神の都合で全てが変わる世界で主人公探してます 作:ラ メ ル テ オ ン
柊木に案内してもらった後、家に続く道を歩く俺を満たしていたのは新たな問題に対する不安と俺じゃなきゃ解決できなさそうな現状に対する興奮だった。そんな感情に呑まれるようにモルグの襲来を経て回りにくくなっている頭を無理矢理回してこれからの一ノ瀬達の動きを予想する。
これまでの情報的に……一ノ瀬家はこの街を資本的に支配できるほどの金持ちで秘密裏に日本を魔法犯罪から守っている一族って所だろう。
それほどにでかい事をする一族は組織としてもかなり大きく派閥があった。一方は魔王カイザーとの戦いに備えるために采花を効率的に使おうとする一ノ瀬派閥の穏健派。そもそも部外者に自分たちが使っている装備の30倍近い魔力を持つ装備を渡すべきじゃないと思っている怒鳴りつけていた奴派閥の強硬派。
モルグが暴れる前は民間人に被害が出ていくて特別采花を捕まえる理由もなかったから穏健派の意見で事を進めていたが……民間人に被害者が出たせいで強硬派の意見が強くなりもうすでに采花の捜索が始まっている状況……
強行派が実権を握っているであろう現在、采花にはもう時間がなさそうに見える状況だが……一ノ瀬家はあくまでも魔法を生業とする一族。何も情報がないカメラに顔が映らない魔法少女を追うならまずは魔法の痕跡を探すはずだ。そして今回采花は変身せずにモルグの襲来を乗り切った。
その代わりカメラには顔が映っているんだが……魔法を使って暴れ回った奴がいるから一ノ瀬家の奴らはそれを魔法少女の痕跡かモルグの暴れた後かの判別に時間を使うはず……そして魔法が絡んでいる以上人海戦術は使えない。素人目に見ても魔法の痕跡探しから監視カメラや機械的な捜査に切り替えるまでに短くて3日長くて1週間くらいは掛かるはずだ……
それまでに采花を説得して一ノ瀬に誠心誠意頭を下げて頼みに行けば一ノ瀬の性格的に温情措置は受けられるはずだ。まだ間に合う……神から特別視されている俺なら無茶苦茶にしてしまった物語を元の形に戻せるはず……だからやってやろう。あいつらが殺し合う状況なんて絶対に俺が起こさせない……
そう意気込みつつ俺は自宅のドアに手をかける。家の鍵は空いており俺を置いて先に帰った采花達がいそうなリビングに向かう。
「ただいま〜」
「おかえりめる!」
「おかえり……」
「……やっぱり先に帰ってたんだな。どこかで待ってくれてるのかと思って結構探したんだぞ」
「……仕方ないでしょ。一ノ瀬の奴らと協力した翔がどう言う扱い受けるのかわからないんだから……ここで待ってるのが最適解よ」
采花は何処か気まずそうに帰った理由を説明する。
確かに……俺が一ノ瀬に家まで送ってもらう可能性もあったもんな。ちょっとだけ時間無駄にした気がするが、これから好感度を稼いでいかないといけないのにぐちぐち言っても仕方がないので俺は、
「まあ……それもそうだな! そんな事よりこの服どうだ? かっこいいだろ?」
話題に変えて楽しい雰囲気に変えようとする。そんな俺に、
「……は? あんた馬鹿じゃないの? 今は服なんかどうでもいい」
「えっ……?」
采花はイラついたのか立ち上がって俺に近づき、自慢した服を捲ってくる。
「ちょ!? なんで!? そんなに欲しいならあげるから一言言ってくれ!」
「違うわよ! あんたブカブカの服着てるから身体の状態が分かりづらいの! ……それで怪我は?」
「み、右手の指が折れてるくらいだけど……」
「他に痛い所か体調に違和感はない?」
「ないよ。何処も打ってないから多分大丈夫だと思う……」
采花は安心したのか息を吐き、
「……本当に? モルグを相手にしてそのくらいで済むなんて幾ら何でも上手く行きすぎじゃない?」
なんでここまで上手くいったのか説明を求めてくる。やっぱりモルグって結構すごい奴じゃねえか……一ノ瀬のやつもうちょい褒めてくれても良かったんじゃねえの?
「まあ色んなことを聞き出して時間を稼いだからな。それでもやっぱり限界だったし采花が素早く一ノ瀬を呼んでくれなきゃ死ぬ所だったよ」
「……なら私の過去とか聞いたりした?」
采花は何処か諦めている様な表情で聞いてくる。
「ああ、聞いたよ。モルグから呪いの情報引き出すために人を殺してたんだろ?」
「……そうなの、私は自分の身体に刻んだモノの正体を理解して安心する為だけに人を殺してた。本当に……私って最低でしょ」
「采花……」
めるるが思わず名前を呟くくらいに自虐的でいつもとは違う采花に俺は、
「……そうか?」
「えっ…?」
持論を述べる。
「人なんて誰しも他人を侵害して利用しながら生きてるもんだろ? 采花の場合その手段が殺人ってだけで本質的には俺や金持ちの一ノ瀬と変わらねえだろ」
俺は安心して眠れる環境をダシに采花を近くに置いて物語に関わる機会と命の保障を掴み取っている。ある程度公平な取引にするために采花とめるるに寄り添っているが、言ってしまえば俺は采花の弱みにつけ込んで利用している。
一ノ瀬みたいな金持ちだってそうだ。資本主義の世の中で金を持っている奴らは少なからず誰かの犠牲の上で成り立っている。事情を知った視点で見ると一ノ瀬家は日本を魔法の被害から守る事で金を集める際に出る犠牲との吊り合いを取っているが、魔法も知らないその日暮らしの貧乏人視点じゃ不透明でよく分からん目的のために弱者から金を巻き上げて利用しているクソ一族と言えなくも無い。
モルグなんて特にそうだ。あいつは他人を傷つけて苦しむ姿をツマミに生きていた、数千年も生きているからおかしくなったのか生まれた時からそうなのかはわからないが、あいつは快楽を得るために他人の苦しむ姿を利用していた。魔王なんて呼ばれるやつの師匠ですらそうだ。
結局人間は他人から何かを奪い合って生きている。なら直接被害に遭っても無いのにその行為にぐちぐち言っても仕方がない。俺を含め誰だって当たり前にしてる行為なんだから。
「他人を侵害して利用しないと生きていけないのが人間なのに安心して生きる為に人殺しただけの采花にいちいち最低だ! だのありえない〜なんて言う気ないよ。それに……」
そこまで言って俺は言わなくていい事を言おうとした口を閉じる。
「……それに?」
言い淀む俺を采花は不安そうに見つめてくる。だから俺は急いで、
「……それに初めて話した時問答無用で殺そうとしてきただろ? そん時にあまりに手際がいいから絶対経験あると思ってたんだよ」
デリカシーのない発言をして言い淀んだ理由をつける。
「ふっ……その割に随分と余裕がありそうな発言ばかりじゃなかった?」
「まあ俺、度胸だけはあるからな!」
「ええ、そうね。あんたは私が会った中で1番度胸がある男よ」
咄嗟の誤魔化しが上手くいったのか采花はいつもの調子を取り戻し笑っている。
「まあ重い話はこれくらいにしといて飯にしようぜ。俺片手使えないから手伝ってくれ」
「今日くらい私が作るから座ってていいわよ」
「助かるけど……包丁くらいなら使えるから俺も手伝うぞ」
「めるるに頼むからいらない」
「ええ……もうちょっと信頼してくれてもいいじゃん……」
「ふふ、今日1番頑張ったのは翔める! だから翔はゆっくりしててほしいめる! 采花もそう思ってるめるよ!」
「まあ……そう言うこと」
「へ〜なるほどね〜ならお言葉に甘えて待ってるから美味しい奴作ってくれよ!」
「味の方は安心していいわよ。不味いって言ったら殺すだけだから」
「わ〜……分かりやすくてすごく安心だな〜……」
なんの配慮もなく軽口を言い合えるほどに上がってくれた俺への好感度に満足しながら食卓の椅子に座って楽しそうに料理をする2人を眺める。
なんか……すごく懐かしいな。こうやって誰かが作ってくれた飯を待つのも、台所から聞こえる楽しそうな声も……両親が死んでから初めてだ。
そんな2人が生き返ってきたと錯覚するほどに幸せで暖かい時間に触れているからこそ考えてしまう。自分の未来の為に8人殺した事を悩んでる采花に『俺は復讐の為だけにお前以上の人間を殺してる』って伝えたら受け入れてもらえるんだろうか……
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ショッピングモールの警備室の中で、
「だあ〜〜めんどくさい!! 姫乃〜これ本当に私達がやらなきゃいけない事なの?」
茜は外に聞こえるくらいの声量で愚痴を垂れる。
「……しょうがないじゃないですか。兄さんが魔力痕跡の捜査も唯一自我がある洗脳魔法を受けた被害者の取り調べにも私たちを使ってくれないんですから。捜査権を取り返すための成果を上げるためにこう言った他の人達が最初に手をつけない地道な作業をやるしかないんです」
そんな問題児気質な部下を上司として嗜めつつ監視カメラの映像をを眺める単純作業をしている理由を説明する。
「でもさ〜私達一応人命救助と戦闘のプロみたいなもんでしょ? なのに何で監視カメラの映像片っ端から見ていかなきゃいけないの〜」
「……その調子で文句言い続けるなら残業代払いませんよ?」
「酷過ぎる! 上司なら愚痴くらい聞いてくれてもいいのにさ!」
茜はそう言うとそっぽを向いて映像を見るのをやめてしまった。
この人は本当に感情的ですね……まあ私も少し苛立って高圧的に返したので人の事は言えませんが。息抜きがてらこのまま放置でもいいんですが……見逃しが出るかもしれないので適当に機嫌をとっておきますか。
「……まあ、夜ご飯くらいなら奢ってあげるので頑張ってください」
「……それなら頑張るか!」
茜は高級料理店に連れて行ってもらえると思ったのか愚痴を垂れる前以上にやる気を出している。
……まあやる気が出たならいいです。そして部下の機嫌が直った私に待っているのは本来なら私がやる必要のない単純作業……今回の件は本当に運が無かったですね……
本来モルグを一般人の犠牲者4名ほどで退けられたのはかなりの偉業なんですが……私がめるる君を使っている魔法少女を見つけるのに手間取っている時に来るとはタイミングが最悪すぎましたね。私から捜査権を奪う程のいい理由にされてしまった。
全く……兄さんを含めて上層部の人間は一ノ瀬家の使命を忘れて権力争いばかり……本当に嫌になる。もうすぐ異界との境界線が不安定になる時期だから内輪で揉めてる場合じゃ無いんですよ……
はあ……映像を倍速で眺めるだけの単純作業だからか頭の中で別の事を考えてしまう。あっ……そう言えば立花さんに協力して貰ったお礼を言うの忘れてましたね……
その思考をきっかけに私は立花さんの事を考える。
モルグは現れるたびに姿も扱う魔法も魔力保有量ですら変わる。共通していることといえば攻撃力も防御力も桁違いのマントくらい……何の情報も無しに戦えば歴戦の魔法少女ですら何も出来ずに死にかねない相手。
なのに彼は魔法道具すら使わずにそんな相手の魔法を分析して討伐に貢献した……幾ら何でも話ができすぎている。
そもそもモルグに捕まりながら魔法の分析なんて普通に生きて来て出来る芸当じゃない。まあ彼がやっていたのは魔法の分析というより今起きてる現象の仕組みを分析している感じではありましたが、それでもかなり異常です。
一ノ瀬家にいる魔法の研究員が同じ状況に遭ったとしても十中八九下手を打って殺されるか洗脳されていたはず……どう考えても分析能力と生存能力が人並み外れすぎている。
成果を上げる為に立花さんに協力……というかそもそもあの人あの魔法少女の正体知ってるんですよね……今までは時間の問題で見つかると思っていたので魔法が効かない非協力的な彼を放置していましたが話し合う時が来たのかもしれませんね。
捜査権を取り戻すのが現実的に思えて来た頃、
「お! 立花君が写ってる〜これで時間帯はある程度絞れ……ん……? 隣にうちの学校の制服着た子いるけど……これ誰? 姫乃〜! この子知ってる?」
茜が私を呼び出してくる。私だって全校生徒の顔と名前知ってるわけじゃないんですが……なんて言っても仕方がないので取り敢えず映像を確認する。
そこには、
「いえ……知りませんね。柊木さん、一応確認ですが、この方獣人ですよね」
「ん〜監視カメラの映像だからちょっとわかりずらいけど尻尾みたいなのあるしそうなんじゃないの?」
見た事がない獣人の少女が映っていた。なるほど……そういう事ですか。
「なら、成果を上げる糸口は見つかったかもしれませんね」