勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

12 / 14
幕間②:勇者さまのひとりごと

 私の名前はアリシア・ドゥラン。

 

 オルヴィル南方にある村、オーストで牛飼いをしながら生活していた、辺境では珍しくもない普通の女の子です。

 

 ――ちょっと前までは、そう思っていたのです。

 でもそれは、村の古い祠のお掃除をしていたときに、すべて一転しました。

 

 私の前に突然現れた、ヴァルドさん。

 

 神さまでも、精霊さんでも、妖精さんでもなく「監視者」さんらしいのですが、私にはいまだに違いがよくわかりません。

 

 ヴァルドさん(いわ)く、最北にある“魔の土地”にものすごい魔物“魔王”が生まれたせいで、国のあちこちで凶暴な魔物の数が増えつつあるのだそうです。

 

 私の村も、危うく襲ってきた魔物に壊滅させられるところでしたが、ヴァルドさんがくれたピッチフォークと巨大化の異能(私のこれは魔法とは違うらしいです)でなんとか撃退できました。

 

 最初は『お前には魔王を倒せる素質がある』って言われた時、訳がわかりませんでしたが。

 

 村のみんながもっと危なくなるかもしれない。

 村の外に、日常がなくなりそうな人たちがいるのかもしれない。

 

 そう思ったら、居ても立っても居られなくなりまして。

 誰かの助けを待つより、自分から動くことにしました。

 

 神さまなヴァルドさんも一緒だから、ものすごく心強いのです。

 

 いま私たちは、南方の辺境地の情報収集と、傭兵ギルドへの登録のためローグアナに向かっておりまして、今は道中で食料調達中です。

 

 ……私のせいで路銀が底をつきかけておりまして、ローグアナにたどり着くまで保存食を節約しなければなりません。

 

 村にいた頃は山菜や木の実採取はよくやってましたが、旅に出てから初めて川魚を獲り始めました。ですが、そんな私でも軽々と獲れる方法があるのです。

 

 それは、ヴァルドさんからもらったピッチフォークくんのおかげなのです!

 

 この子のすごい所は、私の方である程度獲物の魚に狙いを定めておけば、投げればあとはこの子の方で必要な軌道を修正して、見事百発百中で魚を仕留めてくれるのです!

 

 これなら魚獲りの才能がない私でも容易にゲットできます!

 改めてあの時武器として思いついたのが、ピッチフォークでよかったなって思います。

 

 ……たまーにヴァルドさんのこのピッチフォークを見る目が、生暖かい目になっているような気もしますが不思議です。こんなに役に立っているのに。

 

 何はともあれ成果は上々。拠点に戻る前に魚の下処理を済ませて戻ります。

 

 野営地ではヴァルドさんが既に火起こしをし始めていて、それがいい目印になっていました。

 

「ヴァルドさん! 今日も火起こしありがとうございます! 今日の成果もバッチリですよー」

 

 私が意気揚々に魚の入ったカゴを見せつける中、それを一瞥するヴァルドさんの目は死んで見えました。

 

「……ああ。アレが今日もお前の役に立ってくれて、力を与えた俺としては大変本望デスヨ」

「なんで最後そんなカタコトなんですか。あ、鳩! また獲ってきてくれたんですか?」

 

 ヴァルドさんの傍らには、既に下処理が終わった野鳩が数匹。前に一度、魔法で鳩を獲る光景を見せてもらいましたが、その時は小さい雷で一瞬で撃ち落としていました。

 

 その動きにはまったく無駄がなくて、魔法のことはよく分かりませんが、『慣れてる人の動き』だというのは、何となく伝わってきます。

 

 野鳩はお腹に山菜と香草を詰めて焼くと美味しいんですよねー。

 

「この分ならなんとかローグアナに着くまで物資は持ちそうだな」

「本当ですか!? よかったぁ。ひとまず安心できますね」

「本音を言えば、道中で荷車でも拾えてたら、もう少し早くローグアナまで行けたんだがな」

「うう……またそうやって隙あればチクチクと」

 

 ……どうも先日の件から、ヴァルドさんの言葉の節々にトゲを感じる気がします。もっとも、すべては私が悪いのですから反論はしません。それでも、一時期少し元気がないように見えていたことを思えば、この人本来の調子が戻ってきているようにも見えます。

 

 ヴァルドさんは不思議な人です。

 いまだにこの人について、私は何も知りません。

 

 戦闘では魔法で私のことをフォローしてくれるし、地図もないのに町から街への道は絶対に迷わないし、私の知らないことをいっぱい知っていて、一緒にいてくれて本当に頼りになります。

 

 だからこそ、不安と疑問が募ります。

 どうしてこの人は私に声をかけてきたんだろう。

 魔物退治どころか、こんなに強い人だったら魔王討伐だって一人でできそうなのに。

 

 私だって力仕事は得意ですし、怪我にも割と強い方だとは思いますけど、それは辺境では珍しくもない話です。

 魔王を倒すだなんて、本来であればそんな大層なこと、ただの田舎娘の私に務まるわけないんです。

 

「…………」

 

 気づけば、ぼんやりと魚のお腹を見つめたまま、しばらく動けなくなっていました。

 

「……どうした?」

 

 不意にかけられた声に、少し肩が跳ねます。

 

「えっ? あ、いえ! 別に、なんでもないです!」

 

 慌てて包丁を動かそうとしましたが、どうやら誤魔化しきれなかったようです。

 ヴァルドさんは焚き火の前からこちらを見て、ふう、と小さく息をつきました。

 

「お前、ほんと顔に出るタイプだな」

「そんなことないですよ!」

「ある」

 

 即答。こうなってしまっては、この人相手にごまかしは効きません。

 観念して私は包丁を置き、少しだけ視線を落とします。

 

「……ちょっと、自信無くしちゃって」

「ほう」

「選ばれたの私でよかったのかな、なんで私なんだろう、って。迷惑ばかりかけてるし」

 

 言葉にしてしまうと、思っていたより情けなく聞こえて、少し恥ずかしくなりました。

 

 ヴァルドさんはすぐに答えませんでした。

 焚き火に薪を一本くべて、ぱち、と火の弾ける音がしてから、ようやく口を開きました。

 

「理由はいくつかあるが」

「ありますが?」

「一番大きいのは――お前が『選択できる人間』だからだ」

 

 予想外のお言葉をいただきました。

 

「村が襲われたときも、リツの件のときも。お前は自分の意志で最良のために動いた」

「それは……当たり前じゃないですか」

「当たり前じゃない」

 

 静かな口調でしたが、妙に断言的でした。

 

「力があるかどうかより、そっちの方が重要な場面は多い。窮地の際に選択できる人間は思ったより限られるからな」

「…………」

「常に最善の選択肢を選べとは言わない、時に間違うのが人間の特権だろう? 意見はさせてもらうかもしれないが、迷惑とか考えなくてもいい」

 

 それだけ言って、ヴァルドさんはもうそれ以上説明する気はないようで、再び火の様子に目を向けてしまいました。

 

「……それに」

「それに?」

「こちら側から選んだ以上、途中で放り出すつもりもない」

 

 さらっとした言い方でした。

 なのに、胸の奥に、すとんと落ちるものがあります。

 

「……ありがとうございます」

「礼を言われるほどのことじゃない」

 

 なんだか、さっきまでの不安が少しだけ、薄くなった気がします。

 相変わらずそっけないですが、トゲは感じません。

 

「よし! 気を取り直して、ささっとさばいて食べちゃいましょうね!」

「調子に乗って苦玉潰さないでくれな」

 

 細かい理由とかはまだ、全部は分かりません。

 でも――少なくとも、この人は私を『間違い』だとは思っていない。

 

 今はそれだけで、十分です。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。