勇者をプロデュース!〜無名の田舎娘が、神さまイチ推しの勇者になるまで〜 作:朴月イチロ
3-1:傭兵ギルドにいこうっ
「やーっと着きましたね! ヴァルドさん!」
ローグアナ。
一攫千金を夢見る荒事の専門家が集うこの地は、国内最南端の傭兵ギルド拠点を
堅牢な城壁に囲まれた街の門をくぐった先の広場で、その場の空気を堪能するようにアリシアは両手を高く突き上げた。先日立ち寄ったベルンのような、屋台から漂う香ばしい香りを期待していたが……。
代わりに鼻孔と肌で感じるのは、焼けた鉄と獣の脂が混ざり合った、この街独特の重苦しい空気だった。
それどころか、心なしか周りからそれとなく視線を感じるような気がする。
「……私、うるさかったですか?」
「まあ、明らかに場違いなやつとしては見られてるだろうな」
自然と声が縮こまってしまうアリシアに対し、ヴァルドは全く気にする素振りはない。
行き交う住人の多くは、使い込まれた革鎧や鉄の胸当てを身につけている。腰には鋭い剣を帯び、中には返り血を吸って黒ずんだマントを背負っている者もいた。
女性もいないわけではないが、その中でも外見含めて『一般人』の雰囲気が抜けきれてないアリシアは、周りから見たら場違いな存在なのだろう。
ここで彼女のピッチフォークを見せたら、さらに異質さは際立つに違いない。
「気にするな、普段通りにしていればいい。それより、ここに来た理由はわかってるな?」
「はい! 傭兵ギルドで登録作業ですよね……えっとギルドの方向は……」
アリシアは辺りの案内板を一つ一つ確かめていく中、ヴァルドは迷いなく数ある枝道の一つを選び足を進める。
「え? 道わかるんですか?」
「事前に調べてある。はぐれるなよ」
相変わらず抜け目のない人だなぁ、とアリシアは素直に感心した。
村の祠で長い間眠っていたという割に、この神さまは自分以上に俗世の事柄について詳しいとすら思う。
道の両脇に連なっていた建物の群れの間を進み、やがてそれが途切れると視界が一気に開けた。
時計塔や物見台、中でもアリシアの目に留まったのは、女性の彫像。
人の背丈をはるかに超え、見上げるほどの高さ――。
それでいて、威圧感よりも不思議な静けさを湛えた像だった。
広場の中心で街を見守るように佇むそれは、華奢な体に見合わず身の丈ほどもある盾を地面に突き立て、あらゆる災厄をその身一つで受け止めるかのように、微動だにせず前を見据えている。
「あ、盾の女神さまですね! こんなに大きい彫像、初めてみました!」
思わず、声が零れる。
この国の安寧と守護の象徴である『盾の女神』
村で暮らしていた時も、近所の家でこのデザインと同じ、小さい彫像を飾っているのを見たことがある。荒事や命をかける仕事が多い領地ではこの『盾の女神』の彫像を魔除けとして建立する街も多い。
アリシアの目線の先を追ったヴァルドは、特別な感慨を示すことなく淡々と続いた。
「国の全土が瘴気に溢れて滅びかけたところを、魔の土地に集約して封じた英雄、だっけか」
「もしかして、お知り合いだったりします?」
「……なぜ?」
「ヴァルドさん、超長生きしてそうだから。神さまじゃないとは言ってましたし、『監視者』って盾の女神さまみたいに、過去のすごい英雄の通称だったりするのかなって」
なるほど、そういう方向性か。
確かに神さま扱いより
「……ハズレ。残念ながらこの盾の女神と面識はない。俺も彼女のことはお前達と同様、語り継がれている範囲のことまでしか知らない」
「えーっこれも違うんですかー!?」
いい線いってると思ってたんだけどなぁ。と、考えを巡らせている彼女に対し、ヴァルドはフードを被り直しながらポツリとつぶやいた。
(厄災から守るどころか……)
むしろ、神々が置いた『魔王』という、厄災に導く立場の
「どっちかと言うと、俺は、疫病神の
ヴァルドはポツリとつぶやいた。
「え? 何か言いました?」
「なんでもない」
そう言って杖で前方を指す。
「ほら、見えてきたぞ」
指し示された先には、ひときわ無骨な石造りの建物があった。
建物の前では、武具を身につけた人々が当たり前のように出入りしており、ここが街の日常の一部であることを物語っている。
外壁に掲げられた幕には、牙を剥いた銀狼の横顔。
誇示するでもなく、ただそこに在る印として掲げられていた。
――ローグアナの傭兵ギルドだ。
「あそこが傭兵ギルド……!」
「さっきとは比べ物にならないくらい品定めされるだろうが、気圧されるなよ」
「大丈夫です! 負けません!」
——こういう切り替えの早さだけは、本当に頼もしい。
アリシアが先行して進む中、ヴァルドはふと盾の女神の彫像に目を向けた。
(……いずれはお前がこうやって残る側になるのかもな)
ヴァルドは内心でそう思いながら、荒くれ者たちの巣へと足を向けた。