勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜   作:朴月イチロ

13 / 14
第3話:赤い貂
3-1:傭兵ギルドにいこうっ


「やーっと着きましたね! ヴァルドさん!」

 

 ローグアナ。

 一攫千金を夢見る荒事の専門家が集うこの地は、国内最南端の傭兵ギルド拠点を(よう)する街でもある。

 

 堅牢な城壁に囲まれた街の門をくぐった先の広場で、その場の空気を堪能するようにアリシアは両手を高く突き上げた。先日立ち寄ったベルンのような、屋台から漂う香ばしい香りを期待していたが……。

 

 代わりに鼻孔と肌で感じるのは、焼けた鉄と獣の脂が混ざり合った、この街独特の重苦しい空気だった。

 

 それどころか、心なしか周りからそれとなく視線を感じるような気がする。

 

「……私、うるさかったですか?」

「まあ、明らかに場違いなやつとしては見られてるだろうな」

 自然と声が縮こまってしまうアリシアに対し、ヴァルドは全く気にする素振りはない。

 

 行き交う住人の多くは、使い込まれた革鎧や鉄の胸当てを身につけている。腰には鋭い剣を帯び、中には返り血を吸って黒ずんだマントを背負っている者もいた。

 

 女性もいないわけではないが、その中でも外見含めて『一般人』の雰囲気が抜けきれてないアリシアは、周りから見たら場違いな存在なのだろう。

 

 ここで彼女のピッチフォークを見せたら、さらに異質さは際立つに違いない。

 

「気にするな、普段通りにしていればいい。それより、ここに来た理由はわかってるな?」

「はい! 傭兵ギルドで登録作業ですよね……えっとギルドの方向は……」

 

 アリシアは辺りの案内板を一つ一つ確かめていく中、ヴァルドは迷いなく数ある枝道の一つを選び足を進める。

 

「え? 道わかるんですか?」

「事前に調べてある。はぐれるなよ」

 

 相変わらず抜け目のない人だなぁ、とアリシアは素直に感心した。

 村の祠で長い間眠っていたという割に、この神さまは自分以上に俗世の事柄について詳しいとすら思う。

 

 道の両脇に連なっていた建物の群れの間を進み、やがてそれが途切れると視界が一気に開けた。

 

 時計塔や物見台、中でもアリシアの目に留まったのは、女性の彫像。

 

 人の背丈をはるかに超え、見上げるほどの高さ――。

 それでいて、威圧感よりも不思議な静けさを湛えた像だった。

 

 広場の中心で街を見守るように佇むそれは、華奢な体に見合わず身の丈ほどもある盾を地面に突き立て、あらゆる災厄をその身一つで受け止めるかのように、微動だにせず前を見据えている。

 

 「あ、盾の女神さまですね! こんなに大きい彫像、初めてみました!」

 

 思わず、声が零れる。

 

 この国の安寧と守護の象徴である『盾の女神』

 村で暮らしていた時も、近所の家でこのデザインと同じ、小さい彫像を飾っているのを見たことがある。荒事や命をかける仕事が多い領地ではこの『盾の女神』の彫像を魔除けとして建立する街も多い。

 

 アリシアの目線の先を追ったヴァルドは、特別な感慨を示すことなく淡々と続いた。

 

「国の全土が瘴気に溢れて滅びかけたところを、魔の土地に集約して封じた英雄、だっけか」

「もしかして、お知り合いだったりします?」

「……なぜ?」

「ヴァルドさん、超長生きしてそうだから。神さまじゃないとは言ってましたし、『監視者』って盾の女神さまみたいに、過去のすごい英雄の通称だったりするのかなって」

 

 なるほど、そういう方向性か。

 確かに神さま扱いより()()()な分、多少マシな気分ではある、が。

 

「……ハズレ。残念ながらこの盾の女神と面識はない。俺も彼女のことはお前達と同様、語り継がれている範囲のことまでしか知らない」

「えーっこれも違うんですかー!?」

 

 いい線いってると思ってたんだけどなぁ。と、考えを巡らせている彼女に対し、ヴァルドはフードを被り直しながらポツリとつぶやいた。

 

(厄災から守るどころか……)

 むしろ、神々が置いた『魔王』という、厄災に導く立場の星綾士(ステラリスト)は――。

 

「どっちかと言うと、俺は、疫病神の(たぐ)いなのかもな」

 

 ヴァルドはポツリとつぶやいた。

 

「え? 何か言いました?」

「なんでもない」

 

 そう言って杖で前方を指す。

 

「ほら、見えてきたぞ」

 

 指し示された先には、ひときわ無骨な石造りの建物があった。

 建物の前では、武具を身につけた人々が当たり前のように出入りしており、ここが街の日常の一部であることを物語っている。

 

 外壁に掲げられた幕には、牙を剥いた銀狼の横顔。

 誇示するでもなく、ただそこに在る印として掲げられていた。

 

 ――ローグアナの傭兵ギルドだ。

 

「あそこが傭兵ギルド……!」

「さっきとは比べ物にならないくらい品定めされるだろうが、気圧されるなよ」

「大丈夫です! 負けません!」

 

 ——こういう切り替えの早さだけは、本当に頼もしい。

 

 アリシアが先行して進む中、ヴァルドはふと盾の女神の彫像に目を向けた。

 

(……いずれはお前がこうやって残る側になるのかもな)

 

 ヴァルドは内心でそう思いながら、荒くれ者たちの巣へと足を向けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。