんごいセコいこと言ってるな、この子。もしやわざとか?だとしたらとんでもない策士じゃないかなこの子。
……耐えました。一線は超えていません。あくまで背中を流してもらっただけです。前は自分でやりました。流石に前は恥ずかしいという理由を並べたら、六花も諦めてくれました。
ふぅ、こんな現場、夏色に見られたらなんて言われるか……。
「ふーん?出会ってまだ1日しか経ってないのに一緒にお風呂入っちゃって、随分と仲良さげねぇ??」
思いっきりバレてました……。
「そろそろ釜の用意した方がいいかしらね?ねぇ六花?」
「ひ、ひぃ……」
「やめろ夏色。悪いのは俺だ。俺がしっかり断ればよかっただけの話だ」
しかも、何故か夏色の怒りの矛先は六花に向いている。何故俺ではなくて六花なんだ?普通俺じゃない??
「いや、あんたからそんなことするような人間じゃないでしょ?そういうタイプの人間なら、すでに私は襲われていると思うし」
……確かに。冷静に考えればそうだわ。まだ来たばかりでどんな行動を取るか分からない六花の方を疑うのは自然だな。
……いやいや待て。夏色だって来てまだ1週間も経ってないからな?1年とか1ヶ月じゃなくて1週間未満よ?大して変わらないよ??
俺を信用するの早すぎない??失礼だけどチョロいって言われたことない?
「で、でも、ボイスロイドって、こうするのが常識なんじゃないんですか?」
「いやいやそんなわけないでしょう!?それじゃまるでラブドールじゃないのッ!!?……あぁッ!!あんたがそんなこと言うから彼泣いちゃったじゃない!!?」
「ええ!?私のせいなんですかッ!?」
だって、ねぇ?悲しくならない?今までどんな扱いを受けてきたのか、六花の考え方でより理解できちゃうんだから。娘が乱暴された感情ってこんな感じなのかな。またムカムカしてきた。
「……よし、今から刑務所行ってくるわ」
「やめなさいッ!!」
「あがっ!!?」
や、やめっ…!!夏色の力つよっ…!!ボイスロイドってこんなに力強いのか!!?
「せ、先輩っ!!?そんな力強くしたらマスターが……!!」
「文句なら後で受け付けるわッ!こいつ、六花の元マスターを殴りに行く気よッ!!力づくでも止めないとコイツが犯罪者になるわッ!!!」
「な、なんでそうなるんですかッ!!?」
「離せ〜ッ!!華のJKに汚え教育施したクズ野郎をしばかなきゃ気が済まねえんだ俺はッ!!!」
「これからその教育を上書きすればいいでしょうがッ!!いいから、大人しくなさいッ!!」
「あがががっ……。く、くるし……」
「せ、先輩!!それ以上はまずいですって!!!!」
「」ガクッ
「ま、マスターァアア!!!?」
こうして、俺は意識を失いましたとさ。拝啓、夏色花梨パイセン。
俺の身を案じて止めてくれたことには感謝しています。ですが、力だけは加減してください。死ぬかと思いました。マジで。
……とまあ、そんなことがあり、私達のマスターは意識を沈めてしまいました。
「花梨先輩……。もしかして、頭ぶっ壊れてます?」
「失礼ねあんたっ!!私は大真面目よ!!これくらいしないとマジで殴り込みに行く勢いだったじゃないッ!!」
「いや、そうですけどそうじゃなくて……」
私達ボイスロイドには、ロボット三原則を遵守するようにプログラムされている。故に、例えマスターを殺害しようとする人が現れたとしても、ボイスロイドは相手を攻撃することが許されないんだ。
理由は関係ない。ボイスロイドが人間に危害を加えること自体が御法度なのだ。
でも、今の花梨先輩は、間違いなくこの三原則に抵触する行為をした。
……いや、もしかして、仲が良いとその辺もアバウトになるのかな?そんな話聞いたこともないけど……。
「んにゃ〜……」
「はっ!まさかもう目を覚まして…!?」
「てめぇだけは、殴らなきゃ気が済まねえ……」
「怖い寝言言ってんじゃないのよ……」
寝言で言ってくれるくらい、私のことを考えてくれているのかな。
このマスターは、自分のためだと言っていた。もしかしたら本人は本当にそう思っているのかもしれない。
でもね、私からしたらね、私のために本気で怒ってくれるようにしか、思えないんだよ?
それが、なんだかとても、嬉しく感じちゃった。
本当は花梨先輩みたいに止めるべきなんだろうけど。あなたの行動が、嬉しくて堪らないんだ……。
「……えへへ」
「えっ、なんで六花は笑ってるのよ!?」
「ごめんなさい」
……うん。花梨先輩の言っていたこと、分かったような気がする。
この人は、信じてもいいのかな。
花梨先輩と彼がこんなにも仲良さげなのが、何よりの証拠なんだと思う。正直、
「取り敢えず、ベッドまで運んであげましょうよ、先輩!」
「……そうね」
・上田さん:学生時代の主人公の友人。警察になって日々の治安維持に貢献している。
・六花:ボイスロイド、小春六花型。花梨とは違い、特にこれといった欠陥は確認されておらず、ボイスロイドとしては正規品に当たる存在。
六花型は、明るく素直で人懐っこいのが特徴的だが、個体によって微妙に変わることも。主人公が引き取った六花の性格は……。次回判明する。(かもしれない)
流されたとはいえ、背中を洗ってもらう主人公……これには品行方正なお嬢様の夏色花梨さんも「死になさいマスター君!!」と元気に言ってくれますね。
小樽3人組の中で最推しは?(前回、六花枠をふざけすぎたのか誰もいなかったので仕切り直しで())
-
夏色花梨わよ!釜
-
小春六花ちゃんです!
-
花隈千冬です。
-
フリモメンだよ!